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Ask, and it shall be given to you⑧

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メイド達に手伝ってもらいドレスを着てみると、その出来の素晴らしさがより実感できた。
さすが腕利きの仕立て屋が仕立てただけあって、ローブ・デコルテのドレスはいやらしくない程度にエミリアの豊かな胸を美しく引き立てつつ、綺麗にくびれた腰のラインが分かるようなデザインだ。
スカート部分は紫色と黒色のオーガンジーが幾重にも重なり、大人びた艶やかな雰囲気を醸し出している。
ドレスに合わせた紫色のオーガンジーと黒のレースを使ったグローブも美しく繊細に作られており、エミリアの白い腕によく映えていた。
足首までの長さのドレスから覗く黒いハイヒールにも、よく見るとグローブと同じくレースが使われている。
「エミリア様、とってもお似合いです!」
メイド達はドレスを身に纏ったエミリアを見てきゃっきゃと盛り上がっている。
その時、ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「エミリアー、お母様だけど入ってもいいかしら?」
ノックの後に続いて、思いがけない人物の声。
母の声を聞いて、エミリアは小さくため息を吐く。
正直に言うと、今あまり会いたくない人物だからだ。
エミリアの母親であるソフィア・アルバランドは、王妃でありながら偉ぶったところがなく気さくな人物で、娘とも仲が良い。が、悪気なく思ったことをそのまま口にしてしまうタイプなので、繊細で傷つきやすい性格のエミリアからすると、落ち込んでいる時に会いたい相手ではないのだ。
特にここ最近は、もうすぐ30になるというのにまだ結婚していない娘に対して「結婚はいつになるのかしら」だの「まだ恋人もできないの」だのと傷を抉るようなことを何度もなん度も言ってくるのだった。
誰よりも、エミリアが未だに結婚していないことを気にしている母のことだ、今日このタイミングで結婚のことに触れないはずがない。
またストレスで胃が痛くなりそうだと思いながらも、母の来訪を断る理由もないため、渋々「どうぞ。」とドアの外に向かって返事をする。
すぐに扉が開いて、グレイのドレスを着た母親の姿が目に入る。
「お母様、急にどうしたの……?」
母親譲りの栗色の瞳を訝しげに細める。
何故なら母から、この時間は外せない用事があってドレスの試着に立ち会えないと言われていたからだ。
母が立ち会えないと聞いてほっとしたというのに、結局来てしまった。
「あら、母親が娘に会いにきたのにその言い方はないんじゃない?」
年齢の割に若く見えるエミリアの母は、仕草も未だ少女のようで愛らしい。
いい年して、と思わなくもないが、何だか許せてしまうキャラクターと美貌を兼ね備えている。
「別に嫌だとか言ってるわけじゃないけど……。」
と言いつつも、エミリアの表情にはあまり歓迎していない気持ちが表れてしまっている。
しかし、そんなことは気にしないソフィア王妃は、スタスタと娘の側までやって来る。
「あらそのドレス、とっても似合ってること!さすがお母様の娘ね!私の若い頃にそっくり!」
「それはどうもありがとう……。」
エミリアの母は、学生時代それはもう美人で有名だったらしく、娘にはよく若かりし頃のロマンスを話して聞かせていた。
「エミリアってば、お母様に似て可愛らしく育ったのに何でモテないのかしらね。まさかこの年まで結婚できないなんて……。」
始まった。始まってしまった。
エミリアに最もストレスを与える言葉の応酬。
「お母様、何度も言ってるけどわたしは別にモテないわけでは……」
「はいはい、そうねそうね。」
反論してもいなされるので、エミリアはますますフラストレーションが溜まる。
しかし、あまり言い返さず、こちらも母の言葉を聞き流す方がダメージが少ないと経験から学んでいるので、エミリアはじっと耐えてそれ以上言葉を紡ぐことをやめた。
最近のエミリアの情緒不安定さを知っているアデーラは、心配そうに様子を窺っている。
「可哀想に、見た目も性格も悪くないと思うんだけどね……何がいけないのかしら。」
そんなの分かったら苦労はしない。
エミリアだって何度も自問してきたことだ。
「お母様もお父様ももう若くないんだから、そろそろ安心させてほしいのだけど。早く孫の顔も見たいし。
はぁ、アレクに期待するしかないのかしらね。」
弟のアレクは7つ下で、長身で筋肉質で体格にも恵まれ、姉のエミリアから見ても顔が整っているので、昔からよくモテた。
フラれてばかりの姉とは違って、今まで何人か恋人もいたようだ。
ただ、根は優しいのだが、あまり感情を表に出すタイプではなく、そのせいで恋人と長続きしないらしいが、恋人すらできない姉に比べたら余程結婚の可能性はあるだろう。
「もう、分かったから………」
これ以上聞きたくなくて母の小言を止めようとした時、予想だにしていない言葉が耳に飛び込んでくる。
「でもね、そんなエミリアに、お母様がお見合いを取り付けました!」
「……え、どういうこと?お見合いって、いつ!?」
30歳の誕生日まであと6日。
この6日の間に何が何でも婚約者を見つけようと、無理やり予定をねじ込んだのだろうか。
「誕生日パーティの日よ。パーティにお呼びしたゲストの中でね、エミリアのお見合い相手としてお母様が個人的にお願いしてる殿方が3人います。だから、パーティの最中にその子達とお話して、親睦を深めちゃいなさい。」
得意げな笑顔で告げる母親の言葉に頭がついていかない。
「大変だったのよー!最後の一人がね、やっと今日お返事が来て。この時間に電話がくるお約束になってたから、それでエミリアのドレスの試着に立ち会えないと思ってたんだけど、先方の都合で早めに連絡があってね。ご子息をなんとか説得できたからお受けします、って。」
なんとか説得できた、ということは、少なくとも一人はあまり乗り気でない方がいるかもしれないということだろうか。
色々と考えを巡らすエミリアをよそに、ソフィア王妃は一人で盛り上がっていく。
「早くエミリアに伝えなくちゃ、って思って、電話が終わってすぐここに来たのよ!お見合いが上手くいくように、綺麗に着飾らないといけないからドレスの出来も気になったしね。でも、ドレスは完璧ね!あとは髪型と、アクセサリーもドレスに合わせて決めなきゃね!あぁ、忙しくなるわ!」
恋人も結婚も諦めかけていたエミリアに一縷の望みが生まれた。
急展開に戸惑いながらも、今はこのチャンスを活かそうと、誕生日パーティに向けて気合いを入れるエミリアであった。
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