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賢者様☆
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その時突然、玄関の鍵を開ける音がした。平日のこんな時間誰も来ないはずなのに誰!?
嫌な汗が首をつたった。
〈おい、黒猫の坊が来ちまった!俺の姿が見られちまう、早く意識体に戻せ!〉
〈セオなら問題ないじゃ……ん!?賢者様の姿は僕にしか見えないって言ってたのに、何で!?〉
〈お前達が夜な夜な魔力共有してっから、俺の姿まで見えるようになっちまったんだろうが!〉
魔力共有ってまさか……、頭が沸騰するかと思うくらい恥ずかしい。
〈早くしろ!見られちまう!〉
慌てた僕は咄嗟に賢者様をお腹に引き寄せた。
〈そんな事したって、お腹に戻るわけじゃねーだろカンガルーじゃあるまいし。意識体だって!〉
足音がして僕等の姿を見たセオは、おもむろにキッチンから包丁を持ち出し、僕等のもとにやってきた。
〈まずい!黒猫の坊が闇魔法の使い過ぎで闇落ちしてる。ルカ!お前が救い上げてやれ!〉
〈救いあげるって、一体どうやって?〉
〈坊が安心する言葉をいってやれ〉
「何それ浮気?……昔は俺だけの可愛い子猫ちゃんだったのに……」セオは無表情のまま小さい声で、ぶつくさと独り言のように呟く。
「とりあえず包丁は離そうね。もう子猫じゃないけど、今だってセオだけのものだよ」笑顔で取り繕いながら、そっと包丁を手から離してテーブルに置く。
「口だけなら何とも言える……」セオは横を向いて伏目がちに呟く。
〈おい!もっとガシッと、ぶちゅっ、とやってこいよ!〉
〈え!?えー〉
セオの首に腕を回して、至近距離で見ると紺青色の瞳が青く光っていた。その光をじっと見つめながら穏やかな声音で伝える。
「今までだって、これから先も変わらない。僕はセオだけを愛してる」
そっと頬に口付けを落とす。もう一度、瞳を見ると光は消えていた。
「信じてくれた?」
セオは口を尖らせながら。
「語尾に『にゃん』を付けてもう一回言ってくれたら許す」
羞恥心で頬を赤らめながら。
「セオを愛してる、……にゃん」
「許す」
ぎゅっ、と抱きしめ合う二人。すると。
〈コホンッ……、そろそろいいか。説明が必要だろう、念話が坊にも聞こえるように出来るか?〉
〈わかりました〉
「セオ、これから説明するね」
〈あー、コホンッ。俺は魔石に宿っていた賢者だ。この国ネルザンドの守人も担っている〉
「お会いできて光栄です、賢者様」
セオは片膝をついて挨拶をする。え!?なんですぐ信じちゃうの?こんなに怪しいのに……。
〈ルカうるさい、……訳あって今はルカに宿っている〉
「そうですか……承知しました。騎士団にご報告致しますね」
〈あー、どうしても報告しなきゃダメか?〉
「ぜひご教授頂きたいので報告させて頂きます」
〈わかった。必要最低限の上層部だけにしてくれ〉
☆
それからというもの、騎士団会議に出席したり、大規模な討伐には同行したりと忙しい日々を送っていた。
国の南西にある砂漠地帯でワイバーンの群れが出現したという。他国の行商人が通る馬車道であるため危険と判断しての討伐依頼だ。
セオが所属する第三騎士団へ同行、乗馬が出来ない僕はセオの馬に同乗することとなった。
セオの愛馬は芦毛のオルティウスという名のサラブレッドだった。
他の馬は茶や黒の毛色が多いなか、希少な芦毛は存在感を増している。気品があって賢そうな馬だ。
まずは手の匂いを嗅がせて、鼻上をそして首周りを手の平で撫でてやると、気持ち良かったのか小さく「プルルル」と鼻を鳴らす。
「宜しくお願いね」と伝えると、小さく「ヒヒン」と嘶いた。
出発した騎士団一行は途中、小休憩を挟みながら一晩野営をして砂漠地帯ガルシティアに到着した。
道中、遭遇した下級魔物を倒し、中級魔物のアンフィスパエナという双頭の蛇の魔物に出くわしたが、多勢な騎士団に有利な双頭同時攻撃で難なく討ち取った。
砂漠地帯の為、長期戦は不利と見込んで出現場所に足早に向かった。
群れで出現するということは、近くに棲家があるだろうと散策していると、800m程先に木々が生い茂っている場所が見えた。
「オアシスだ!」と団員が言い近づくと、オアシスの周りには二十頭近いワイバーンが戯れていた。
緑の鱗に覆われた、体長3~5mもあるワイバーンはさながら小型ドラゴンのようだった。
僕はワイバーンを見るのはもちろん初めてで緊張が走った。
団員で改めて協議したのち、追い払いも難しく、馬車道からも近く危険と判断し討伐することとなった。
一度に二十頭を相手するのは 分が悪いので近くの岩場に誘い込んで討つ作戦を賢者様から助言頂いた。
団員の皆んなは戦闘要員なので、囮は……そうだ、ルカお前がやれ!と半ば強制に囮役を命じられた。
全員が配置について、僕がワイバーンの群れへ向かおうとしたところ。
〈おい!ルカちょっと待て!〉
賢者様に呼び止められた。これから戦闘だというのに何だろうと不思議そうに賢者様を見つめる。
〈黒猫の坊にちゅ、とキスして体液入れて来い〉
〈ちょ、……な、何言ってるの?これから戦闘だよ!〉
〈ステータスよく見たか?団の攻撃力を全員足しても、ワイバーンの攻撃力に及ばねぇ。このまま戦っても全滅して、……最悪死ぬぞ〉
は!?何で、死ぬなんて嫌だ!!でも恥ずかしいし、どうしよう……。
嫌な汗が首をつたった。
〈おい、黒猫の坊が来ちまった!俺の姿が見られちまう、早く意識体に戻せ!〉
〈セオなら問題ないじゃ……ん!?賢者様の姿は僕にしか見えないって言ってたのに、何で!?〉
〈お前達が夜な夜な魔力共有してっから、俺の姿まで見えるようになっちまったんだろうが!〉
魔力共有ってまさか……、頭が沸騰するかと思うくらい恥ずかしい。
〈早くしろ!見られちまう!〉
慌てた僕は咄嗟に賢者様をお腹に引き寄せた。
〈そんな事したって、お腹に戻るわけじゃねーだろカンガルーじゃあるまいし。意識体だって!〉
足音がして僕等の姿を見たセオは、おもむろにキッチンから包丁を持ち出し、僕等のもとにやってきた。
〈まずい!黒猫の坊が闇魔法の使い過ぎで闇落ちしてる。ルカ!お前が救い上げてやれ!〉
〈救いあげるって、一体どうやって?〉
〈坊が安心する言葉をいってやれ〉
「何それ浮気?……昔は俺だけの可愛い子猫ちゃんだったのに……」セオは無表情のまま小さい声で、ぶつくさと独り言のように呟く。
「とりあえず包丁は離そうね。もう子猫じゃないけど、今だってセオだけのものだよ」笑顔で取り繕いながら、そっと包丁を手から離してテーブルに置く。
「口だけなら何とも言える……」セオは横を向いて伏目がちに呟く。
〈おい!もっとガシッと、ぶちゅっ、とやってこいよ!〉
〈え!?えー〉
セオの首に腕を回して、至近距離で見ると紺青色の瞳が青く光っていた。その光をじっと見つめながら穏やかな声音で伝える。
「今までだって、これから先も変わらない。僕はセオだけを愛してる」
そっと頬に口付けを落とす。もう一度、瞳を見ると光は消えていた。
「信じてくれた?」
セオは口を尖らせながら。
「語尾に『にゃん』を付けてもう一回言ってくれたら許す」
羞恥心で頬を赤らめながら。
「セオを愛してる、……にゃん」
「許す」
ぎゅっ、と抱きしめ合う二人。すると。
〈コホンッ……、そろそろいいか。説明が必要だろう、念話が坊にも聞こえるように出来るか?〉
〈わかりました〉
「セオ、これから説明するね」
〈あー、コホンッ。俺は魔石に宿っていた賢者だ。この国ネルザンドの守人も担っている〉
「お会いできて光栄です、賢者様」
セオは片膝をついて挨拶をする。え!?なんですぐ信じちゃうの?こんなに怪しいのに……。
〈ルカうるさい、……訳あって今はルカに宿っている〉
「そうですか……承知しました。騎士団にご報告致しますね」
〈あー、どうしても報告しなきゃダメか?〉
「ぜひご教授頂きたいので報告させて頂きます」
〈わかった。必要最低限の上層部だけにしてくれ〉
☆
それからというもの、騎士団会議に出席したり、大規模な討伐には同行したりと忙しい日々を送っていた。
国の南西にある砂漠地帯でワイバーンの群れが出現したという。他国の行商人が通る馬車道であるため危険と判断しての討伐依頼だ。
セオが所属する第三騎士団へ同行、乗馬が出来ない僕はセオの馬に同乗することとなった。
セオの愛馬は芦毛のオルティウスという名のサラブレッドだった。
他の馬は茶や黒の毛色が多いなか、希少な芦毛は存在感を増している。気品があって賢そうな馬だ。
まずは手の匂いを嗅がせて、鼻上をそして首周りを手の平で撫でてやると、気持ち良かったのか小さく「プルルル」と鼻を鳴らす。
「宜しくお願いね」と伝えると、小さく「ヒヒン」と嘶いた。
出発した騎士団一行は途中、小休憩を挟みながら一晩野営をして砂漠地帯ガルシティアに到着した。
道中、遭遇した下級魔物を倒し、中級魔物のアンフィスパエナという双頭の蛇の魔物に出くわしたが、多勢な騎士団に有利な双頭同時攻撃で難なく討ち取った。
砂漠地帯の為、長期戦は不利と見込んで出現場所に足早に向かった。
群れで出現するということは、近くに棲家があるだろうと散策していると、800m程先に木々が生い茂っている場所が見えた。
「オアシスだ!」と団員が言い近づくと、オアシスの周りには二十頭近いワイバーンが戯れていた。
緑の鱗に覆われた、体長3~5mもあるワイバーンはさながら小型ドラゴンのようだった。
僕はワイバーンを見るのはもちろん初めてで緊張が走った。
団員で改めて協議したのち、追い払いも難しく、馬車道からも近く危険と判断し討伐することとなった。
一度に二十頭を相手するのは 分が悪いので近くの岩場に誘い込んで討つ作戦を賢者様から助言頂いた。
団員の皆んなは戦闘要員なので、囮は……そうだ、ルカお前がやれ!と半ば強制に囮役を命じられた。
全員が配置について、僕がワイバーンの群れへ向かおうとしたところ。
〈おい!ルカちょっと待て!〉
賢者様に呼び止められた。これから戦闘だというのに何だろうと不思議そうに賢者様を見つめる。
〈黒猫の坊にちゅ、とキスして体液入れて来い〉
〈ちょ、……な、何言ってるの?これから戦闘だよ!〉
〈ステータスよく見たか?団の攻撃力を全員足しても、ワイバーンの攻撃力に及ばねぇ。このまま戦っても全滅して、……最悪死ぬぞ〉
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