グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
上 下
50 / 264
CHAPTER Ⅰ

第50話 S級グール②

しおりを挟む
 千城は単独の戦闘で最も戦果を出す隊員であり、性格の問題もありずっと1人での討伐任務をこなしてきた人物だ。

 リーダー役としてはそれなりに優秀で人望も厚いため、現在は北部支部の支部長の地位に就いている。

 だが、こと戦闘となると周りが見えなくなり、のめり込むタイプでもある。死骸の集合体である巨大なグールを殴りつけ、廻し蹴りを加え、もうすでに1体目の巨人は倒しつつある。

 激しい攻撃で周りの死骸や地面ごと吹き飛ばしていた。
 もし仲間がいたら巻き添えを食っているだろう。

「よし! ますば1体だ!」

 千城は早々に巨人を1体撃沈し、さらに後ろに控える十体以上の巨人を見据え嬉々として叫んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 東班もA級部隊としての能力を発揮して、巨人を攻撃している。

 班長の東は狙撃手だが、その身体能力により、移動砲台と言うべき攻撃を繰り返している。貫通力の高い弾丸を遠距離から一度に十発以上を放つ。動きは決して早くない巨人は穴だらけだ。

 班員の一ノ瀬は拳術士で戦い方は千城と似ている。やや違うのは放出系の攻撃が主体で完全に敵と組み合うことはあまりない。だが、その攻撃力は一発一発が強力であり、上手く当たればB級くらいなら一撃で葬り去るほどだ。

 そして、同じ班員の中井は技術力の高い魔術士で、常に空中に浮遊している。そして俯瞰した視界で一ノ瀬や東が危機に陥らないように攻撃魔術、援護魔術を実施している。

 3人のコンビネーションで、巨人の1体が倒れるまでには大した時間は掛からなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 オレたちは動体感知を働かせ、怪しい場所を爆撃したりしながら何とか巨人の相手をしていた。

 千城や東班と違うのは、巨人はあくまでS級グールを見つける上での障害であり、討伐までは目指していないことだ。
 
「ちっ、ここも外れよ! 他は!?」

「3時方向! 距離250! 何か反応があります!」

 刎野が吹き飛ばした場所に何もないと分かると次の候補を探した。
 
 だが、一向にS級は見つからない。

「くっ、このままでは消耗するだけだ……!」

 御美苗も希望の見えない戦いに愚痴をこぼす。
 とうとう刎野に直接の提案をぶつけた。

「刎野さん! やはり撤退すべきです! 誰かが犠牲になってからでは遅い!」

 刎野は御美苗をチラッと一瞥すると、接近する巨人を見ながら静かに答えた。

「御美苗くん。逃げたいなら逃げればいいわ。私はこの敵を倒す。S級が1体減ればこれから犠牲になる人間を何人救えるか……これはそういう相手よ。私の意見はあなたと逆なの。私はこいつを決して逃がさない」

「……」

 御美苗は思い悩んでいるようだ。
 おそらくそれは刎野がS級グールの討伐を通して新トウキョウ都市の安全までを見据えている思慮深さへの感銘と共に、自分の実力不足への不甲斐なさだろう。

「……だったら、オレたちだけ逃げるわけには……行きません! まだ戦えます!」

「そう、じゃあ引き続きよろしくね」

 御美苗が刎野とやりとりしている間もオレは銃を撃ちまくっている。
 セイヤ、ユウナ、アオイと共に1体の巨人を倒すことができた。

「やった!」

「セイ、喜ぶのは早い。まだ後ろに何体も来てるぞ!」

「私達には、5体! 巨大グールが接近してます!」

「うお! 支部長はもうすでに3体倒してるよ!」

 この巨大グールは、戦力的にはA級グール程度だろう。索敵の反応もA級だった。
 単独ではそこまで手強い訳ではない。だが、倒しても倒しても新しい巨人が湧いてくる。非常に厳しい状況は変わらない。

「結城! オレたちも加勢するぞ!」

 そこに御美苗班も戻って来た。
 迷いは消えているようだ。

「大丈夫か?」

 セイヤが問う。

「心配すんな! もう出来るだけのことをやりきるって覚悟は決めた!」

ドドド!!

 御美苗班の集中攻撃が決まり、1体の巨人がまた倒れた。

「まずは、こいつらを討伐するぞ!」

「おお!」

 オレたちが激しい戦闘を続けていると、刎野が何かを考えているのが見えた。

「ちょっ! モモさん! モモさんも攻撃してくれ!」

 オレが思わず援護を頼むと刎野が巨人に杖を向けた。
 かなりの魔素を練り上げているのが分かる。

神級火炎シンフレイム!」

バアアア!!! 

「うおおおお!?」

 今までに見たことの無い規模の火炎の波が巨大グールを焼き尽くした。
 もの凄い、なんてものじゃない尋常ではない威力の攻撃だ。
 今の一撃で4体は巨大グールを倒した。そして地面を埋め尽くすB級グールのの死体もかなりの数、100体以上が焼け焦げている。

「はぁ、はぁ。さ、さすがにここからシン級魔術は消耗が激しいわね……」

 刎野が空中からオレたちの元へふわりと降り立った。

「すごい……! これがシン級……やっぱりモモさんは使えたんですね……」

 ユウナが呆然としている。
 それだけ高位の攻撃魔術なのだろう。

「さすがモモだ。それに……何か思いついたんじゃないか?」

(え?)

 セイヤの言葉の意味がよく分からなかった。
 
「さっき、考え事をしていただろう。そして何かに気付いた顔をしていたな?」

「……セイヤ、良く見てるわね。そんなにわたしのことが気になるの?」

「ああ、気になるな。S級グールを倒す作戦がな」

(ああ、そういうことか)

「……」

 刎野は何かためらうようなそぶりを見せた。 

「刎野さん? もし作戦を思いついたなら教えて下さい。オレたちは覚悟は決めましたよ」

 御美苗も刎野の言葉を促した。
 オレも話すのを何故ためらうのか不思議に思った。どのような方法であれ、逃亡しないのなら、戦うしかないのだから。

「モモ、頼む」

 セイヤの言葉に刎野が深く息を吐いた。

「……S級グールや今回の攻撃の目的は何だと思う?」

(?モモさんじゃないのか?)

「それは、モモと我々を倒すことだろう?」

「ええ、敵の目的は、私たち新トウキョウ都市の討伐隊員の殲滅よ。言い換えると新トウキョウ都市の弱体化よ」

「弱体化……?」

「ええ、敵の最終的な目標は新トウキョウ都市の壊滅のはず。その前段階の作戦行動として、私たちのようなS級隊員、A級隊員の殺害を目論んでいるの」

「それは、まあ分かるけど……」

 オレはまだ話の論点が見えない。

「では、どうすればS級グールを倒せるのかだけど、それは相手の有利な状況をわざと作って見せるということになるわ」

(いまいちわからん……)

「このグールは、他のグールの死体を操り、私たちの消耗を狙っている。そして、私たちがあえて消耗して向こうから姿を出させるということよ」

「え? でもそれではオレたちはやられてしまうんじゃ……」

「S級戦力として戦える力を残したまま、消耗したように見せるしかないわ」

「それは、どういうことですか?」

「私がわざと魔素を使いきるわ。そして戦線を離脱する」

「な!? 刎野さんが居なくなってはS級は倒せません!」

 御美苗も驚きの声をあげる。

「力を残すと言ったでしょう。私は一旦魔素を使いきり、30分で回復してみせる。切り札があるわ」

「モモ……それは危険ではないのか?」

「セイヤ……危険をおかさずには、この相手は勝てない。それに早くしないと千城さんや東班も危ない」

 オレは強化視覚で千城を見る。
 既に5体目の巨人と戦っているが、それなりのダメージを受けているようだ。
 東班も同様だ。5体は巨人を倒しているが、さらに他の巨人に囲まれたまま、必死の攻勢を見せている。
 オレたちは合計で20体近い巨人を倒してはいるが、いまだ次々に新たな巨人が生まれて来ている。

「確かにあなた達もかなり危険よ。S級が姿を見せたら時間を稼ぐことに集中して。必ず私が倒して見せる」

「やるしか、ないか……」

 セイヤも覚悟を決めたようだ。

「みんな、生き残るわよ」

 刎野の言葉に、皆が頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

橋本 直
SF
出会ってはいけない、『世界』が、出会ってしまった これは悲しい『出会い』の物語 必殺技はあるが徹底的な『胃弱』系駄目ロボットパイロットの新社会人生活(体育会系・縦社会)が始まる! ミリタリー・ガンマニアにはたまらない『コアな兵器ネタ』満載! 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の「特殊な部隊」だった そこで『作業員』や『営業マン』としての『体育会系』のしごきに耐える主人公 そこで与えられたのは専用人型兵器『アサルト・モジュール』だったがその『役割』を聞いて主人公は社会への怨嗟の声を上げる 05式乙型 それは回収補給能力に特化した『戦闘での活躍が不可能な』機体だったのだ そこで、犯罪者一歩手前の『体育会系縦社会人間達』と生活して、彼らを理解することで若者は成長していく。 そして彼はある事件をきっかけに強力な力に目覚めた。 それはあってはならない強すぎる力だった その力の発動が宇宙のすべての人々を巻き込む戦いへと青年を導くことになる。 コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

冬に鳴く蝉

橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――

ココロノコドウ

幹谷セイ
SF
「あなたの平常心に惚れました。私と付き合ってください」 人並み外れて物事に動じない高校生、米斗は、同級生の可愛い少女・千具良から告白され、付き合うことに。 千具良は心臓がドキドキすると地震を起こしてしまう特異体質で、大災害を引き起こしてしまう前に心の鍛え方を学ぶために、米斗に近付いてきたのだった。 だが、付き合ううちに本気で米斗に恋してしまった千具良の心臓は、ますます不安定に。米斗は千具良と世界を大災害から救うために奮闘するが、実は米斗にも、とんでもない秘密が……。 自然災害系(?)SFパニックラブコメ!

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

ダンジョンマスターは、最強を目指すそうですよ?

雨霧つゆは
ファンタジー
ごく普通のゲーマー女子がひょんな事から夢で見た部屋に入ると転移してしまう。 転移先は薄暗い洞窟。 後にダンジョンマスターになっている事を知る。 唯一知能を持ったダンジョンマスターを巡って世界が動き出す。 陰謀、暗躍、内乱と次から次へと問題が起こる。 果たして元の世界に戻れるのか? *端末によっては一部見にくい部分があります。 *不定期更新していきたいと思います。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

アシュターからの伝言

あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。 なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。 テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。 その他、王様の耳はロバの耳。 そこらで言えない事をこっそりと。 あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。 なので届くべき人に届けばそれでいいお話。 にして置きます。 分かる人には分かる。 響く人には響く。 何かの気づきになれば幸いです。

処理中です...