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結の星痕
五大国会議
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「天帝様が、アウラに接見を……?」
フォーマルハウトの言葉にざわつくシェアト達。
そして踏んでるは、変わらずかしづいた姿勢のまま続ける。
「はい。詳しくは、この親書をご覧ください」
アウラは、彼が両手で差し出している受け取り、焼き印された封を開封して中身を取り出す。
中に入っていた羊皮紙は、アウラの両手に収まる程の長さしかなく、その文面は小難しい言葉が並んではいるが、内容は至って簡単だった。
「……これを御尊父様自身が書かれたとは思えないけど、私に会いたいのは本当みたいだね」
アウラは読み終えた羊皮紙を小筒の中に丁寧に戻し、優しく膝の上に置く。
「はい。出来れば今すぐにとの御言葉も承っております。如何致しましょう?」
軍人としての任務を全うしているとはいえ、いつも以上に堅い言葉を使うフォーマルハウト。
彼のその畏まった態度が、これがいかに凄い事なのかを物語っているようだ。
エルタニン天帝といえば、五大国を治める聖獣達の長、世界の神とも呼ばれる存在で、各国の王達でさえ、滅多に目通りする事はない。
その神自らが会いたいと言っているのは、まさに奇跡ともいえる。
それを拒む理由などアウラには無いし、そもそも断るという選択肢自体、存在しない。
「こんな身なりだけど、御尊父様を待たせるわけにはいかない。すぐに向かうよ」
アウラは立ち上がり、せめてものと衣服に付着した埃や汚れを払う。
「アウラ、頑張ってね。俺達も応援してるから」
ルクバットが気合いの入った声援を投げかけるが、アウラはそれに対してきょとんとする。
「何言ってるんだ?お前たちも一緒に行くんだぞ」
「え?」
「親書にちゃんと書いてあったよ。スレイヤーボレアリスと、そのご一行ってね」
†
皆で城へ向かうと、城門前にフォーマルハウトの兄である親任管、アクベンスが一人立っていた。
彼はこちらに気付くと眉根に皺を寄せて、難しい顔をする。
「参られたか。迅速な対応、感謝する。陛下がお待ちである故、早速案内致します。……ところでボレアリス殿、こちらが用意した節刀はどうされたかな?」
どうやらアクベンスが怪訝な顔をしたのはそれが理由のようだ。
「あれはもう人に預けてある。私が肌身離さず所持している必要は無いのだろう?」
「預けてあるのならば結構。時間が惜しい。ついて参られよ」
いつも以上に淡々とした会話。
彼の性格もあるが、今回は本当に時間が無いこだろう。
アクベンスに続いて城門をくぐり、一行は城の奥へ奥へと通される。
いくつかの角を曲がった後、アクベンスは通路の一番奥にある扉の前で立ち止まる。
「ここから先はそなたたちだけで行ってもらう。陛下の御前である故、くれぐれも無礼の無いように」
そう諸注意を述べながらちらりとフォーマルハウトを見る。
その瞳からは、強い意志が伝わってくる。
もし、万が一の事があれば……。
その強い意志に対して、フォーマルハウトも力強く頷く。
大丈夫。義兄さんの思うような事態なんて、起きませんよ。絶対に。
天帝と接待などと、滅多に無い事故、城内の誰もが神経を尖らせている。
何か不祥事が起これば、その中心にいるフォーマルハウトが主体で動かなければならない。
高鳴る鼓動を感じつつ、フォーマルハウト達は扉の向こうへと歩みを進める。
部屋の中は、正五角形の中辺に位置する辺りに取り付けられたランプの灯りが揺らめいているだけで、だいぶ薄暗い。
そして、入室したと同時に気付いていたが、人の気配を複数感じる。
数は……四人。
「ようやく参ったか。あまりに退屈で、帰ろうかと思ったところよ。妾を待たせるとは、良い度胸だな」
まだ目が慣れぬ内、左手前から高圧的な女性の声が上がる。
それに反応したのは、シェアトだった。
「その声……まさか、天子様ですか?」
「おお、シェアト。会いたかったぞ。そなたと迎えられなんだ新年は本に退屈であった」
「聖上は、此処へ暇を潰しに参ったわけではあるまい?先ずは己の職務を全うされよ」
天子を窘めるように年配男性の嗄れた声が響く。
左後方、これに反応したのはベイド。
「今のは陛下ですか?……なるほど、そういう事ですか」
「北と西の王達。という事は……」
何かを悟ったように呟くベイドと、同じく何かに気付いたグラフィアスが右後方の影を睨み付ける。
「勿論、俺もいるぞ。いささか早い再会だったな」
期待を裏切らず、ポエニーキス皇帝の愉悦が響く。
姿までははっきりとしないが、ここに五大国の王達が集結していた。
そして入口正面、この部屋の配置からいえば頂点とも呼べる場所から、静かなフェディックス語が響く。
「各方、静マラレヨ」
初めて聞く声に、ごくりと生唾を呑む。
これが、天帝様の声……。
老人のように嗄れているような、子供のように甲高いような、もしくは何かを通して話しているような、なんとも形容し難い声。
大して大きな声量だったわけではないが、天帝の一言で辺りはしん、と静まり返る。
「皆、遠方カラノ来訪、誠苦労デアル。今回ハ、本題ニ入ル前ニ一ツ、話ガアル。中央ニイル者達ヲ、知ッテオルナ?」
その質問で、皆の視線が集中する。
「グルミウムのバスターじゃな。国を取り戻す為に巡礼をしておった」
「左様。此度巡礼ハ終了シ、ソノ願イ通リ、国ヲ興ス運ビトナッタ」
「しかし、国の長はどうなさるおつもりか?蒼龍を宿す者は、もう居ないのでは?」
「兄よ。その質問には俺が答えてやろう」
エクレール天皇の質問に応じたのはポエニーキス皇帝。
「蒼龍の血筋は途絶えてはおらん。十年前、この俺自らが葬った風の国の忘れ形見が、そこのバスターよ」
「お前が言っているのは王女生存説の話か?それなら妾も聞いた事がある。……おや、言われてみればその方、以前会った時とまた出で立ちが変わっておるな」
「深緑の瞳に蒼天の髪……。確かにグルミウム王女はそのような容貌だったと聞いている。生きていれば年齢も相応か」
納得するようにアウラをしげしげと観察する王達。
そこに天帝の声が加わる。
「娘ヨ。ソナタノ声デ蒼龍ノ真名ヲ、聞カセテクレ」
「御尊父様……」
アウラは一人前に出、跪いて頭を垂れた。
「私は、東の地、風の王国を収めし蒼龍が末裔、アウラ・ディー・グルミウムにごさいます。……真名は、まだ分かりません。ですが、この魂に宿る蒼龍は、本物にございます」
天帝が言う真名とは、蒼龍が持つ、本来の名前の事だ。
アウラはまだそれを聞き出せていないが、アウラの中に蒼龍が宿っている事実は、仲間の誰もが知っている。
フォーマルハウトは、アウラが本物の王女であると証明する為に、王達に進言する。
「恐れながら申し上げます。彼女が蒼龍を宿しているのは本当です。ここにいる私達全員が証人します」
「そうです!アウラは、小さい頃からグルミウムの聖なる祠で生きてきたんです」
「天子様、どうか彼女を信じて下さい。アウラは、蒼龍の力で何度も私達を助けてくれました」
「陛下。私達の仮説は今ここに証明されました。それを否定するなど、致しませんよね?」
ルクバット、シェアト、ベイドが諸国の王を説得していく。
グラフィアスに至っては、特に交わす言葉は無い。
そこに再び天帝の声が響く。
「我ハ、蒼龍ノ存在ヲ認メル。残ルハ、兄弟達ガ歓迎スルカダ」
「俺は親父殿に従おう。疑う必要も、拒む理由も無い」
いの一番に賛同したのはポエニーキス皇帝。
その後に「拒むも何も」と天子が続く。
「御父様が認めた蒼龍を、妾達が否定する意味が分からぬ」
「左様。神を欺く事など不可能」
そうそれぞれが賛成の言葉を述べると、再び天帝が口を開く。
「皆、相違無イナ?デハ我ガ娘、蒼龍ヨ。ヨクゾ戻ッタ。ソナタノ在ルベキ場所へ座スガ良イ」
「……はい。御尊父様」
アウラが座すべき場所。
右手前、一つだけ空白がある、最後の一角。
東を統べる、蒼龍の席。
アウラは一度頭を下げ、その場所へ静かに向かう。
そしてアウラが席に着いたのを確認した天帝が大きく息を吐いた。
「……ヨウヤク席ガ埋マッタナ。デハコレヨリ、五大国会議ヲ始メル。議題ハ引キ続キ、グルミウムニツイテダ。蒼龍ノ活躍ニヨリ、国ノ再興ハ認メタガ、蒼龍一人デハ限界ガアル。兄弟達ニ支援ヲ頼ミタイガ、如何カ」
天帝の頼みにも似た提案。
それを鼻で笑うポエニーキス皇帝。
「ふ、親父殿は回りくどい。元々の本題はそこであろう?」
「主上。何事も形は大事だ。それに、事の発端はそなただ。それなりの責任は取るべきではないのか?」
エクレール天皇の咎めにも似た発言に、ポエニーキス皇帝は意にも返さず答える。
「無論だ。俺は既に、アウラ王女と契約を交わしている。それに、親父殿からの処罰も言い渡された身だ」
「左様。朱雀ニハグルミウム再興ノ援助ヲ命ジタ。蒼龍ハ拒ムカモシレヌガ」
「いえ。今はどのような力でもお借りしたい。この際、我が儘は言いません。それに、フラーム皇帝と交わした契約というのは本当です。あの言葉に、偽りは無いと思っています」
アウラの助言に、ポエニーキス皇帝は「嬉しいねえ」と笑う。
「ならば友好の証として、我が国からはそこのアンタレスを使者として立てよう」
「な……!俺が?」
いきなり話を振られて驚くグラフィアスだが、ポエニーキス皇帝は平然と話を続ける。
「何か不満か?お前たち、付き合いは長いだろう。今更新しい使者を立てるよりもアウラ王女の苦労は軽減されるし、何より信頼されよう」
「それは……」
「私もその方が助かる。諸国の王達も、もしご助力頂けるなら、使者はそこにいる私の仲間にして頂けると嬉しく思います」
アウラがそう言葉を掛け、各国の王達にも呼びかける。
「……奏任管」
「はい」
天帝に呼ばれ、フォーマルハウトは一層背筋を伸ばす。
「我ハ、ソナタヲ使者ニト考エテオル。異論ハ?」
「ございません。むしろ、私の方から申し出ようと思っておりました」
なぜアウラ以外の者が呼ばれたのか、ようやく理解した。
全ては、この為だったんだ。
「使者についてなら、妾の国は既に志願者が出ておる。水の王国からの使者は、そこにおる娘、シェアトじゃ」
「ありがとうございます、天子様」
天子の少し気だるげな声に、シェアトが嬉々として感謝する。
残る国は、あと一つ。
「ここで余が一人反対するわけにいかんな。アクィラェ、そちはどう考える?」
エクレール天皇の質問に、ベイドはいつもと変わらぬ様子で答える。
「私は構いませんよ。むしろ、ここで手を引けば研究に支障が出ます」
「うむ。では、雷の帝国は、アクィラェを使者とする」
全王からの許可と、仲間達の承諾。
これで土台は整った。
「デハ、コレヨリ先ハ、使者ヲ通ジテ執リ行ウ物トスル。此度ノ会議ハコレマデ。……蒼龍ヨ。ソナタトハ、モウシバラク話ガシタイ」
「はい。御尊父様」
皆が広間を出て行く中、天帝に呼ばれたアウラはくるりと向きを変える。
「それじゃ、僕達は外で待っていますね」
フォーマルハウトはそうアウラに伝え、静かに扉を閉めた。
フォーマルハウトの言葉にざわつくシェアト達。
そして踏んでるは、変わらずかしづいた姿勢のまま続ける。
「はい。詳しくは、この親書をご覧ください」
アウラは、彼が両手で差し出している受け取り、焼き印された封を開封して中身を取り出す。
中に入っていた羊皮紙は、アウラの両手に収まる程の長さしかなく、その文面は小難しい言葉が並んではいるが、内容は至って簡単だった。
「……これを御尊父様自身が書かれたとは思えないけど、私に会いたいのは本当みたいだね」
アウラは読み終えた羊皮紙を小筒の中に丁寧に戻し、優しく膝の上に置く。
「はい。出来れば今すぐにとの御言葉も承っております。如何致しましょう?」
軍人としての任務を全うしているとはいえ、いつも以上に堅い言葉を使うフォーマルハウト。
彼のその畏まった態度が、これがいかに凄い事なのかを物語っているようだ。
エルタニン天帝といえば、五大国を治める聖獣達の長、世界の神とも呼ばれる存在で、各国の王達でさえ、滅多に目通りする事はない。
その神自らが会いたいと言っているのは、まさに奇跡ともいえる。
それを拒む理由などアウラには無いし、そもそも断るという選択肢自体、存在しない。
「こんな身なりだけど、御尊父様を待たせるわけにはいかない。すぐに向かうよ」
アウラは立ち上がり、せめてものと衣服に付着した埃や汚れを払う。
「アウラ、頑張ってね。俺達も応援してるから」
ルクバットが気合いの入った声援を投げかけるが、アウラはそれに対してきょとんとする。
「何言ってるんだ?お前たちも一緒に行くんだぞ」
「え?」
「親書にちゃんと書いてあったよ。スレイヤーボレアリスと、そのご一行ってね」
†
皆で城へ向かうと、城門前にフォーマルハウトの兄である親任管、アクベンスが一人立っていた。
彼はこちらに気付くと眉根に皺を寄せて、難しい顔をする。
「参られたか。迅速な対応、感謝する。陛下がお待ちである故、早速案内致します。……ところでボレアリス殿、こちらが用意した節刀はどうされたかな?」
どうやらアクベンスが怪訝な顔をしたのはそれが理由のようだ。
「あれはもう人に預けてある。私が肌身離さず所持している必要は無いのだろう?」
「預けてあるのならば結構。時間が惜しい。ついて参られよ」
いつも以上に淡々とした会話。
彼の性格もあるが、今回は本当に時間が無いこだろう。
アクベンスに続いて城門をくぐり、一行は城の奥へ奥へと通される。
いくつかの角を曲がった後、アクベンスは通路の一番奥にある扉の前で立ち止まる。
「ここから先はそなたたちだけで行ってもらう。陛下の御前である故、くれぐれも無礼の無いように」
そう諸注意を述べながらちらりとフォーマルハウトを見る。
その瞳からは、強い意志が伝わってくる。
もし、万が一の事があれば……。
その強い意志に対して、フォーマルハウトも力強く頷く。
大丈夫。義兄さんの思うような事態なんて、起きませんよ。絶対に。
天帝と接待などと、滅多に無い事故、城内の誰もが神経を尖らせている。
何か不祥事が起これば、その中心にいるフォーマルハウトが主体で動かなければならない。
高鳴る鼓動を感じつつ、フォーマルハウト達は扉の向こうへと歩みを進める。
部屋の中は、正五角形の中辺に位置する辺りに取り付けられたランプの灯りが揺らめいているだけで、だいぶ薄暗い。
そして、入室したと同時に気付いていたが、人の気配を複数感じる。
数は……四人。
「ようやく参ったか。あまりに退屈で、帰ろうかと思ったところよ。妾を待たせるとは、良い度胸だな」
まだ目が慣れぬ内、左手前から高圧的な女性の声が上がる。
それに反応したのは、シェアトだった。
「その声……まさか、天子様ですか?」
「おお、シェアト。会いたかったぞ。そなたと迎えられなんだ新年は本に退屈であった」
「聖上は、此処へ暇を潰しに参ったわけではあるまい?先ずは己の職務を全うされよ」
天子を窘めるように年配男性の嗄れた声が響く。
左後方、これに反応したのはベイド。
「今のは陛下ですか?……なるほど、そういう事ですか」
「北と西の王達。という事は……」
何かを悟ったように呟くベイドと、同じく何かに気付いたグラフィアスが右後方の影を睨み付ける。
「勿論、俺もいるぞ。いささか早い再会だったな」
期待を裏切らず、ポエニーキス皇帝の愉悦が響く。
姿までははっきりとしないが、ここに五大国の王達が集結していた。
そして入口正面、この部屋の配置からいえば頂点とも呼べる場所から、静かなフェディックス語が響く。
「各方、静マラレヨ」
初めて聞く声に、ごくりと生唾を呑む。
これが、天帝様の声……。
老人のように嗄れているような、子供のように甲高いような、もしくは何かを通して話しているような、なんとも形容し難い声。
大して大きな声量だったわけではないが、天帝の一言で辺りはしん、と静まり返る。
「皆、遠方カラノ来訪、誠苦労デアル。今回ハ、本題ニ入ル前ニ一ツ、話ガアル。中央ニイル者達ヲ、知ッテオルナ?」
その質問で、皆の視線が集中する。
「グルミウムのバスターじゃな。国を取り戻す為に巡礼をしておった」
「左様。此度巡礼ハ終了シ、ソノ願イ通リ、国ヲ興ス運ビトナッタ」
「しかし、国の長はどうなさるおつもりか?蒼龍を宿す者は、もう居ないのでは?」
「兄よ。その質問には俺が答えてやろう」
エクレール天皇の質問に応じたのはポエニーキス皇帝。
「蒼龍の血筋は途絶えてはおらん。十年前、この俺自らが葬った風の国の忘れ形見が、そこのバスターよ」
「お前が言っているのは王女生存説の話か?それなら妾も聞いた事がある。……おや、言われてみればその方、以前会った時とまた出で立ちが変わっておるな」
「深緑の瞳に蒼天の髪……。確かにグルミウム王女はそのような容貌だったと聞いている。生きていれば年齢も相応か」
納得するようにアウラをしげしげと観察する王達。
そこに天帝の声が加わる。
「娘ヨ。ソナタノ声デ蒼龍ノ真名ヲ、聞カセテクレ」
「御尊父様……」
アウラは一人前に出、跪いて頭を垂れた。
「私は、東の地、風の王国を収めし蒼龍が末裔、アウラ・ディー・グルミウムにごさいます。……真名は、まだ分かりません。ですが、この魂に宿る蒼龍は、本物にございます」
天帝が言う真名とは、蒼龍が持つ、本来の名前の事だ。
アウラはまだそれを聞き出せていないが、アウラの中に蒼龍が宿っている事実は、仲間の誰もが知っている。
フォーマルハウトは、アウラが本物の王女であると証明する為に、王達に進言する。
「恐れながら申し上げます。彼女が蒼龍を宿しているのは本当です。ここにいる私達全員が証人します」
「そうです!アウラは、小さい頃からグルミウムの聖なる祠で生きてきたんです」
「天子様、どうか彼女を信じて下さい。アウラは、蒼龍の力で何度も私達を助けてくれました」
「陛下。私達の仮説は今ここに証明されました。それを否定するなど、致しませんよね?」
ルクバット、シェアト、ベイドが諸国の王を説得していく。
グラフィアスに至っては、特に交わす言葉は無い。
そこに再び天帝の声が響く。
「我ハ、蒼龍ノ存在ヲ認メル。残ルハ、兄弟達ガ歓迎スルカダ」
「俺は親父殿に従おう。疑う必要も、拒む理由も無い」
いの一番に賛同したのはポエニーキス皇帝。
その後に「拒むも何も」と天子が続く。
「御父様が認めた蒼龍を、妾達が否定する意味が分からぬ」
「左様。神を欺く事など不可能」
そうそれぞれが賛成の言葉を述べると、再び天帝が口を開く。
「皆、相違無イナ?デハ我ガ娘、蒼龍ヨ。ヨクゾ戻ッタ。ソナタノ在ルベキ場所へ座スガ良イ」
「……はい。御尊父様」
アウラが座すべき場所。
右手前、一つだけ空白がある、最後の一角。
東を統べる、蒼龍の席。
アウラは一度頭を下げ、その場所へ静かに向かう。
そしてアウラが席に着いたのを確認した天帝が大きく息を吐いた。
「……ヨウヤク席ガ埋マッタナ。デハコレヨリ、五大国会議ヲ始メル。議題ハ引キ続キ、グルミウムニツイテダ。蒼龍ノ活躍ニヨリ、国ノ再興ハ認メタガ、蒼龍一人デハ限界ガアル。兄弟達ニ支援ヲ頼ミタイガ、如何カ」
天帝の頼みにも似た提案。
それを鼻で笑うポエニーキス皇帝。
「ふ、親父殿は回りくどい。元々の本題はそこであろう?」
「主上。何事も形は大事だ。それに、事の発端はそなただ。それなりの責任は取るべきではないのか?」
エクレール天皇の咎めにも似た発言に、ポエニーキス皇帝は意にも返さず答える。
「無論だ。俺は既に、アウラ王女と契約を交わしている。それに、親父殿からの処罰も言い渡された身だ」
「左様。朱雀ニハグルミウム再興ノ援助ヲ命ジタ。蒼龍ハ拒ムカモシレヌガ」
「いえ。今はどのような力でもお借りしたい。この際、我が儘は言いません。それに、フラーム皇帝と交わした契約というのは本当です。あの言葉に、偽りは無いと思っています」
アウラの助言に、ポエニーキス皇帝は「嬉しいねえ」と笑う。
「ならば友好の証として、我が国からはそこのアンタレスを使者として立てよう」
「な……!俺が?」
いきなり話を振られて驚くグラフィアスだが、ポエニーキス皇帝は平然と話を続ける。
「何か不満か?お前たち、付き合いは長いだろう。今更新しい使者を立てるよりもアウラ王女の苦労は軽減されるし、何より信頼されよう」
「それは……」
「私もその方が助かる。諸国の王達も、もしご助力頂けるなら、使者はそこにいる私の仲間にして頂けると嬉しく思います」
アウラがそう言葉を掛け、各国の王達にも呼びかける。
「……奏任管」
「はい」
天帝に呼ばれ、フォーマルハウトは一層背筋を伸ばす。
「我ハ、ソナタヲ使者ニト考エテオル。異論ハ?」
「ございません。むしろ、私の方から申し出ようと思っておりました」
なぜアウラ以外の者が呼ばれたのか、ようやく理解した。
全ては、この為だったんだ。
「使者についてなら、妾の国は既に志願者が出ておる。水の王国からの使者は、そこにおる娘、シェアトじゃ」
「ありがとうございます、天子様」
天子の少し気だるげな声に、シェアトが嬉々として感謝する。
残る国は、あと一つ。
「ここで余が一人反対するわけにいかんな。アクィラェ、そちはどう考える?」
エクレール天皇の質問に、ベイドはいつもと変わらぬ様子で答える。
「私は構いませんよ。むしろ、ここで手を引けば研究に支障が出ます」
「うむ。では、雷の帝国は、アクィラェを使者とする」
全王からの許可と、仲間達の承諾。
これで土台は整った。
「デハ、コレヨリ先ハ、使者ヲ通ジテ執リ行ウ物トスル。此度ノ会議ハコレマデ。……蒼龍ヨ。ソナタトハ、モウシバラク話ガシタイ」
「はい。御尊父様」
皆が広間を出て行く中、天帝に呼ばれたアウラはくるりと向きを変える。
「それじゃ、僕達は外で待っていますね」
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