グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第174話 新トウキョウ都市防衛戦⑥

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 人型グール、ディリップは眉間に皺を寄せ忌々しそうにグールと討伐軍との戦いを眺めていた。

 現在、オレたちS級部隊と各地方都市からの援護部隊はかなりバラけて戦闘をしていた。
 その内、鏑木班からは人型グールとの距離がかなり近い。

(や、ヤバいぞ!!)

「き、緊急通信!! 人型グールを感知! 新センダイ都市にいたやつだ!! 鏑木さん! 後方110にいるぞ!!」

「何? どこにいるんだ?」
「佐々木、まだ何も感じねーぞ!!」
「セイさんが言うなら……、急行しましょう!」

 セイヤやアオイ、ユウナが慌ててオレの指示した場所を探すがみんなにはまだ感知出来ないらしい。

「見付けたわ……! 鏑木班が危ない! 行くわよ!」

 吻野も人型に気付いたらしい。

「了解!!」

ドオオオオンンン!!!

 オレたちが駆け出してすぐに、激しい爆音が戦場に響いた。

「これは人型グールの攻撃だ!! 鏑木さん!!」

 オレは焦って視界を凝らすと、鏑木班の前に立つ阿倍野に気がついた。

「あ、阿倍野さんだ! 良かった!」

「佐々木くん? あなた、ここから向こうが見えてるとでも言うの?」

 走りながら吻野が不思議そうな顔をして質問をしてきた。

「え? 見えてるよ! 阿倍野さんが鏑木さんたちを守ってくれた!」

「セイさん。向こうまではまだ400は距離があるよ。目視なんて出来ない筈だけど……」

「え?」

 オレはユウナに言われて気付いた。
 確かに戦塵と、濃霧、そして帰化蒸気であたりはあまり視界は効かない。
 しかし、オレには阿倍野と人型グールが対峙し、交わす言葉も聞き取れる。

「こ、これは……? 話しも聞こえるぞ?」

「どうやらそういう第6感覚ね。あなたはさらに新しい能力を身に付けているみたいね」

「モモさん。そ、そうなのか……?」

「とにかく、急ごう」

 セイヤは高速機動の速度を上げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「全く、害虫の巣はいつ見てもうっとうしい」

 オレの通信を聞いた鏑木班は、ディリップを直ぐ見つけた。

「あ、あいつだ……!」
「サオリ! 一時撤退しましょう!! 私たちだけでは対応しきれない!」
「あ、ああ! ナギサに賛成だ!」

 鏑木は一瞬魔素を練って攻撃を仕掛けようとしたが、班員の庄司と間凪が鏑木を制止した。

「ダイ! ナギサ! だ、だけど……!」

 鏑木が後ろにいる2人を振り返りまた前を見ると、そこにはすぐ前にディリップが立っていた。

「な!!!」

「まずは手始めにお前らから駆除だ。消えろ」

ドオオオオオンンン!!

 激しい爆音が鳴り響いたが、これは転移してきた阿倍野が一瞬で障壁を展開して防いだ。

「あ、阿倍野マスター!!」

「下がってて。サオリちゃん」

 ディリップは突然現れた阿倍野に気がつくと一瞬驚いた顔をしたが、口角を上げておぞましい笑い顔を見せた。

「阿倍野リュウセイ」

「オレの名前を覚えてるのか? 意外だな。お前の名はディリップだよな?」

「ああ、そうだ。阿倍野。こんなに直ぐに会えるとはな。これから何百も害虫を駆除してお前をおびきだそうと思っていたが、手間が省けたな」

 ディリップの言葉には阿倍野は嫌悪感をあらわにした。

「……お前の気持ち悪い物差しで図るなよ。それにオレはすでに何千という仲間を失っている」

「そうか。だが、数で言えば儂はすで20万近い同胞を殺されておるわ」

「……意味の無い会話だな。オレたちと戦いに来たんだろう? 受けてやる。今度は逃がさない」

「ほう。大した自信だな」

 ディリップがどこかバカにしたように阿倍野を見下ろした。

「お前はオレの実力を全て見たつもりかも知れないがな。前回はかなりの消耗をした後にお前と戦ったんだ。今回はそうはいかない」

「分かっておるわ。実に忌々しいが、お前。そして何人かの人間は儂よりも上の実力を持っておるようだな。それは認めてやろう」

「……? ずいぶん謙虚だな。気持ちが悪い。どんな策を練ってきたんだ?」

「儂の同胞がこう言っていた。阿倍野、宝条、佐々木という人間とは儂らでもまともにぶつかっては勝てないだろうと。こやつらは魔素の扱いは儂らを上回っているだろうとな」

 ディリップはクックと笑いを含み、阿倍野を指差した。

「だから、お前を確実に殺せるよう、結界を作る事にしたのだ」

 ディリップは手を拡げ、ブンと空に光を打ち出した。

「お前の同胞とか、お前の結界とかに興味はあるがな。それができる前にさっさと決着を着けさせて貰う。六道火遁りくどうかとん!」

 阿倍野は手を胸の前で組み合わせて魔素を練り上げた。しかし。

「……!!?」

 阿倍野の顔が驚愕に染まった。

「な!? ま、まさか!? 霧か!!」

 阿倍野は練り上げた魔素が放出出来ないことに気が付いた。

「そうだ! 既に発動済みよ!! この霧は貴様のみに有効!! 貴様が発生させる魔素は全て無効化する!!」

 ディリップは言葉を終えると一瞬で阿倍野に近づき、拳を阿倍野の腹に叩き込んだ。

ドオオオオオンン!!

 隙を突かれた阿倍野はディリップの攻撃を受けて一気に吹き飛んだ。

「あ、阿倍野マスター!!?」

 鏑木が困惑の声をあげる。

 阿倍野は体内に魔素を取り込むことは出きるが、放出することが出来ない。つまり、忍術魔術が一切使用出来ない状態となってしまった。

 そして、周囲の霧が赤く染まっていった。

「そうか! この霧は全て阿倍野マスターだけに向けて……!」

 庄司が危機的状況にいち早く気付いた。

「そうだ。害虫の癖によく気付いたな。だが、それだけではないぞ」

 ディリップはさらに手を大きく拡げて何かの術を発動した。

「な、何を……?」

 間凪も困惑と焦燥を露にしている。

「儂らは命を落とすと、体から蒸気を放ち惑星ほしへと環る。それはお前らも知っておろう。そして、ここにいる同胞たちには少し細工をしてある。安心しろ、この一帯は範囲外だ」

「ま、まさか……!」

 鏑木が顔面を蒼白にして後ろを振り返った。

ズズドドドドドドオオオオオ!!!!!!!

 その時、新トウキョウ都市の外郭一帯にいた、グールの死体から発せられる蒸気がまるで引火したガスのように凄まじい大爆発を起こした。

 とてつもない爆発が都市周辺を広範囲に渡り包み込み、戦闘をしていた討伐防衛隊員をグールもろとも爆炎に包んだ。

「いやああ!!!」
「そ、そんな!?」

 間凪と庄司の悲鳴も爆音にかき消される。
 だが、鏑木たちのいるディリップを中心とした一帯は爆発からは逃れていた。

「お前らは儂が直々に駆除してやる」

 鏑木は後ろから聞こえた声に驚愕して再度振り返ると、ディリップが手に光を貯めて振りかぶっていた。

「ヤバい! サオリ!! ナギサ!!」

ドオオオオオンンン!!!

 鏑木は眼をつむって覚悟を決めたが、少し体が吹き飛ばされただけで、致命傷と言う程の大きな怪我は負っていなかった。
 一撃で絶命させられた小美苗と谷田部を知っていた鏑木は自身がなぜこの程度で助かったのか分からなかった。

「ううう……、な、なんで……?」

「サオリ! だ、ダイが!!」

 すぐ近くに一緒に吹き飛ばされた間凪が悲鳴を上げた。
 鏑木が庄司が居た場所に眼をやると、そこには庄司の両足。膝から下だけが血溜まりとともに残っていた。

「ダイイ!!!」

 鏑木が悲痛な叫びをあげる。
 そして戦塵の中からディリップが歩み現れた。

「魔素を爆発的に放出して盾となったのか。無駄なことを」

 ディリップは庄司の脚を踏み潰すと、鏑木と間凪に視線を向けた。

「今度こそ死ね」

「あ、ああ……」

「オレは死んでいないぞ」

 その時、ディリップの横に阿倍野が現れた。
 阿倍野は流血は激しいが、まだまだ戦意を持っていた。

「貴様……、成程。さすがだな」

 阿倍野はこの霧が自分の放った魔素にのみ反応すると理解し、体内で魔素を練り上げていた。
 忍術や魔術は使用出来ないが、体内で完結する強化術や援術は有効だといち早く気付いたのだ。

 闘衣纏身を外気に触れないように皮下に留め、さらにその高等技術である血液を強化して身体能力を上げる闘脈潮身とうみゃくちょうしん、さらに骨と関節を強化する闘骨結身とうこつけっしんを展開し、ディリップの攻撃を受けきっていた。

「大した結界だよ。まさかオレだけを狙うとはな。だが、これだけで勝った気になるなよ」

「くくく。この中では貴様の実力はまるで出しきれぬだろう。そんな肉体を使った攻撃しか出来ぬのではな」

 ディリップは阿倍野を嘲るが、阿倍野も余裕の笑顔を見せた。

「ああ。でも足りない分は、我が優秀な仲間たちに補って貰おう」

ダダダン!

 空から何人もの隊員が地上へと着地した。

「阿倍野マスター。ここからは私が共に戦いましょう」

 二宮が二振りの剣を構えて阿倍野の横に並び立った。
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