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転の流星
信じる心
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「アウラ!」
一人になった隙に大窓を開け、風を使って飛び出した直後、上から自分を呼ぶ声がしたが、アウラはそれに一切耳を貸さず、人混みの中を駆け抜けた。
こんな所にはいられない。早くグルミウムに帰らなくちゃ!父さまや母さま、エルだって心配してるはず!
そんな思いを抱きながら、国の外へ出る為の場所を探してがむしゃらに走り回る。
知らないうちに知らない場所に連れてこられた為に、何処へ行けば良いのか全く分からない。
ましてや自分の城から出た事もないアウラにとって、外というものがどうなっているのか想像もつかないが、それでも立ち止まる事は出来なかった。
まだそんなに走っていないはずなのに既に息は切れ、足がもつれて何度も転びそうになる。
なんだこの身体は!上手く走れな……っ。
舗装されていた大通りからデコボコ道の脇へ入ってすぐ、小石でもあったのか、何かに足をとられ、身体を地面に激しく打ち付けた。
「う……っ」
顔をぶつける事はなんとか避けたが、受け身を取る事も出来ず、肺を強打し息がつまる。
だが、いくら脇道とはいえ、人の目がある。
痛みに耐えて立ち上がろうとするが、何故か右手に全く力が入らず、再び身体を地面にぶつけた。
さながら芋虫のようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
近くを歩いていた通行人の一人が助け起こそうとしてくれたが、恥ずかしさのあまり、その手を振り払い、逃げるようにしてその場を立ち去った。
何で、私がこんな目に……!
自分の身体の筈なのに、違和感だらけでやたら重い。
唯一見知った小さな右手からは、何の感覚も伝わってこず、他の部分よりも極端に幼いが故に、逆に歪だ。
転倒した事で衣服は汚れ、腕も擦りむき、冷たい風が痛みを増幅させる。
さらにトドメは、行き交う人全てが、奇異な目でこちらを見ているように感じる。
見るな見るな、私を、そんな目で見るな!
声にならない叫びを心の中で爆発させつつ、アウラはひたすら走りつづけた。
どこをどうやって走ってきたのか。
必死のあまり全く覚えていないが、アウラはようやく、外へと繋がっていそうな大門を見つけた。
扉の左右には槍を携えた兵士が控えており、その扉の横に続く壁も頑丈そうで、緩いカーブを描きながらずうっと先まで伸びている。
ここから、外に出られるかな?
膝に手をつき、荒い息を整えながら、その扉を眺める。
一度大きく息を吐き出し、落ち着いたところで門番の元へ歩み寄って行く。
「ねえ、外へ出たいんだけど」
「はい。通行証はお持ちでしょうか?」
「つうこう……?」
聞き慣れない言葉が返ってきて、きょとんと同じ言葉を返す。
しかしアウラが答える前に、もう一人の兵士が何かに気付いたように言った。
「おや?貴女は、バスター様ですね」
バスター。確かあいつらもそう言ってた。本当に、私は……。
そんな事を物憂げに考えていると、兵士は柔らかい表情を浮かべた。
「これは大変失礼致しました。すぐに処理致しますので、承認証をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「しょーにん……?」
「その胸元に付けている紋章の事ですよ」
アウラが首を傾げると、兵士も不思議そうに首を傾げる。
言われて胸元を見ると、アウラが身に着けているボロ布には、蒼く輝く紋章が取り付けられていた。
それを外して兵士に手渡すと、彼はそれを持ってすぐ横にある小さな小屋の中へと入っていった。
そして数分もしない内に戻ってきて、紋章を返しながら言う。
「認証完了です。バスターボレアリス様ですね。お連れのアクィラェ様にも連絡しておきましたので、もう暫くお待ちください」
「え!?」
アクィラェという名前に聞き覚えは無かったが、連れというからにはさっきの連中に違いない。
せっかく逃げ出せたのに、また捕まってしまったら、もう逃げられないかもしれない。
逃げなきゃ!
じりじりと後ずさりし、兵士の制止も聞かず、アウラは再び全力で走り出す。
まさか兵にも命令出来る立場だなんて、あいつら一体何者なんだ?この国が、私を狙ったのか?
答えのない疑問を考えつつ、ただひたすらに走り回りながら、外に出るための手段を探した。
他にも出口はあるんだろうけど、多分、どこも通してくれない。雷の帝国は技術がとても発達した国だって父さまが言ってたし、私がここから出るには……。そうだ、高い所!
一旦立ち止まり、辺りを見渡す。
「ここから一番高い場所、木……あ、あった!」
今いる場所からだいぶ離れてはいるが、一際目立つ大木が目に入り、アウラはそこまで急いで近寄る。
最初は走り難かったこの身体にもだいぶ慣れ、今ではどんなに走っても息切れ一つしない。
遠いと思っていた大木のある場所にもすぐにたどり着き、その立派な立ち振る舞いに、しばしの間見とれてしまった。
「……立派な木だなぁ」
若葉が生い茂り、風に吹かれてざぁ、と気持ちのいい音を立てるその大木は、樹齢百年はあると思われる程に立派で、風の王国の王都の御神木を連想させた。
「よし!」
周りに誰もいない事を確認し、アウラは気合いを入れてその木に登り始める。
王室育ちではあるが、こう見えても木登りは得意だ。
中庭や城壁近くには樹木が並んでおり、そこから城下が見えやしないか、もしかしたら壁を飛び越えららるのではと、よく登っては父や母に怒られていた。
それがこんな形で役立つ日が来るとは、何事もやってみるものだ。
「見えた……」
大木のてっぺんまで登り切り辺りを見渡すと、帝都と外とを隔てる壁を優に越しており、その遥か向こうで、空と大地とが交差する地平線まではっきりと見えた。
あれが、外……。ここからなら、強い風に乗れれば行けるかも。
ここから外壁までの距離はそれなりにあり、ごくりと息を呑む。
アウラはまだ風を操る修行を始めておらず、自由に飛び回る事は出来ない。
それでも、わずかな時間であれば風に乗り、流れに沿って移動する事は出来る。
しかしどんな風がどのような流れで吹くかまでは読み切れない為、文字通りの風任せとなる。
乗る風を間違えれば、この高さから落ちた場合、ただでは済まないだろう。
「でも、外に出るにはここ以外浮かばないし……」
そう思い悩んでいると、
「アウラ!」
下から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
見ると、先程ルクバットの名を騙った少年が、肩で息を切らしながらこちらを見上げていた。
「あいつ。なんでここが……」
「やっぱりここにいた。どうして逃げるの?俺の説明、そんなに難しかった?それとも、俺が信じられない?」
ルクバットは不安そうで、それでも必死な顔で叫ぶ。
彼の説明はとても細かく、分かりやすかった。
聞いているうちに、胸が苦しくなるほどに。
彼を信じられないわけではない。
アウラはただ、その話を信じたくないだけなのだ。
その結果が、逃走という行動として現れている。
「……信じられるわけないだろ?風の王国は五大国の一つだ。それが、隣の国にやられるわけない。お前らが何と言っても、私は国に帰るんだ!」
叫んでいる最中、今までとは比べ物にならない突風が吹き上げてきて、アウラは言い終わるのと同時に力強く枝を蹴り、外壁に向かって飛んだ。
風に乗った瞬間、引っ張られるような感覚があり、耳元で風の唸る鈍い音が響く。
遠いと思えた外壁はあっという間に近付き、このまま行けば優に越えられる。
よしっ、いける!
上手く風を読めたことと、ようやく脱出出来る喜びで笑みが零れる。が、
「―え?」
突然、ガクンと身体が揺れ、急激に失速しだす。
風向きが変わり、下降を始めたのだ。
「そんな!」
後少しというところで、壁に阻まれ徐々に見えなくなっていく景色に手を伸ばす。
「うっ!」
夢中で伸ばした手は奇跡的に外壁に届き、アウラは高さ数メートルはある壁に、片手だけで取り残されてしまった。
「く……うう」
何とか這い上がろうにも右手には全く感覚が伝わらず、左手だけではどうにもならない。
「アウラ!頑張って、今行くから」
ルクバットがそう叫んでいるが、既に腕は限界で、指が今にも外れそうだ。
「……ぁあ」
数秒もしないうちにその瞬間は訪れ、アウラは地へと真っ直ぐに落ちていく。
アウラは強い衝撃に耐えるように目を堅く瞑るが、その衝撃は思ったよりも遥かに弱く、痛みすら感じなかった。
何だか暖かく、柔らかい物に包まれたような、不思議な衝撃。
「大丈夫?」
「……!お前」
耳元で聞こえた声に目を開けると、そこにはルクバットの顔があった。
さらに彼の背には何故か鷹がいて、その鷹のおかげで二人は空を舞っている。
「せんせー。もういいよ、降ろして」
「何デオレッチガコンナ事……。アウラ嬢ハ飛ベルダロ?」
「色々事情があるんだよー。いいからほら、降ろして降ろして」
ルクバットと鷹はよく分からない会話をしながら、地上へと向かう。
「ふ~。アウラ大丈夫だった?怪我は……あー、けっこうしてるね。痛くない?後でシェアト姉に診てもらお」
アウラを救出したルクバットは、怪我をしている肘や泥だらけの顔を見て心配そうに言う。
アウラはそれには何も答えず、ただ彼の顔を見つめる。
……エル。
目の前で鷹に怒られている少年に、エラルドの姿が重なって見えた。
まるで彼女本人が、
「大丈夫でしたか?アウラ様」
と微笑みながら助けてくれたかのように。
やっぱり、こいつはエルの……。だとしたら、私は……。
「アウラ?どしたの、どっか痛いの?」
心配そうに顔を覗き込んでくるルクバットをよそに、アウラは俯き、相手を見ずに呟く。
「……ありがとう。それから、信じるよ。お前の事。今まで、ごめん」
このたった数十分の事を思い返すだけでも、自分の非力さを思い知らされた。
今の自分は恐ろしく無力で、一人で外に出る事すら出来ない子供だと。
それに、今なら本当に彼を信じる事が出来る。
命を助けてもらったからではない。
風が、エラルドと同じ匂いを纏っていたのだ。
少し鼻をくすぐるような、若葉の香り。
だから、信じる。彼を、彼の仲間を。
そして、その決断をした、自分自身を。
一人になった隙に大窓を開け、風を使って飛び出した直後、上から自分を呼ぶ声がしたが、アウラはそれに一切耳を貸さず、人混みの中を駆け抜けた。
こんな所にはいられない。早くグルミウムに帰らなくちゃ!父さまや母さま、エルだって心配してるはず!
そんな思いを抱きながら、国の外へ出る為の場所を探してがむしゃらに走り回る。
知らないうちに知らない場所に連れてこられた為に、何処へ行けば良いのか全く分からない。
ましてや自分の城から出た事もないアウラにとって、外というものがどうなっているのか想像もつかないが、それでも立ち止まる事は出来なかった。
まだそんなに走っていないはずなのに既に息は切れ、足がもつれて何度も転びそうになる。
なんだこの身体は!上手く走れな……っ。
舗装されていた大通りからデコボコ道の脇へ入ってすぐ、小石でもあったのか、何かに足をとられ、身体を地面に激しく打ち付けた。
「う……っ」
顔をぶつける事はなんとか避けたが、受け身を取る事も出来ず、肺を強打し息がつまる。
だが、いくら脇道とはいえ、人の目がある。
痛みに耐えて立ち上がろうとするが、何故か右手に全く力が入らず、再び身体を地面にぶつけた。
さながら芋虫のようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
近くを歩いていた通行人の一人が助け起こそうとしてくれたが、恥ずかしさのあまり、その手を振り払い、逃げるようにしてその場を立ち去った。
何で、私がこんな目に……!
自分の身体の筈なのに、違和感だらけでやたら重い。
唯一見知った小さな右手からは、何の感覚も伝わってこず、他の部分よりも極端に幼いが故に、逆に歪だ。
転倒した事で衣服は汚れ、腕も擦りむき、冷たい風が痛みを増幅させる。
さらにトドメは、行き交う人全てが、奇異な目でこちらを見ているように感じる。
見るな見るな、私を、そんな目で見るな!
声にならない叫びを心の中で爆発させつつ、アウラはひたすら走りつづけた。
どこをどうやって走ってきたのか。
必死のあまり全く覚えていないが、アウラはようやく、外へと繋がっていそうな大門を見つけた。
扉の左右には槍を携えた兵士が控えており、その扉の横に続く壁も頑丈そうで、緩いカーブを描きながらずうっと先まで伸びている。
ここから、外に出られるかな?
膝に手をつき、荒い息を整えながら、その扉を眺める。
一度大きく息を吐き出し、落ち着いたところで門番の元へ歩み寄って行く。
「ねえ、外へ出たいんだけど」
「はい。通行証はお持ちでしょうか?」
「つうこう……?」
聞き慣れない言葉が返ってきて、きょとんと同じ言葉を返す。
しかしアウラが答える前に、もう一人の兵士が何かに気付いたように言った。
「おや?貴女は、バスター様ですね」
バスター。確かあいつらもそう言ってた。本当に、私は……。
そんな事を物憂げに考えていると、兵士は柔らかい表情を浮かべた。
「これは大変失礼致しました。すぐに処理致しますので、承認証をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「しょーにん……?」
「その胸元に付けている紋章の事ですよ」
アウラが首を傾げると、兵士も不思議そうに首を傾げる。
言われて胸元を見ると、アウラが身に着けているボロ布には、蒼く輝く紋章が取り付けられていた。
それを外して兵士に手渡すと、彼はそれを持ってすぐ横にある小さな小屋の中へと入っていった。
そして数分もしない内に戻ってきて、紋章を返しながら言う。
「認証完了です。バスターボレアリス様ですね。お連れのアクィラェ様にも連絡しておきましたので、もう暫くお待ちください」
「え!?」
アクィラェという名前に聞き覚えは無かったが、連れというからにはさっきの連中に違いない。
せっかく逃げ出せたのに、また捕まってしまったら、もう逃げられないかもしれない。
逃げなきゃ!
じりじりと後ずさりし、兵士の制止も聞かず、アウラは再び全力で走り出す。
まさか兵にも命令出来る立場だなんて、あいつら一体何者なんだ?この国が、私を狙ったのか?
答えのない疑問を考えつつ、ただひたすらに走り回りながら、外に出るための手段を探した。
他にも出口はあるんだろうけど、多分、どこも通してくれない。雷の帝国は技術がとても発達した国だって父さまが言ってたし、私がここから出るには……。そうだ、高い所!
一旦立ち止まり、辺りを見渡す。
「ここから一番高い場所、木……あ、あった!」
今いる場所からだいぶ離れてはいるが、一際目立つ大木が目に入り、アウラはそこまで急いで近寄る。
最初は走り難かったこの身体にもだいぶ慣れ、今ではどんなに走っても息切れ一つしない。
遠いと思っていた大木のある場所にもすぐにたどり着き、その立派な立ち振る舞いに、しばしの間見とれてしまった。
「……立派な木だなぁ」
若葉が生い茂り、風に吹かれてざぁ、と気持ちのいい音を立てるその大木は、樹齢百年はあると思われる程に立派で、風の王国の王都の御神木を連想させた。
「よし!」
周りに誰もいない事を確認し、アウラは気合いを入れてその木に登り始める。
王室育ちではあるが、こう見えても木登りは得意だ。
中庭や城壁近くには樹木が並んでおり、そこから城下が見えやしないか、もしかしたら壁を飛び越えららるのではと、よく登っては父や母に怒られていた。
それがこんな形で役立つ日が来るとは、何事もやってみるものだ。
「見えた……」
大木のてっぺんまで登り切り辺りを見渡すと、帝都と外とを隔てる壁を優に越しており、その遥か向こうで、空と大地とが交差する地平線まではっきりと見えた。
あれが、外……。ここからなら、強い風に乗れれば行けるかも。
ここから外壁までの距離はそれなりにあり、ごくりと息を呑む。
アウラはまだ風を操る修行を始めておらず、自由に飛び回る事は出来ない。
それでも、わずかな時間であれば風に乗り、流れに沿って移動する事は出来る。
しかしどんな風がどのような流れで吹くかまでは読み切れない為、文字通りの風任せとなる。
乗る風を間違えれば、この高さから落ちた場合、ただでは済まないだろう。
「でも、外に出るにはここ以外浮かばないし……」
そう思い悩んでいると、
「アウラ!」
下から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
見ると、先程ルクバットの名を騙った少年が、肩で息を切らしながらこちらを見上げていた。
「あいつ。なんでここが……」
「やっぱりここにいた。どうして逃げるの?俺の説明、そんなに難しかった?それとも、俺が信じられない?」
ルクバットは不安そうで、それでも必死な顔で叫ぶ。
彼の説明はとても細かく、分かりやすかった。
聞いているうちに、胸が苦しくなるほどに。
彼を信じられないわけではない。
アウラはただ、その話を信じたくないだけなのだ。
その結果が、逃走という行動として現れている。
「……信じられるわけないだろ?風の王国は五大国の一つだ。それが、隣の国にやられるわけない。お前らが何と言っても、私は国に帰るんだ!」
叫んでいる最中、今までとは比べ物にならない突風が吹き上げてきて、アウラは言い終わるのと同時に力強く枝を蹴り、外壁に向かって飛んだ。
風に乗った瞬間、引っ張られるような感覚があり、耳元で風の唸る鈍い音が響く。
遠いと思えた外壁はあっという間に近付き、このまま行けば優に越えられる。
よしっ、いける!
上手く風を読めたことと、ようやく脱出出来る喜びで笑みが零れる。が、
「―え?」
突然、ガクンと身体が揺れ、急激に失速しだす。
風向きが変わり、下降を始めたのだ。
「そんな!」
後少しというところで、壁に阻まれ徐々に見えなくなっていく景色に手を伸ばす。
「うっ!」
夢中で伸ばした手は奇跡的に外壁に届き、アウラは高さ数メートルはある壁に、片手だけで取り残されてしまった。
「く……うう」
何とか這い上がろうにも右手には全く感覚が伝わらず、左手だけではどうにもならない。
「アウラ!頑張って、今行くから」
ルクバットがそう叫んでいるが、既に腕は限界で、指が今にも外れそうだ。
「……ぁあ」
数秒もしないうちにその瞬間は訪れ、アウラは地へと真っ直ぐに落ちていく。
アウラは強い衝撃に耐えるように目を堅く瞑るが、その衝撃は思ったよりも遥かに弱く、痛みすら感じなかった。
何だか暖かく、柔らかい物に包まれたような、不思議な衝撃。
「大丈夫?」
「……!お前」
耳元で聞こえた声に目を開けると、そこにはルクバットの顔があった。
さらに彼の背には何故か鷹がいて、その鷹のおかげで二人は空を舞っている。
「せんせー。もういいよ、降ろして」
「何デオレッチガコンナ事……。アウラ嬢ハ飛ベルダロ?」
「色々事情があるんだよー。いいからほら、降ろして降ろして」
ルクバットと鷹はよく分からない会話をしながら、地上へと向かう。
「ふ~。アウラ大丈夫だった?怪我は……あー、けっこうしてるね。痛くない?後でシェアト姉に診てもらお」
アウラを救出したルクバットは、怪我をしている肘や泥だらけの顔を見て心配そうに言う。
アウラはそれには何も答えず、ただ彼の顔を見つめる。
……エル。
目の前で鷹に怒られている少年に、エラルドの姿が重なって見えた。
まるで彼女本人が、
「大丈夫でしたか?アウラ様」
と微笑みながら助けてくれたかのように。
やっぱり、こいつはエルの……。だとしたら、私は……。
「アウラ?どしたの、どっか痛いの?」
心配そうに顔を覗き込んでくるルクバットをよそに、アウラは俯き、相手を見ずに呟く。
「……ありがとう。それから、信じるよ。お前の事。今まで、ごめん」
このたった数十分の事を思い返すだけでも、自分の非力さを思い知らされた。
今の自分は恐ろしく無力で、一人で外に出る事すら出来ない子供だと。
それに、今なら本当に彼を信じる事が出来る。
命を助けてもらったからではない。
風が、エラルドと同じ匂いを纏っていたのだ。
少し鼻をくすぐるような、若葉の香り。
だから、信じる。彼を、彼の仲間を。
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