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第弐部-Ⅳ:尼嶺

167.日向 真夜中の奮闘

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うんうん唸る声がして目を開いたら、お腹の下でしおうが唸ってた。
僕がお腹でしおうの顔をつぶしたから、苦しかったみたい。
どいたらすーって顔が楽になって、赤ちゃんみたいにむにゃむにゃ眠る。


いるね。しおういる。
指輪もちゃんとある。


昨日、指輪は壊れたけど、ひぐれが直して大丈夫だった。
指輪は壊れるけど、直る。
指輪が壊れても約束はなくならない。

でも、僕は分からなくてまた泣いた。
泣いて、みんなを困らせて、午後の仕事も、あじろの挨拶にしおうがついてく約束も全部ダメにした。
悔しい。

だから、しばらくしおうの顔を眺めて指輪をコロコロしたら、ベッドから降りて寝室を出た。

昨日できなかった分、僕は頑張らないといけない。
はぎなとなかつのと魔法の仮説をやる約束をやぶったから、今日はちゃんとやろう。
あじろの約束をダメにしたのは、どうしたらいいかな。ごめんね、って言って、それから研究を手伝ったら許してくれるかな。
みんなを困らせたのは、どうしよう。僕ができることは少ないから、困らせないくらいしか思いつかないけど、……とにかく泣くのはお終いにしよう。

外はまだ暗くてホーホーが鳴いてるから、仕事の準備をするには早かった。
でも箪笥を開けて、仕事の服を出して、頑張るを忘れないように出しておく。

仕事の服はね、隼と菫の印がついてるよ。
半色乃宮(はしたいろのみや)の印。
離宮で働く人は、みんな襟の所に同じ印の記章をつけてる。草もいつもは隠してるけど、見えないところにつけてるんだって。

しおうと、すみれこさまが、仕事してね、ってお願いした印。
魔法の研究を頼む、ってしおうが言ったから、僕の服にも印をつけた。
だから、この印を見たら、頑張らなきゃ、って気持ちがむくむく沸く。


頑張ろう。

しおうもあじろも約束を守った。
守らないは、いつも僕だけ。
それももうお終い。


印が見えるようにソファにおいて、勉強することにした。
さなえよりもあじろと上手に話せるように、生き物をやる。
昨日は新翅類(しんしるい)を終わったから、今日は旧翅類(きゅうしるい)。ばったもちょうもかまきりも新翅類だけど、とんぼとかげろうは旧翅類。
僕は、虫がこんなにいるも初めてわかったし、学者がいっぱい研究して、決まりをつくって分類したも、あじろに教えてもらって初めて知った。

最近は、しんかもあるって聞いたよ。
僕もあじろも虫も、昔は同じだったんだって。
何が同じか僕はまだ分からないけど、しんかを勉強したら面白いってあじろが言うから、分かるように勉強するって決めた。

あじろよりさなえと話せるように、植物もやる。
わかばともえぎとりくに負けないくらい、魚も釣り具もいろんなことも勉強しないといけないから、時間が足りなくて大変。

でも、印を見たら頑張れる気がした。




なのに何でかな。

急にお腹がそわそわし出して、座って図鑑を読むができなくなる。
歩いて読んだらいいかな、って思ったけど、図鑑は重くて、持ったまま歩くはできなかった。
仕方ないから、そわそわが落ち着くまで部屋の中を歩いてみることにする。

だけど、そわそわが消えない。
消えないだけじゃなくて、汗も出てきてお腹の中が寒い気がしてきた。見たら、手が震えてる。

また僕の怖がりが出た。
僕は離宮にいて、怖いものなんてどこにもないのに、僕のお腹は勝手にそわそわする。
昨日もまちがえた。
指輪は直るし、約束もなくならないのに、かん違いして怖がって、泣いて、全部ダメにした。

何にも怖くない。
そわそわは、僕のまちがい。
まちがいで泣いたら、またみんなを困らせる。
もう泣かない。

だから、お腹の中のそわそわを失くしたくて、もっと歩いた。
でもなくならない。

「しおう、」

しおうにぎゅうってしたら、きっと安心する。
そう思ったから、寝室に行ってみたけど、むにゃむにゃ眠るしおうの顔を見たら、起こしたくなかった。
本当は、しおうを起こしてぎゅうとちゅうが欲しいけど、そしたらまた僕は泣く。今もしおうの顔を見ただけでちょっと安心して、目が熱くなった。もしぎゅうってしたら、我慢できない。

頑張るって決めた。
僕は頑張る。
一人でできる。

しおうの抱っこは我慢する代わりに、うさぎの人形を抱っこして寝室を出た。ちょっとだけ安心。
でもやっぱりそわそわするから、部屋の中をくるくる回る。

何でかな。
何で僕はいつも怖がる。

お腹の中がそわそわしたら、いつも目の前が暗くなって、蔵の中にいる気がした。
蔵じゃないのに、勝手に蔵に戻って、周りの音も気配も全部怖くなる。
座ってたら、急にもちづきが来て、じっけんするかもしれない。
隠れないと、さくやに見つかっていっぱい痛くなる。
あの扉が開いて、かげろうが来たらどうしよう。きっと笑って叩いて、僕がボロボロになるまで遊ぶ。
それで、もういらないね、っておぼろが捨てる。

ちがう。
ここは離宮で、おぼろも誰もいない。
分かるのに、何で僕はいつもまちがえる。

指輪は直った。
直らないは僕のかん違い。
約束がなくなるも、僕がまちがえただけ。
怖いも、そわそわも全部ちがう。

そう思ったのに、いつまでもそわそわがなくならなくて、僕は部屋の中をくるくる歩いた。


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