グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第170話 新トウキョウ都市防衛戦②

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5月30日 20:00

『敵討伐数は50000を越えました!』

 都市外部での激しい戦闘は継続されている。
 すでに日は落ち、荒野での戦乱は闇夜の戦いとなっている。

 グールとの戦いで厄介なのは、一度戦いが始まると夜だろうが何だろうが相手は攻撃を止めないことだ。相手が人間なら一度後退して夜営という流れになる時間だが、グールは死ぬまでこちらに向かってくる。

「うん。まずまずだ」

 戦況は優勢だが阿倍野は厳しい顔つきを崩さない。
 まだまだ敵が現れるのは確実だし、他の都市の確認も怠らず警戒を強めているようだ。

「阿倍野マスター、他都市の戦況はどうですか?」

 ずっと黙していた二宮が尋ねた。

「ああ、新オオサカ都市もこちらと同様。第一陣の海洋型グールを殲滅しつつある。そして新ヒロシマ都市では、すでに70000以上のグールを倒している。だが、かなりの激戦だ」

「……そうですか」

 今回、新ヒロシマ都市に向かった討伐防衛軍の数は18000人にのぼるらしい。
 新センダイ都市のときは7000人だったので倍以上の軍勢だ。この新トウキョウ都市からも4000人程が南部奪還戦争には参加しており、ナナも当然その中に入っている。

「では、今はまだ序盤ということになりそうですね」

 オレは二宮の言葉を聞いて改めて気を引き締めていた。



5月30日 23:00

『阿倍野マスター! 敵の増援です!』

「来たな。敵の規模と種別は?」

『は、はい! 海洋型グールが3万! 通常のグールが2万です!』

「分かった。引き続き防衛にあたれ」

 最初に現れたグールはほぼ殲滅できたと思っていた矢先、新な軍勢が現れた。

「これは……」

 セイヤが眉をひそめている。

「セイヤも気づいたかな。グールはこちらの消耗のみを狙っているな。敵の本陣はまだまだ健在だ」

「え? でも予想では8万5千くらいの数だって言ってませんでしたか?」

 オレが口をついた疑問に、阿倍野は首を横に振った。

「当初確認できたのは通常型のグールのみだよ、佐々木くん。海洋型は観測されなかった。おそらく、意図的に隠していたね」

「そ、そうすると……?」

「現在、海洋型グールの総数は9万。通常型は2万しか現れていない。残りは少なくともまだ6万5千はグールがいるはずだ」

「そんなに……」

「だけど、オレたちはそんなに簡単には負けないよ」

 オレは阿倍野の言葉を頼もしく思いながらも、不安は消えることはなかった。



5月31日 6:00

 もう戦争が始まってからそうとうな時間がたった。

 オレたちの出番はまだだと言うことだが、ここにいるだけの方が疲れる気がする。

『グール討伐数、9万を越えました!さらにグールの援軍を確認!』

「……今度の種別は?」

『海洋型が1万! 通常型が4万です!』

 ものすごい数だ。
 すでに合計すると16万ものグールがこの都市へと押し寄せていることになる。

「みんな、踏ん張り時だぞ……!」

 阿倍野の声にもかなり力が籠ってきていた。



5月31日 12:00

 いよいよこの戦争が始まってから丸一日が過ぎた。
 現場の隊員たちの疲労はいつ限界を向かえてもおかしくないだろう。

「何か報告はないか?」

『はっ! 現在の討伐数は12万を越えました!』

「こちらの人的被害は?」

『……現在4500人が死傷しています……!』

「そうか。隊員たちの疲弊具合は?」

「限界はもう近いかと……!」

「よし、分かった。各地方都市からの増援を向かわせる。しばらく踏みとどまるように全軍に伝えろ」

『りょ、了解です!』

 オレは阿倍野の言葉を聞いて思わず立ち上がった。

「みんなを呼ぶんですか!?」

「ああ、すでに今の会話の前に緊急招集の通信は入れておいた。すぐにみんなが現れるはずだ」

「阿倍野マスター! オレたちはまだ出なくていいんでしょうか!?」

 千城も気合いを入れた声を上げている。

「リンタロウ。みんなも、まだだ。特級グールがまだ1体も現れない。敵の本陣が出るまではここにいれくれ」

「……ぐう!」

 オレたちが話をしていると、突如近くに強力な隊員たちの気配が現れた。

(これは!)

「みなさん! お久しぶりです! 新ミナトミライ都市より、志布志班参りました!」

 転移陣柱のある一角の陰から姿を見せたのは、志布志、金澤、佐治の3人だ。
 さらに、その後ろにも数班の部隊が控えている。
 おそらく全てがA級部隊だ。これが新ミナトミライからの援軍という訳だろう。

「よく来てくれた。カイト。早速だが君たちは北部戦線に向かって欲しい」

「了解です!」

 志布志たち全員がびしっと揃い阿倍野に敬礼を返すと、全員で走って部屋を離れた。

「我々はどうしますか?」

 気付くと志布志班の後ろにはすでに山崎班が控えていた。さらにその後方から烏丸班、鏑木班も姿を見せた。
 各都市からも数班ずつの援軍のため、一気に何十人もの隊員がオレたちの前へ姿を見せた。

(おお! 久しぶりだ! みんな凄く強くなっているな!!)

「セイゲン。君たちは南部戦線。レイミちゃんたちは東部、サオリちゃんたちは西部にそれぞれ向かってくれ」

「了解」

「千城さん、佐々木くん。みんな。積もる話は戦争が終わってからにしましょう」

「鏑木か!」

 サオリがオレたちに一声掛けると、千城が返事を返した。

「はい。ではまた後で会いましょう」

 サオリ率いる新オオミヤ都市部隊が部屋を出ていった。

「セイヤ、みんな。オレたちも話は後だな。まずは生き残るぞ」

「山崎さん」

「じゃあな」

 山崎班たちも出撃し、新マクハリ都市の部隊、烏丸班と数班が部屋に残っていた。

「阿倍野マスター、今回は人型グールの出現が予期されていますね?」

 阪本と北岡、須田が明らかに覚悟を決めた顔をしている。
 3人ともあの人型グールと出会ったら迷わず突っ込んでいきそうだ。

「……玉砕を覚悟しているようなら、人型グールには近づけるわけにはいかないが?」

「大丈夫です。阿倍野マスター。彼女たちには今まで何度も言い聞かせていますし、私が制御します」

 班長である烏丸が言った。

「……本当か?」

 阿倍野が眼光鋭く問い返した。

「さ、3人とも人型グールの強さは身を持って分かってますから。ただ、これから遭遇すると思うと気持ちが昂る、それだけですよ」

 烏丸が弁明のように言葉を続けるが、やや焦りを感じる。多分烏丸班3人は御美苗の仇を討つために命を捨てる覚悟を決めてる。
 烏丸はそんな3人に命は大切にしろと散々言い続けて来たのだろう。

「……命をムダにするようなことは禁ずるぞ」

「……」

「返事をしろ」

「……了解です」

 阪本、北岡、須田は渋々といった様子で阿倍野に返事をした。

「みんな」

 阿倍野と話をする烏丸班の後ろには二宮が立っていた。

「あなたは……?」

「私は二宮マサオミ、SS級の隊員です」

 烏丸の問いに二宮が静かに答えた。

「あなたが……!?」

「私は色々と特殊な能力を持っていてね。差し出がましいかもしれないが一言言わせて貰うよ」

 二宮は阪本や北岡を見ている。

「何でしょうか?」

 阪本の言葉はどこか刺々しい。

「君たち、阪本さん。北岡さん。須田くんは、先の戦乱で御美苗くんを失ったようだが」

「……!」

 阪本たちが反応を示した。

「何で……? いや、だったらどうだって言うんですか?」

「亡くなった御美苗くんは君たちが命を捨てるような真似を望むと思うか?」

「そんなこと! あなたに言われなくたって分かってます!」

 二宮の言葉には北岡が声を荒げて反論した。

「そうよ! 簡単に割りきれないから、苦しんでるんでしょう! 何も知らないのに!!」

 阪本も興奮している。

「僕たちはあの人型グールが現れたら命を掛けて闘いますよ。あなたの言うことは理解はできる。だけど、感情が追い付かない」

「感情とは? 須田くん」

「それは! 怒りに決まってるでしょう!! 僕たちは目の前で御美苗さんを殺されたんです! その仇が出てくるかもしれないのに、冷静になんていられない!!」

 突然須田が激しく怒りをあらわにした。
 こんなに怒っているところは初めて見るかもしれない。

「御美苗くんのことを思っても、怒りは押さえられない。御美苗くんが君たちの無事を願っているとしてもか」

「そうよ! 当然でしょう!!」

 北岡ももう激情を隠しもしない。

(み、みんな……)

「では、ミユキさんとレイさんのことを思い浮かべてくれ」

 二宮は会ったこともないはずの御美苗の奥さんと娘さんの名前を出した。
 思考透視能力などを駆使して知り得たのだろう。

「み、ミユキ……?」
「レイちゃんを?」
「なんでそこまで知ってるんだ?」

 みんな困惑気味だ。

「ミユキさんとレイさんは今も生きているし君たちの無事を祈っているよ」

「……」

「2人の望みのために、そして亡くなってしまった人の望みのために、無謀な真似はやめて欲しい」

「……」

 3人は何もしゃべらなかった。

「それこそが、君たちが大事に思う人たちが望むことだ。君たちのことも大事に思っている人間がいる。君たちが御美苗くんたちを思うようにだ」

 烏丸班の3人は大きくため息をつくと静かに扉へと歩き出した。

「君たちの生還を願っている人たちのために、戦ってくれるね?」

 二宮が阪本たちの背中に声をかけた。

「ミユキとレイちゃんのためになら、まだ死ねないわね」
「……そうね。この戦争に勝ち、生き残りましょう」
「……行きましょう。烏丸班長」

 烏丸はオレたちに一礼をすると、慌ててみんなと部屋を出ていった。

「……よし。彼らは大丈夫だ。戦争はそろそろ中盤戦だな」

 二宮が居なくなった烏丸班がいた場所を見ながらそう呟いていた。
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