グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第60話 新ミナトミライ都市

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 オレたちは急いで宿舎の備品倉庫へ向かい、各自必要になるであろう武器道具を揃えた。

 中央兵宿舎の備品倉庫となると、一度に支給される物量も今までとは比較にならず、オレも設置防御障壁や遠距離砲撃デバイス、決まった相手と強力な通信を可能にするローカルネットワーク通信インカムなどかなりの高性能の物品を大量に用意してもらった。

「みんな、そろそろ行くわよ」

 刎野の声に、オレたちと東班、御美苗班が着いていく。
 エレベーターを上がり、案内役の女性とともに再度、阿倍野の部屋の中に入っていった。

「はやいねー」

 相変わらず軽い、若者のような声が聞こえた。

「じゃあ、いいかな」

 阿倍野の声に刎野が頷く。

「じゃあこっちへ」

 オレたちは阿倍野の後を歩き、広い部屋の一角を仕切るパーテーションをくぐった。

「これは……」

 ユウナが驚いている。
 そこには3つの大きな透明な円柱があり、その円形の床にはびっしりといろいろな文字や記号が書かれている。
 いわゆる魔法陣と言うものだろう。
 ひとつの大きさは3、4メートル位の直径だろう。高さも同じ程度だ。

「じゃあ、この中に入って! えーと、結城くん、佐々木くん、安城くん、月城くんはこれ」

 そう言ってひとつの円柱を指した。

「そのまま突き抜けて中に入れるからー」

 そう言うと次の円柱には御美苗班の4人、さらにもうひとつには東班と刎野に中に入るように指示をした。

「うわっ、なにこれ……!」

 アオイが指を透明な壁につけると抵抗もなく中に突き抜けている。そのまま体を通り抜けて円柱の中に入った。オレとユウナ、セイヤも同じようにして円柱に入り込んだ。

「なんか、中は変な感じがしますね」

「うん、これは……特殊な魔素が充満しているみたいだ」

「え! 分かるんですか?」

「あ、ああ。体に触れる感触が普通と違う」

「さすが強化感覚発現者ですね」

 オレたちが話していると阿倍野が手を叩いた。

「じゃあ、これから新ミナトミライへ転移してもらいまーす。向こうで都市の建物内部に出るけど、そこに同じ装置があるから、市長が待ってるはずだよ。あとはその人に聞いてねー」

(か、軽いんだよな……学校の先生みたいだ)

「じゃあ、行くよー」

 そう言うとパンと手を合わせて魔素を練り始めた。

(す、凄い……!! これは、モモさんの極大魔術より明らかに量も密度も上だ!)

隔界招門サモンゲート!」

ブブン!

 一気に円柱の中の魔素が激しく渦巻く。
 オレの視界もぐにゃぐにゃと変化していき、段々と周りが光り出した。もうほとんど光しか見えなくなった時、振動も感じ始めた。

(あれ?これって……?)

「佐々木くん、生き残れよ。お母さんのためにも」

突然、阿倍野が小さい声で良く分からないことを言った。

「は? それは……どういう意味……」

ズオン!

「ぐっ……!!」

 オレは頭を激しく揺さぶられたような衝撃を感じ、思わず床に座り込んでしまった。視界もぐわんぐわんと揺れている。

「みなさん、お待ちしていました」

「え?」

 オレは何とか声の聞こえた方を見ると、1人の中年男性が立っているのがぼんやりと見えた。どうやら、グレーのスーツのような服を身にまとっているようだ。

「私は新ミナトミライ都市の市長、石動です」

 石動が挨拶をしてくるが、オレは立ち上がれもしない。
 だが、まるで平気そうな様子の吻野が言葉を返した。

「私は新トウキョウ都市、中央部隊兵刎野班の刎野モモです。こちらのみんなが、東班、あっちの倒れているのが、御美苗班と私の班員です」

「刎野隊員! お名前は存じております。まさかあなたが来てくれるとは……!」

「早速話を聞きたいんですが……、ちょっとお待ち下さいね。帝級治癒結界テラヒールドーム

キイイイイ

(おお! 一気に体が楽になっていく! さすがモモさん)

「情けないわね、あんたたち。市長の前よ」

「いやいや、この転移はかなり危険だと聞いてます。C級くらいの者が使用すると命に関わるらしいですし」

(はぁ? あのギルドマスターそんなこと一言も言って無かっただろ!)

「いいかしら?」

「はい、刎野さん。お手数お掛けしました」

 御美苗班がみな立ち上がって返事をする。こういうときは彼らは大人だなと感じる。

「すいません、もう大丈夫です」

 オレも立ち上がり頭を下げる。
 ユウナ、アオイももう立ち上がっているし、セイヤは最初から大丈夫そうだ。石動は黒髪をオールバックに撫で付けた、ちょっとコワモテのおじさんだった。

「では、状況の説明は彼女から」

「皆様。市長秘書の烏丸です。どうぞ宜しくお願いします」

 コツコツと市長の脇に来たのは、正にオレのイメージ通りの秘書だ。20代半ば程度の見た目でなんとヒールにパンツスーツ姿で、どこかの企業のOLにしか見えない。もちろん色気たっぷりで凄いスタイルの持ち主だ。赤髪をまとめていてメガネをかけている。

「3時間ほど前から本都市は、グールとの防衛戦争に入りました。敵の総数はおよそ70000です。現在4方に分かれて、東西南北全方位より侵攻を受けています」

 烏丸が空中に都市のモデルデータを写し出し、説明を続けた。

「北、東、西は通常のグールがそれぞれ約10000、そして南側の海から、約40000の海洋型と呼ばれるグールが迫っています」

「海洋型について分かっていることは?」

「はい。刎野さん。海洋型は魚などの海洋生物から進化したものですが、その脅威は陸上では皆無でした。ですが、何十もの魚型グールが身を重ねて強制的に進化、陸上活動も可能になったようです」

「……」

 刎野をはじめ、オレたちは黙って烏丸の話を聞く。

「体長はおそよ2~3メートルほど。ほとんどはグールの階級で言うとE級ほどです」

「下級グールレベルの海洋型グールは6割程の数を占めていますが、やはりそこから進化した、上級グール並みの敵も大勢確認されています」

「なるほど……現在の戦況は?」

「はい。東西南北の防壁において戦闘中です。我が都市の討伐隊員は8000、防衛隊員は12000人居りますがその半分が南にて海洋型と交戦、さらに半分を均等に分けた人員で北、東、西の防壁で交戦中です。今はなんとか防壁に近づけない様に尽力していますが、我々の見込みですとあと数時間で防壁を破られます」

「けっこう厳しいわね。防壁を抜けられた後の対策は?」

「……ありません」

(はあ?)

「ごめんなさい。どういうことかしら? 詳しく説明してもらえる?」

 烏丸が少し困った様子で石動を見た。
 すると石動が烏丸に代わって説明を始めた。

「刎野隊員……、我々は常々、防壁の強化に努めていましてな、防壁を破られるという想定はしてなかったのです。いや、まさかこんなに大群が攻めて来るとは思いもよらず……」

「市民の避難場所とか、第二の防衛ラインとかもないってことですか?」

 オレはつい口を挟んでしまう。

「……ええ。面目次第もない」

(マジかよ……)

 オレたちは防壁を破られたらそこで終わりということだ。
 壁の内側には大勢の市民がいるのだろう。さすがに今は都市の中央に避難はしているだろうが、きっとこの建物の外は大混乱に違いない。烏丸の写す都市のモデルは建物が細かく表示されており、市民の住宅や、畑などか壁の近くにたくさん見て取ることができた。

「分かったわ。何とかする」

「本当ですか!?」

 石動の表情が期待で満ちていく。

「ええ。みんなも聞いて。まず、私達は4手に別れます」

「4手?」

「ええ、北は私、東は御美苗班、西は刎野班4人、そして南側は東班よ」
 
(これはモモさん、10000体を1人です倒すつもりだな)
 
「いや、しかし、それでは南側が危険では……」

 石動が疑念を挟む。

 おそらく、石動はオレたちが四方を同時に強化して、防衛にあたるつもりと考えたのだろう。大枠は当たっているが、彼は刎野のことを知らない。

「私が北の10000を殲滅して、すぐに南側に加勢するわ。東と西はなんとか持たせて」

「「了解」」

 石動が驚いているが、オレたちはすぐに移動の準備を始めた。
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