上 下
26 / 38

閑話★

しおりを挟む
 セオドール王子妃となって宮殿に住まうことを辞退したいと申し出ると、王位継承権を破棄するのならばと了承された。
 セオは躊躇うこともなく承諾した、本当に良かったのだろうか……。
 
 あいもかわらず、セオが建ててくれたログハウスに住んでいる。二人だと少し手狭だ。
 セオはこたつではイチャイチャ出来ないとご立腹で、なぜかこたつの周りをソファが居座っている。
 そのソファの背もたれは座面との間が開いていて、尻尾が出せる猫獣人仕様だ。

 イースタンから保護の為、連れ帰ったミルクに手作りの猫餌をあげて、夕食後ソファでまったりしながらミルクを撫でてやると気持ちいいのか頭を擦り寄せて、指を舐めたり甘噛みをする、ひさびさの猫に絶賛いやされ中だ。

「いい子だね~」と声を掛けながら、顎の下を撫でてやるとニャーアと鳴いて、もっと撫でてと言わんばかりに首を押し付けてくる。

 猫らしく過ごして欲しくて、イースタンに行った日以降、念話はしていない。
 色んな意味で僕のメンタルが崩壊しそうだからだ。 
 迷子になるといけないので従魔契約は続行している。

 さらにミルクの身体を撫でていると、食後のコーヒーを飲み終わったセオがこちらを見やって不機嫌そうに尻尾をバタンバタンと背もたれや床に当てている。不貞腐れた顔で口を尖らせながら呟く。

「そんなに猫を撫でたいなら、俺を撫でればいいだろ」

 心を落ち着かせる為に一呼吸してから諭すように、ミルクを撫でながら穏やかに伝える。

「普通の猫は、撫でてもらうことが仕事みたいなものなんだよ」

「都合の良い仕事だな」小さく吐き捨てた。

 本音を言うと、セオを撫でればビロードのような艶やかな漆黒の毛並みが気持ち良すぎて、癒されるというよりは官能的な気分になってしまうのだ。
 それを言ってしまったら、その後の報復が恐ろしくて言えずにいた。

 今なら家の中だし、言っても平気かな……。勇気を出してセオに耳打ちをした。

「あのね、……セオを撫でると毛並みが気持ち良くてエッチな気分になっちゃうから、まだ時間も早いし夜に撫でてあげるね♡」
 
 セオは少し頬を赤らめたと思ったら、すぐさま猫型になってベッド上で丸くなると「待ってる」とぼそりと呟いて目をつむる。

 え!?今、まだ夜八時だよ。……まあ機嫌が良くなって何より。



 入浴を済まして、ベッド上を見やるとセオはそのまま丸くなって猫耳と尻尾が動いている。

「お待たせ」と声をかけて、ベッドに腰掛けると、すりすりと擦り寄って来る。

「撫でろ」と言わんばかりに僕の手に頭を擦り寄せてニャーオと鳴く。
 
 あぁ……可愛い、間違いなく僕だけの猫だ。すぅーと猫吸いをするとセオの甘くて良い匂いがする。
 
 闇夜にさざめく漆黒の海のように綺麗な毛並みをそっと指先で梳くと、するりと滞りなく尻尾近くまで持っていかれるほどだ。

ーー本当に綺麗な猫ーー

 この綺麗な猫の血筋が絶えてしまうのは残念でしかたない。他人に言われたからではなく、心からそう思う。
 この国の皇族の番は正妃のみだが、側妃をとることは可能だ。

 たくさん撫でさせてもらいながら、気持ちの昂りを抑えて。

「もし、……お世継ぎが必要なら、……側妃をとっても良いよ、……平気だから」
 
 鼻にかかった声を絞り出すように一言一言告げる。

 今にも泣き出しそうな僕をみたセオは。

「全然平気じゃないじゃないか、……そういうの昔から嫌いだろ、正妃だけでいい、正妃のルカだけでいいんだ、子供が欲しければ養子だっていい」

 次から次へと溢れ出す涙を、めいっぱい背伸びをして猫型の舌で舐めとってくれた。ざらついた舌だからか、ひりついて苦笑する。



「さあ、たくさん撫でてもらったから、お返ししなきゃな」

 空気を変えるようにセオが言うと、ポンッ、と音がして人型になる、が、裸だ。

 慌てて眼を塞いだ指の隙間から見える、細めだけれど引き締まった彫刻のように美しい躯体は、何度見ても見慣れなく胸が高鳴ってしまう。

「どうせ脱ぐんだ、裸でいいだろ」

 紺青色の瞳が僕を見つめ唇を重ねると、ベッドに組み敷かれ、フィンガースナップを鳴らすと照明が消える。

 天窓のステンドグラスから溢れる月光は、揺れる二人の影を落とす。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした

たがわリウ
BL
年下騎士×賢者 異世界転移/両片想い 6年前に突然異世界にやってきたヒロナは、最初こそ戸惑ったものの、今では以前とは違う暮らしを楽しんでいた。 この世界を知るために旅をし様々な知識を蓄えた結果、ある国に賢者として仕えることに。 魔法の指導等で王子と関わるうちに、王子の警衛担当騎士、ルーフスにいつの間にか憧れを抱く。 ルーフスも不器用ながらもヒロナに同じような思いを向け、2人は少しずつ距離を縮めていく。 そんなある時、ヒロナが人攫いに巻き込まれてしまい――。

異世界のオークションで落札された俺は男娼となる

mamaマリナ
BL
 親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。  異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。  俺の異世界での男娼としてのお話。    ※Rは18です

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

異世界転移したら猫獣人の国でした〜その黒猫は僕だけの王子様〜【改訂版)

アベンチュリン
BL
 柔らかな春の日差しが、迷路の様な生垣を縫う様に降り注ぐーー 黒猫を追いかけて摑まえると、王子様がいたーー  猫獣人の国ネルザンドに異世界転移したルカは恋愛事情が異なる世界に困惑しながら、セオドール王子と繰り広げる学園ラブコメディ  R-18は★表記しています  フィクションです、猫に与えてはいけない食べ物(例:食パン)とかあります、ご注意下さい。 番外編 林間学校 更新しました 【続編】異世界転移したら猫獣人の国でした〜魔石食べたらチートになりました〜 公開しました。そちらも楽しんで頂けましたら幸いです。  初投稿です、一言でも感想頂けたら励みになります。 宜しくお願い致します。

インバーション・カース 〜異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまでの話〜

月咲やまな
BL
 ルプス王国に、王子として“孕み子(繁栄を内に孕む者)”と呼ばれる者が産まれた。孕み子は内に秘めた強大な魔力と、大いなる者からの祝福をもって国に繁栄をもたらす事が約束されている。だがその者は、同時に呪われてもいた。  呪いを克服しなければ、繁栄は訪れない。  呪いを封じ込める事が出来る者は、この世界には居ない。そう、この世界には——  アルバイトの帰り道。九十九柊也(つくもとうや)は公園でキツネみたいな姿をしたおかしな生き物を拾った。「腹が減ったから何か寄越せ」とせっつかれ、家まで連れて行き、食べ物をあげたらあげたで今度は「お礼をしてあげる」と、柊也は望まずして異世界へ飛ばされてしまった。 「無理です!能無しの僕に世界なんか救えませんって!ゲームじゃあるまいし!」  言いたい事は山の様にあれども、柊也はルプス王国の領土内にある森で助けてくれた狐耳の生えた獣人・ルナールという青年と共に、逢った事も無い王子の呪いを解除する為、時々モブキャラ化しながらも奔走することとなるのだった。  ○獣耳ありお兄さんと、異世界転移者のお話です。  ○執着系・体格差・BL作品 【R18】作品ですのでご注意下さい。 【関連作品】  『古書店の精霊』 【第7回BL小説大賞:397位】 ※2019/11/10にタイトルを『インバーション・カース』から変更しました。

だから、それは僕じゃない!〜執着イケメンから追われています〜

Shizukuru
BL
交通事故により両親と妹を失った、生き残りの青年── 柚原 叶夢(ゆずはら かなめ)大学1年生 18歳。 その事故で視力を失った叶夢が、事故の原因であるアシェルの瞳を移植された。 瞳の力により記憶を受け継ぎ、さらに魔術、錬金術の力を得てしまう。 アシェルの遺志とその力に翻弄されていく。 魔力のコントロールが上手く出来ない叶夢は、魔力暴走を度々起こす。その度に身に覚えのない別人格が現れてしまう。 アシェルの力を狙う者達から逃げる日々の中、天涯孤独の叶夢は執着系イケメンと邂逅し、愛されていく。 ◇◇お知らせ◇◇ 数ある作品の中、読んでいただきありがとうございます。 お気に入り登録下さった方々へ 最後まで読んでいただけるように頑張ります。 R18には※をつけます。

処理中です...