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魔導具③
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省長に紹介された人物に会いにヴェセリー商会に来ている。
客間に通され、向かいの席にはシャーロット、シャーロットの母君、老紳士の三名が着席している。
母君の僕に向けられる目線は鋭く、時々睨んでくる程だ。学院時代に遊びにきた時もそうだった、さぞかし娘の恋敵だった僕の事を今だに恨んでいるようだ。商談を進めていくと……。
「お母様ちょっと廊下へ……」
母君はシャーロットに連れられ廊下へ。
「もう!いつまで昔の事を引きずってるの!ルカは親友なのよ。そんな態度取るなら出ていってちょうだい!」
シャーロットさん全部まる聞こえですよ。目の前の人種族の老紳士と互いに苦笑いで笑顔を交わす。話を聞いてみると老紳士の名はバルシュミーデといい、魔導具を見てスキルを発動すると魔法設計(魔法陣)が浮かんでくるというチートスキルの持ち主だった。
リディオ(シャーロット父)に懇願され、人間の国からネルザンドへ移住してヴェセリー商会で働いているそう。
僕が持ってきた魔導具を見てもらうと、二点とも問題なく出来ると言っていた。
「いくらほどでやっていただけますか?」
「そうですねぇ、二点で5000ニヤ(通貨単位)で如何でしょうか?」
「わかりました、それでは……」
いつの間にか戻っていたシャーロットが口をはさむ。
「ルカ、あなた商人のセンスが皆無ね。言い値で買うなんてナンセンスよ!しかも一つは病気の子に無償で配るものでしょ?値切らないでどうするの?バルシュミーデ、3000ニヤでどう?相手は私の親友でもあり、国よ、魔石省!恩を売らないでどうするの?」
バルシュミーデさんは根負けして3000ニヤで落ち着いた。生産もヴェセリー商会で一手に引き受けて貰えることになり、生産ラインも確保できた。「お互いにウィンウィンね」とシャーロットは上機嫌、やり手の商人そのものだ。
ねずみ農園に営業に行くと言ったら、商談の進め方の手解きを教えて貰った。
☆
場所は変わり皇室御用達セント・ニコシェねずみ農園。
園長のベーベルシュタムさん(ブリティッシュショートヘアー種)は皇室御用達農園ともあって品のある人だ。お互いに挨拶を済ませると。
「さて、本日はどのようなご用件で?」
「ご提案とお願いがあって伺いました。こちらの農園ではねずみの収穫はどのようにされていますか?」
収穫はネット等を使って人型で行っていて苦労しているという。
「実は僕、イースタンの領主になりまして……。街の復興と孤児の自立を支援しているのですが、人型になれない病気があることはご存知ですか?猫型でも勤められる仕事を探しています。収穫を猫型で出来たら効率が良いと思いませんか?」
「猫型なんてねずみが傷ついてしまう……」
「そうですよね、そこでこの魔導具『収穫用クリーンシート』を口に装着すると、立てた犬歯は食い込まず見えないシートでねずみを丸め込むので傷つけず簡単に収穫出来て、殺菌効果もある優れものなんです」
「それは良い!」
「もし、人型になれない孤児を雇い入れて貰えるなら、お試しでこのシート50枚入り一箱無料サンプルを差し上げることが出来るのですが……」
「孤児ですか……、衛生面は大丈夫なのですか?」
「孤児グループの衣食住、入浴等の衛生面もしっかり指導していますのでご安心を」
「孤児もシートも何回か仕事をして貰って、継続出来るか判断しても宜しいですか?」
「ええ、もちろんそれで構いません」
雇い入れの交渉は無事に決まった。
☆
人型が保てる魔導具が出来たので、届ける為に魔石省をお休みした。
イースタンに到着すると子猫達が口々に「ルカ様、ルカ様」と僕に近寄ってくれて幸せ過ぎて、ああ、此処は天国なのか……、僕は召されたのか……と錯覚するほどだった。復興は順調に進んでいる。
せっかくなので午後は自宅でゆっくりすることにした。
お茶を飲みながら賢者様とおしゃべりをする。
〈お前も魔力コントロールがだいぶ上達したから、そろそろ俺を実体化してみるか?〉
〈はい!やってみたいです〉
〈金の光に手の平をかざして、魔力を集中させる〉
〈はい〉
〈そろそろ魔力量も充分じゃないか〉
「偉大なる猫神様、賢き彼の者の姿を映したまえ」
金の光が集まって、大きな個体となり更に光を強く放つと金色のきつねが現れた。
「猫じゃねーじゃん」つい賢者様の口調が出てしまった。
うすうす気づいてはいたけど……。猫の妖精とか言ってたのに、全然猫じゃない。ていうか僕きつねになっちゃったの?本当嫌なんだけど。きつねって嫌な思い出しかないんだけど……。次々と不満が溢れた。
〈そんなチャラいきつねと一緒にするな!まあなんだ、実は……狐神に化かされて間違えて加護を受けちまったんだよ〉
本当に賢者なんだろうか……、そんな事あるのだろうか。
ルカは訝しげに賢者様を睨んだ。
〈まあ化けることは得意だから三毛猫の姿になってりゃいいじゃねーか。普段、俺の姿はルカにしか見えないからな。それよりそのお茶とどら焼きをくれよ!〉
あ!実体化したから食べれるんだ。……というか食べたくて実体化したんじゃないだろうか。
しぶしぶお茶とどら焼きを出すと、喜色満面の笑顔でどら焼きにかぶりつく、二足歩行でふさふさした尻尾はゆらゆら揺れている。
気落ちして水気を含んだ瞳で賢者様を一瞥する、もやもやした気分をどうにかしたくて。
〈尻尾触ってもいい?〉
〈お、おう、ちょっとだけだぞ〉
何故か少し照れる賢者様。触れて撫でてみると、見た目はふわふわなのに何だかごわごわして手触りが良くない。
〈やっぱり猫の毛並みの方が気持ちいいや……〉
〈何だよ、せっかく触らせてやったのに、もういいだろ!〉
ふぃっ、と尻尾を退けて体に巻きつけてしまった。
僕はしばし現実を受け入れるために呆然とする。
その時突然、玄関の鍵を開ける音がした。平日のこんな時間誰も来ないはずなのに誰!?
嫌な汗が首をつたった。
客間に通され、向かいの席にはシャーロット、シャーロットの母君、老紳士の三名が着席している。
母君の僕に向けられる目線は鋭く、時々睨んでくる程だ。学院時代に遊びにきた時もそうだった、さぞかし娘の恋敵だった僕の事を今だに恨んでいるようだ。商談を進めていくと……。
「お母様ちょっと廊下へ……」
母君はシャーロットに連れられ廊下へ。
「もう!いつまで昔の事を引きずってるの!ルカは親友なのよ。そんな態度取るなら出ていってちょうだい!」
シャーロットさん全部まる聞こえですよ。目の前の人種族の老紳士と互いに苦笑いで笑顔を交わす。話を聞いてみると老紳士の名はバルシュミーデといい、魔導具を見てスキルを発動すると魔法設計(魔法陣)が浮かんでくるというチートスキルの持ち主だった。
リディオ(シャーロット父)に懇願され、人間の国からネルザンドへ移住してヴェセリー商会で働いているそう。
僕が持ってきた魔導具を見てもらうと、二点とも問題なく出来ると言っていた。
「いくらほどでやっていただけますか?」
「そうですねぇ、二点で5000ニヤ(通貨単位)で如何でしょうか?」
「わかりました、それでは……」
いつの間にか戻っていたシャーロットが口をはさむ。
「ルカ、あなた商人のセンスが皆無ね。言い値で買うなんてナンセンスよ!しかも一つは病気の子に無償で配るものでしょ?値切らないでどうするの?バルシュミーデ、3000ニヤでどう?相手は私の親友でもあり、国よ、魔石省!恩を売らないでどうするの?」
バルシュミーデさんは根負けして3000ニヤで落ち着いた。生産もヴェセリー商会で一手に引き受けて貰えることになり、生産ラインも確保できた。「お互いにウィンウィンね」とシャーロットは上機嫌、やり手の商人そのものだ。
ねずみ農園に営業に行くと言ったら、商談の進め方の手解きを教えて貰った。
☆
場所は変わり皇室御用達セント・ニコシェねずみ農園。
園長のベーベルシュタムさん(ブリティッシュショートヘアー種)は皇室御用達農園ともあって品のある人だ。お互いに挨拶を済ませると。
「さて、本日はどのようなご用件で?」
「ご提案とお願いがあって伺いました。こちらの農園ではねずみの収穫はどのようにされていますか?」
収穫はネット等を使って人型で行っていて苦労しているという。
「実は僕、イースタンの領主になりまして……。街の復興と孤児の自立を支援しているのですが、人型になれない病気があることはご存知ですか?猫型でも勤められる仕事を探しています。収穫を猫型で出来たら効率が良いと思いませんか?」
「猫型なんてねずみが傷ついてしまう……」
「そうですよね、そこでこの魔導具『収穫用クリーンシート』を口に装着すると、立てた犬歯は食い込まず見えないシートでねずみを丸め込むので傷つけず簡単に収穫出来て、殺菌効果もある優れものなんです」
「それは良い!」
「もし、人型になれない孤児を雇い入れて貰えるなら、お試しでこのシート50枚入り一箱無料サンプルを差し上げることが出来るのですが……」
「孤児ですか……、衛生面は大丈夫なのですか?」
「孤児グループの衣食住、入浴等の衛生面もしっかり指導していますのでご安心を」
「孤児もシートも何回か仕事をして貰って、継続出来るか判断しても宜しいですか?」
「ええ、もちろんそれで構いません」
雇い入れの交渉は無事に決まった。
☆
人型が保てる魔導具が出来たので、届ける為に魔石省をお休みした。
イースタンに到着すると子猫達が口々に「ルカ様、ルカ様」と僕に近寄ってくれて幸せ過ぎて、ああ、此処は天国なのか……、僕は召されたのか……と錯覚するほどだった。復興は順調に進んでいる。
せっかくなので午後は自宅でゆっくりすることにした。
お茶を飲みながら賢者様とおしゃべりをする。
〈お前も魔力コントロールがだいぶ上達したから、そろそろ俺を実体化してみるか?〉
〈はい!やってみたいです〉
〈金の光に手の平をかざして、魔力を集中させる〉
〈はい〉
〈そろそろ魔力量も充分じゃないか〉
「偉大なる猫神様、賢き彼の者の姿を映したまえ」
金の光が集まって、大きな個体となり更に光を強く放つと金色のきつねが現れた。
「猫じゃねーじゃん」つい賢者様の口調が出てしまった。
うすうす気づいてはいたけど……。猫の妖精とか言ってたのに、全然猫じゃない。ていうか僕きつねになっちゃったの?本当嫌なんだけど。きつねって嫌な思い出しかないんだけど……。次々と不満が溢れた。
〈そんなチャラいきつねと一緒にするな!まあなんだ、実は……狐神に化かされて間違えて加護を受けちまったんだよ〉
本当に賢者なんだろうか……、そんな事あるのだろうか。
ルカは訝しげに賢者様を睨んだ。
〈まあ化けることは得意だから三毛猫の姿になってりゃいいじゃねーか。普段、俺の姿はルカにしか見えないからな。それよりそのお茶とどら焼きをくれよ!〉
あ!実体化したから食べれるんだ。……というか食べたくて実体化したんじゃないだろうか。
しぶしぶお茶とどら焼きを出すと、喜色満面の笑顔でどら焼きにかぶりつく、二足歩行でふさふさした尻尾はゆらゆら揺れている。
気落ちして水気を含んだ瞳で賢者様を一瞥する、もやもやした気分をどうにかしたくて。
〈尻尾触ってもいい?〉
〈お、おう、ちょっとだけだぞ〉
何故か少し照れる賢者様。触れて撫でてみると、見た目はふわふわなのに何だかごわごわして手触りが良くない。
〈やっぱり猫の毛並みの方が気持ちいいや……〉
〈何だよ、せっかく触らせてやったのに、もういいだろ!〉
ふぃっ、と尻尾を退けて体に巻きつけてしまった。
僕はしばし現実を受け入れるために呆然とする。
その時突然、玄関の鍵を開ける音がした。平日のこんな時間誰も来ないはずなのに誰!?
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