グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第65話 都市防衛戦①

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 都市の北部を放棄するという石動の言葉に都市内部はパニックに陥った。もともと北部のグールは大半を殲滅したという情報と、南部に大群のグールが集まっているという情報が市民の間で広まり、都市北部には多くの住民が避難していた。北部であればこれ以上の戦火が降りかからないと聞いた市民達が密集していたからだ。
 
 そこから防衛隊員などが主導で都市南部へ移動がはじまったが、群衆の避難行動は混乱を極めていた。

 新ミナトミライ都市は35万の人口を抱え、内戦闘員は約2万と地方都市としては大規模な部類に入る。

 だが今はその人口が足を引っぱっていた。
 何とか避難してもらう他ないが、その為の時間を稼がなければいけない。

ドオン!ドオン!

 オレは震える腕で一秒でも長く北部の防壁を守り抜こうとグールを銃撃し続けていた。
 そこで南から爆発音らしき音が強化聴覚によって聞こえた。
 南部防壁でとてつもない規模の攻撃が起こったのが分かった。

(こ、これは……モモさんか?)

『モモ! 聞こえるか! 極大魔術を使ったな!? 無事なのか!?』

 突然セイヤの焦り声がオレたち部隊のローカル通信装置に流れた。西の壁にいるはずのセイヤにも南部の爆音が届いたようだ。

『……セイヤ、騒ぎ……立てないで』

『モモ!』

 刎野がセイヤに応答するが、やはり声色に苦しみを隠しきれないようだ。

『ほ、報告! 刎野隊員の攻撃で司令型を含めA級50体! B級150体を討伐しました! 現在の敵の総殲滅数は62000を越えています!』

『……聞こえたわね。司令型ごとある程度の敵を薙ぎ払った。南部はこれでまだしばらくは持つわ。ここにいた東班の3人にそれぞれの防壁に向かってもらっているわ。特に北部は、もう少しだけ持たせて。市民が避難しきれてないわ』

「りょ、了解」

 オレは思わず返事を返した。
 刎野は強がっているが、もういつ倒れてもおかしくないだろう。一刻も早く、南部に向かわないといけない。 
 だが、ここにはまだ600近いB級とA級の群れが残っている。防衛隊員の報告だと、都市の死者は4000人を越えているらしい。
 オレは生き残るために何ができるか必死に考えながら引き金を絞っていた。

「小見苗さん、佐々木くん」

 中空から声が聞こえると、ふわりとオレたちの間に東班の中井が降り立った。飛行魔術で南部から一気に飛んできたようだ。だが、中井もかなりの疲弊がみて取れる。

 中井は小見苗とやり取りをして、防壁外に魔術を放ち始めた。やはりA+ともなると、この戦況でもまだ少しは余力が有るようだ。

 オレは以前から思っていたが、新トウキョウ都市の中央に詰める隊員達は何というか、やはり精神的なものも他の隊員とは違う。
 折れる事をしらない不屈の闘志を持っている。
 中井を始め、東や一ノ瀬からもいつもその強い意志を感じる。
 今もそうだ。

(感心してるだけじゃダメだろう! オレももっと力を振り絞るぞ!!)

 オレたちは中井の応援を受けて、本当にギリギリの攻防を何とかそこから1時間、持たせることが出来た。
 20分という宣言を大きく越えたことが出来て混乱しながら避難していた市民たちは大部分が南側へと避難できたようだ。

「みんな! そろそろ移動を開始するぞ! 地雷型魔術を設置しつつ、防壁を放棄せよ!」

 石動の声が響いた。
 オレたちはついに北部防壁を離れ、都市の内部を建物を避けつつ南に進んだ。そしてしばらく離れたところにあるビルに登り、態勢を整えた。

 防壁から地雷の爆発する音がいくつも響き渡ったが、少しずつグールが都市の内部へと侵入を始めていた。
 とうとう新ミナトミライ都市はグールに侵入を許してしまった。

「報告! グールが都市へ侵入しました!!」

「承知している! まだ負けてはいない! 現在の戦況は!?」

 防衛隊員の報告につい石動も大声で返す。
 北部の防壁の隊員たちの生き残りは今のところ、1700人ほどにまで減っていた。

 敵の数は500ちょっとというところだが、今の状態では勝ち目は薄い。

「設置型魔術、地雷型魔術などを設置しつつ後退!砲撃も続けろ!」

 じりじりと後退を進めていくと、都市に激しい火の手が上がった。市民らの住居が燃えてしまっている。

「くそぉ!」

 石動が石を噛む思いでグールの群れを見つめている。

 そうする内に、大分都市の内側に入り込んできた。
 中央部までももう1キロもないだろう。

「報告! 敵の総殲滅数は66000! 我が都市の侵略率はおよそ14パーセントです!」

(なるほど……侵略率ね……)

 すでに都市の中央ビル群に設定をされた最終防衛システムからの砲撃も始まっており、その自陣からの攻撃によっても都市は破壊されている。
 石動の苦悩の決断の結果、グール殲滅を優先していた。復興は勿論見据えているだろうが、今この場を乗り越えないと復興どころではない。

「市長! 近辺のB級の残数は400を切りました!」

「わかった! 後退時に設置した地雷を発動しろ!」

スドドドン!!

 凄まじい数の地雷が一斉に爆発した。
 北部防壁から数多く設置しただけあって、これはかなりの数のグールを倒せたようだ。

「北壁からのグールは残り200です!」

「……よし! 防衛を続けるぞ! 現在の侵略率は?」

「現在……18パーセントです!」

「……承知した! みんな気張るんだ!」

「了解!!」

 北部からの侵攻を続けたB級グールの大群はしばらくすると100体以下に減っていた。だが、こちらの隊員も残りは1600人を切っており、その誰もが傷だらけであり、なお厳しい戦況が続いていた。

「市長!! 東西からもグールがなだれ込んで来ました! 東からB級120! 西からB級140! C級以下も合計して600近い数が来てます!!」

 防衛隊員の悲鳴が響いた。

(ヤバい! ヤバい! オレたちももうこれ以上、強力な攻撃は連発出来ない!! どうする!?)

「砲撃と地雷! 設置魔術だ!」

 石動が叫ぶと、都市の中で激しい爆音が響いた。
 だが、オレはグールがまだ大量に生き残っていることと、都市に仕掛けた地雷が尽きたことを感じた。

(ぐっ! もう中央部からも後退するしか……)

『みんな、聞いて。刎野よ』

 ここで刎野からの通信が入った。これは都市全体に開いた通信だ。

(今度は何だ……?)

『私達中央部隊は、新トウキョウ都市の秘密装置によって、瞬間転移をしてこの地に駆けつけた。そしてその装置では私達3部隊、12名だけを送るのが限界だったの』

(な、なにを……)

 急にこの状況で都市にきた経緯を説明する刎野にオレは激しく戸惑いを感じた。

『そして、私達が転移する前から、新トウキョウ都市はこの都市に近い位置にいた上級隊員に別途、応援を依頼していたわ』

(え! まさか!)

『たった今、その増援からの連絡を受けたわ。今、通信を繋いだ。みんな聞いていて』

ジジッ 

『えー、ただいま紹介いただいた、欄島といいます。新ミナトミライ都市へグールを倒しに来ました』

 深刻な戦況とかけ離れた軽い声が都市に響いた。

(欄島……って! あの時の!!)

『今は北部防壁から300位の位置にいます。オレはこれから都市に入り込んだグールを殲滅に向かうよ。他の増援は遅いから置いてきたんで、とりあえずオレ1人です。まあその内来るんじゃないかな』

 欄島はこれから1人で北部のグールを倒すと言うが、皆大丈夫かと心配げだ。
 彼が吻野の同じ階級の隊員だとはあまり知られていないようだ。

『じゃあ、欄島タモン 新トウキョウ都市所属S級隊員、阿倍野マスターの要請により、戦闘開始します!』
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