AVENIR 未来への一歩

RuNext

文字の大きさ
13 / 27

決戦に向けて

しおりを挟む
 朝を迎え民や兵士たちは集まった。
 ミーアは岩の上に昇りそれを見下ろす。自分のためにこれだけの人間が動いてくれることにまだ実感がわかなかったが、兵士たちの瞳は絶望もしていなければ諦めてもいない。抗うのではない、勝ちに行く人間の目をしている。

「みんな、これから私たちはジャクボウと戦うために王国を取り戻す。これが始まりの戦いであり、この結果が後の戦いへ大きく影響する。だけど、心配しないで。勝機は十分あるわ。私たちはあそこで育ち、成長し、思い出を作った。それを土足で踏み荒らす奴らを許しては置けないでしょ。あいつらはあの王国に愛着なんてない。私たちは隅々まで知り尽くしている。戦術上防衛する彼らにも分はあるけど、地形を知っている私たちにも分はある。そして、この場には二本の伝説の槍がある。傷を癒し、壁を壊す槍。道も退路も確保してある。あとは信じて前へ進むだけ。あなたたちの力をやつらにぶつけなさい!」

 王国奪還作戦は少数で道を開く先発隊と城の制圧を主とした後発隊で構成される。スバラシア王国の城下町の周囲には半円を描く壁で覆われており、壁に監視や弓兵を配置することができる。正面突破は困難だが、一つだけ気づかれずに進入する経路が存在する。
 城は山に作られており、正面は町へつながる道。後ろは兵士の演習などで使う場所となっている。民たちはここを知らないが兵士たちは目を瞑ってでも移動できるほどに熟知している。
 ジャクボウが攻める際に後ろから攻めず正面突破を行ったの、単純にスバラシアの後ろから気づかれずに攻めるためには別の国の領土に侵入する恐れがあったからだ。
 だが、森から一本道で迎える現在のミーアたちにとっては攻めと撤退を容易く行える都合のいいルートだった。

「姫様、敵戦力はどれほどのものなのですか」
「レイが調査にいった結果、内部にいる人間をあわせおおよそ二千人」
「森に保管されていた武器とここで作った武器を合わせても装備できるのは四百程度。兵士の数は足りています武器が足りてません。制圧するには戦う兵士を増やさなければいけません」
「武器の数は足りてないけどそこは考えているわ。それに例え少なくてもジャクボウが私たちに勝てた理由は、強化兵士を利用した不死身なまでの耐久力による強引な侵攻。王国に駐在している兵士たちには強化は施されていないことがわかってる。それに、あの時はウィークが傭兵として驚異的な早さで城までたどり着いたこと大きな原因。実際のところ兵士一人一人の技術はスバラシアのほうが上。さらに、先行隊にはウィークが行く。漆黒の槍は一人で国を相手どれるほど力があるわ」

 兵士たちはまだウィークに対し半信半疑だった。それは無理もない。何もウィークだけが王国を壊したわけではないが、ウィークが現れなければもう少し戦闘は長引き、ミーアを安全圏まで連れて行った後三騎士が戦闘に参加していたかもしれない。時間さえかければ犠牲はあれど強化兵士の猛攻も止められた。漆黒の槍が国を相手どれるというのは比喩ではなく、事実ウィークが証明している。国同士の対決の片方に参加するだけでパワーバランスは大きく変化するのだ。

「作戦は深夜に決行する。もちろん私も行くわ。先発隊はウィークとレイを中心に道を切り開き、後発組は私と共に城を取り返す。武器を持たない兵士たちはさらに後方からついてきて。武器庫の制圧が出来次第合図を送るからそこから城に入って一気に制圧する」
「ミーア様、それでは危険です。私もそちらに行った方が」
「先発組は背後から忍び寄ると言っても地の利は向こうにだってある。ウィークは城に侵入した後、単独行動してもらうから兵士の指揮はあなたに任せたい。昨日の戦い見たでしょ。私も戦えるわ」

 仮にミーアが殺されてしまったり多くの兵士が失われた場合は即時撤退。だが、そこで事実上の完全敗北となる。この作戦は成功しなければいけない。仮にミーアが生きていてももうチャンスはないだろう。あくまでジャクボウと本気でぶつかるのなら防衛戦でしか勝ち目はない。今回の戦いがダメならもう王国の再建は不可能なのだ。

 この作戦においてマグナは完全な自由行動をとる。
 ビートは森の防衛のために残ることを決断してくれた。大量の人間が森から移動するため見つかる可能性も高い。この戦いが無事に終われば迅速に民を王国へ移動させる必要がある。ビートは森の戦いにおいて三騎士を上回る。もっとも適した人間だ。

 森にある資源から武器を作り出し、進行ルートの計画や戦況に応じた策を考えているとあっという間に時間が過ぎ、戦う者たちは軽い休息をとって戦いに備えた。

 ミーアは高い木に簡易的に設置された監視塔に昇り周囲を確認していた。すると、レイがやってきた。

「眠らないのですか?」
「眠れないのよ」

 兵士の前では微塵の迷いも見せなかったミーアだったが、迫る恐怖を振り払おうと必死だった。もし負けたらとほんの少しでも想像すると、恐怖の沼に足を引っ張られもう抜け出せない。勝つことだけを考え迷いをなくしたかったのだ。

「恐怖だけに打ち勝とうとしないほうがいいです」
「どういうこと」
「私たちが戦うのは兵士です。一人一人は対しことのない者たち。束になっても戦いようはあります。ですが、自身の心が生み出す恐怖は、どんな兵士や騎士よりも手ごわい。いや、むしろ勝てない存在なのかもしれない。ですが、恐怖するから計略に変え、恐怖するから光ある未来を手にする方法を考え、恐怖するから戦う。恐怖するのは彼らと戦うからではありません。彼らが王国を奪っているからです。その恐怖は王国を奪還することでようやく解放されるのですよ」

 精神とは不思議なもので恐怖が増幅すると人は動けなくなる。体はどこも悪くないのに精神が体を止めるのだ。しかし、恐怖とは常に原因がある。その根本原因をどうにかしない限り恐怖は消えない。
 若くして幾度も他国の援護として戦ってきたレイにも恐怖に押しつぶされそうになったことがある。そんな時こそ行動だけが恐怖と戦う唯一の武器だと知ったのだ。

「す、すみません。勝手なこと言ってしまいましたね。いまのは忘れてください」
「そんなことないわ。レイの言いたいことはとてもよくわかった。完全に迷いが消えたわけじゃないけど、この迷いこそが、人の命に対し考えるってことね。答えを出すには時期尚早だったわ」

 そして、王国奪還作戦が開始する。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

処理中です...