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風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜
ー深闇と白龍ー
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穏やかな昼下がり、珍しく風嘉の後宮に美しい琵琶の音色が響いていた。
音の出所は後宮内の泰瀏皇子の自室で、彼の専属侍女を務める燠妃が、泰と鴻夏のために琵琶を奏でながら、美しい声で風嘉の叙事詩を歌い上げていた。
“東の砂漠を治めるのは『蒼狼の大将軍』と名高き伯 須嬰
天下無双の仁義厚き武人
西の海を治めるのは『白鯨の艦長』と呼ばれる邰 樓爛
海上貿易を取り仕切る海の大商人
北の山岳地帯を治めるのは『銀鷲の策士』と恐れられる崋 黎鵞
風嘉一の知恵者にして 銀嶺の如く麗しきその姿は 見る者の心を虜にする
そんな彼等の上に立つのは 南の草原を支配する若き皇弟 緫 璉瀏
闇夜に浮かぶその白き姿に 敵は慄き 味方の士気は鼓舞される
その闘う姿は まさに天に昇る龍の如く その場に居並ぶ者達を 否が応にも平伏させる
讃えよう 我等が主君を
崇めよう 我等が誇る『風嘉の白龍』を”
美しく切ない余韻を残し、燠妃が一曲歌い上げると、それに聴き入っていた泰と鴻夏が惜しみない拍手を贈る。
それにニッコリ微笑むと、燠妃は実に優雅に一礼をした。
それに対し、鴻夏が興奮気味にこう尋ねる。
「すごいわ、燠妃。貴女は素晴らしい歌い手なのね。あと私、今の叙事詩は初めて聞いたわ。風嘉では有名なの?」
「お褒め頂き光栄ですわ、鴻夏様。私が今、披露させていただいたのは、風嘉国内では好んで歌われている演目で、『風嘉の白龍』と呼ばれております。作者は不明ですが、陛下が即位される以前から、密かに国民の間で広く歌われておりました」
柔らかな色味の金髪に薄い青の瞳の燠妃は、見た目通りの穏やかな口調で、鴻夏の質問にそう答える。
そして少し迷いつつも、彼女は続けてこう付け加えた。
「私はこの叙事詩が大好きなのですが、実はこの詩は先帝の時代に禁歌として、歌う事を禁じられていた事がありますの。おそらくそれもあって、他国にまでは広まらなかったのだと思いますわ」
「え、なんで?こんなに綺麗な歌なのに…」
キョトンとして鴻夏が尋ねると、それを受けて泰が冷静にこう答える。
「…璉が『白龍』と謳われているからじゃないかな?この叙事詩は、璉の皇弟時代に作られた歌なんでしょう?『龍』とは本来皇帝を指す言葉なのに、皇弟である璉に対して使われている…。父上やその部下達にとっては、とても面白くない歌だったんだろうね」
そう言って、泰が年に似合わない大人びた見解を述べる。
それを受けて、鴻夏と燠妃が困ったように黙り込むと、泰は床を見つめたまま、ひどく冷たい声でポツリとこう呟いた。
「…ねぇ、鴻夏。やっぱり僕もおかしいのかな?纜瀏帝は確かに僕の父上だけれど、僕はあの人のやる事こと為す事、そのすべてが許せないんだ。特にあの人が璉と母上にした事は、一生かかっても絶対に許せない…。多分まだ生きていたとしたら、いつか僕自身が父上を討っていたと思うよ」
「…泰!ダメよ、そんな事を言ったら…!」
そう言って、思わず鴻夏が泰を抱き締める。
纜瀏帝が璉や泰、そして他の皆に一体何をしてきたのかはわからない。
わからないが、例えどんな男であろうとも、泰にとっては実の父親。
この優しい少年に、実の父を殺したいなどと思わせてはならないと、鴻夏は本能的にそう思った。
だから務めて諭すように、鴻夏はこう話す。
「…泰。私は纜瀏帝と貴方達の間に、一体何があったのかは知らないわ。知らないけれど、例えどんな人であろうと、彼が貴方の父親である以上、私は貴方が纜瀏帝を討とうとしたなら全力で止めたと思うわ。でも勘違いしないでね?それは貴方の為よ、泰。例えどんな男であろうと、可愛い貴方に父親殺しの大罪は犯させないわ。…きっと私と同じ事を璉も言うはずよ」
きっぱりとそう告げると、腕の中の泰の身体がビクリと動く。
そっと腕を緩めて少年の顔を覗き込むと、泰は泣きそうな顔で鴻夏を見つめた。
「…璉も本当にそう言うかな…?僕は璉に酷い事をしてきた男の息子なのに…」
「何を言ってるの!貴方は璉の大事な甥よ?あの人がどれだけ貴方を大切に思っているか、私も含めて皆が知ってるわ」
そう言って、鴻夏は再度泰を抱き締める。
少しずつ知らされる纜瀏帝と周囲の人達の歪な関係性に心を痛めながら、鴻夏は思った以上にその闇が深い事を感じていた。
そしてその最も深いと思われる部分に、自分の夫である璉が居るであろうという事も…。
『…いつか話してくれるわよね、璉?』
心の中でそう呟きながら、鴻夏は知りたいと思う欲求を自ら抑える。
璉にとって纜瀏帝は、命を賭して仕えた神のような存在。
だがその纜瀏帝の為人が、かなり歪んだものであった事は、皆から漏れ聞く内容だけでも容易に想像がつく。
それだけに長年、彼がどれほど理不尽で酷い扱いを受けてきたのかと思うと、生まれてから一度もそういう扱いを受けた事がない鴻夏には、いくら考えても想像し切れない…。
だがそれでも璉は、為るべくして皇帝になった真の為政者であり、『白龍』の呼び名に相応しい卓越した存在であった。
そして鴻夏はボンヤリと考える。
もし…璉がもっと凡庸な男であったなら、もう少し幸せな人生が送れたのだろうか?と。
だが鴻夏はすぐに自らそれを否定する。
…もしもなんて仮定は無意味だ。
どんなに願っても過去は変えられないし、それがどれだけ辛い出来事であったとしても、それ無くして現在の自分は有り得ないのだ。
何かがほんの少しでも違っていたら、自分と璉は一生会う事もなかったかもしれない。
そう思うと皆と出逢えたこの奇跡を、むしろ喜ぶべきなのだろうと鴻夏は思った。
そうこうしているうちに、泰がいつもの落ち着きを取り戻してくる。
それを肌で感じた鴻夏は、そっと泰から身体を離すと、彼を安心させるかのように微笑み、その考えを頭の片隅へと追いやった。
とりあえず今は、そんな事を悠長に考えている場合ではない。
不確かな自分の回想より、まだ不安定な泰を落ち着かせる事の方が重要だった。
そして鴻夏は、泰に集中しつつもこう思う。
とりあえず今日の収穫は、燠妃が素晴らしい歌い手であり琵琶の名手であったという事。
あと璉と璉の側近達の事を謳った叙事詩が存在していたという事。
そして自分の夫である璉には、実はもう一つの二つ名が存在していたという事実だった。
こうして昨日よりまた少し、皆の事を知れたのは、きっと良い事なのだろうと思う。
…毎日少しずつでいい。
璉と周りの人々の事を知り、理解し合えていけば、いつかは本当の意味で分かり合える。
そう鴻夏は思った。
そんな矢先、鴻夏は本日最後の授業で、偶然にも先ほどの叙事詩にも登場していた風嘉の地理や歴史について、詳しく習う事になった。
鴻夏が嫁いだ西の大国 風嘉は、武芸に秀でた近代的な軍事国家であるが、そもそも風嘉が軍事国家となっていった経緯は、その厳しい立地条件からに他ならない。
元々国の東は砂漠地帯で、穀物はあまり実らず、またその最果てには花胤との国境があるため、その花胤に向かう商隊を狙って、盗賊達の横行が絶えなかった。
一方 西は唯一 他国と接しておらず、海上貿易が盛んな土地であったが、その分 治安もとても悪く、商人らは海賊らに対抗すべく自らも武装化し、殺伐とした雰囲気となっていた。
また北は険しい山岳地帯で、鳥漣への天然の防衛線ではあったものの、冬は氷雪に閉ざされ人も物も一切の行き来を阻む、冷たく厳しい土地でもあった。
そして南は大きな草原となっていたが、騎馬民族の国である月鷲と国境を接しているため、長きに渡って小競り合いが絶えない戦場となっていた。
そのため南の土地は非常に痩せ、人々はいつ月鷲に襲われるとも知れない恐怖に怯え、南方領の軍は常に戦に明け暮れる日々だった。
そこにある時、一人の男がやって来た。
それが現皇帝であり、当時は末の皇弟であった緫 璉瀏だった。
彼は即位五年目である異母兄の纜瀏帝の命により、僅か十四歳にして、南方領の長官として派遣されてきた。
まだ少年に過ぎない彼が、国一番の激戦区に派遣された事により、当時は皇城内でも派遣先の南方領でも、纜瀏帝が彼を合理的に始末するべくそうしたのだと誰もが思っていた。
しかしそれが大きな間違いであった事は、その後すぐに勃発した月鷲との一戦で、明らかとなった。
それまで草原の覇者である月鷲に対し、風嘉側はどうしても対抗し切れず、ジワジワと国境線は後退の一途を辿っていた。
ところが璉は、いつものように侵攻してきた月鷲軍を一戦して打ち破ると、その後も連戦連勝を重ね、あっという間に本来の国境線まで月鷲軍を追いやったのだ。
そしてついに根を上げた月鷲側から和睦の申し込みをさせると、璉はそれを受ける見返りとして、草原を横断するかのように頑強で長い石壁を建築し、誰の目にも明らかな国境線を引いて見せたのだ。
これによって月鷲側は容易に風嘉側に攻め込めなくなり、ようやく風嘉の南方領は長い長い戦の日々から解放されたのだ。
この前人未到の偉業により、璉は一気にその名を各国に轟かせ、纜瀏帝の懐刀として風嘉国内でもその地位を確立していく事になる。
いまや彼をただの少年と見る者はおらず、その後も彼は北に東にと風嘉内で起こる全ての紛争に駆り出され続け、いつの間にか『戦場の鬼神』との渾名の下、各国から怖れられる存在へとなっていった。
そしてこの頃になると、纜瀏帝もその支配を完全なものとし、在位八年を迎える頃には、風嘉もまさに繁栄の極みを迎える事になる。
ちょうどその頃、纜瀏帝は思いがけず一人の美姫との運命的な出会いを果たす。
当時そのあまりの美しさから、『金晶姫』と呼ばれ、父である鳥漣帝の寵愛を一身に浴びていた紫翠姫に纜瀏帝は心奪われたのだ。
そして親子ほどの年齢差があったにも関わらず、纜瀏帝はその武力に物を言わせ、半ば強引に紫翠姫を自らの皇后として迎え入れた。
時に纜瀏帝 三十八歳、紫翠妃 十六歳、そして皇弟璉瀏 十七歳の春だった。
そして紫翠妃と璉は、皮肉な事にこの結婚を機に運命的な出逢いを果たす。
まるで向かい合う鏡のように、纜瀏帝を中心に存在する二人は、その年齢が近かった事もあり、徐々にその仲を深めていった。
だがちょうどその頃から、賢帝と名高かった纜瀏帝の精神に綻びが生じ始める。
彼はありもしない妻の紫翠妃の浮気を疑い、彼女に少しでも関わった男の召使いや騎士、官僚などを次々と投獄・処刑していった。
そして彼女自身については鎖で繋ぎ、どこへも行けないよう後宮の一室へと閉じ込め、自分以外の者と関わるのを固く禁じたのだ。
そのあまりの非道ぶりに、纜瀏帝を諌めようとした璉はその怒りを買い、自らの側近すべてを取り上げられ、お互いが連絡を取り合えないよう地方へとバラバラに散らされた。
そして彼自身には『接待』との名目で、各国の要人との閨の相手が命じられ、その地位と矜恃は完全に貶められたのだ。
そんな段階になっても璉は不満一つ漏らさず、ひたすら纜瀏帝の命に従い続けた。
そんな最中に紫翠妃が妊娠し、彼女は一人の男の子を出産する。
それが後の泰瀏皇子であり、纜瀏帝のただ一人の後継者となった。
そして気がつけば、心ある官僚達はすべて地方へと追いやられ、中央には纜瀏帝のご機嫌伺いをするしか能のない、無能な官僚しか残っていなかった。
かつて繁栄の極みにあったはずの風嘉国は、この頃から急激に傾いていく事となる。
それと同時に国内では次々と内紛が起こり、その度に纜瀏帝は璉を戦場へと派遣した。
そしてあろう事か、戦の最中でさえも纜瀏帝は気まぐれに何度も璉を皇城へと呼び戻し、自身や各国要人の相手をさせ続けた。
誰もがそんな纜瀏帝に怒りを感じていたが、一番の被害者であるはずの璉が、纜瀏帝に逆らう事なくそのまま従い続けたため、表面上は何の変化もなく纜瀏帝の治世が続いた。
しかしそれから四年経ったある日、突然 璉が忽然とその姿を消したのだ。
誰もがついに璉が決起するものと思ったが、彼は霞が如くその姿を隠し、それから三年もの間、政治の舞台から一切姿を消した。
彼がその間、一体どこで何をしていたのかは未だに謎とされている。
そして璉に去られた纜瀏帝の方は、ついに政務を放棄し、完全に後宮へと閉じ籠った。
彼はいつか自分を殺しに来るであろう璉を恐れ、ひたすら酒と女に溺れ続けた。
その間も纜瀏帝は側室との間に何人もの子供を設けたが、何故か男女問わず、生まれてすぐにすべての子供は惨殺された。
その理由は不明だが、生き残ったのは皇后である紫翠妃の生んだ泰瀏皇子ただ一人で、彼は他の子供には一切見向きもしなかった。
一説では寵愛している紫翠妃の子供に、確実に皇位を継がせたかったから、他の子供を始末したのではないかとも言われているが、それが本当に真実であったのかはわからない。
ただ事実として、側室との間に生まれた他の子供はすべて纜瀏帝自身が始末したのは間違いなかった。
そしてこの頃になると、もはや彼の事を真面だと思う家臣は一人も居らず、纜瀏帝は狂帝として人々から恐れられ遠ざけられていく。
ただこの段階になっても、なお纜瀏帝の紫翠妃への執着は変わらず、彼女は人生のその最後の瞬間まで鎖に繋がれたまま、後宮の一室に閉じ込められてその短い生涯を閉じた。
彼女が結局 誰を愛し、自分を閉じ込め続ける纜瀏帝をどう思っていたのかはわからない。
ただその魔的なまでの美しさは生涯変わる事なく、纜瀏帝もその最後の瞬間まで、決して彼女を手放さなかった。
そして二人の唯一の息子である泰瀏皇子は、あの未曾有の大乱の最中、いつの間にか後宮から連れ出され、叔父である璉の手によってその身を保護されていた。
彼の処刑を望む声がなかったわけではないが、璉は頑としてそれを許さず、彼を自らの後継者に指名し、その地位を確立させた。
そしてそれから三年。
風嘉は璉とその側近達によって急激な復興を果たし、かつての繁栄を取り戻す事となる。
今はもう悲しい過去として、纜瀏帝と紫翠妃の事は人々から忘れ去られつつあるが、彼等の遺児である泰にとっては、その事実は今もなお忘れられない棘のように彼自身を苛み、苦しめ続けている。
あまりにも深すぎる風嘉の闇の部分に触れ、鴻夏は一人身震いをした。
実際どこの皇家にも、多少の闇は存在する。
だが風嘉の纜瀏帝については、その歪みや闇があまりにも深く、常軌を逸しているとしか言えなかった。
そしてふいに鴻夏の脳裏に、先日 黎鵞に言われたある言葉が蘇る。
『…鴻夏様、どうか璉を救ってやって下さい。纜瀏帝と真逆の位置に居る貴女にしか、璉は救えません。私達では無理なのです…』
あの時、確かに黎鵞はそう言った。
自分は纜瀏帝とは真逆の人間だと。
そして真逆であるからこそ、璉も無意識に自分に惹かれ始めていると…。
正直、黎鵞が自分の何を見てそう思ったのかはわからない。
そして世間知らずの自分が、一体どうやって璉を救うのかもわからなかった。
しかも自分は纜瀏帝に会った事もなければ、夫である璉の事も彼の周りの人達の事も、実はあまりよく知らない。
ただ何も知らないからこそ、璉は自分が側に居る事を許容してくれたのかもしれないと、鴻夏は漠然とそう思った。
その夜、いつものように鴻夏の部屋を訪れた璉は、鴻夏に会うなり抱きつかれていた。
突然の事に驚く璉に、鴻夏は告げる。
今日の授業で、先帝の時代の風嘉の事を習ったと。
その言葉を聞いて、璉は優しく抱き返しながら、すべてを悟ったかのようにこう答える。
「…そうですか。貴女にとっても泰にとっても、楽しい授業ではありませんでしたね。でもその時代があったからこそ今があるので、避けては通れないところではありますが…」
ポンポンと宥めるように鴻夏の背を叩くと、璉は優しすぎるほど優しい声でそう言った。
多分一番辛い思いをしたのは璉であろうに、こんな時も自分の夫はひどく優しい。
その事実が逆に哀しくて、鴻夏は余計に泣けてきた。
それを感じ、璉が困ったようにこう呟く。
「…泣かないでください、鴻夏。貴女に泣かれると私はどうしていいのかわかりません」
「だ…って、だって璉が泣かないから…っ!貴方が泣かない分、私が泣いてるのっ!」
支離滅裂な言葉だったが、何となく相手に気持ちは伝わったようだった。
そして璉は少し困ったように微笑むと、自分に縋る鴻夏の頭を優しく撫でる。
薄暗い部屋の中で、璉の体温を全身で感じながら、鴻夏はボンヤリと白く輝くように浮かび上がる璉の姿に、昼間 燠妃が歌っていた叙事詩の一節を思い出していた。
“闇夜に浮かぶその白き姿に 敵は慄き 味方の士気は鼓舞される”
確かに以前 璉と夜の散歩した時も思ったが、暗い闇の中で璉の白い肌と色素の薄い亜麻色の髪は、白く輝くように浮かび上がる。
彼が髪を長く伸ばしているという事もあるが、決して闇に溶け込まないその姿を見ていると、まるで彼自身が輝いているかのように見えて、その姿はとても神秘的で美しい。
そしてその幻想的な光景に、鴻夏は無意識のうちに璉の長い髪に手を伸ばしていた。
「…鴻夏?」
いきなり髪を掴まれて、璉が不思議そうに鴻夏の名を呼ぶと、鴻夏はハッと我に返った。
そしてしっかりと璉の長い髪を握りしめている事に気づいた鴻夏は、自分でも驚くほど分かり易く焦りまくる。
「ご、ごめんなさいっ⁉︎私ったら勝手に…」
慌てて璉の髪から手を離すと、自然とその手を璉に取られ、そのまま軽く口付けられる。
暖かく柔らかい璉の口唇が、流れるようにすうっと手の甲から手首、そして上腕部へと移るのを感じながら、鴻夏は戸惑うように璉の方へと視線を向けた。
するとその視線を感じたのか、チラリと璉が横目で鴻夏の方に視線を投げる。
その妙に色気のある眼差しに、鴻夏は思わずドキリとした。
そんな鴻夏の耳に、優しい璉の声が響く。
「…鴻夏は私の髪が好きなんですか?」
ふいに璉にそう聞かれ、鴻夏は戸惑いつつも素直に答える。
「え…ええ…。私と違って色素が薄くて、こういう暗い場所だと白く輝くように見えて、とっても綺麗…」
「ありがとうございます。でも…私は貴女の黒髪の方が好きですよ」
そう言うと璉は鴻夏の手をそっと離し、代わりに美しい黒髪に手を伸ばすと、そのひと房に指を絡めそのまま自然に口付ける。
別に髪自身に神経が通っているわけでもないのに、璉に口付けられた瞬間、鴻夏は驚きとあまりの恥ずかしさに息が詰まった。
『ちょ…ちょっと?何かおかしな展開に…。しかもこの人また妙に色気出してきてない?』
そう思って璉を見ていた鴻夏は、ふいに視線を向けた璉と目が合いドキリとする。
璉の綺麗な翠の瞳が、艶っぽく自分を見つめていて、鴻夏は恥ずかしくて目を逸らした。
そして今更ながらに、何で迂闊にも自分から璉に抱きついてしまったのかと後悔する。
完全に璉から離れる機会を逸してしまった事に、改めて動揺していると、くすりと笑う気配がして璉の口唇が鴻夏の頰に降りてきた。
「え、あの…?」
驚いて璉を見返すと、それを待っていたかのように、自然と璉に口唇を奪われる。
慌てて離れようと、相手の胸を押すために両腕を添えたがその腕ごと強く抱き込まれ、するりと璉の舌が鴻夏の口腔内に侵入した。
途端に抗いがたい快感が身体を支配し、あっさりと鴻夏は抵抗の意志を挫かれる。
意識が白く混濁していくのを感じながら、ガクリと身体の力が抜けると、その段階になってようやく璉の口唇が離れた。
「…すみません、鴻夏。貴女の反応があまりにも可愛くて、つい許可も受けずに手を出してしまいました…。このまま続けても…?」
何を言われてるかも理解出来ず、ボンヤリとしているとふわりと身体が浮く感覚がして、そして再び口唇が奪われる。
与えられる快感に酔いしれていた鴻夏は、自分がどこに運ばれているのかも気付かず、そのままうっとりとしていたが、ふいにドサリと何かの上に転がされた感触に、唐突に意識が覚醒した。
ふと目を開けると、見覚えのある天蓋が目に入り、自分が寝台に転がされた事を知る。
途端にサーッと理性が戻ってきて、鴻夏は思わず叫んでいた。
「待って、待って、待って⁉︎何でこんな事になってんのっ⁉︎」
「え、何でって…私ちゃんと聞きましたよ?このまま続けていいですかって」
「え、言ってた⁉︎ていうか、私も『いいよ』って言った⁉︎」
「うーん…そう言われると、確かに『いいよ』とまでは言われてないですねぇ…」
「ですよねっ⁉︎止めましょう、今すぐ止めましょう」
焦りながらそう言うと、鴻夏の上に乗っている璉が少し考え込む。
「あ、わかりました。『いいよ』って言わせればいいんですね」
「ち、違~うっ!そうじゃなくて、とにかく無理っ!これ以上は無理っ!」
身体の前で大きくバツを作ると、鴻夏は真っ赤な顔でそう叫ぶ。
それを見た璉はくすくすと笑うと、あっさりと鴻夏の上から退いてくれた。
「…残念ですねぇ。途中までは鴻夏も乗り気だったのに…」
「なっ⁉︎ち、違…っ!」
「あれ、そうです?結構気持ち良さそうにしてましたし、嫌がってはなかったですよ?」
「そ、それは…確かにそうなんだけど…っ」
そう答えつつ、鴻夏は答えを言い淀む。
確かに意識が混濁するほど気持ち良くて、ボーツとしてしまったのは認める。
あと璉に触られるのは嫌いではないし、いつかは…とは思ってる。
だがこの夫はとにかく手慣れ過ぎていて、こっちが覚悟を決める前に、あれよあれよと言う間に事を運ばれてしまう。
正直こういう事はちゃんと自分の意思で、手順を踏んでしたいと思う。
そう思っているのに、この夫はまたまた不穏な事を言い始める。
「…もうちょっと完全に理性が戻らない程度まで、意識飛ばしてからにすれば良かったですねぇ…。次回からはそうします」
「あ、いやそうじゃなくて…っ!」
何となく本気で実行しそうな嫌な予感に囚われながら、どう説得しようかと考えていると、突然 璉が思い当たったようにこう呟く。
「あ、そう言えば…私 一番肝心な事を確認し忘れてました」
「…肝心な事…?」
「そうなんですよ。考えてみれば私も鴻夏も男性なので、どっちが上か下かを決めとかないといけないんでした」
一瞬何を言われたのかがわからず、鴻夏はポカンとする。
「上…?下…?それって一体何の話…?」
「ああ、つまりどっちが女役をやるかって事です。鴻夏が可愛いらしいので、つい確認もせず勝手に抱く気になってましたけど、考えてみれば鴻夏も男性なので、抱く側にもなれるんですよね。どっちにします?私はどっちも出来るので、別に鴻夏が抱く側がいいって言うならそれでもいいですけど…」
あっけらかんととんでもない事を言い出した夫に、鴻夏は思わず絶句する。
殊に色事に関する感覚が、常識からかなりズレているとは思っていたけれど、正直ここまで明け透けに聞かれると、もはや何と返していいのかもわからない。
呆然として固まっていると、それをどう勘違いしたのか、さらに璉がとんでもない事を言い始める。
「あ、試してみないとわからないとか、どっちも試したいとかって事なら、両方やってみるってのでもいいですよ?」
「…ど、どっちもしませんっ!」
真っ赤になって否定しながら、それでもきっとこの夫ならいつか勝手に実行するんだろうなと鴻夏は密かにそう思ったのだった。
音の出所は後宮内の泰瀏皇子の自室で、彼の専属侍女を務める燠妃が、泰と鴻夏のために琵琶を奏でながら、美しい声で風嘉の叙事詩を歌い上げていた。
“東の砂漠を治めるのは『蒼狼の大将軍』と名高き伯 須嬰
天下無双の仁義厚き武人
西の海を治めるのは『白鯨の艦長』と呼ばれる邰 樓爛
海上貿易を取り仕切る海の大商人
北の山岳地帯を治めるのは『銀鷲の策士』と恐れられる崋 黎鵞
風嘉一の知恵者にして 銀嶺の如く麗しきその姿は 見る者の心を虜にする
そんな彼等の上に立つのは 南の草原を支配する若き皇弟 緫 璉瀏
闇夜に浮かぶその白き姿に 敵は慄き 味方の士気は鼓舞される
その闘う姿は まさに天に昇る龍の如く その場に居並ぶ者達を 否が応にも平伏させる
讃えよう 我等が主君を
崇めよう 我等が誇る『風嘉の白龍』を”
美しく切ない余韻を残し、燠妃が一曲歌い上げると、それに聴き入っていた泰と鴻夏が惜しみない拍手を贈る。
それにニッコリ微笑むと、燠妃は実に優雅に一礼をした。
それに対し、鴻夏が興奮気味にこう尋ねる。
「すごいわ、燠妃。貴女は素晴らしい歌い手なのね。あと私、今の叙事詩は初めて聞いたわ。風嘉では有名なの?」
「お褒め頂き光栄ですわ、鴻夏様。私が今、披露させていただいたのは、風嘉国内では好んで歌われている演目で、『風嘉の白龍』と呼ばれております。作者は不明ですが、陛下が即位される以前から、密かに国民の間で広く歌われておりました」
柔らかな色味の金髪に薄い青の瞳の燠妃は、見た目通りの穏やかな口調で、鴻夏の質問にそう答える。
そして少し迷いつつも、彼女は続けてこう付け加えた。
「私はこの叙事詩が大好きなのですが、実はこの詩は先帝の時代に禁歌として、歌う事を禁じられていた事がありますの。おそらくそれもあって、他国にまでは広まらなかったのだと思いますわ」
「え、なんで?こんなに綺麗な歌なのに…」
キョトンとして鴻夏が尋ねると、それを受けて泰が冷静にこう答える。
「…璉が『白龍』と謳われているからじゃないかな?この叙事詩は、璉の皇弟時代に作られた歌なんでしょう?『龍』とは本来皇帝を指す言葉なのに、皇弟である璉に対して使われている…。父上やその部下達にとっては、とても面白くない歌だったんだろうね」
そう言って、泰が年に似合わない大人びた見解を述べる。
それを受けて、鴻夏と燠妃が困ったように黙り込むと、泰は床を見つめたまま、ひどく冷たい声でポツリとこう呟いた。
「…ねぇ、鴻夏。やっぱり僕もおかしいのかな?纜瀏帝は確かに僕の父上だけれど、僕はあの人のやる事こと為す事、そのすべてが許せないんだ。特にあの人が璉と母上にした事は、一生かかっても絶対に許せない…。多分まだ生きていたとしたら、いつか僕自身が父上を討っていたと思うよ」
「…泰!ダメよ、そんな事を言ったら…!」
そう言って、思わず鴻夏が泰を抱き締める。
纜瀏帝が璉や泰、そして他の皆に一体何をしてきたのかはわからない。
わからないが、例えどんな男であろうとも、泰にとっては実の父親。
この優しい少年に、実の父を殺したいなどと思わせてはならないと、鴻夏は本能的にそう思った。
だから務めて諭すように、鴻夏はこう話す。
「…泰。私は纜瀏帝と貴方達の間に、一体何があったのかは知らないわ。知らないけれど、例えどんな人であろうと、彼が貴方の父親である以上、私は貴方が纜瀏帝を討とうとしたなら全力で止めたと思うわ。でも勘違いしないでね?それは貴方の為よ、泰。例えどんな男であろうと、可愛い貴方に父親殺しの大罪は犯させないわ。…きっと私と同じ事を璉も言うはずよ」
きっぱりとそう告げると、腕の中の泰の身体がビクリと動く。
そっと腕を緩めて少年の顔を覗き込むと、泰は泣きそうな顔で鴻夏を見つめた。
「…璉も本当にそう言うかな…?僕は璉に酷い事をしてきた男の息子なのに…」
「何を言ってるの!貴方は璉の大事な甥よ?あの人がどれだけ貴方を大切に思っているか、私も含めて皆が知ってるわ」
そう言って、鴻夏は再度泰を抱き締める。
少しずつ知らされる纜瀏帝と周囲の人達の歪な関係性に心を痛めながら、鴻夏は思った以上にその闇が深い事を感じていた。
そしてその最も深いと思われる部分に、自分の夫である璉が居るであろうという事も…。
『…いつか話してくれるわよね、璉?』
心の中でそう呟きながら、鴻夏は知りたいと思う欲求を自ら抑える。
璉にとって纜瀏帝は、命を賭して仕えた神のような存在。
だがその纜瀏帝の為人が、かなり歪んだものであった事は、皆から漏れ聞く内容だけでも容易に想像がつく。
それだけに長年、彼がどれほど理不尽で酷い扱いを受けてきたのかと思うと、生まれてから一度もそういう扱いを受けた事がない鴻夏には、いくら考えても想像し切れない…。
だがそれでも璉は、為るべくして皇帝になった真の為政者であり、『白龍』の呼び名に相応しい卓越した存在であった。
そして鴻夏はボンヤリと考える。
もし…璉がもっと凡庸な男であったなら、もう少し幸せな人生が送れたのだろうか?と。
だが鴻夏はすぐに自らそれを否定する。
…もしもなんて仮定は無意味だ。
どんなに願っても過去は変えられないし、それがどれだけ辛い出来事であったとしても、それ無くして現在の自分は有り得ないのだ。
何かがほんの少しでも違っていたら、自分と璉は一生会う事もなかったかもしれない。
そう思うと皆と出逢えたこの奇跡を、むしろ喜ぶべきなのだろうと鴻夏は思った。
そうこうしているうちに、泰がいつもの落ち着きを取り戻してくる。
それを肌で感じた鴻夏は、そっと泰から身体を離すと、彼を安心させるかのように微笑み、その考えを頭の片隅へと追いやった。
とりあえず今は、そんな事を悠長に考えている場合ではない。
不確かな自分の回想より、まだ不安定な泰を落ち着かせる事の方が重要だった。
そして鴻夏は、泰に集中しつつもこう思う。
とりあえず今日の収穫は、燠妃が素晴らしい歌い手であり琵琶の名手であったという事。
あと璉と璉の側近達の事を謳った叙事詩が存在していたという事。
そして自分の夫である璉には、実はもう一つの二つ名が存在していたという事実だった。
こうして昨日よりまた少し、皆の事を知れたのは、きっと良い事なのだろうと思う。
…毎日少しずつでいい。
璉と周りの人々の事を知り、理解し合えていけば、いつかは本当の意味で分かり合える。
そう鴻夏は思った。
そんな矢先、鴻夏は本日最後の授業で、偶然にも先ほどの叙事詩にも登場していた風嘉の地理や歴史について、詳しく習う事になった。
鴻夏が嫁いだ西の大国 風嘉は、武芸に秀でた近代的な軍事国家であるが、そもそも風嘉が軍事国家となっていった経緯は、その厳しい立地条件からに他ならない。
元々国の東は砂漠地帯で、穀物はあまり実らず、またその最果てには花胤との国境があるため、その花胤に向かう商隊を狙って、盗賊達の横行が絶えなかった。
一方 西は唯一 他国と接しておらず、海上貿易が盛んな土地であったが、その分 治安もとても悪く、商人らは海賊らに対抗すべく自らも武装化し、殺伐とした雰囲気となっていた。
また北は険しい山岳地帯で、鳥漣への天然の防衛線ではあったものの、冬は氷雪に閉ざされ人も物も一切の行き来を阻む、冷たく厳しい土地でもあった。
そして南は大きな草原となっていたが、騎馬民族の国である月鷲と国境を接しているため、長きに渡って小競り合いが絶えない戦場となっていた。
そのため南の土地は非常に痩せ、人々はいつ月鷲に襲われるとも知れない恐怖に怯え、南方領の軍は常に戦に明け暮れる日々だった。
そこにある時、一人の男がやって来た。
それが現皇帝であり、当時は末の皇弟であった緫 璉瀏だった。
彼は即位五年目である異母兄の纜瀏帝の命により、僅か十四歳にして、南方領の長官として派遣されてきた。
まだ少年に過ぎない彼が、国一番の激戦区に派遣された事により、当時は皇城内でも派遣先の南方領でも、纜瀏帝が彼を合理的に始末するべくそうしたのだと誰もが思っていた。
しかしそれが大きな間違いであった事は、その後すぐに勃発した月鷲との一戦で、明らかとなった。
それまで草原の覇者である月鷲に対し、風嘉側はどうしても対抗し切れず、ジワジワと国境線は後退の一途を辿っていた。
ところが璉は、いつものように侵攻してきた月鷲軍を一戦して打ち破ると、その後も連戦連勝を重ね、あっという間に本来の国境線まで月鷲軍を追いやったのだ。
そしてついに根を上げた月鷲側から和睦の申し込みをさせると、璉はそれを受ける見返りとして、草原を横断するかのように頑強で長い石壁を建築し、誰の目にも明らかな国境線を引いて見せたのだ。
これによって月鷲側は容易に風嘉側に攻め込めなくなり、ようやく風嘉の南方領は長い長い戦の日々から解放されたのだ。
この前人未到の偉業により、璉は一気にその名を各国に轟かせ、纜瀏帝の懐刀として風嘉国内でもその地位を確立していく事になる。
いまや彼をただの少年と見る者はおらず、その後も彼は北に東にと風嘉内で起こる全ての紛争に駆り出され続け、いつの間にか『戦場の鬼神』との渾名の下、各国から怖れられる存在へとなっていった。
そしてこの頃になると、纜瀏帝もその支配を完全なものとし、在位八年を迎える頃には、風嘉もまさに繁栄の極みを迎える事になる。
ちょうどその頃、纜瀏帝は思いがけず一人の美姫との運命的な出会いを果たす。
当時そのあまりの美しさから、『金晶姫』と呼ばれ、父である鳥漣帝の寵愛を一身に浴びていた紫翠姫に纜瀏帝は心奪われたのだ。
そして親子ほどの年齢差があったにも関わらず、纜瀏帝はその武力に物を言わせ、半ば強引に紫翠姫を自らの皇后として迎え入れた。
時に纜瀏帝 三十八歳、紫翠妃 十六歳、そして皇弟璉瀏 十七歳の春だった。
そして紫翠妃と璉は、皮肉な事にこの結婚を機に運命的な出逢いを果たす。
まるで向かい合う鏡のように、纜瀏帝を中心に存在する二人は、その年齢が近かった事もあり、徐々にその仲を深めていった。
だがちょうどその頃から、賢帝と名高かった纜瀏帝の精神に綻びが生じ始める。
彼はありもしない妻の紫翠妃の浮気を疑い、彼女に少しでも関わった男の召使いや騎士、官僚などを次々と投獄・処刑していった。
そして彼女自身については鎖で繋ぎ、どこへも行けないよう後宮の一室へと閉じ込め、自分以外の者と関わるのを固く禁じたのだ。
そのあまりの非道ぶりに、纜瀏帝を諌めようとした璉はその怒りを買い、自らの側近すべてを取り上げられ、お互いが連絡を取り合えないよう地方へとバラバラに散らされた。
そして彼自身には『接待』との名目で、各国の要人との閨の相手が命じられ、その地位と矜恃は完全に貶められたのだ。
そんな段階になっても璉は不満一つ漏らさず、ひたすら纜瀏帝の命に従い続けた。
そんな最中に紫翠妃が妊娠し、彼女は一人の男の子を出産する。
それが後の泰瀏皇子であり、纜瀏帝のただ一人の後継者となった。
そして気がつけば、心ある官僚達はすべて地方へと追いやられ、中央には纜瀏帝のご機嫌伺いをするしか能のない、無能な官僚しか残っていなかった。
かつて繁栄の極みにあったはずの風嘉国は、この頃から急激に傾いていく事となる。
それと同時に国内では次々と内紛が起こり、その度に纜瀏帝は璉を戦場へと派遣した。
そしてあろう事か、戦の最中でさえも纜瀏帝は気まぐれに何度も璉を皇城へと呼び戻し、自身や各国要人の相手をさせ続けた。
誰もがそんな纜瀏帝に怒りを感じていたが、一番の被害者であるはずの璉が、纜瀏帝に逆らう事なくそのまま従い続けたため、表面上は何の変化もなく纜瀏帝の治世が続いた。
しかしそれから四年経ったある日、突然 璉が忽然とその姿を消したのだ。
誰もがついに璉が決起するものと思ったが、彼は霞が如くその姿を隠し、それから三年もの間、政治の舞台から一切姿を消した。
彼がその間、一体どこで何をしていたのかは未だに謎とされている。
そして璉に去られた纜瀏帝の方は、ついに政務を放棄し、完全に後宮へと閉じ籠った。
彼はいつか自分を殺しに来るであろう璉を恐れ、ひたすら酒と女に溺れ続けた。
その間も纜瀏帝は側室との間に何人もの子供を設けたが、何故か男女問わず、生まれてすぐにすべての子供は惨殺された。
その理由は不明だが、生き残ったのは皇后である紫翠妃の生んだ泰瀏皇子ただ一人で、彼は他の子供には一切見向きもしなかった。
一説では寵愛している紫翠妃の子供に、確実に皇位を継がせたかったから、他の子供を始末したのではないかとも言われているが、それが本当に真実であったのかはわからない。
ただ事実として、側室との間に生まれた他の子供はすべて纜瀏帝自身が始末したのは間違いなかった。
そしてこの頃になると、もはや彼の事を真面だと思う家臣は一人も居らず、纜瀏帝は狂帝として人々から恐れられ遠ざけられていく。
ただこの段階になっても、なお纜瀏帝の紫翠妃への執着は変わらず、彼女は人生のその最後の瞬間まで鎖に繋がれたまま、後宮の一室に閉じ込められてその短い生涯を閉じた。
彼女が結局 誰を愛し、自分を閉じ込め続ける纜瀏帝をどう思っていたのかはわからない。
ただその魔的なまでの美しさは生涯変わる事なく、纜瀏帝もその最後の瞬間まで、決して彼女を手放さなかった。
そして二人の唯一の息子である泰瀏皇子は、あの未曾有の大乱の最中、いつの間にか後宮から連れ出され、叔父である璉の手によってその身を保護されていた。
彼の処刑を望む声がなかったわけではないが、璉は頑としてそれを許さず、彼を自らの後継者に指名し、その地位を確立させた。
そしてそれから三年。
風嘉は璉とその側近達によって急激な復興を果たし、かつての繁栄を取り戻す事となる。
今はもう悲しい過去として、纜瀏帝と紫翠妃の事は人々から忘れ去られつつあるが、彼等の遺児である泰にとっては、その事実は今もなお忘れられない棘のように彼自身を苛み、苦しめ続けている。
あまりにも深すぎる風嘉の闇の部分に触れ、鴻夏は一人身震いをした。
実際どこの皇家にも、多少の闇は存在する。
だが風嘉の纜瀏帝については、その歪みや闇があまりにも深く、常軌を逸しているとしか言えなかった。
そしてふいに鴻夏の脳裏に、先日 黎鵞に言われたある言葉が蘇る。
『…鴻夏様、どうか璉を救ってやって下さい。纜瀏帝と真逆の位置に居る貴女にしか、璉は救えません。私達では無理なのです…』
あの時、確かに黎鵞はそう言った。
自分は纜瀏帝とは真逆の人間だと。
そして真逆であるからこそ、璉も無意識に自分に惹かれ始めていると…。
正直、黎鵞が自分の何を見てそう思ったのかはわからない。
そして世間知らずの自分が、一体どうやって璉を救うのかもわからなかった。
しかも自分は纜瀏帝に会った事もなければ、夫である璉の事も彼の周りの人達の事も、実はあまりよく知らない。
ただ何も知らないからこそ、璉は自分が側に居る事を許容してくれたのかもしれないと、鴻夏は漠然とそう思った。
その夜、いつものように鴻夏の部屋を訪れた璉は、鴻夏に会うなり抱きつかれていた。
突然の事に驚く璉に、鴻夏は告げる。
今日の授業で、先帝の時代の風嘉の事を習ったと。
その言葉を聞いて、璉は優しく抱き返しながら、すべてを悟ったかのようにこう答える。
「…そうですか。貴女にとっても泰にとっても、楽しい授業ではありませんでしたね。でもその時代があったからこそ今があるので、避けては通れないところではありますが…」
ポンポンと宥めるように鴻夏の背を叩くと、璉は優しすぎるほど優しい声でそう言った。
多分一番辛い思いをしたのは璉であろうに、こんな時も自分の夫はひどく優しい。
その事実が逆に哀しくて、鴻夏は余計に泣けてきた。
それを感じ、璉が困ったようにこう呟く。
「…泣かないでください、鴻夏。貴女に泣かれると私はどうしていいのかわかりません」
「だ…って、だって璉が泣かないから…っ!貴方が泣かない分、私が泣いてるのっ!」
支離滅裂な言葉だったが、何となく相手に気持ちは伝わったようだった。
そして璉は少し困ったように微笑むと、自分に縋る鴻夏の頭を優しく撫でる。
薄暗い部屋の中で、璉の体温を全身で感じながら、鴻夏はボンヤリと白く輝くように浮かび上がる璉の姿に、昼間 燠妃が歌っていた叙事詩の一節を思い出していた。
“闇夜に浮かぶその白き姿に 敵は慄き 味方の士気は鼓舞される”
確かに以前 璉と夜の散歩した時も思ったが、暗い闇の中で璉の白い肌と色素の薄い亜麻色の髪は、白く輝くように浮かび上がる。
彼が髪を長く伸ばしているという事もあるが、決して闇に溶け込まないその姿を見ていると、まるで彼自身が輝いているかのように見えて、その姿はとても神秘的で美しい。
そしてその幻想的な光景に、鴻夏は無意識のうちに璉の長い髪に手を伸ばしていた。
「…鴻夏?」
いきなり髪を掴まれて、璉が不思議そうに鴻夏の名を呼ぶと、鴻夏はハッと我に返った。
そしてしっかりと璉の長い髪を握りしめている事に気づいた鴻夏は、自分でも驚くほど分かり易く焦りまくる。
「ご、ごめんなさいっ⁉︎私ったら勝手に…」
慌てて璉の髪から手を離すと、自然とその手を璉に取られ、そのまま軽く口付けられる。
暖かく柔らかい璉の口唇が、流れるようにすうっと手の甲から手首、そして上腕部へと移るのを感じながら、鴻夏は戸惑うように璉の方へと視線を向けた。
するとその視線を感じたのか、チラリと璉が横目で鴻夏の方に視線を投げる。
その妙に色気のある眼差しに、鴻夏は思わずドキリとした。
そんな鴻夏の耳に、優しい璉の声が響く。
「…鴻夏は私の髪が好きなんですか?」
ふいに璉にそう聞かれ、鴻夏は戸惑いつつも素直に答える。
「え…ええ…。私と違って色素が薄くて、こういう暗い場所だと白く輝くように見えて、とっても綺麗…」
「ありがとうございます。でも…私は貴女の黒髪の方が好きですよ」
そう言うと璉は鴻夏の手をそっと離し、代わりに美しい黒髪に手を伸ばすと、そのひと房に指を絡めそのまま自然に口付ける。
別に髪自身に神経が通っているわけでもないのに、璉に口付けられた瞬間、鴻夏は驚きとあまりの恥ずかしさに息が詰まった。
『ちょ…ちょっと?何かおかしな展開に…。しかもこの人また妙に色気出してきてない?』
そう思って璉を見ていた鴻夏は、ふいに視線を向けた璉と目が合いドキリとする。
璉の綺麗な翠の瞳が、艶っぽく自分を見つめていて、鴻夏は恥ずかしくて目を逸らした。
そして今更ながらに、何で迂闊にも自分から璉に抱きついてしまったのかと後悔する。
完全に璉から離れる機会を逸してしまった事に、改めて動揺していると、くすりと笑う気配がして璉の口唇が鴻夏の頰に降りてきた。
「え、あの…?」
驚いて璉を見返すと、それを待っていたかのように、自然と璉に口唇を奪われる。
慌てて離れようと、相手の胸を押すために両腕を添えたがその腕ごと強く抱き込まれ、するりと璉の舌が鴻夏の口腔内に侵入した。
途端に抗いがたい快感が身体を支配し、あっさりと鴻夏は抵抗の意志を挫かれる。
意識が白く混濁していくのを感じながら、ガクリと身体の力が抜けると、その段階になってようやく璉の口唇が離れた。
「…すみません、鴻夏。貴女の反応があまりにも可愛くて、つい許可も受けずに手を出してしまいました…。このまま続けても…?」
何を言われてるかも理解出来ず、ボンヤリとしているとふわりと身体が浮く感覚がして、そして再び口唇が奪われる。
与えられる快感に酔いしれていた鴻夏は、自分がどこに運ばれているのかも気付かず、そのままうっとりとしていたが、ふいにドサリと何かの上に転がされた感触に、唐突に意識が覚醒した。
ふと目を開けると、見覚えのある天蓋が目に入り、自分が寝台に転がされた事を知る。
途端にサーッと理性が戻ってきて、鴻夏は思わず叫んでいた。
「待って、待って、待って⁉︎何でこんな事になってんのっ⁉︎」
「え、何でって…私ちゃんと聞きましたよ?このまま続けていいですかって」
「え、言ってた⁉︎ていうか、私も『いいよ』って言った⁉︎」
「うーん…そう言われると、確かに『いいよ』とまでは言われてないですねぇ…」
「ですよねっ⁉︎止めましょう、今すぐ止めましょう」
焦りながらそう言うと、鴻夏の上に乗っている璉が少し考え込む。
「あ、わかりました。『いいよ』って言わせればいいんですね」
「ち、違~うっ!そうじゃなくて、とにかく無理っ!これ以上は無理っ!」
身体の前で大きくバツを作ると、鴻夏は真っ赤な顔でそう叫ぶ。
それを見た璉はくすくすと笑うと、あっさりと鴻夏の上から退いてくれた。
「…残念ですねぇ。途中までは鴻夏も乗り気だったのに…」
「なっ⁉︎ち、違…っ!」
「あれ、そうです?結構気持ち良さそうにしてましたし、嫌がってはなかったですよ?」
「そ、それは…確かにそうなんだけど…っ」
そう答えつつ、鴻夏は答えを言い淀む。
確かに意識が混濁するほど気持ち良くて、ボーツとしてしまったのは認める。
あと璉に触られるのは嫌いではないし、いつかは…とは思ってる。
だがこの夫はとにかく手慣れ過ぎていて、こっちが覚悟を決める前に、あれよあれよと言う間に事を運ばれてしまう。
正直こういう事はちゃんと自分の意思で、手順を踏んでしたいと思う。
そう思っているのに、この夫はまたまた不穏な事を言い始める。
「…もうちょっと完全に理性が戻らない程度まで、意識飛ばしてからにすれば良かったですねぇ…。次回からはそうします」
「あ、いやそうじゃなくて…っ!」
何となく本気で実行しそうな嫌な予感に囚われながら、どう説得しようかと考えていると、突然 璉が思い当たったようにこう呟く。
「あ、そう言えば…私 一番肝心な事を確認し忘れてました」
「…肝心な事…?」
「そうなんですよ。考えてみれば私も鴻夏も男性なので、どっちが上か下かを決めとかないといけないんでした」
一瞬何を言われたのかがわからず、鴻夏はポカンとする。
「上…?下…?それって一体何の話…?」
「ああ、つまりどっちが女役をやるかって事です。鴻夏が可愛いらしいので、つい確認もせず勝手に抱く気になってましたけど、考えてみれば鴻夏も男性なので、抱く側にもなれるんですよね。どっちにします?私はどっちも出来るので、別に鴻夏が抱く側がいいって言うならそれでもいいですけど…」
あっけらかんととんでもない事を言い出した夫に、鴻夏は思わず絶句する。
殊に色事に関する感覚が、常識からかなりズレているとは思っていたけれど、正直ここまで明け透けに聞かれると、もはや何と返していいのかもわからない。
呆然として固まっていると、それをどう勘違いしたのか、さらに璉がとんでもない事を言い始める。
「あ、試してみないとわからないとか、どっちも試したいとかって事なら、両方やってみるってのでもいいですよ?」
「…ど、どっちもしませんっ!」
真っ赤になって否定しながら、それでもきっとこの夫ならいつか勝手に実行するんだろうなと鴻夏は密かにそう思ったのだった。
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