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ヒネク博士
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僕にはどうしても欲しい魔道具がある、それはこたつである。
この世界で日本猫もいるからか、日本家屋の建物はたまにあるけれど、こたつだけは見つからなかった。
もうひと月も経てば一二月、この冬のミッションとしてこたつ魔道具を完成させて『ね~こは、こたつで丸くなる~』を実現したいのだ!
土台のやぐらは、木こりの父に頼んで作って貰った。
肝心なヒーターの魔法回路や温度制御やスイッチ部分は専門分野に詳しい人に聞かなくてはどうにもならない。
そこで白羽の矢が立ったのがヒネク王子だ。
殿下はオリバー先輩の二つ上の先輩で魔石部OB、ヒネク王子の数々の魔道具開発の軌跡はオリバー先輩から嫌という程聞いている。
ヒネク王子は、僕の許嫁セオドール王子の兄だ。
この国は昔から神獣国との友好が深く言い伝えがあり、皇帝は同族の他に四神獣の妃を取って子を成すと、未来永劫、国が滅びることがないと言われている。
第13王子ヒネクは蛇神獣の血が流れている。猫の血は薄いので、神獣の血が強く出るようだ。
今日はオリバー先輩とヒネク王子と三人で城下のカフェで約束をしている。
ひと足先に、待ち合わせの 茘枝茶館に着いた。朱色に彩られた外観に金文字で店名が入っている、茶館の隣は中華料理店のようだ。
遠目で見て、すぐにオリバー先輩だとわかる。隣に居るのは、多分ヒネク王子だろう、薄手のコートの中はチャイナシャツを着ている。細くスラッとしていて、身長は先輩の頭ひとつ分大きく推定百九十センチはあるだろう、モデルの様なオーラを感じさせる。店前に到着すると。
「オリバー先輩!」
「やあやあ、ルカ氏!」
二人の間を割って、ヒネク王子が。
「初めまして、きみがルカ君かい?」
近くで見ると、深碧の中に銀メッシュが入った髪色、細っそりとした目つきで、口元は口角が上がっていて、蛇らしく先端が2つに分かれた細い舌がちょろちょろと、見え隠れする。
「殿下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
緊張した面持ちで挨拶すると。
「堅苦しいのはあまり得意ではないんだ。私の事は博士と気軽に呼んでくれたまえ。……それより中国茶はお好きかな?」
表情の読めない笑顔で顔を覗かれて、耳に付いた鈴ピアスがリンッと鳴る。近くで見ると白皙の美丈夫だ。
「それではお言葉に甘えてヒネク博士とお呼びしますね。……中国茶……好きです!博士が開発された飛行船に乗った時にすごく感動してお会いできるのを楽しみにしていました」
「ああ、あれは若気の至りでやり過ぎてしまってね、ハハハ」乾いた笑いが起こる。
続きは中でと店内に入る。店内は中国茶の香りが仄かに香っていた。カウンター奥の壁には一面に茶缶が並んでいて、丸形の茶器棚が置いてある。メニューとお茶とおしぼりを店員が持ってきた。
先に出されたお茶を口にすると、薬膳茶のような少し苦手な味がした。僕は無難そうなライチ紅茶に決め、先輩は茉莉花茶、博士はプーアル茶を注文した。
お茶が運ばれて来て、お茶請けに『よりより』がついてきた、固揚げで香ばしく、程よい甘さでついつい手が伸びてしまう。
ライチ紅茶は、西洋の物より茶葉の深みがあり、ライチの甘味がほんのり香って美味しい。
「この店の隣の中華料理店はディナーも絶品でね、鼠はもちろん、ひよこ、うずら、蛙まで。私みたいな 如何物食いには堪らない店だよ」
「へぇー」
うわー、どれも口にしたくない物ばかりだと内心思いつつ、愛想笑いで諂う。
魔石鑑定スキル持ちの先輩と、付与魔術のエキスパートの博士に囲まれて、何にもない僕は少し引け目を感じてしまう。
そろそろ本題を、と先輩に目配せされる。
僕は鞄の中から、書類を取り出し博士に差し出す。
「これが博士にお願いしたい魔道具の簡単な仕様書になります」
「見せて貰おうか……」
熱心な表情で仕様書を読み始める。
「ふーん、猫型で温まる暖房器具ねぇ~」
「勿論、人型でも使用できます。ですが猫型で使用すると……真冬でも、真夏の南国のような暖かさに包まれて、気持ち良くてなかなか出られなくなります!」
言葉に熱がこもる。
「まるで使ったことがあるような口振りだね」
怜悧な眼差しを向けられる。
「た……他国の遠い親戚の家にあったので……」
たじろぎ、くぐもった声で答える、それを打ち消すかのように。
「まあいいや、私も寒いのは苦手だから、是非とも蛇型で使用してみたいね。私は設計と付与を担当すれば良いのかな?」
「はい!やぐらはもう出来てるので、ヒーターと温度調整、コントローラー等の設計と付与をお願いしたいです!」
仕様書から目を離さずに。
「温度調整……、サーモスタットかマイコンか……、んー、ちゃんとした設計書は後で出すけど、ざっと見、上質で魔力量がしっかりある魔石が必要になるけど、用意できる?」
試すように問いただされる。
「は……はい、魔石は何とかします。それで……その、設計、付与は如何程でやって頂けるのでしょうか?」
手を顎に添えて首を傾げ、鈴ピアスが、リンッと鳴る。
「んー、面白そうだから 無料でいいよ」
「いいんですか!?ありがとうございます」
顔に喜色を浮かべ、先輩を見ると、「良かったなぁ」と声をかけてくれた。
この世界で日本猫もいるからか、日本家屋の建物はたまにあるけれど、こたつだけは見つからなかった。
もうひと月も経てば一二月、この冬のミッションとしてこたつ魔道具を完成させて『ね~こは、こたつで丸くなる~』を実現したいのだ!
土台のやぐらは、木こりの父に頼んで作って貰った。
肝心なヒーターの魔法回路や温度制御やスイッチ部分は専門分野に詳しい人に聞かなくてはどうにもならない。
そこで白羽の矢が立ったのがヒネク王子だ。
殿下はオリバー先輩の二つ上の先輩で魔石部OB、ヒネク王子の数々の魔道具開発の軌跡はオリバー先輩から嫌という程聞いている。
ヒネク王子は、僕の許嫁セオドール王子の兄だ。
この国は昔から神獣国との友好が深く言い伝えがあり、皇帝は同族の他に四神獣の妃を取って子を成すと、未来永劫、国が滅びることがないと言われている。
第13王子ヒネクは蛇神獣の血が流れている。猫の血は薄いので、神獣の血が強く出るようだ。
今日はオリバー先輩とヒネク王子と三人で城下のカフェで約束をしている。
ひと足先に、待ち合わせの 茘枝茶館に着いた。朱色に彩られた外観に金文字で店名が入っている、茶館の隣は中華料理店のようだ。
遠目で見て、すぐにオリバー先輩だとわかる。隣に居るのは、多分ヒネク王子だろう、薄手のコートの中はチャイナシャツを着ている。細くスラッとしていて、身長は先輩の頭ひとつ分大きく推定百九十センチはあるだろう、モデルの様なオーラを感じさせる。店前に到着すると。
「オリバー先輩!」
「やあやあ、ルカ氏!」
二人の間を割って、ヒネク王子が。
「初めまして、きみがルカ君かい?」
近くで見ると、深碧の中に銀メッシュが入った髪色、細っそりとした目つきで、口元は口角が上がっていて、蛇らしく先端が2つに分かれた細い舌がちょろちょろと、見え隠れする。
「殿下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
緊張した面持ちで挨拶すると。
「堅苦しいのはあまり得意ではないんだ。私の事は博士と気軽に呼んでくれたまえ。……それより中国茶はお好きかな?」
表情の読めない笑顔で顔を覗かれて、耳に付いた鈴ピアスがリンッと鳴る。近くで見ると白皙の美丈夫だ。
「それではお言葉に甘えてヒネク博士とお呼びしますね。……中国茶……好きです!博士が開発された飛行船に乗った時にすごく感動してお会いできるのを楽しみにしていました」
「ああ、あれは若気の至りでやり過ぎてしまってね、ハハハ」乾いた笑いが起こる。
続きは中でと店内に入る。店内は中国茶の香りが仄かに香っていた。カウンター奥の壁には一面に茶缶が並んでいて、丸形の茶器棚が置いてある。メニューとお茶とおしぼりを店員が持ってきた。
先に出されたお茶を口にすると、薬膳茶のような少し苦手な味がした。僕は無難そうなライチ紅茶に決め、先輩は茉莉花茶、博士はプーアル茶を注文した。
お茶が運ばれて来て、お茶請けに『よりより』がついてきた、固揚げで香ばしく、程よい甘さでついつい手が伸びてしまう。
ライチ紅茶は、西洋の物より茶葉の深みがあり、ライチの甘味がほんのり香って美味しい。
「この店の隣の中華料理店はディナーも絶品でね、鼠はもちろん、ひよこ、うずら、蛙まで。私みたいな 如何物食いには堪らない店だよ」
「へぇー」
うわー、どれも口にしたくない物ばかりだと内心思いつつ、愛想笑いで諂う。
魔石鑑定スキル持ちの先輩と、付与魔術のエキスパートの博士に囲まれて、何にもない僕は少し引け目を感じてしまう。
そろそろ本題を、と先輩に目配せされる。
僕は鞄の中から、書類を取り出し博士に差し出す。
「これが博士にお願いしたい魔道具の簡単な仕様書になります」
「見せて貰おうか……」
熱心な表情で仕様書を読み始める。
「ふーん、猫型で温まる暖房器具ねぇ~」
「勿論、人型でも使用できます。ですが猫型で使用すると……真冬でも、真夏の南国のような暖かさに包まれて、気持ち良くてなかなか出られなくなります!」
言葉に熱がこもる。
「まるで使ったことがあるような口振りだね」
怜悧な眼差しを向けられる。
「た……他国の遠い親戚の家にあったので……」
たじろぎ、くぐもった声で答える、それを打ち消すかのように。
「まあいいや、私も寒いのは苦手だから、是非とも蛇型で使用してみたいね。私は設計と付与を担当すれば良いのかな?」
「はい!やぐらはもう出来てるので、ヒーターと温度調整、コントローラー等の設計と付与をお願いしたいです!」
仕様書から目を離さずに。
「温度調整……、サーモスタットかマイコンか……、んー、ちゃんとした設計書は後で出すけど、ざっと見、上質で魔力量がしっかりある魔石が必要になるけど、用意できる?」
試すように問いただされる。
「は……はい、魔石は何とかします。それで……その、設計、付与は如何程でやって頂けるのでしょうか?」
手を顎に添えて首を傾げ、鈴ピアスが、リンッと鳴る。
「んー、面白そうだから 無料でいいよ」
「いいんですか!?ありがとうございます」
顔に喜色を浮かべ、先輩を見ると、「良かったなぁ」と声をかけてくれた。
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