グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第186話 ワイズ会談④

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 重厚な扉の先はまるで中世の謁見の間のように広い空間が広がっており、奥に向かって整然と装飾が施された太い柱が並んでいた。
 2列の柱の間には赤い絨毯が長く敷かれており、オレたちはその絨毯の上を進んだ。

 広間の1番奥は1段高くなっており、玉座があった。
 その玉座の左右、そして一つ低い場所には何人もの人影があった。
 玉座の左側にいるのはいつか見た桜海という着物の女性、1段下がった場所にはダウンジャケットを着た女性、トレンチコートをきた女性などが立っていた。
 他は見覚えがないが、おそらくこの人たちが幹部なのだろう。
 みんな色々な服装をしている。

 阿倍野たちが先頭を歩いているのでオレは玉座に座っているであろう人物が見えない。

「クルミ!!」

 突然伊達が大声を上げた。

「アベル。気持ちは分かるが少し待ってくれ」

「リュウさん! だけど!」

「相変わらずうるさいやつだ」

 伊達と阿倍野の会話にキレイな女性の声が割って入った。
 オレは、この声色に聞き覚えがあった。

 オレは阿倍野と伊達の肩を押して前に出た。声の主は玉座に脚を組んで座っており、まるで神話に出てくる女神のような緩やかな衣服を身に着けていた。
 綺麗な長い黒髪をさらりと流す流麗な美女だが、どことなく面影があった。

「ユキか?」

「……黙れ。お前らと話すことなどない」

ズン!!

「うおおあ!!」

 突然オレの体が重くなり、地面に突っ伏してしまった。
 良く見ると、オレだけでなく、都市からのメンバー全員が苦しんでいる。

「ぐ、ぐう!!」

 オレは魔素を集中して何とか重圧に耐えていた。
 
 阿倍野とアイコ、伊達、美作など何人かはすでに立ち上がっている。

「うおおお!!」

 さらに魔素を練り、オレは肉体強化を最大にして立ち上がった。

「リュウセイ。良くわたしの前に来る気になったな?  あんな別れ方をしておいてわたしに殺されるとは思わなかったのか?」

「ユキさん。お久しぶりです。ご健勝そうになにより……ですがここに来たのは、3つの要件をあなたにお話したかったからです。まずひとつ、なによりもはあなたへの謝罪です」

「謝罪だと?」

「ええ。28年前にあなたが言ったことは何もかも正しかった。オレはそれを信じなかった。あなたを疑い、傷付けてしまい本当にすいませんでした」

 阿倍野は足が地面にヒビを入れる重圧の中、深々と頭を下げた。

「そんな形だけの謝罪など不要だ。わたしはすでにお前たちとは決別したのだからな」

 ユキは冷たく阿倍野を見下ろしたままだった。

(ほ、ホントにユキなのか!?)

「それは私とも決別したっていうことなの? ユキちゃん」

 アイコがやや悲しげにユキに話しかけた。

「あなたも同じだろう。わたしについてこなかった時点でな」

「私はユキちゃんともう一度やり直したいの。私たちに協力して欲しい」

「それが本音本題だろう。わたしたちに何を望む」

 ユキは28年ぶりに会うはずなのに顔色ひとつ変えずにアイコと会話を続けている。
 オレに笑いかけていた幼いユキの面影はどこにもない。

「私たちは新センダイ都市、新ヒロシマ都市を奪還した。復興にはまだまだ時間は掛かるけど、昔のようにみんながまた揃ったの。後はユキちゃん。あなたたちとも行動を共にして今度はラクちゃんを助けに行きたいの」

「ラクを助けたい? 助けたいだと!? 今さら何を言っている!!」

 ユキが叫びを上げると、体に掛かる重圧が一際強くなった。

(ぐおおお!!)

 オレは肉体強化の魔技を使い、その重圧になんとか耐えた。

「ユキさん! オレは間違っていた! だから、今からその間違いを正したい! あなたはみんなでラクさんを助けに行こうと言った! そしてそれはまだ間に合うはずだ!! だからみんなで……!!」

 阿倍野が必死に心情をユキに訴える。

ドオオンン!!!

 突如、阿倍野から爆炎が上がった。

「黙れ。小僧」

「あ、阿倍野さん!! ユキ!! お前ユキだろ!! 何でこんなことすんだ!! オレが分からないのか!! 兄ちゃんだぞ!!」

「そうよ!! あんた100年長生きしたらしいけど! 私は姉ちゃん!! それは変わんないよ!!」

 オレとナナも必死でユキに言葉を掛けた。

「セイとナナ。お前らがか!?」

 ユキがオレたちを睨み付けた。
 物凄い圧迫感だ。
 これを綺麗な細身の女性が出しているとは信じられない。
 妹が兄と姉に向ける感情じゃない。

「ぐう! お前が! アイスを買ってきてくれって言った夜! オレは三丁目公園を通って気がついたらこの時代にいた!」

「ウチもよ! 兄ちゃんを探して三丁目公園で光と振動に包まれて……!」

バチイイイイ!!

「うああああ!!」
「きゃあああ!!」

 オレとナナに虚空から現れた激しい雷撃が襲いかかった。
 たまらずオレたちは倒れこんでしまった。

「うるさい。偽物がデタラメを口にするな」

「に、偽物? お、オレたちが偽物だって言うのか?」

「私の兄と姉は100年前にパンデミックに巻き込まれて亡くなった」

「そ、そんな訳あるか!! オレはここにいる!!」

「お前などと話すことはない」

 ユキがオレに目を向けた。

(マズイ! また何かするのか!?)

「待って! ユキちゃん!!」

 アイコが間に入り、オレたちを助けてくれた。

「私たちは都市を奪還した! 人型のグールも討伐したわ! 今ならあなたたちにとっても充分に戦力になるわ! お願い! 力を貸して!!」

「人型グールか。それを倒したから何だと言うんだ」

「え……?」

「人型グール、お前たちがSSS級グールと呼ぶ存在ならわたしもこの間始末したよ。生意気な口を聞いたからバラバラにしてやった」

(嘘だろ?)

「……もしかしてそれは5月末に?」

「ああ。わたしたちのところへもグールの軍勢は来た。皆殺しにしてやったがな」

 ユキの話だと3都市で起こった戦争の際、ここワイズの本拠地でもグールとの戦争があったようだ。
 
「まさかここでも……」

「ユキさん! グールの脅威が増しているのはあなたも感じたでしょう。このままではオレたち人類は危うい」

 阿倍野が体から煙を上げながらもユキに提言した。

「グールの脅威? そんなもの関係ない。ここに攻めいるならば皆殺しにするまでだ」

 ユキの返事はにべもない。

「そんなこと言っても限界があるでしょう! よく考えてくださいよ!」

「黙れ。貴様の指図など受けん」

「……しかし! 現状だってユキさんはオレたちの都市から人員を取り込んでいるでしょう! オレたちの都市が壊滅したりしたらあなただって困るはずだ!」

ドン!!

「ぐう!?」

 一際大きな音を立てて、阿倍野が地面にめり込んだ。

「取り込んでいるだと!! リュウセイ! お前は理解していないのか! わたしたちがお前らが見放した人員を受け入れているからこそ、お前たちの都市は平穏を保っていられるのだ!!」

 ユキが玉座から立ち上がり手を向けて阿倍野を押し潰そうとしている。

「ユキちゃん! やめて! リュウセイも分かってる! そういうつもりじゃなかったの! ただ、あなたと仲直りをしたくてリュウセイは……!」

 ユキはアイコをチラリと見ると、阿倍野への攻撃を緩めた。

「宝条マスター、あなたとは生まれた時からの付き合いだ。私はあなたとは敵対はしたくない」

「じゃあ……!」

「だが、今さら馴れ合う気もない! 私を見放したお前たちと話すこともない!!」

「さっきから聞いてれば……わがままばかり言うな!」

 ナナが阿倍野の前に立ち、大声を出した。

「何だと?」

「ウチらの敵はグールだろ! ここでいがみ合ってどーすんの! ユキ!」

 ユキが無言でナナに手をかざした。

(ヤバい!)

ドオン!!

 オレはナナの前に立ち、ユキの爆撃を受けた。

「に、兄ちゃん!!」

(ぐうう!! 痛ぇえ!!)

「ふん、偽物どもが」

「お、お前! オレたちが偽物だって証拠でもあんのか!?」

「証拠だと!? ではお前たちが本物だという証拠こそあるのか!?」

「何を……!」

「お前たちは人型グールだ。姿形だけでなく精巧に記憶まで再現されたのだろう。でなければ説明がつかない」

 オレは自分の耳を疑った。
 オレたちがグール?

「……そんなこと出来るわけないだろうが!!」

「そうよ! ウチはウチよ! あんたも見て分かるでしょう!」

 オレとナナはユキに反論するが、ユキは冷たくこちらを見るのみだった。

「ユキさん。これはオレの予測だが、この2人はセイドウさんによって100年の時間を飛び越えたんじゃないか? それなら説明がつくだろう?」

 阿倍野が苦しみながらもユキに説明した。

「私の父が、だと? そんな昔話に希望を持てる訳がない。グールによる攻撃だと捉えるのが当然だ」

「……お前! ホントにひねくれちまったな!!」
「ユキ! あんなに泣き虫だったのに!」

「下らんな。お前らを受け入れるのは危険だ。お前ら自身に自覚がなくともだ」

「自覚が無くても! 記憶がある! 思い出がある! オレはお前のことは大事な妹だと思っている!!」

「ユキ! 100年経とうが1000年経とうが、あんたはウチの妹! それは絶対に変えられない事実なんだよ!!」

「……」

 ユキは黙ってオレとナナを見ている。

「……ユキ。オレの目標を教えるよ。オレはこの時代に放り出されて、何度も死にかけた。だけど、今のオレの目標は家族を取り戻すことだ! そしてグールの王を倒すことだ!!」
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