グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第150話 その後②

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 人類が初めてその生存領域の奪還、拡大を計り、新センダイ都市で起こったグールとの戦い、北部奪還戦争。その終結から早いものですでに3ヶ月という時間が過ぎていた。

 現在は暦も12月を過ぎ、季節はすっかり冬になっていた。

 新センダイ都市は陥落から37年という月日を重ねており、当然その復興には長い時間がかかる。差し当たりは新トウキョウ都市の遠征部隊から1000人程と、北部地域各所に散っていた北部討伐軍が駐屯しており、今も再開発作業にあたっていた。

 この時代の素晴らしいところのひとつは、魔術によって建設作業に掛かる時間が極端に短く済むことだ。
 瓦礫の山でしかなかった新センダイ都市も、来年中には大勢の人間が住めるようになるだろうということだ。

 戦争の結末として、オレたち新トウキョウ都市からの討伐軍は、今回の戦争においてはおよそ4500人にものぼる犠牲者を出したそうだ。
 
 そしてオレは後から聞いたのだが、北部奪還戦争が起こっているまさにその最中、新トウキョウ都市にも大群のグールが攻め入っていたらしい。
 総数は70000でS級7体、SS級3体という脅威だったそうだ。
 しかしながら阿倍野の本体が20000を越えるグール、4体のS級グール、そしてSS級をも2体始末しており、残りの特級グールは東部都市圏最強の二宮が中心となり討伐したとのことだ。

 阿倍野は新トウキョウ都市、新センダイ都市の2ヶ所での戦闘で激しく魔素を消耗し、ディリップと名乗ったSSS級グールを撃退出来たのは本当にギリギリだったようだ。だが、逆に言えば消耗をしていない状態であればあのSSS級の人型グールであっても阿倍野の敵ではないということが分かり、本当に阿倍野は底なしの戦闘力だとオレは思っていた。

 オレたちは戦争が終結した後はそのまま北部へ残り、しばらくは都市復興作業を行っていた。最初の頃はグールの大群がまた攻めて来るんじゃないかと不安だったがそんな事態もなく、ポロポロと数百程度のグールが現れる程度だった。

 そうして1月程の時間が経つと、オレたち討伐軍の大部分には各都市への帰還命令が出された。交代で東部都市圏より10000にもなる討伐軍、防衛軍、生産員が派遣されているということだった。

 新センダイ都市周辺の北部都市圏各地の隠れ里へ身を隠していた人間たちは合計でおよそ70000人。伊達が先頭に立ち、37年もの時間を生き抜いて来たらしい。これから数年をかけて東部から北部へと人を送り、まずは10万人の都市を目指しているとも聞いていた。

 新トウキョウ都市へ戻る頃にはオレの腕もほぼ完治していた。だが、オレの腕を引きちぎられた痛み、なにより御美苗と谷田部を奪われた痛みは全く癒えはしなかった。

 折りを見て戦争勝利の記念式典も開かれた。
 そして御美苗と谷田部もそれぞれ英霊として記念碑に名前が刻まれることとなった。

 新トウキョウ都市で一段落着くと長い間任務を共にした開拓部隊、遊撃部隊とはそこで別れることとなり、皆自分の家族や仲間のいる都市へと帰っていった。

 新オオサカ都市の柊班も転移装置で西部都市へと帰還した。柊はオレに片腕だけで済むとはたいした悪運だとか言ってきたが、別に彼女に腕をもがれた訳ではない。

 ナナのいる菅原班も新ツクバ都市へと帰還した。オレはナナに新トウキョウ都市へ残らないかと言ってみたが、相手にされなかった。だが、家族はいざと言うときだけ一緒にいればいいと言われ、なぜかオレはナナも成長しているのだと実感した。

 オレたちは、新たな任務が始まるまでにしばし時間を貰い新ミナトミライ都市、新マクハリ都市へと足を運んだ。
 御美苗と谷田部の親しい人たちへ挨拶と、謝罪を兼ねているつもりだった。
 だが、御美苗の妻と娘、御美苗ミユキとレイには逆にありがとうと言われてしまった。
 まだまだ幼いレイに涙目でそう言われ、胸がズキリと傷んだことは忘れられなかった。

 そして新マクハリ都市の最強部隊であった御美苗班は、今は烏丸班と名前を変えた。新ミナトミライ都市、市長秘書官の烏丸レイミが討伐軍として新マクハリ都市へ移籍したということだ。

 新ミナトミライ都市の石動市長は、新たに志布志班の橘ハナを秘書官に据えていた。志布志班は谷田部を戦争で失い、橘が脱退したため、3人編成となっていた。

 鏑木班にも、山崎班にも戦争の事後処理以来会っていない。皆それぞれ新たな道を歩んでいた。

 北部奪還戦争と平行して進められていた南部奪還については現在は進撃を保留しているらしい。
 南部奪還は新オオサカ都市が主導、つまりアイコが指揮をとっていたのだが、新オオサカ都市は新トウキョウ都市への物資支援の為に兵器生産に集中していたそうだ。
 北部奪還戦争では数々の兵器が大量に使用されていたが、それは西部都市圏の全面的な協力のお陰だった。
 その為に西部都市圏の南部開拓任務も一時保留せざる得なかった。そして北部の復興が一段落したら今度は東部都市圏から人的支援を行うことになっていると聞いていた。
 具体的には年明けになる見込みだと、記念式典の際に耳にした。

 そして10月末になると遅れていた昇級試験も行われ、オレたち結城班はそれぞれが階級を上げることができた。

結城セイヤ AAA級 剣術士
佐々木セイ AAA級 拳銃術士
月城ユウナ AA級 魔術士
安城アオイ AA級 剣術士

 気がつけばオレたちもAA級部隊の、中央部でもかなりの精鋭にまでなることが出来ていた。



 そしてオレは今、遠征討伐の任務中で、殺到する上級グールに銃を乱射しているところだった。

「うおおお!!」

 オレたちがAA級部隊となり、大きく変わったことがひとつある。

「佐々木くん、また突っ込み過ぎね。しかたない、援護するわ。極大業火メギド!!」

ドオオオオ!!

「モモさん!」

 オレたち結城班は、保留となっていた吻野との班編成を復活させ、吻野班として活動していた。

 海洋型グールが出現してからはS級隊員と班編成を組むことは原則禁じられていたらしい。
 だが、頻出するS級グールに対抗して、AA級部隊以上であればS級隊員を援護する形で対特級グール討伐班として吻野を班長とすることを許可されていた。

「まだ終わりじゃないわよ。油断しないで」

「ああ、分かってるよ! S級がいるな!」

 オレは吻野が焼き払った上級グールの奥に、S級が潜んでいることを感知していた。

「はああ! 四重岩石天狼弾ブーリアスストーンセイリオス!!」

ドドドドオン!!!

 オレの形態質性変化を利用した弾丸を打ち出したが、S級に直撃まではいかなかったようだ。
 オレは直ぐ様走り出し、グールの反撃を待たずに全身に魔素を込めた。

「うおお! 四重風嵐麦星蹴ブーリアスストームアークトルス!!」

 オレの渾身の蹴りもグールにバリアで防がれてしまい、そこまでのダメージは与えられなかった。

ガアアア!!

 グールが怒りこ込めてオレに手をかざしたが、直ぐにオレの周りには強固な障壁が展開された。

神級障壁シンシールド!!」

ドオン!!

 グールはバリアに構わずにこちらへ光弾を放つが、ユウナの展開したバリアはびくともしていない。

「うおお! 神級貫通突撃剣シンペネストレイションチャージ!!」

 さらに横からアオイの強力な剣術が突き刺さり、グールは激しい苦しみの声を上げた。

「全く、最近は無茶ばかりだな。セイ」

 そう言うセイヤはオレたちの頭上に浮遊しながら剣を構えていた。攻撃を察したアオイが素早くグールから離れていった。

二重神級衝撃剣ダイシンインパクト!!」

ズドオオアン!!!

 セイヤの攻撃を受けて、グールは跡形もなく砕け散った。

「佐々木くん、さすがにまだ1人ではS級の相手は危険よ」

 吻野がオレたちの方へすたすたと歩きながら言った。

「そうだぞ、佐々木。確かに早く強くなりてーんだろうけど」

「死にはしないでしょうけど、大怪我するところでしたよ」

「まあ、それがセイの長所であり、短所だな」

 アオイやユウナ、セイヤもオレに少し小言を言ってきた。

「ああ、でもみんながいるからこそ突っ込んだんだけどね」

「それはそうでしょうね」

 吻野やみんなも笑顔で、今回の任務終了を喜んだ。
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