グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅰ

第32話 C級群体

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 オレたちとその後、御美苗班と何度かミーティングを重ねた。
 新トウキョウ都市の任務の過酷さ、どれだけの地方隊員がこの地に意気揚々と来て、そして去っていったか。
 どれもオレたちを脅す訳ではなく、気を引き締めろと御美苗は言ってくれていた。
 
 そして支部長と会ってからは1週間の時間が過ぎていた。

 オレたち新トウキョウ都市所属の隊員は中央部、支部共に毎週装備品の支給がある。
 オレの場合は、銃に取り付けるデバイス弾丸や強化パーツ、各隊員共通の隊服の強化パーツなど様々な物資を受け取った。
 流石は主都で、渡される備品の質も高い。別に地方隊員だからバカにしてるとか、差別をしてるとかでは決してなく、実力がないものが見下されるだけなのだろう。

 その証左が御美苗班だ。
 この都市で5年活動した彼らは首都出身の隊員とも気心の知れた会話をしている。

「御美苗、今回は地方隊員のお守りを任されたんだって? お前らも大変だな」

「いや、彼らはけっこうやるよ。たまたまこの都市に来る途中、一緒に戦ったんだ」

「地方出身同士だからって肩を持つなよ」

 オレたちを明らかに下に見ている隊員がいるが、彼はB+の階級だ。つまり、オレよりかなり格上だ。
 この都市は、大勢の隊員がいるが、本当に精鋭揃いだと時間が経つ程に分かった。

 そしてオレたち結城班はこの1週間は訓練に訓練を重ねた。少しでも早く、この都市の隊員として認められるように必死だった。

 そうした日々を過ごし、とうとう御美苗班との合同で任務に出る日を迎えた。
 オレたちは兵宿舎を出て、まずは防壁の外まで来ていた。

「佐々木、中央のやつらが言うことなんか気にするなよ」

「え? ええ。ありがとうございます。大丈夫ですよ」

 御美苗がオレに気遣いの言葉をかけた。

 オレは全く気にしていないとは言えないが、今はやることをやるしかないと、覚悟を決めていた。あまりにも毎日嘲笑を受けているのを見かねて気に掛けてくれたようだ。

 御美苗はどこかぶっきらぼうな態度をしているが、周りをよく見ていて面倒見が良い。班長なのも納得だ。

 オレたちは関所で所定の手続きを終えた後に防壁を出て、数時間程のところで一度小休止を取った。

「もうあとは待つだけだ」

 御美苗がぼそりとこぼした。

「え?」

「グールは向こうからオレたちを見つけて襲って来る。だから待つだけなのさ」

「……そうですか」

 さっとセイヤが立ち上がった。

「では、設置型魔術を展開しよう、ユウナ、アオイ、頼めるか」

「了解」

 ユウナとアオイがすぐに準備をして駆けていった。
 セイヤも主都での初任務ということで張り切っているようだ。

「ぼちぼち、オレたちも準備するか。アコ、ギンも一緒に設置魔術を頼む」

「了解」

 そう言って、御美苗班のメンバーもユウナ達とは逆方向へ向かった。
 オレは設置魔術の展開は出来ないので、ここで待機となる。
 オレとセイヤ、それに御美苗と北岡が手持ち無沙汰に皆の帰りを待つこととなった。

「……それで、聞いてもいいか? 佐々木」

「はい? 何でしょうか?」

 不意に御美苗が話し掛けてきた。

「お前はどうして、中央に行きたいんだ?」

(何て言おうかな……タイムスリップのことなんかいきなり話したら変なやつだと思われそうだし)

「えー…… 説明が難しいんですが、阿倍野ギルドマスターに会いたいんです、聞いてみたいことがあって」

「へえ、そんなに大切なことなのか? あの人は忙しいからな、そうは会えないらしいよ」

「そうなんですか……でもどうしても聞いてみたいことがありますからね」

「どんなことなんだ?」

「……」

(これは言っても大丈夫かな……)

 オレの考えを読んだであろうセイヤが代わりに口を開いた。

「セイは、100年前の時代から転移してきたらしいんだ。そしてその時代に帰る方法を探している。ギルドマスターならあるいは、と考えているんだ」

「100年前……?」

「ああ、別に信じてくれなくてもいいですよ。ただ、どうしても家族のいる場所に戻りたい、そう思っているだけです」

 オレがそう御美苗へ補足する。

「……そうか」

 御美苗が宙を見つめ、言葉を続けた。

「100年前とかって話はよく分からんが。家族の元に戻りたい、そういうことならオレも戦う理由は同じだよ」

「え?」

「オレは、新ミナトミライ都市出身だがな、その前にまた別の都市にいたんだ」

「……そうですか」

 (けっこう都市を転々とする人も多いのかな?)

「まあ、オレにも事情があってな、その都市、新マクハリ都市なんだが、A級部隊にならないと帰れないんだ。オレの家族は新マクハリ都市にいるんだよ」

 オレの心内の疑問に答えるように御美苗が話を続けた。

「そうなんですか……でも、A級ですか……」

 この1週間でA級になることの困難さばかりを聞いてきた気がする。
 だが、御美苗はもう一歩でA級になれるという話だったことも思い出した。

「ああ、正確には中央に行かないと新マクハリへの帰還の辞令が出ないことになっている。まあ、あと数年頑張るつもりだけどな」

「そうですか」

(みんな、いろんな事情があるんだな……)

「御美苗さん、ありがとうございます。オレも一緒に中央に行けるよう頑張ります」

 オレが明るく返事をすると、御美苗は笑って言った。

「生き残ってりゃ、いつか行けるよ」

「はい!」

「それで、結城は?」

「オレか?」

「ああ、お前も中央に行きたいんだろ?」

「いや、そこまでじゃない。だが、セイの望みだから付き合ってる」

「付き合ってるって…… そんな理由かよ?」

「だが、中央の方が早く強くなれそうだ。だから、中央には早く行きたいと考えているよ」

「……」

 御美苗は少し思案顔だ。
 班長であるセイヤがそんな軽い理由で戦っているはずはない。それを理解しての沈黙だ。

「オレは、強くなりたいだけなんだ。もう二度と仲間を失いたくない」

「!」

 御美苗が何かに気付いたように、セイヤを見た。おそらく、セイヤが背負っているいるものが少し理解出来たのだろう。
 真剣な顔だった。

「なるほどね……」

 オレたちの会話を聞いていた御美苗班の北岡が立ち上がった。

「班長、索敵に反応ありです!100を越えた数を検知!C級群体です!」

「来たか……アコ、ギン、戻れ!」

ぞくり

 オレの背筋に悪寒が走った。
 500メートルくらい先からグールのいる気配を感じた。

(あれ? 前より正確に敵の位置が分かる気がする。敵がC級でデカイからか?)

「セイヤ」

「ああ、ユウナ、アオイ、戻ってきてくれ」




「C級110体!距離300です!」

 御美苗班の北岡が声を上げる
 設置型魔術を展開していた隊員達が戻ると、皆で陣形を組んで敵の接近を待っていた。
 オレたちは今回は廃ビルの屋上、10階くらいの高さに布陣している。

「始めるぞ!撃て!」

「「了解!」」

 御美苗の号令で皆が攻撃を開始する。
 オレも遠距離攻撃用の外付けパーツを装着し、狙撃をする。
 パーツを付けた銃身は、ライフルの様な形状で、弾丸の飛距離を威力を損なうことなく、3~5倍程に増幅できる。
 新トウキョウ都市の質の高い装備のひとつだ。

 崩れた建物が散乱する大通りのひび割れたアスファルトの上をC級の群れがこちらへ向かって来ている。
 腕が4本も生えており、身長が4メートル以上ある怪物が群れを成しての行進だ。

(まるで、エイリアンの大行列だな!)

 オレは銃撃を重ね、C級群体の数を少しずつ減らしていった。
 ユウナや、御美苗班の阪本、北岡、須田も魔術や銃撃で弾幕を増やしていく。

 オレたちの主都での初任務が始まった。
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