流星痕

サヤ

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結の星痕

親子喧嘩

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 それは、ずっと前から待ち受けていたかのようにそこに佇んでいた。
 爬虫類の巨体にコウモリ型の羽根、四肢の先に伸びる鋭い鉤爪、長く太い尻尾をゆらゆらと揺らす蒼き邪竜。
 五大聖獣の一角を担い、東の国を治めていた偉大な国王の成れの果て。
「……皆、油断せずに行こう」
 アウラが囁き、右腕の義手を薄刃の刀、ハルピュイアへと変化させる。
「うん!」
 全員が気合いの入った返事をし、それぞれの武器を構えた。
「我らの身を守れ、東風こち
 アウラが呪文を唱えると、身体の周りに防御風が現れ、それぞれの身を覆う。
「相手の風はこれで多少は防げるけど、出来るだけ避けて戦うんだ」
 そう注意点を説明した直後、
「ガァッ!!」
 邪竜が咆哮と共に、長い尻尾が地面を抉りながら一閃する。
 全員上手く避け、反撃に転じる。
 先陣を切ったのはアウラ。
 邪竜の鞭のような鋭い尻尾の連激をかいくぐり、相手の懐へ飛び込む。
清風明月閃せいふうみょうげっせん!」
 ハルピュイアを下から上へ、三日月を描くようにして邪竜を切り裂いた、ように見えたが、邪竜はその巨体を風へと変質させて逃げた。
「あれじゃ攻撃が当たらないぞ」
「場所が広すぎます。相手の行動範囲を狭めましょう。プリズンVボルト
 グラフィアスの舌打ちに反応しベイドが、上空に向かって銃弾を放つ。
 すると高電圧の鎖が四方に飛び散り、全員を囲うようにして地面に降り注いだ。
 直後、風となって姿を眩ましていた邪竜が感電したのか、けたたましい唸りと共に姿を現す。
「我々も身動きが絞られますが、これで逃げられる事はありません。私はこの檻に集中します。すみませんが、戦闘は任せましたよ」
「電流監獄デスマッチてか?へ、上等だ!」
 そう意気込むグラフィアスの傍らで、フォーマルハウトがゴーレムを作り、それをシェアトの護衛につけ、自身は槍を構える。
「手筈通り、僕とシェアトさんは護衛に回ります」
「皆、危なくなったらすぐに下がってね。回復は私に任せて」
「よし、行くぞ」
 体勢を整え、アウラ、ルクバット、グラフィアスの三人でそれぞれの方向から攻め立てる。
朔春宵さくしゅんしょう
緋桜旋風槍ひおうせんぷうそう
粉塵爆火ふんじんばっか
 一斉に得意技をお見舞いするが、邪竜は身に纏う風や大きな翼、強靭な尻尾を使ってそれらの攻撃を全て防ぐ。
 負けじと三人とも攻撃を繰り返すが、大したダメージには繋がらず、かつ驚異的な回復力で傷口がみるみる癒えていく。
「これじゃきりが無いよ」
「たしかに、こっちの体力が持って行かれるだけだな」
 武器を構えたまま、ルクバットとグラフィアスがそう悪態づく。
 こちらがダメージを受ければシェアトが回復してくれるが、このまま続ければシェアトの魔力が底をつくのは時間の問題だ。
「魔力を出し惜しみしてても無駄みたいだな。全員で最大の大技を一気に出した方が良さそうだ」
 男性陣の前にやってきたアウラが邪竜の動きに注意を払いながらそう提案する。
「その意見に異論は無いが、呪文を詠唱してる間は、俺達にも大きな隙が出来るぞ」
「そう。そこが問題だ。あの大きさをやろうとすれば最低でも一分は欲しい。その時間をどうやって稼ぐか……」
「それなら、僕がやります」
 話を聞いていたフォーマルハウトがゴーレムをもう一体作り出し、シェアトを囲うように護衛につけ、前戦に出てきた。
「フォーさん。でも、フォーさんの攻撃じゃ……」
「大丈夫ですよ。僕、手数は多い方なんで」
 心配するアウラをよそにフォーマルハウトは微笑み、槍で地面を叩くと、彼の腰元ほどの小さなゴーレムがわらわらと出来上がった。
「と言っても、本当に少しの時間しか稼げないと思うので、出来るだけ早めにお願いします」
 顔は笑っているが、その声は明らかに震えている。
 それでも、一人で立ち向かおうとする勇気に、今は感謝するしかない。
「よし、ならすぐに始めるぞ」
 グラフィアスが剣を構え、少し離れてアウラ、ルクバットも続く。
「……それじゃ、行きます!」
 一つ、気合いを入れたフォーマルハウトが槍を構え、邪竜に向かって突き進む。
 それに続いてミニゴーレム達も続く。
 途中フォーマルハウトは一枚の紙から巨大な鳥を呼び出し、それに乗って空へと飛翔する。
 それによって後続していたミニゴーレムが先攻する形となるが、如何せん風と土。
 相性は最悪で突撃しても突撃しても、風圧のみで邪竜に触れる事なく粉々に砕かれていく。
「マグネット!」
 上空から観察していたフォーマルハウトが槍を邪竜に向けると、砕け散った土が引き寄せられるように邪竜に纏わりつく。
 主に翼を包囲された邪竜は防御風を作れなくなり、煩わしそうに暴れるが、残ったミニゴーレム達も次々とくっついていき、相手の自由を奪っていく。
 完全に動きを封じた後、残ったミニゴーレムを自分の背後に集め、自身の何倍もある巨大なゴーレムを作る。
「行くよ」
 フォーマルハウトが槍を構えるのと同時に、巨大なゴーレムも拳を握る。
剛破追影拳ごうはついえいけん
 鳥から飛び降り、邪竜に向かって槍を連続で突けば、後方のゴーレムが堅く握り締めた拳を連続でお見舞いする。
 邪竜を縛る岩ごと砕き殴り続け、相手の悲鳴が木霊する。
「これで最後です。アパレート・グラビティ」
 槍を邪竜目掛けて投げ射ると、後ろのゴーレムがそれに追従する形で落下し、途中でいくつもの塊に分解し、岩の雨を降らす。
 それによって邪竜は完全に埋もれたが、果たしてどれほどの効果があったのか。
 地面に降り立ったフォーマルハウトは磁力で槍を引き抜き、息を整えながら相手の動きを窺う。
 すると、
「うわっ!」
 邪竜を覆っていた岩石が、弾けるように飛んできた。
 すれすれのところでそれを避けるも、岩は次々と襲ってきて、遂には正面から当たり、岩ごと吹き飛ばされてしまう。
「フォーさん!」
 シェアトが急いで介抱に向かうのと同時に、怒りの咆哮をあげながら邪竜が姿を現した。
 それなりのダメージは負っているようだが、まだまだ追撃の必要がありそうだ。
 それを真っ向から見ていたグラフィアスがにやりと笑う。
「流石は軍人。良い時間稼ぎだったぜ。俺から行くぞ!」
 そのまま炎を纏った大剣を振り上げる。
「マリドよ。其の炎を持ちて、総てを焦がす地獄を具現せよ。ヴェルメヘル・スコーチ」
 フォーマルハウトのおかげで十分に魔力を練る事が出来、今までで一番強力なマリドを具現し、邪竜へとぶつける。
 そこへ続けざまにルクバットが大技をお見舞いする。
「次は俺だ。命育む春風よ。その優しき顔を忘れ吹き荒べ。メイストーム!」
 壊れんばかりの風の唸りをあげる円月輪を投げつけると、土を巻き上げながら邪竜を襲い、グラフィアスが放った炎の威力を更に上げる。
 そして、その力に圧倒されるように、邪竜の巨体が浮き上がった。
「アウラ、今だよ!」
 ルクバットの呼び声に応え、アウラはハルピュイアを天高く掲げる。
「命繋ぐ風の精よ。汝らの尊さ、彼の者に示せ。キスラロート・ニエンテ」
 呪文を唱えた瞬間、邪竜を覆っていた風と炎が消え、変わりに邪竜は喘ぐようにもがき出す。
 そしてハルピュイアを真横に一閃すると、邪竜の腹部に真一文字の大きな傷が広がり、悲鳴と地響きをあげながらゆっくりと倒れた。
「やったか?」
「分からない。でも手応えはあった」
 舞い上がった土埃で見えないが、このまま終われと誰もが願う。
 しかし、
「グアア!」
 土埃の中から雄叫びが響き、爆風が起きる。
「くっ……おわっ」
 剣を盾に耐えようとするが、数秒も保たずに全員が散り散りに吹き飛ばされてしまう。
「くそ、化け物め!」
 グラフィアスはなんとか身体を起こしながら悪態をつく。
 邪竜は相当弱ってはいるが、驚異的な回復力でじわじわと傷を癒やしている。
 このままでは、確実に負ける。
「……迷ってる場合じゃ、ねえよな」
 グラフィアスはそう意を決して、剣を構えた。


 遠くから異様な風を感じて顔を上げた。
 アウラの目に映ったのは、蒼い炎を周りに纏わせたグラフィアスの姿。
「!あいつ、まさかまた……?」
 数年前の恐ろしい出来事が蘇り、心臓が早鐘を打つ。
「あの炎って、操獣の……?」
 近くにいたシェアトが体の痛みに耐えながら呟く。
「止めろ!あの時どうなったのか、覚えてないのか!」
 必死に叫ぶ。
 離れてはいるが、届かない距離では無い筈だ。
「おい、聞いてるのか!」
「うるせえ!地面に這いつくばってる奴は黙ってろ!」
 彼はこちらを見ようともせずそう言い放つ。
「俺は強くなったのか、昔のままなのか。確かめる良いチャンスだ。何より、俺の目標はこいつじゃねー。こんなところでやられてるようじゃ、意味がねーんだよ!」
 彼の叫びは、胸に響いた。
「……そう、だよな」
 私の目標も、ここじゃない。
 吹っ切れたように、アウラも立ち上がる。
 いつの間にか集まってきていた仲間の顔を見て、静かに笑う。
「みんな、悪いけどしばらくここを動かないでいてくれる?」
「え?何言ってるんだよアウラ?あれほどいったじゃないか。一緒に戦おうって」
「分かってる。でも、だからこそ頼んでるんだ。そうじゃないと、私も全力を出せない」
「全力って……」
 尚も食い下がるルクバットを、フォーマルハウトがそっと抑える。
「蒼龍に、なられるんですね」
「うん。皆を巻き込まない為にも、ここで待ってて欲しいんだ」
「……必ず、戻ってきてね」
「約束する。ルクバット、皆を頼んだよ」
 そう言い残して、アウラはグラフィアスの元へと飛んだ。


 蒼い炎で邪竜を囲い、静まるよう命令するが、相手の抵抗はかなり激しい。
 それどころかこちらの精神を乗っ取ろうとおぞましい殺意が襲いかかり、グラフィアスの顔や腕にうっすらと鱗模様が浮かび上がってくる。
 なんとか均衡を保っているが、少しでも油断したらあっと言う間にやられてしまうような、引くに引けない状況だ。
「まったく、お前の意地も底なしだな」
「!お前……」
 何とか手は無いかと考えていると、アウラが自分と邪竜の間に割り込んできて、その瞬間に身体が軽くなるのを感じ、邪竜との接点が消えた。
「ここから先は、ただの親子喧嘩だ。部外者は引っ込んでてもらうぞ」
「うわっ!」
 直後、グラフィアスは強烈な風に煽られ、シェアト達の元へと吹き飛ばされる。
「大丈夫?」
「どけ!」
 近寄るシェアトを払いのけ、急いで戻ろうとするが、アウラ達を中心に結界のような物が貼られ、近付く事が出来ない。
 強引に押し入ろうとしてもまるで風を相手にしているように意味が無く、蒼龍と化したアウラが、邪竜と戦う様を黙って見ている事しか出来ない。
「ふざけんな!何であいつはいつもこーなんだよ!」
「落ち着いてグラン兄、あれはもう違うんだよ」
 激昂するグラフィアスを宥めつつも、ルクバットは二匹の蒼龍から目を離さない。
「あれは戦ってるんじゃない。ただ、言葉をぶつけ合ってるだけだ。俺には分かるんだよ」
「……」
 グラフィアスに、彼らの言葉は分からない。
 ただ今は、見守る事しか出来ない。
「……ち。もしもの時は、何が何でも割り込むからな」
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