グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅰ

第34話 魔素操作

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 御美苗班とはその後も週に一度、一緒に巡回討伐任務に出た。オレたちは毎回何百というグールを倒し、任務のない日は訓練に明け暮れていた。
 そんな日々をもう1ヶ月ほど続けていた。

「昇級審査?」

「ああ、もうすぐだ」

 御美苗がセイヤに話した昇級審査とは、3ヶ月に一度、隊員等級の見直しを行う試験、面接のことだ。審査という名前の通り、審査官何人かに向き合い試験を受ける。その試験内容は様々らしいが、日々の任務の働きが良くないとそもそも審査を受けることもできないらしい。

 オレは元の時代では8月の真夏に居たのだが、この時代では1月の頭くらいに転移していた。新ツクバ都市でおよそ2ヶ月、新トウキョウ都市でおよそ1ヶ月。
 暦は4月を迎えていた。

「オレたちは今回こそ昇級してやる、前回はダメだったからな」

 そう言う御美苗は現在B+級で、他の隊員は3人はB-級だ。今回昇級できれば、かなりの強部隊になる。だが、それでも中央の部隊には届かない。主都のレベルの高さが伺える。

「そうか、オレたちもその審査は受けられるのか?」

「ああ、申込方法を教えるよ。まずは……」



セイヤ達が話している間、オレは聞いてみたいことがあり、ユウナとアオイに近づいた。

「なあ、ユウナ」

「はい?」

「最近、ユウナとアオイの技?っていうのかな、何か叫んで攻撃するやつなんだけど」

「ええ、魔術とか剣術ですよね」

「ああ、それなんだけど。最近明らかに威力が上がってるよな?」

「あ、はい。この都市で新しい装備品を貰いまして。この杖も強化されてます。アオイの剣も新しくなってますよ」

「うん、それは知ってるんだけど。うーん、何て言うか2人の地力がここ最近で急に上がってる感じがするんだけど」

「地力、ですか……?」

 ユウナがオレの疑問の論点が分からないと言うように首を傾げる。もちろんかわいい仕草だ。

「お前は何が言いてーんだよ?」

 アオイもオレに逆に質問をぶつける。
 オレも質問の要点を何と言えばいいのかはっきり分からないので、アオイは少しイラついてしまったようだ。

「うーん、2人の魔素が明らかに増えてるみたいだから、どうやってるのか教えて欲しいんだ」

「は?」

 ユウナとアオイが顔を見合わせる。

「魔素が増えてるのは、任務と訓練を繰り返してるからだよ。お前も同じだろーが」

 アオイが何言ってるんだと言いたげに返答を返す。

「同じ? うーん……どう言えばいいのかな……」

「あ、佐々木さんの疑問が分かりました」

「え? 本当に?」

「はい。つまりこういうことじゃないですか? 私たちは同じ任務と訓練をしているのに私とアオイ、セイヤさんがどんどん大技を使うようになっていて、自分だけが置いていかれている気がする。なぜ魔素の量が多いと言われている自分だけがこの状態なんだと。そう思ってませんか?」

(さすが……! あなたは私の天使です!)

「そうそう!」

「なんだ、そんなことか」

 アオイがまた失礼なことを言う。

「お前はまたそんなこととか言って!」

「私たちはな、12の頃から魔素操作訓練を受けてんだ。お前は魔素量が多いだけで魔素量操作がヘタなんだよ」

 アオイがすっとオレの疑問に答えたので少し驚いた。

「え? 魔素操作? 何それ?」

「お前は大出力の銃でバンバン撃ってるだけだからそう感じるんだろーけど、十分強力だぞ。佐々木の持ってるその銃は多分その辺のヤツじゃ使いこなせねー代物だし」

「そうなの?」

 何というか、アオイがこんなにオレの疑問に答えられると、オレのことを誉めているとも取れる発言をしたことが意外だった。

「ああ、C級くらいの階級の隊員じゃお前のその銃のストレージに魔素戦闘中に何度も充填できる余裕はねーだろ。お前だけだ。その銃をバカスカ撃てるのは」

「ああ……そうか。って、いや! 魔素操作ってのはなんなの?」

 アオイは面倒だなという顔をしてユウナを見た。

「佐々木さん、魔素操作は自分の持つ武器、剣や杖から魔素を放出する設定をする出力操作ですよ。その種類によって私たちは使う技を決めているんです」

(おお! 天使が説明してくれた)

「そうなんだ」

 だが、言っている意味は全く分からない。

「はい。ですが、出力操作の前に入力操作もあります」

「入力操作……」

(だんだん面倒になってきたな……)

「はい。例えば私は火炎系が得意ですが、あらかじめこの杖に火炎形式になる魔素を入力してます」

「火炎形式……?」

(難しそうだ)

「はい、水冷系、風嵐系、雷電系、土岩系、光波系でそれぞれ違う形式で魔素を入力しなくてはいけないんです」

(ああ、属性ってやつかな? 良く聞く設定だよな)

「そうなんだ、でもユウナはたまにフレイムストーム! とかやってない?」

「ええ。それは、合成魔術です。火炎と風嵐の魔素を同時に入力して、同時に出力するんです」

「そんな難しいことしてたんだ……」

 ここでアオイがしょうがないという態度でオレに説明を続けた。

「ちなみに私の剣術は、衝撃、爆発、飛斬、散弾とかっていう種類の入力をして、それを組み合わせてんだ」

 アオイは自慢気に話をしてきた。さっきから内心がまる分かりだ。

「え? アオイもそんな難しいことやってるの!?」

「もってなんだよ? まあ、魔術師よりは難易度は低いけどよ。その分私らは近接戦闘をしながらの魔素操作だからな」

「そうなんだ……」

「佐々木さんの魔素操作の話に戻りますけど、銃術はそういった魔素操作はあまり必要とされていません」

(どこかでもそんな話を聞いたな)

「魔銃は、基本魔素を込めれば引き金を引いて出力が出来ます。威力の大小は、込めた魔素の量によります」

「それじゃあ、どうすれば……」

「私は、佐々木さんはそのままでいいと思いますよ」

「え?」

 ユウナがありのままの自分を受け入れてくれてる……って、そんなわけないか。

「佐々木さんの魔素量は異常ですから」

「異常って」

「実際そうです。なので、私は難しい魔素操作に目を向けるより、まずは銃の性能を上げることを考えた方がいいと思いますよ」

「なるほど、そうか!」

 オレは取り敢えず納得した。

「銃の性能が上がればその分オレは強くなれるんだな」

「はい。だけど何かもうひとつ欲しいと言うことであれば、銃だけでなくその魔素量を生かした戦闘方法も考えた方がいいと思いますよ。魔素操作は長期間の訓練が必要ですし。兵学校にも通ってない佐々木さんが今から始めるのはちょっと色々と難しいと思います」

「うーん」

 その後も色々とユウナとアオイにアドバイスを貰ったが、これといった結論は出なかった。引き続き試行錯誤をしていこうと、オレたちは解散した。



 そして翌日。

「みんな、聞いてくれ。オレたちも昇級審査を受けられることになった」

 セイヤがいつものように訓練を始めようとする前にオレたちに言った。

「ああ、昨日御美苗さんとそんな話をしていたな」

「そうだ。彼の話だと、この都市に来て1ヶ月で昇級審査はしてくれないという話だったが、何故か審査を受けられることになった。試験は来週だ」

「来週……、じゃあそれまでにどんな準備をすればいいんだ?」

 昇級試験の内容が分からないことには傾向と対策は練れない。試験対策の基本だ。

「それが……」

 珍しくセイヤの歯切れが悪い。

「どうしたんですか? 結城さん」

 あまり見ない表情にユウナも少し心配そうだ。

「審査内容だが、毎回違うらしい」

(それが心配なのか? なんでだろ?)

「オレたち結城班の昇級審査の内容は、千城支部長との決闘だ」
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