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第弍部ーⅤ:二人で歩く

199.日向 でーと

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「何で、紫鷹兄様とひなくんだけ、」

玄関でしおうを待ってたら、はりまが来て言う。
見送りって言ってたけど、ちがったかな。はりまも連れてきなさい、って怖い顔をした。

怖くてお腹の奥が、ちょっと震えたけど、今日はダメだよって言わないといけない。

「だって、でーと、だもん、」
「デートって何よ、」
「でーとは、好き同士が、二人でやるよ。夏休みに、町に行って、一緒におそろいを買う、って本で読んだ。好き同士は、僕としおうだから、今日は二人だけの決まり、」

はりまは小さいから知らないかも知れないけど、好き同士の夏休みの特別だよ。
デートをしたら、好き同士はもっと好きになって、夏休みの間、うんと幸せになる。本ではね、あると王子は仕事をしていてもデートを思い出して笑ったよ。さあらも同じ。夜にベッドに入った時に思い出して、きゃーって叫んで転がった。

「僕は、しおうを、きゃーって、言わせる。だから、はりまは、留守番、」

言ったら、はりまの目は釣り上がって、顔は真っ赤。
息も荒くなって、じたばた足踏みをしたから、また怒られるかも知れない。
それで僕はびっくりして、思わずうつぎの後ろに隠れたんだけど、はりまは僕には何も言わないでぷんぷんしながらどこかに行った。

「……僕、またちがった?」
「何も違いませんよ。播磨(はりま)様は、日向様と一緒に遊びたかったんでしょう。それが叶わなかったのでご機嫌を損ねられましたけれど。日向様が失敗されたわけではありませんから、ご心配なさらず、」

うつぎは、デートを楽しんで来てくださいね、って笑う。

でも、本当かな。最近僕は、できないことばかり。
今朝も、デートの日だからしおうが起きる前に勉強をしようと思ったのに、そわそわが止まらなくてできなかった。怖がりになりそうだったから、まだ寝てるしおうも起こして、また泣き虫。情けないね。うんと小さいじには分からないけど、僕と同じくらいのけまるだって、小さいはりまだって、きっとそんなことしない。

本当はデートには行かないで、朝できなかった分の勉強をしないといけないかも知れない。
そうしないと、僕はいつまでもできないままだから。

でも、行きたかった。
しおうと二人、夏休みの特別。
けまるも、はりまも、じにもなしで、僕としおうの二人だけ。

「せっかくのデートなのに、そんな顔なさらないでくださいな、」
「……僕は、わがまま、」
「我が儘なものですか。ここのところ、妃殿下のお世話も、お子様方のお世話も一生懸命に頑張っておられたじゃありませんか。妃殿下も紫樹(しじゅ)殿下も、お小遣いをくださったでしょう?ご褒美をいただいたんですから、全力で喜ばなければ、」
「ごほうび、」
「ええ、ご褒美です。日向様は良く頑張りました、」

本当はうつぎもご褒美をあげたいんだって。
でもあげられるものがなかったから、代わりに僕のおめかしを頑張りましたよ、ってうつぎは僕の髪をなでる。

「ほら、お迎えが来ましたから、悲しいことは忘れて楽しんでいらしてくださいな、」

見たら、離宮の門から馬車が入ってくる。
いつものきらきらの馬車と違う、茶色の馬車。馬もいつもの白いのじゃなくて、茶色。学院に行く時、町で見たのに似てた。
ぽかん、って見てたら扉が開いて、白と茶色の人が出てくる。

「しおう、」
「ん、お待たせ。……何で口が開いてんだ、」
「いつもと、ちがう、」
「うん?ああ、服な。庶民の服を真似て作らせたけど、どうだろ、」

しおうの服は、いつものきらきらの皇子の服じゃなくて、白と茶色。
帽子も被るから、紫色の髪も見えなくて、しおうなのにしおうじゃないみたい。

でも、少し頬を赤くして照れながら言うのが、恥ずかしい時のしおうで可愛かった。

「ちがうは、でーとだから?」
「そうだよ。阿瑠斗(あると)王子も沙安良(さあら)も、デートの時は変装したろ、」
「した、」
「俺が町をうろついてるのがバレたら大騒ぎだからな。これくらいはするよ、」
「可愛い、」

すごいね、しおう。
さっきまで僕は、お腹の中がそわそわしてて不安でいっぱいだったのに、今はもうしおうが可愛くて、そわそわはどっかに行った。

今日はデート。
可愛いしおうを僕が独り占めするんだって思ったら、体がぴょんって跳ねてうつぎの横から飛び出していく。
それをしおうが受け止めて抱っこしたら、真っ赤な顔が近くなって、お腹の中にふわふわが湧いた。

「そこは、格好いい、だろ。可愛いのはお前な。日向も服似合ってるよ、」
「うつぎが、上手にやった。でも、印がない、」
「俺の印?裏地についてるって聞いたけど、」
「街で、みんなに見せたかった、のに、」
「お前が俺のって?」
「うん、」

町には人がいっぱいいるでしょ。
だから、ちゃんと印を見せて、僕はしおうのだよ、いいでしょ、って自慢したかった。けど、仕方ない。
だって、デートだから。
お忍びで、誰にも見つからないで、夏休みにこっそり二人で出かけるのが、デート。

そう言ったら、しおうはもっと真っ赤になって、頭を僕の肩にぐりぐり押し付けた。抱っこする手もぎゅうぎゅうって強くなって、しおうが照れてるのがわかる。
ほら、やっぱり可愛いはしおう。

「お前な、まだ町にも出てないのに落とすなよ。……そんな心配しなくたって、誰が見ても日向と俺は一つだってわかるよ、」
「本当?」
「俺とお前の服、同じ色って分かる?」
「白と茶色、」
「阿瑠斗王子も、沙安良と同じ色の服を選んだろ、」
「うん、」
「そういうのは、世間では好き同士しかやらない決まりだ。逆を言えば、今の俺と日向は誰が見ても好き同士って格好をしてるわけ。お前じゃないと、こんな恥ずかしいことしないからな、」

本当?ってうつぎを見たら、うん、っていい笑顔で頷く。
玄関を守る騎士も、見送りに来てた草も、そうだよ、って言った。

侍女の服も、騎士の服もお揃いだけど、それは制服だから。
制服じゃないお揃いは、好き同士が、好き同士の印につけるんだよって。

だから、しおうと僕が好き同士は、誰が見ても分かる。

「あはっ、」

ふわふわが一気に広がって体が跳ねた。

「でーとって、すごいね!」
「まだ馬車にも乗ってないのに?」
「うん!乗ったら、もっとすごい!早く行こ!みんなに、僕の、って自慢する、」
「……お忍びの意味、分かってるか?」
「わかる!しおうって皆に、わかったら困る。でも、僕の!は自慢できる!おそろいは僕の印!誰にもあげない!」
「すごい独占欲だなあ、」
「うん!ひとりじめ!」

しおうは、はーってため息をついたけど、ぎゅって抱きしめた後で僕の頭にちゅうをした。それから、そうだな、って笑って僕を馬車に連れていく。

本の中で、あると王子もさあらを迎えに行ったね。
茶色の服を着て、茶色の馬車に乗って、あると王子とさあらの二人だけで町に出かけて行った。

僕も同じ。
茶色の服を着て、茶色の馬車に乗って、しおうと僕の二人だけで町に出かけていく。

素敵なデートを、って玄関の前でみんなが見送ったら、しおうは馬車に乗った後も真っ赤なままだった。その顔が可愛くてじっと見てたら、もっと真っ赤になってうんと可愛くなる。

「でーとが終わったら、しおうは、きゃー、って言うね、」
「何でお前は、俺の方が沙安良になると思ってんの、」
「言わない?」
「きゃーとは言わないけど、思い出して悶えはするだろうな。お前はしないの、」
「僕は、思い出したら、ニヤニヤする、」

俺だって、ってしおうはまた僕の肩に頭をぐりぐりした。
それをやると、可愛い顔が見えなくなるから嫌なんだよ。
でも、今日はもっと可愛いしおうが見られる気がしたから、我慢する。

馬車がぽくぽく走ってく間、デートのおさらいをした。
しおうは、本を持ってきたのかって驚いてたけど、一緒に覗いて、出迎えは完璧だっただろう?って笑う。
今日はもっと完璧にするんだって。本よりもっともっと幸せにしてやるから覚悟しろよ、って僕の白と茶色のお腹を撫でながら言った。

しばらく走って馬車が止まる。
窓の外に町が見えたから、僕は今すぐ飛び出して自慢がしたかった。でも、跳ねるのを押さえたしおうに帽子を被せられて、外で外さないことと、必ず手を繋ぐことを約束させられた。

大丈夫。
しおうと手を繋いで歩いて、自慢する。

そう言ったら、しおうは笑って自分の帽子を被った。紫色の髪が見えなくて残念だけど、顔がよく見えるから、いいね。

出ていいよ、って御者をやってたらくだが言う。
それから、僕を馬車の中に残して、しおうは一人で降りてった。
いつもは抱っこで降りるけど、今日は違う?って見てたら、馬車の外でくるりって振り返ったしおうが、手を伸ばしてにかって笑う。


「おいで、日向。デートの始まりだ、」


ちょっと照れた顔がうんと可愛くて、僕はまた体が跳ねたよ。


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感想 44

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みんなの感想(44件)

トマト
2024.11.22 トマト

投票させて頂きました!
傷つき、悲しみながら難を乗り越えていく過程が丁寧に描かれていて、大好きです。
更新楽しみにしています!

解除
yui
2024.11.14 yui

日向も紫鷹もかわいい!
菫子さまも素敵すぎます。
それに他の登場人物も魅力的な人ばかりで、最近こちらのお話を読むのが本当に楽しみです!
みんなが笑顔でいられますように。

解除
mogu
2024.11.01 mogu

でーと…可愛い…可愛い…!

解除

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