グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第121話 未踏領域開拓任務⑪

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 声が、聞こえる。
 オレを呼ぶ声が。
 
 (そうだ、いつもオレは休みの日は昼まで寝ちゃうんだ。仕事で疲れちゃって……、早く起きて、みんなのご飯をつくってやらなきゃ……)

「兄ちゃん!」
「セイ兄ちゃん!」
「兄ちゃん! 起きて!」

(わかってるよ……今、起きる……)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うう……」

 オレが眼を開けると、周囲は激しい戦塵に包まれていた。おそらくグールの帰化蒸気もあるのだろう。

 おそらく1時間は経ってないだろうが、気を失っていたようだ。あたりは夕焼けに染まっていた。

「き、気絶してたのか?」

 体を起こすとオレの周りにセイヤ、志布志、御美苗、柊が倒れていた。
 オレは魔素を体に巡らせ、回復を図っていると、インカムから何かが聞こえてきた。

『……く! 通信が回復した! 誰か応答しろ!』

(山崎さん!)

「う……や、山崎さん……」

『佐々木!? 佐々木か!』

「は、はい。今、眼を覚ましました……周りには皆がいます。無事みたいです。だけど千城さんは……」

『あ、ああ! とにかく、結城、志布志班長、柊班長、御美苗班長、みんな生きているんだな?』

「はい……」

 オレが何とか立ち上がってセイヤの元に行くと、セイヤも立ち上がろうとしているところだった。
 もう一度周りを見ると、御美苗、志布志、柊も体を起こしていた。

『お前らは何とか耐えたな……グールはほぼ殲滅した。こちらから数名、そちらへ向かってもらう』

『皆さん、現在の敵残数を報告します。A級20、1480討伐。B級80、2420討伐。C級0、4000全て討伐。下級グールも全て殲滅。残りは100、12900討伐です』

 鈴子の戦果報告は凄まじいが、声にはどこか覇気がない。もちろん千城のことが気がかりだからだろう。

 しばらくするとユウナ、御美苗班の北岡、志布志班の佐治、柊班の天沢が来て、オレたちの治療を始めてくれた。

「佐々木さん、結城さん、本当に2人とも凄かったです……」

「ありがとう、ユウナ。だけど千城さんはまだ見つからないのか?」

「ええ、S級と共に居たところまでしか……」

「そうか……」

 オレは千城なら生きている可能性はあると考えていた。なにしろ千城の肉体強化は強力だ。シン級相当の攻撃と言えども一命を奪うには至らないと感じていた。

「だが、千城隊長なら生きている可能性は高いだろう」

 セイヤも同じ意見のようだ。

 だが、千城を早く見つけて治療をしないとなと、グールの死体が大量に固まっていた場所にふと目を向けた。

(……!!)

 オレは見つけてしまった。激しい蒸気の中にS級グールが血だらけで立っている姿を。

「え、え、S級です! あそこに!」

 オレが焦って敵を指さした瞬間。

ぞくり

(ま、マジかよ……)

 オレたちの治療をするために隊員達はスカイベースから降りた。その際にスカイベースは地上に着陸していたようだが、その前方に突如点滅型グールの気配が生まれた。
 そしてさらにその上空に、黒い布の様なものがひらめいていた。

「スカイベースの12時方向に、点滅型の、……大規模群体だ! そしてその上に、もう1体! S級がいます!」

『なに!?』

 山崎が本当かと通信を開いた時、空中で黒い布がぼこりと膨らんだ。

『は、反応あり! 点滅型と、S級です!』

 鈴子が焦りの声で報告を上げた。
 
『D級グール、約1200! S級1体です!』

(ぐ、2体居たから巨人の数も多かったんだ! 気付くべきだった!)

『なるほど、これが敵の切り札と言う訳ね』

 通信装置から聞こえる鏑木の声にはあまり焦りは感じられない。
 感じるのは、怒りだ。

『下級グール1000体程度、たいしたことはないわ。殲滅よ。そして、あのS級は私達、鏑木班で始末する!』

 凄い気迫を感じる。千城の件であろう怒りを全てあのS級にぶつかるつもりだ。
 鏑木もこの任務で皆とは強い仲間意識が芽生えていた。

『そっちのS級は手負いね。そこにいるメンバーで討伐して、いいわね』

『りょ、了解しました!』

 オレたちは疲労ですぐには言葉が出なかったが志布志だけは鏑木に返事をした。
 
(は、早く討伐しないと……)

 オレが銃を構えると、傷だらけのグールがオレたちに向かって突進してきた。

「皆さん、迎撃準備を!私達で押さえます! 三重帝級風嵐散弾トライテラストームショット!!」
帝級水冷散弾テラアイスショット!!」
二重帝級土岩球ダイテラストーン!!」
三重帝級雷電槍トライテラサンダーランス!!」

 まだ少し余力のあるユウナ、佐治、北岡、天沢が迎撃の魔術を放った。
 
 だが、S級の前に何十という生き残りのグールが立ちはだかり、ユウナ達の攻撃を受けた。
 グール達がたまに使う肉の壁だ。

(ダメだ! 今のでB級はかなり吹き飛んだけど、S級には届いてない!)

 ここでさらにユウナと天沢が前に出た。杖を構えて既に攻撃態勢だ。

「もう一撃! 二重帝級火炎球ダイテラフレイム!!」
「食らえ! 二重帝級雷電球ダイテラサンダー!!」

 だが、今度はA級グールの生き残りが盾役となり、2人の攻撃を阻んだ。
 
「そんな!」

 戦塵を割いて、2人の目の前にグールが現れた。

(ヤバい!!)

ドドン!!

 魔素を身に纏ったグールの強力な攻撃が2人を吹き飛ばしてしまう。

「ユウナ!!」

 グールはさらにこちらへ向けて光弾を何発も打ち出して来た。

「今! 障壁を! 帝級障壁テラシールド!」
「私も! 帝級障壁テラシールド!」

バチイイイイ!!

 グールの攻撃は佐治と北岡の障壁に何とか受けきった。が、すでにオレたちの直ぐ前までグールは来ていた。

「調子に乗るな! 二重帝級衝撃剣ダイテラインパクト!」
「あなたの罪は私が灌いであげる。三重帝級砲撃剣トライテラキャノン!」

ドドドオオオ!!

(やった!当たった!)

 セイヤと柊の剣技が決まり、激しい衝撃が拡がった。
 その時、グールの気配のある場所から柊が吹き飛んできた。

「ひ、柊さん!」

「ぐっ、食らってしまったわ……、なんて重い罪を……」

(良く分からんが、大丈夫そうだ!)

「佐々木! オレたちも行くぞ!」

「はい! 御美苗さん!」

 オレたちがグールとセイヤが戦っている場所を目指し走り出すと、後ろから突風が吹いた。どうやら北岡が戦塵を吹き飛ばすために魔術を使ったようだ。

「セイヤ!」

 オレが見ると、セイヤがちょうど剣を振り上げ、斬りつけるところだった。だが、グールは魔素を込めた両腕でそれを防ぎ、体格差を利用してセイヤの頭の上、口から吐き出すように光弾を放った。

ドオン!!

「セイヤ!!」 

ゲゲゲゲゲゲ! 

 グールが嗤っている。

「なに笑ってんだ! お前!!」

 オレは怒りで銃弾を連射するが、グールは全て防いでしまったようだ。

「くそ!」

「いや、十分な目眩ましだ! 神級貫通突撃槍シンペネストレイションチャージ!!」

ドオオオオオン!!

(御美苗さん!! やった!)

 御美苗はオレが銃撃を放ち、敵が防ぐという数瞬で大技を突進して繰り出し、見事に直撃をさせてくれた。

(た、倒したか!?)

ガアアアア!!

 だが、グールの苦しみの咆哮が響き渡り、大量の光弾が飛んできた。

(やばっ!)

オレは高速で移動して何とかかわしたが、爆撃のように一帯に敵の攻撃が降り注いだ。

「みんな!!」

 どうやら北岡と佐治も攻撃に巻き込まれたようだ。オレ以外は敵の攻撃を食らった形になる。

グゥゥガアアアア!!

 グールがオレに向かって飛び出してきた。左半身がごっそりと無くなっていて、大量の血を流している。
 御美苗の攻撃による傷だろう。

(くっ、だけどオレを狙うのか!)

 オレは敵を迎撃しようと銃を構えた時、オレの斜め後方に1人の気配を関知した。

「志布志くん!」

「佐々木さん! 今助けます! 神級爆発弾丸シンエクスプロージョンバレット!!」

カッ! 

ドオオオオオン!

 オレはグールの気配が消えたことに安堵して、銃を下ろした。
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