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ハロルド鉱山③
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僕はゴブリンの襲撃を受けながら、前世の記憶が蘇ってパニックになっていた。
僕は本当は陰キャで、ルカのような明るい生活なんて送れるはずはなかった。ルカだった人は何処に行ってしまったんだろう……。僕の代わりに陰鬱な生活を送っていたらと思うと心苦しい。そして僕の安直な考えで、こんな場所で死を遂げてしまったら……罪悪感に押しつぶされそうだ。
けれど、ルカという人生を歩めて幸せだった。家族や恋人、友人……沢山の大切な人が出来た。大好きな猫の獣人に囲まれて、僕にとって理想郷みたいな世界だった。本当にありがとう、そしてルカの人生がこのまま終わってしまったら、どんなに謝っても足りないくらいだ。
朦朧とした意識のなか、出来ることならもう一度セオに会いたいと願った。
--その刹那、首にかけているセオから貰った魔石が金色の光を放ち、僕の瞳に映るように、ふわふわと浮き上がった--
僕の一番大事な宝物、セオに貰ったこの魔石だ。
これだけは、目の前にいるゴブリンにも誰にも渡したくない…………。
咄嗟に人型に戻った僕は、魔石をチェーンから引きちぎり口の中に頬張った。
魔石はそのまま摂取すると、人体には有毒だ。わかっていたが、他の方法は思いつかなかった。このままゴブリンに殺られるくらいなら、魔石の毒で死んだ方がマシだ。
飲み込もうとすると、異物感がひどく、嗚咽を我慢して何とか食道を通った辺りで、異物感は消滅して体が金色の靄に包まれた。
その靄は、半径二メートルの円柱まで拡がり、天高く閃光を放った。
ゴブリン達は突然現れた光に慄いている。
☆
〈おい!お前!……何で石を食べたんだよ!俺がせっかく気持ちよく眠っていたのに起こしやがって!おい、聞いてんのか?〉
何処からか、けたたましい声が聞こえてくる。誰!?周りを見回しても誰もいない……。幻聴か?
すると、主張するように金色の光を放つ、小さな球体が目下に現れた!
思わず、手で掴もうとしたが掴めない。
〈お、おい!何で俺を掴もうとするんだよ……、へへ残念でしたぁ、意識体だから掴めません〉
「あの……どちら様でしょうか?」イラっとする気持ちを押さえながら伺う。
〈おぅ、よくぞ聞いてくれた。俺は賢者だ!賢者様と呼ぶがいい〉
えー、ないないない。こんな口の悪い賢者様がいる訳ないよー、賢者様と言ったら「……じゃ」とか「……よのう」とか、もっとお爺さんみたいな話し方でしょ、怪しい。胡乱げな目つきで金色の光を見た。
〈怪しいとは何だ!そんなジジイみたいな話し方できるかってんだ。石を食ったせいで、俺とお前は一心同体になっちまったんだから、言葉にしなくても考えてる事は、全部筒抜けなんだからな!…………って取り敢えず今ピンチな感じ?〉
振り返ると、先程まで慄いていたゴブリンの群れがこっちに向かってきている。
「賢者様、ど、どうしよう」
僕があたふたしていると、賢者様は「ステータス」と唱えて何やら見ている。
〈はぁ……。全くお前は……適正なし、スキルなしのないないづくしだな、よくもまあ今まで生きてこれたもんだ〉
確かに僕は今まで、アルロ村と帝都の平和な生活に慣れ、ぬるま湯に浸かっていた。一歩外に出たら、こんなに危ない場所があるなんて思ってもみなかった。
〈まあいいや、火属性だからファイア出してみ〉
え?ファイアって、生活魔法の火をつけるあのファイア?……半信半疑で、いつものように唱えた。
するとかざした僕の手の平から、半径二メートル程の火球が放ち、森の向こうまで貫いた。驚いた僕は、手のひらを何回も確認して、際限まで目を見開く。
「ちょっと!この先に人とか魔獣とかいたらどうするの?巻き込んじゃうでしょ」
〈ちゃんと魔力探知してるから大丈夫だ!その方向にはゴブリン以外何もいないから〉
ほんとかなぁ~。
〈本当だ、馬鹿野郎。ほら早く残りのゴブリンもやっちゃえよ、イメージが大事なんだ、火のイメージをさっきよりも短く、幅を広く、なるべく多くの個体を倒す、やってみろ!〉
ん~、やっぱり口が悪い、イラっとする。イメージ……短く、ゴブリン全体を包む範囲で……。
「ファイア!」
先程よりも集中的に火は放たれた。ゴブリンの群れの6割はやれたと思う。その後も賢者様のアドバイスに従って「ファイア」のみで、次々に倒していき群れを殲滅できた。
体のあちこちが打撲や骨折で痛い。賢者様の魔法属性は光魔法で、回復・治癒魔法に長けているらしい。賢者様に言われるがまま「ヒール」を何回か唱えると痛みは消えていった。
安心したら、今度は酷い腹痛に襲われる、多分魔石の毒が今頃やってきたのだろう。
「ちょっと……、トイレ」とすかさず人目につかなそうな場所で用を足す。
遠くで賢者様がぶつぶつ言っていたが、意識が朦朧として聞き取れなかった。暫くトイレとお友達をしてから、外に出て辺りを見回すと、すっかり夕暮れ時になっていた。
そそくさと、散らかしていた採取道具やゴブリンから取れた魔石や素材をマジックバックにしまい、帝都への帰路につく。
「お前!今から大事なことを言うぞ、俺が復活したことは誰にも言うな!帝都にはスパイもいるらしいからな。国外に情報が漏れたら最悪、戦争にだってなりかねないんだぞ!」
「あー、はい」
道中、饒舌多弁な賢者様を横目に、血の巡りが異常に早くなり、頭がくらくらするのを耐えながら鈍足になる。
ふらふら歩き、ついには倒れこんで気を失った。賢者様が「おい!」と何度も声をかけてくれたが返事もできなかった。
僕は本当は陰キャで、ルカのような明るい生活なんて送れるはずはなかった。ルカだった人は何処に行ってしまったんだろう……。僕の代わりに陰鬱な生活を送っていたらと思うと心苦しい。そして僕の安直な考えで、こんな場所で死を遂げてしまったら……罪悪感に押しつぶされそうだ。
けれど、ルカという人生を歩めて幸せだった。家族や恋人、友人……沢山の大切な人が出来た。大好きな猫の獣人に囲まれて、僕にとって理想郷みたいな世界だった。本当にありがとう、そしてルカの人生がこのまま終わってしまったら、どんなに謝っても足りないくらいだ。
朦朧とした意識のなか、出来ることならもう一度セオに会いたいと願った。
--その刹那、首にかけているセオから貰った魔石が金色の光を放ち、僕の瞳に映るように、ふわふわと浮き上がった--
僕の一番大事な宝物、セオに貰ったこの魔石だ。
これだけは、目の前にいるゴブリンにも誰にも渡したくない…………。
咄嗟に人型に戻った僕は、魔石をチェーンから引きちぎり口の中に頬張った。
魔石はそのまま摂取すると、人体には有毒だ。わかっていたが、他の方法は思いつかなかった。このままゴブリンに殺られるくらいなら、魔石の毒で死んだ方がマシだ。
飲み込もうとすると、異物感がひどく、嗚咽を我慢して何とか食道を通った辺りで、異物感は消滅して体が金色の靄に包まれた。
その靄は、半径二メートルの円柱まで拡がり、天高く閃光を放った。
ゴブリン達は突然現れた光に慄いている。
☆
〈おい!お前!……何で石を食べたんだよ!俺がせっかく気持ちよく眠っていたのに起こしやがって!おい、聞いてんのか?〉
何処からか、けたたましい声が聞こえてくる。誰!?周りを見回しても誰もいない……。幻聴か?
すると、主張するように金色の光を放つ、小さな球体が目下に現れた!
思わず、手で掴もうとしたが掴めない。
〈お、おい!何で俺を掴もうとするんだよ……、へへ残念でしたぁ、意識体だから掴めません〉
「あの……どちら様でしょうか?」イラっとする気持ちを押さえながら伺う。
〈おぅ、よくぞ聞いてくれた。俺は賢者だ!賢者様と呼ぶがいい〉
えー、ないないない。こんな口の悪い賢者様がいる訳ないよー、賢者様と言ったら「……じゃ」とか「……よのう」とか、もっとお爺さんみたいな話し方でしょ、怪しい。胡乱げな目つきで金色の光を見た。
〈怪しいとは何だ!そんなジジイみたいな話し方できるかってんだ。石を食ったせいで、俺とお前は一心同体になっちまったんだから、言葉にしなくても考えてる事は、全部筒抜けなんだからな!…………って取り敢えず今ピンチな感じ?〉
振り返ると、先程まで慄いていたゴブリンの群れがこっちに向かってきている。
「賢者様、ど、どうしよう」
僕があたふたしていると、賢者様は「ステータス」と唱えて何やら見ている。
〈はぁ……。全くお前は……適正なし、スキルなしのないないづくしだな、よくもまあ今まで生きてこれたもんだ〉
確かに僕は今まで、アルロ村と帝都の平和な生活に慣れ、ぬるま湯に浸かっていた。一歩外に出たら、こんなに危ない場所があるなんて思ってもみなかった。
〈まあいいや、火属性だからファイア出してみ〉
え?ファイアって、生活魔法の火をつけるあのファイア?……半信半疑で、いつものように唱えた。
するとかざした僕の手の平から、半径二メートル程の火球が放ち、森の向こうまで貫いた。驚いた僕は、手のひらを何回も確認して、際限まで目を見開く。
「ちょっと!この先に人とか魔獣とかいたらどうするの?巻き込んじゃうでしょ」
〈ちゃんと魔力探知してるから大丈夫だ!その方向にはゴブリン以外何もいないから〉
ほんとかなぁ~。
〈本当だ、馬鹿野郎。ほら早く残りのゴブリンもやっちゃえよ、イメージが大事なんだ、火のイメージをさっきよりも短く、幅を広く、なるべく多くの個体を倒す、やってみろ!〉
ん~、やっぱり口が悪い、イラっとする。イメージ……短く、ゴブリン全体を包む範囲で……。
「ファイア!」
先程よりも集中的に火は放たれた。ゴブリンの群れの6割はやれたと思う。その後も賢者様のアドバイスに従って「ファイア」のみで、次々に倒していき群れを殲滅できた。
体のあちこちが打撲や骨折で痛い。賢者様の魔法属性は光魔法で、回復・治癒魔法に長けているらしい。賢者様に言われるがまま「ヒール」を何回か唱えると痛みは消えていった。
安心したら、今度は酷い腹痛に襲われる、多分魔石の毒が今頃やってきたのだろう。
「ちょっと……、トイレ」とすかさず人目につかなそうな場所で用を足す。
遠くで賢者様がぶつぶつ言っていたが、意識が朦朧として聞き取れなかった。暫くトイレとお友達をしてから、外に出て辺りを見回すと、すっかり夕暮れ時になっていた。
そそくさと、散らかしていた採取道具やゴブリンから取れた魔石や素材をマジックバックにしまい、帝都への帰路につく。
「お前!今から大事なことを言うぞ、俺が復活したことは誰にも言うな!帝都にはスパイもいるらしいからな。国外に情報が漏れたら最悪、戦争にだってなりかねないんだぞ!」
「あー、はい」
道中、饒舌多弁な賢者様を横目に、血の巡りが異常に早くなり、頭がくらくらするのを耐えながら鈍足になる。
ふらふら歩き、ついには倒れこんで気を失った。賢者様が「おい!」と何度も声をかけてくれたが返事もできなかった。
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