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風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜

ー璉瀏帝の側近達ー

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鴻夏コウカ風嘉フウカの後宮に入って一ヶ月。
さすがにこれだけ経つと、後宮に居る者達の顔と名前が結構一致するようになってくる。
もちろん『影』達のように、常に入れ替わりで各国に赴いているような者達の中には、未だに出会った事がない者も居るのだが、常時 後宮内に居るような女官や侍女、騎士達の事は大方おおかたわかるようになってきていた。
それと共に、彼等の子供や親などの家族関係の方も何となく覚えてくる。
だがそういった事はわかっても、この国の官僚 かんりょう達の事となると、正直顔も名前もさっぱりわからない。
鴻夏コウカがわかるのは、レンの側近でほぼ毎日のように後宮で寝泊まりしている、宰相 崋 黎鵞カ レイガや内政官 湟 牽蓮コウ ヒレンぐらいであった。
もちろん他にも将軍 伯 須嬰ハク シュエイや財務長官 邰 樓爛タイ ロウランなども知っているが、彼等は結婚式の後、それぞれが本来居るべき東方領と西方領へと戻ってしまい、中央には残っていなかった。
正直 会ったばかりの樓爛 ロウランはともかく、須嬰 シュエイについては結構お世話になったという自覚があるので、東方領に戻ってしまった事をとても残念に思っていたのだが、その日の夜、夕食の席での話題でふいにレンがこう言ったのだ。

「…やはりそろそろ須嬰 シュエイには、中央に戻ってもらおうかと思うんですよね…」
須嬰 シュエイを中央に…でございますか?」
確認するかのように黎鵞レイガがそう尋ねると、レンは淡々とこう続ける。
「ええ。東方領は花胤カインとの国境の要所 ようしょではありますが、私が鴻夏コウカ めとった事で、しばらくは安泰だと思うんですよ。同じく南方領も月鷲ゲッシュウ鴎悧 オウリ帝が立ってくれたお陰で、今のところ友好関係が築けています。また西方領は元々が海に面した場所ですので、あまり他国の影響がありません。むしろ今 一番きな臭いのが…」
「…北方領。鳥漣チョウレンとの国境でございますね?」
冷静にそう答える黎鵞レイガレンが無言で頷く。
そして穏やかにこう付け加えた。
「ここの所、鳥漣チョウレンからの不法侵入 ふほうしんにゅう頻繁化 ひんぱんかしています。表向きは盗賊などを装っていますが、裏で国が関与している可能性が高い…。 かくたる証拠がないので、敢えてこちらから仕掛ける気はありませんが、このまま放置もしておけないでしょう」
そう言ってレンが言葉を区切ると、続けて黎鵞レイガが考え込みながらこう呟く。
「それに…近々あちらの方から仕掛けてくる、という可能性もあり得ますね…。そうなると確かに色々な事態に備えて、須嬰 シュエイには中央に居てもらった方が良いかもしれません」

無事に黎鵞レイガ賛同 さんどうも得られたところで、今度は別の問題でレンが溜め息をつく。
「…しかしそうなると、問題は誰に東方領を任せるか…なんですよねぇ…」
「確かに…。東方領もあれでなかなか難しい場所ですし、そもそも須嬰 シュエイの代理を派遣したところで、受け入れてもらえるかどうか…」
そう言って黎鵞レイガも深い溜め息をつく。
そして牽蓮ヒレンがトドメとなる一言を呟いた。
「…まぁ、誰が行っても大変ですよねぇ。ついに西方領以外は、すべて無法地帯 むほうちたいですかぁ…」
その意味深 いみしんすぎる牽蓮ヒレンの呟きに、ついに我慢しきれなくなった鴻夏コウカが、手を挙げて質問をする。
「…あのぅ…よくわからないのだけれど?西方領以外が無法地帯 むほうちたいって…?」
そう聞かれたレン黎鵞レイガが、思わず顔を見合わせ困ったように苦笑する。
そしてレンがおもむろに、その口を開いた。
「…実は北方領と南方領は、随分前から長官が不在なんですよ。今まで何度も新しい長官を派遣しましたが、なかなかあちら側に受け入れて貰えず、結局そのまま追い返され続けているんですよね…」
「え、じゃあ今、北方領と南方領ってどうなってるの⁉︎」
そう鴻夏コウカが喰いつくと、レンが苦笑しつつこう答える。
「…まぁ一応北方領の方は、つい最近 タイが長官の座に就く事で、何とか代理の長官を受け入れてもらいました。そうは言ってもタイはまだ幼いので、基本名義上だけの長官になりますが…。ただ南方領の方はまだ折り合いがつかなくて、未だに代理の長官すら居ない状態なんです…」

「え、それって…大丈夫なの?もし南方領で何かあったら、一体誰が判断をするの?」
思わず素朴な疑問を口にした鴻夏コウカだったが、それに対し、牽蓮ヒレンが丁寧に回答をする。
小事 しょうじに関しては、駐屯 ちゅうとんしている南方軍の上層部の方で判断する事になりますね。ただ大事 だいじとなると、やはり中央に知らせてそこから判断を仰ぐ事になると思います」
「中央の…誰に判断してもらうの?」
「長官不在の代理ですから、その上となると私か黎鵞レイガが判断する事になりますね」
あっさりそう答えたレンに対し、鴻夏コウカが思わず目を丸くする。
「えっ⁉︎いきなりそこまで上に飛ぶの⁉︎」
そう喰いついた鴻夏コウカに対し、今度は黎鵞レイガが説明をする。
「飛びますね…。というか、東西南北の長官は、文官の最上位である宰相と武官の最上位である将軍の次に重要な職なんです。何しろそれぞれの領には駐屯兵 ちゅうとんへいが居るので、長官は個人的に動かせる大軍を持つ事になります。また基本領内で起こった事は、すべて長官の采配 さいはいで処理されるので、それなりの政治力も持つ事になります。だから中央に残っている大臣達より、実質的に権威があるんですよ」
淡々と説明され続ける内容に、なるほどとひたすら感心しながら聞いていた鴻夏コウカだったが、その時ふと新たな疑問に気付き、ポツリとこう呟く。
「あれ?じゃあ北方領と南方領の最後の長官って、誰なの…?」
その何気ない呟きに、突然 レン黎鵞レイガが気まずそうな顔をする。
一瞬聞いてはいけない内容だったのかと思ったが、その答えは実に意外なものだった。

「…北方領の最後の長官は、ここに居る黎鵞レイガです。でも彼にはどうしても、宰相になってもらわなければならなかったので、無理を言って中央に戻ってもらいました。でも北方領の者達は、未だに黎鵞レイガの事を崇拝 すうはいしていて、黎鵞レイガ以外の長官は認めないと断固拒否しているんです」
そう言われた途端、なるほど…と鴻夏コウカはあっさりと納得する。
確かに一度こんな人間離れした美形の長官を迎えてしまったら、目が肥えてしまって、到底並の者では満足出来なくなるだろう。
しかも黎鵞レイガは美しいだけでなく、この風嘉フウカ一の知恵者でもある。
おそらく北方領の者達にとっては、これ以上ないほど自慢の長官だったに違いない。
それを横取 よこどりされ、他の者を寄越されたところで納得できないのは当たり前の事だった。
だから長年に渡って北方領は長官不在の状態が続き、最終的には皇太子である泰瀏タイリュウが長官に就かざるを得なかったのであろう。
しかしそうなると、南方領の元長官とは一体どんな人物だったのか…?
レンの側近中の側近である、黎鵞レイガ須嬰 シュエイ樓爛 ロウランと肩を並べても遜色 そんしょくがないほどの人物なんて、まったく想像もつかなかった。
そこで鴻夏コウカは重ねてこう尋ねてみる。

「…それじゃ南方領の最後の長官は?」
そう尋ねた途端に、更にバツが悪そうにレンが思わず黙り込む。
それに対し不思議そうな顔をしていると、代わりに黎鵞レイガが遠回しに教えてくれた。
「南方領の最後の長官は、今 鴻夏コウカ様の目の前にいらっしゃいますよ」
「目の前…?え、もしかしてレンっ⁉︎」
思わず鴻夏コウカがそう叫ぶと、レンが観念したかのように小声でこう答える。
「…まぁそうなります…。でも長く務めたというだけで、特に何も…」
「何をおっしゃっているのやら…。昔から南方領は荒っぽい連中が多い上に、貴方以外の言う事は聞かない事で有名じゃないですか。先帝の時代だって、それが原因で最後は独立国家化してましたしね…」
そう黎鵞レイガに言われ、レンが困ったように黙り込むと、相変わらず空気を読まない牽蓮ヒレンが、余計な事を口にする。
「え、でも北方領だって、似たような状況ですよね?あの手この手で新長官をいびり倒して、最終的に『黎鵞レイガ様より劣る者など認めない』って追い返して…。お陰で再起不能になる官僚 かんりょう続出で、今じゃ誰も就きたがらない職の一つですよ。だから泰瀏タイリュウ様に就いていただいたんじゃないですか」
そう言われ、今度は黎鵞レイガも黙り込む。
チラッと話を聞いただけでも、これはどちらも筋金 すじがね入いりの親衛隊状態だなと鴻夏コウカは思ったが、とりあえず口にしたのは、自分なりにまとめた内容のみであった。
「要するに前任者のレン黎鵞レイガを超こえるような人物が居ないから、北方領と南方領はずっと長官が不在なのね?」
「…まぁそういう事になりますかね…」
かなり気まずそうにレンがそう答えたところで、ふと鴻夏コウカは重大な事に気付く。

「あれ…?でもさっき北方領の今の長官は、タイだって言ったわよね?タイは北方領の人達に認められたの⁉︎」
「まぁ一応は…。タイは先帝の遺児 いじであり、先の皇后の産んだ唯一の嫡子です。そのため身分と血統においては文句の付けようがありません。また彼自身が優秀だというのも風嘉フウカでは有名な話ですので、その将来性を買われてというところもあると思います。でも一番の勝因はあの容姿ですね…」
そう言ってレンが苦笑する。
その意図 いとするところがわからず、キョトンとしていると、レン鴻夏コウカのために補足説明をしてくれた。
「…タイは髪と瞳の色こそ違えど、『鳥漣チョウレン金晶 きんしょう姫』と呼ばれた先の皇后、紫翠シスイ妃の容姿を色濃く受け継いでいます。まだ幼いため気付きにくいかもしれませんが、将来的にはこの黎鵞レイガにも匹敵する容姿になる可能性が高いと思いませんか…?」
「あ…っ、そういう事…!」
そう言われ、ようやく事の子細 しさいが理解出来た鴻夏コウカが、小さく叫ぶ。
確かに黙って座っていると、タイは人形のように美しかった先の皇后そっくりの美少年だ。
美しさの種類は違えど、確かに黎鵞レイガに匹敵するだけの容姿になる可能性を持っている。
けれど鴻夏コウカは、更にもう一つの気になる点について口にした。
「でも…タイはいずれ皇帝になるんでしょう?そうなると、また北方領の長官が不在になっちゃうんじゃ…?」
そう言われ、レンが苦笑しつつもこう答える。
「…そうなんです。だから北方領の問題も、当座 とうざの暫定策が取れたというだけで、根本的な解決はまだなんですよ」
…これはなかなか頭の痛い問題だなと、政治に うと鴻夏コウカでもそう思ったのだった。



そして夕飯の後、お互い風呂を済ませて自室に戻ったレン鴻夏コウカは、再び鴻夏コウカの部屋でゆったりとお茶をしながら、語り合っていた。
実はレンの自室と鴻夏コウカの自室は、扉一枚で繋がっているため、最近はこうして寝る前に二人っきりで過ごす時間が増えている。
最初こそこのままレンに頂かれてしまうのではないかと、無駄に緊張していた鴻夏コウカだったが、訪ねては来るものの特に何もされない日々が続くにつれ、鴻夏コウカの方もだんだんと警戒をしなくなっていった。
それというのも、最近になって気付いたのだが、このレンという男はやたらと経験豊富な割に、実はあまり性欲がない。
もちろん仕事上、相手に望まれれば誰の相手でもするとは聞いているが、いざ仕事を抜きにすると自分の方から何かを仕掛けるという事はないようだった。
だからこうして毎晩二人で居ても、意外な事に鴻夏コウカはまったく何もされていなかった。
手を出されたのはあの月見をした夜だけで、その後は毎晩普通にお茶をして、会話をしたり遊戯 ゲームをしたりしているだけなのである。
正直有り難くはあるのだが、逆に自分があまりにも子供過ぎて、魅力不足なのかもしれないとも思わないでもなかった。
そしてその事をわかっているのかいないのか、相変わらず読めない雰囲気のまま、レン鴻夏コウカにゆったりと語りかける。

「そろそろ年に一度の南方領への視察の時期なんですよね…」
「南方領って、確かレンが最後に長官をしていたっていう…?」
つい先程 聞いたばかりの話を思い出し、鴻夏コウカがそう尋ねるとレンが穏やかに頷く。
「そう…少々難しい土地柄のため、毎年私が直接視察に出向いているのですが、今年は鳥漣チョウレン側に不穏な動きがあるので、実は行くのを迷っているんですよね…。私が留守にする事で、黎鵞レイガだけでは手に余る事態が起こる可能性があるので、出来ればその前に中央に須嬰 シュエイを呼び戻しておきたいんですよ」
淡々とそう語りながら、レンが少し考え込む。
もう寝るだけだからか、いつもは軽く一つにまとめている髪も自然に下ろしたままで、夜着 やぎの上に軽く上着を羽織 はおっただけの姿のレンは、何故か妙に色っぽい。
ここのところ毎晩見ている姿とは言え、こればっかりはどうにも慣れず、何となく目のやり場に困りながら、鴻夏コウカは視線をあらぬ方へと彷徨 さまよわせつつ、密かに溜め息をついた。
するとそれに気付いたレンが、ふいに鴻夏コウカの頰に手を伸ばし、こう尋ねてくる。
「…どうしました、鴻夏コウカ?」
急にお互いの体温を感じられるほど近くにレンが近付き、一瞬で鴻夏コウカの息が止まる。
かろうじて声こそ出さなかったものの、鴻夏コウカは心の中で混乱しながら叫んでいた。

『ちょっとちょっとー⁉︎近い、近いってば!な、何でこんな時に限って、急に触ってくるのよ~⁉︎ただでさえ妙に色っぽくて、こっちは目のやり場に困ってるってのに、こ…こんな近くに寄って来られたら、避けようがないじゃないっ!』
無言で赤くなったり青くなったりしながら、鴻夏コウカが無意識に後退 あとずさると、レン鴻夏コウカの左腕を捉え、強引に自らの方へと引き寄せる。
予想外の出来事に、そのまま思いっきり倒れ込んだ鴻夏コウカの身体を軽々と抱き止めると、レン鴻夏コウカの額にそっと自らの手を重ねた。
「特に熱はなさそうですけど、先程から妙に赤くなったり青くなったりしてますよね…。大丈夫ですか…?」
そう言いながらレン間近 まぢかから覗き込まれ、鴻夏コウカの顔がゆでダコのように真っ赤になる。
吸い込まれそうなくらい綺麗な金彩の入った薄い みどりの瞳に、自らの姿が映っているのを感じながら、鴻夏コウカは思わず思いっきり叫んでいた。
「だ、大丈夫なわけないでしょー⁉︎こ…これだから天然タラシ男は…っ!こっちは男慣れしてないってのに、次から次へと仕掛けて来ないでくれるっ⁉︎心臓がもたないわっ!」

動揺のあまり本音だだ漏れで叫んだ鴻夏コウカに対し、レンがキョトンとした顔をする。
そして少し考えた後、レン鴻夏コウカの顔色を伺いつつ、こう尋ねてきた。
「えっと…私、何かしました?多分まだ手は出してないと思うんですけど…」
心底わかってないレンに対し、プチンと鴻夏コウカの理性の糸が切れる。
そしてその勢いのまま、鴻夏コウカレンの襟元を締め上げつつ声を荒げていた。
「手を出さなきゃいいってもんじゃないでしょー⁉︎さっきから、いちいち心臓に悪い事ばっかり…っ!こ、こっちはその度に心臓破裂しそうなくらい動揺してるんだからね⁉︎その辺わかってるのっ⁉︎」
ほぼ説明になっていない、意味不明の事を叫びつつ、鴻夏コウカが逆ギレ状態で摑みかかる。
するとそれに少し驚きつつも、レンはとりあえず冷静にこう返した。
「…あ、はい。すみません…?」
「違~うっ!そうじゃなく…て…?」
それ以上は喋れなかった。
一瞬自分に何が起こっているのか、鴻夏コウカはまったく理解が出来なかった。
目の前には、これ以上近付けないほどの至近距離でレンの顔があり、彼の下ろしっぱなしの髪がまるで帷帳 とばりのように、鴻夏コウカの周囲を包んでいる。
背中から腰にまで回されたレンの左腕が、しっかりと鴻夏コウカの身体を支え、右手が軽く あごを支えていた。
そこまで理解したところで、ゆっくりとレン鴻夏コウカから離れる。

「…ダメですよ、こんな夜遅くに騒いだら。この後宮には小さい子も居るんですから、もう少し静かにね…?」
何だかすごく常識的な事を言うレンに、鴻夏コウカが自らの口元を押さえつつ声もなく固まる。
『ちょっと…待って?今この人、私に何をした?ものすご~く普通に、軽いノリで口を塞いでくれなかった…?』
そう思った途端、カーッと顔に血が上る。
そして今更ながらに、あの月夜以来の三回目の口付けをされたのだと理解し、鴻夏コウカはひどく動揺した。
しかし相手の方はというと、相変わらず何でもない事のように平然としていて、おそらく鴻夏コウカがようやく静かになったな程度にしか思ってないに違いない。
そう思うと何だか無性に腹が立ってきて、鴻夏コウカは一人真っ赤な顔で憤慨 ふんがいした。
『ちょっと待ってよ、どういう事?もしかしてこの人、単に私がうるさかったからって理由だけで口付けてない⁉︎え、そんなノリでしちゃっていい事なの⁉︎』
チラリと相手を見上げると、目があった途端にレンは軽く微笑んでくれる。
その悪気のない笑顔を見て、鴻夏コウカは一人密かに確信した。
『…間違いないわ、この人。ホントにそれだけの理由で私に口付けてる!そしてこの人にとってあれは挨拶程度のもので、多分深い意味なんてないんだわ…』
どこまでも厄介な夫に、鴻夏コウカは怒り半分、諦め半分で深い深い溜め息をついたのだった。



翌朝、昨夜の怒りをまだ引きずっていた鴻夏コウカは、朝一番に自らの『影』である暁鴉ギョウアの自室を訪ねると、そのまま聞いてくれと言わんばかりに昨夜のあらましを語っていた。
実は暁鴉ギョウアの部屋も鴻夏コウカの自室のすぐ隣にあり、いざという時のために、レンの自室と同じように扉一枚で繋がっている。
さすがに朝一番から何を怒って現れたのかと驚いた暁鴉ギョウアだったが、話を聞くにつれ、すぐに昨夜の状況を正確に理解した。
そして少々困った顔で、こう呟く。
「あー…まぁ大体状況はわかった。そんで鴻夏コウカ様が何に対して怒ってるかのもよくわかったんだけど…相手が あるじなだけに、それは仕方ない事なんじゃないかとあたしは思うよ…」
レンの性格を熟知 じゅくちしているだけに、暁鴉ギョウアは冷たいくらいにあっさりとそう答える。
そしてポツリと聞き逃しそうなほど小さい声で、こう付け加えた。
「うちの あるじはさ…どっちかっていうと、あたしら側の人間だから、そういう当たり前の事にうといのは仕方ないと思うよ」
「…レン暁鴉ギョウア達と同じって…?それってどういう意味?」
その呟きを聞き逃さなかった鴻夏コウカがそう尋ねると、暁鴉ギョウアは困った顔でこう答える。
「そのまんまの意味さ。 あるじがまだ話してない事を、あたしが勝手に言うわけにはいかないからこれ以上は話せないけど…でも あるじに悪気がなかった事だけは、わかってやってくれないかな…?」

どこか かげを帯びたその言葉に、鴻夏コウカは毒気を抜かれたようにこう呟く。
「それは…わかってるわ。だからこそ腹がたつんじゃない…」
その素直な言葉に暁鴉ギョウアは微笑むと、クシャクシャと鴻夏コウカの頭を撫でながらこう答えた。
「…ホントにあんたは良い子だね。どうかその真っ直ぐな心で、 あるじ いやしてやっておくれよ?あの人には…あんたみたいなのが必要なんだ」
そう言った暁鴉ギョウアの様子がひどく哀しげで、言われた鴻夏コウカの方はその意味がよくわからず、けれどそれ以上は何も聞けなかった。
おそらくレンや皆にはまだまだ自分の知らない何かがあって、それが原因で時々哀しい顔を見せるのだろう。
だからこんな自分が彼等にとっていやしだというのならば、自分はこのまま変わらずに居るべきなのだろうと鴻夏コウカは思った。
そしてそんな鴻夏コウカの耳に、気持ちを切り替えたように明るい暁鴉ギョウアの声が響く。
「さぁ、とりあえず鴻夏コウカ様はちゃんと着替えて来なよ。そろそろ朝飯に行かないと、食いっぱぐれちゃうよ?」
「あ、そうね…。ねぇ、暁鴉ギョウア待っててくれる?一緒に朝食に行きましょう」
そう鴻夏コウカが誘うと、暁鴉ギョウアが笑顔で軽く頷く。
それを確認すると、鴻夏コウカも笑顔で慌てて着替えに戻って行った。


手早く着替えを済ませ、暁鴉ギョウアと二人食堂代わりの大広間に入ると、中にはすでにたくさんの人々が集まって居て、まるで朝の市場のように活気に満ち溢れていた。
そして鴻夏コウカが入って来たのに気付くと、途端にあちこちからたくさんの声がかかる。
「おはようございます、鴻夏コウカ様」
「おはようございます、先に頂いてますよ」
笑顔で次々と挨拶され、鴻夏コウカも嬉しそうに笑顔を見せながら皆に挨拶を返す。
その様子を離れた場所から見つめながら、總糜ソウヒが楽しそうに隣に座る男に声を掛けた。
「ほ~っ、結構な人気者じゃん。モテる嫁さん持って心配にならない、 あるじ?」
そう朝から意地悪く話を振られたレンは、特に気にした風もなく、笑顔でこう かわす。
「そうですねぇ。まぁ私は總糜ソウヒほど嫉妬深 しっとぶかくはないので、そこまで気にはなりませんね」
「… あるじ、なんか性格悪いっすよ?」
「おや、そうですか?でも事実ですよね」
ニコッと悪びれもせずレンがそう答えると、突然ピシャリと横から黎鵞レイガ たしなめる。
「…總糜ソウヒ、口の聞き方に気をつけなさい。レンもいちいち相手をしないように。貴方達はもう少し、主従 しゅじゅう関係について考えるべきです」
そう黎鵞レイガが締め くくると、レン總糜ソウヒも慣れた様子でこう答える。
「まぁまぁ別にいいじゃないですか。私は特に気にしてませんし…」
「そうそう、今更っしょ?」
そう ゆるく返すと、ギロッと にらみつけられる。
なまじ人間離れした容姿なだけに、黎鵞レイガ にらまれると妙に迫力があるのだが、そこは慣れた二人の事、平然としながらこう返す。
「あらら…ご立腹 りっぷく…」
「まぁまぁ黎鵞レイガ、そう怒らなくても…」
「…貴方達が怒らせてるんですっ!」
そう黎鵞レイガが強く言い放ったところで、ひょこっと鴻夏コウカが顔を出した。

「おはよう、皆。…なんか朝から珍しく黎鵞レイガが怒ってる…?」
そう鴻夏コウカが声をかけると、焦って黎鵞レイガが席を立ちながら、慌ててびの言葉を述べる。
鴻夏コウカ様…っ!これは失礼を…」
「お、ナイスタイミング~♪」
總糜ソウヒが軽いノリでそう答えると、すかさずベシッと横の黎鵞レイガに殴られた。
それを横目に見ながら、レン さわやかな笑顔で声をかけてくる。
「おはようございます、鴻夏コウカ。気持ちの良い朝ですね。体調はいかがですか?」
「…おはようございます、レン。べ、別に悪くはないわよ?それより私と暁鴉ギョウアも同席させていただいてもいいかしら?」
そう尋ねると、『どうぞ』と彼等は快く了承してくれる。
それを確認し席に着くと、ふと鴻夏コウカは珍しく牽蓮ヒレンがこの場に居ない事に気がついた。
「あら…?珍しく牽蓮ヒレンが居ないのね?」
「ええ、昨日彼に視察の仕事を頼みまして、今朝は早くから城外に出ています。多分夕方までには戻ってくると思うので、夕食の時には会えますよ」
そうレンが答えると、ちょうどそれを見計らったように、次々と鴻夏コウカ暁鴉ギョウアの前に朝食の品が並べられる。
給仕当番の女官に、にこやかにお礼を述べると、鴻夏コウカは丁寧に手を合わせ、その後に幸せそうに食事を始めた。
それを穏やかに見つめながら、ふいにレン黎鵞レイガに話しかける。

「さて今日は牽蓮ヒレンが居ないので、複雑な案件の処理は無理ですね…。何か緊急を要するようなものはありましたか?」
「いえ…牽蓮ヒレン抜きでも、無理に進めなければならない案件はなかったと思います。それも踏まえて、本日の視察の日程を組ませていただきましたので、今日はもっぱら雑事 ざつじの処理が中心ですね」
そう黎鵞レイガが答えたところで、それを聞き留めた鴻夏コウカがポツリとこう呟く。
「…牽蓮ヒレンってそんなに優秀なの?」
その問いに、その場に居た者全員が思わず苦笑し、その後にレンが代表してこう答える。
牽蓮ヒレンはああいう性格なんで、誤解されがちですが、実は数学・物理学の天才学者です。ここに居る黎鵞レイガも、もちろん人並み外れて優秀ですが、それでも牽蓮ヒレンには敵いません。確か花胤カイン風嘉フウカの皇立学院の最年少首席卒業の記録は、牽蓮ヒレンが持っていたと思いますよ」
「え…っ、嘘⁉︎黎鵞レイガより上なのっ⁉︎」
あまりにも意外すぎる答えに、思わず鴻夏コウカが喰いつくと、黎鵞レイガがにこやかに頷きながら、こう説明してくれる。
「はい。例えば新しく橋をけるとします。その場合、まず橋を作る予算をどこから捻出 ねんしゅつするのか、資材・人手をどこからどう調達すると一番効率がいいのか、またその作りたい場所の地形・環境などから、どの程度の規模のどんな機能を持った橋を設計すべきかなど、決めるべき事はたくさんあります」
そこで一旦言葉を区切った黎鵞レイガは、鴻夏コウカを真っ直ぐに見つめると、続けてこう言った。
「そのため実際の工事を始める前に、普通は専門知識を持った大勢の官僚 かんりょうが、何ヶ月もかけて調査・計画を行うものなのですが、これを牽蓮ヒレンは一人で数時間でやってのけます」

突然さらりと、とんでもない事を言ってのけた黎鵞レイガに、鴻夏コウカは凍りつく。
そして更にそれを補足するように、レンがこう付け足した。
「まぁ数時間かかると言っても、その大半は彼の頭の中の内容を正式に文書化するための時間です。答え自体は一瞬で出てますね」
「え…っと、それって普通の人には出来ない…わよね?」
あまりにも信じられない内容に、思わず間抜けな質問を返してしまった鴻夏コウカだったが、それに対しレンが丁寧に回答する。
「出来ませんね…。だから天才なんですよ」
「…性格はどうしようもないヘタレなんですがね…。才能自体は本物です。だから今日みたいに牽蓮ヒレンが居ない日は、業務が とどこおって普段の半分も処理出来ないんですよ」
溜め息混じりに黎鵞レイガもそう答え、鴻夏コウカはこの日初めて、一番普通っぽく感じていた牽蓮ヒレンが、実はとんでもない化け物だった事に気が付いたのだった。


その頃 レン勅命 ちょくめいを受けた牽蓮ヒレンは、西方領との境にあたる川の橋の上で、財務長官 兼 西方領の長官である邰 樓爛タイ ロウラン対峙 たいじしていた。
今回の彼の視察の目的は、この橋が経年劣化 けいねんれっかにより架け替えが必要になったため、川のどの場所にどの程度の規模の橋を架けるかを決めるためであった。
そしてこの橋は、皇都 おうとと西方領とを結ぶ重要な行路 こうろ かなめであるため、当然の事ながら西方領の長官を務める樓爛 ロウランも、自らここまで出張 でばってきたというわけである。
そして今、二人は橋を架け直す場所とその規模について、真っ向から対立していた。
「だ~か~ら~っ!いくら樓爛 ロウラン様の頼みでも、無理なものは無理です。その案は採用出来ませんっ!」
「でも西方領の利益を維持するには、必要な事なんだよね~。こっちも損はしたくないわけだからさぁ、その辺を君のお得意の計算力で何とか出来ないの、牽蓮ヒレン君…?」
相変わらずお金が からむ事になると、 がんとして譲らない樓爛 ロウラン牽蓮ヒレン ごうを煮やす。
ギリギリまで今の橋を使いつつ、新しい橋を架け直すとなると、基本同じ場所に架けるというのは無理がある話なのだが、街道整備の仕直しなど西方領側に余計な経費がかかるからと、樓爛 ロウランは今と同じ場所に今より更に大きい橋を架け直して欲しいと我儘 わがままを言うのだ。
工期や予算、人足 にんそく達の手間などを考えると、面倒な事この上ないのだが、いつまでも平行線では らちがあかない。
仕方なく牽蓮ヒレンは自らの頭の中で、お互いの主張の折衷案 っちゅうあんを計算し直す事にした。
もちろんこれは、数学・物理学の天才である牽蓮ヒレンならではの芸当 げいとうである。

牽蓮ヒレン しばし無言で考え込んでいたが、ふいに橋の上で大きめの白紙を広げると、ペンでサラサラと器用に絵を描き始めた。
それを横から無言で見つめる樓爛 ロウランの前で、牽蓮ヒレンはあっという間に一枚の設計図を描き上げると、それをズイッと樓爛 ロウランに突き付ける。
「…予定より大幅に予算が増えますけど、こういった橋ではいかがです?これなら今ある橋を いかしつつ、同じ場所に更に大きな橋を架け直す事が出来ます」
そう言って牽蓮ヒレンが見せたのは、今ある橋の横にまず一本の新しい橋を架け、それが出来た後に今度は古い橋の場所にもう一本の新しい橋を架け直し、最終的に二本の橋を合体させ、今の場所に倍の大きさの大きな橋を架け直す計画書だった。
それを見て、樓爛 ロウランが目に輝かせてこう叫ぶ。
「そうそう、こういうの!こういう感じのが欲しかったんだよね~。さ~すが牽蓮ヒレン君!これがいいよ、うん!」
それをチラリと眺めつつ、牽蓮ヒレンもしっかりと釘を差す。
「でも樓爛 ロウラン様、この工法だと当然の事ながら工期も倍かかるので、その分 建築費もかなり上がるんですよね…。ご存知の通りうちもかなり財政は厳しいので、余計にかかった分は橋に通行料を設けて回収させて頂きたいんですけど、よろしいですよね…?」
そう言われ、さすがの樓爛 ロウランもそこは仕方なく妥協 だきょうする。
「あー…、まぁ仕方ないね。でもちゃんと橋の建築費を回収し終わったら、通行料も撤廃 てっぱいしてよ?」
「そこはお任せください。大丈夫、利用者の皆さんに負担がかかり過ぎない程度の額にして、十年ほどで回収できるようにしますよ」
ニッコリ笑いながら牽蓮ヒレンがそれを保証すると、渋々 樓爛 ロウランの方も通行料の件を了承し、ようやく二人は合意に達する。

「…ではこれで樓爛 ロウラン様から、正式に建設の許可も頂きましたので、来月にも着工 ちゃっこう出来るよう手配に入らせて頂きます」
「うん、頼むね~。この橋がなくなると西方領の皆が困るし、それに何とな~くだけど北方領がきな臭い気がするんだよねぇ…。まぁ私が気付くくらいなんだから、レンならとっくに気付いてなんか考えてるとは思うけどさ?いざという時のために、こういう事は早めに対処しとかないとね…」
ふいに樓爛 ロウランが、蛇ような目でさらりと抜け目ない事を言ってのける。
さすがはレンの側近と言うべきか、この男も大概 たいがいただ者ではないようだった。
それに対し牽蓮ヒレンが感心したようにこう呟く。
「ホント樓爛 ロウラン様って、そういうとこ妙に鋭いですよね?レンがただの商人にしとくのが惜しいって、わざわざ声かけるわけだ…」
そう言われた樓爛 ロウランが、実に喰えない様子でこう切り返す。
「…これでも元は、西方一の武装商人だったんだからね?商売も戦争も、どっちも情報と読みが肝心 かんじんさ。だって勝機 しょうきを逃したら、相手に喰われるだけだからね」
フフッと不敵に笑うと、樓爛 ロウランは『それじゃあよろしくね』とだけ言い残し、ヒラヒラと後ろ手に手を振りつつ、のんびりと西方領へと戻って行った。
その後ろ姿を見送った後、牽蓮ヒレン きびすを返し、中央の皇都へと帰還を始める。
普段はどちらもそう見えないが、やはりレンの側近を勤めるだけあって、どちらもただ者ではない男達であった。


その夜、無事に樓爛 ロウランとの交渉を済ませた牽蓮ヒレンは、予定通り皇都に戻ってきていた。
そして仕方なく新しく描き直す事になった橋の設計図と、それによって増えた建築費の回収方法についてレン黎鵞レイガに報告すると、レンは特に怒るでもなくこう答える。
「…まぁ樓爛 ロウランの事だから、多分ゴネるだろうなとは思ってました。それで増えた建築費の回収は、本当に橋の通行料だけで何とか出来そうなんですか?」
そうレンが確認すると、牽蓮ヒレンがそれに対しあっさりとこう答える。
「ああ、その点は問題ありません。樓爛 ロウラン様から通行料を取っていいとの確約を貰いましたからね。きっちりしっかり回収させていただく事にします」
ニッコリと妙に人の悪そうな笑みを浮かべる牽蓮ヒレンに、レンが何かを感じ取る。
そして重ねてこう尋ねてみた。
「…何かからくりがある感じですね?」
「ええ、まぁ。樓爛 ロウラン様は多分、橋の通行料は新しい橋が出来てからだと思ってると思いますが、橋の通行料をいつから取るかについては、僕の判断次第ですからね…。今からきっちりと取らせていただく事にします」
牽蓮ヒレンが澄ました顔でそう答えると、レン黎鵞レイガは無言で顔を見合わせ思わず苦笑する。
「…やはり牽蓮ヒレンに行っていただいて正解でしたね。助かりました」
そうレンが告げると、牽蓮ヒレンはいつも通り『どういたしまして』とにこやかに答える。
ついこの雰囲気に だまされてしまいがちだが、やはり牽蓮ヒレンレンの側近。
どうやらあの百戦錬磨 ひゃくせんれんまの商人も、牽蓮ヒレンには一杯喰わされてしまったようだとレン黎鵞レイガは思ったのだった。
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