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第弐部-Ⅳ:尼嶺
156.日向 僕の親友
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あじろが来た。
僕の友だち。初めての友だち。
一番の友だち。
「……何ですか、ひー様、」
あじろを部屋に案内して、みんなでお茶会をしたら、二人で裏庭に行った。
虫を全部さがす約束だから、一緒に草の中をうろうろする。
でも、真剣になって声が聞こえなくなったら、あじろがいるかな、ってちょっと不安になった。だから、あじろのとこに行って、あじろがいるのを確かめた。
いた、あじろがいた。
でもやっぱり、またいなくなったら困るから、じーって見る。
そしたら、あじろは、だんだん顔が赤くなって困った顔になった。
眼鏡の奥で、青紫色の目が、きょろきょろする。
「あじろ、ちゃんと、いる、ね、」
「いますよ。…あの、本当に時間がかかって、すみませんでした、」
あじろは、持ち上げた石を置いて、草の中で、僕の前に座る。
ちょこんって正座になったから、僕もあじろの前で一緒に座った。
夏までにくるよ、ってあじろは言ったけど、いつの間にか夏になったね。ミーンミーンってせみが鳴いて、うんと暑くて、いっぱい汗が出る。
あじろも、僕とおそろいの麦わら帽子をかぶって、いっぱい汗をかいた。
「あじろは、いっぱい頑張ったって、すみれこさまが言ったよ、」
あじろは、羅郷に帰ったらすぐに父上と母上に帝国に留学したいって、言ったんだって。二人はびっくりして、いいよ、って言ったけど、あじろは王子だから、やることがいっぱいあった。
本当は、あじろは王子が嫌で、やりたくなかったけど。
留学するためだからって、いっぱいいっぱい頑張って王子をやった。
だからかな、お茶会であじろがしおうとすみれこさまと話すとき、ちょっとちがった。
しおうが皇子の顔をする時に似てる。
あじろも王子の顔。羅郷の王子。
あじろは、しおうとしゃべる時、目を見なかったのに、真っ直ぐ見たよ。
すみれこさまと話す時、すぐに言葉が出なかったのに、はきはきしゃべって、僕はびっくりした。
前は何でもしろとに聞いたのに、今日はあじろがしろとに指示をだしたから、それもびっくり。
あじろは頑張った。
うんと頑張った。
「あじろが、頑張ったは、僕のため?」
「ひ、ひー様と約束しました、から、」
「じゃあ、ごめんは、いらない。あじろが来て、僕は、うれしい、」
「ぼ、僕も、会いたかったです、」
青紫の目が、ふにゃって笑う。
ふしぎ。
ぽかぽかして、ふわふわして、しおうとは別の安心が僕を包む。
友だちだから?
うれしくて笑ったら、あじろももっと笑って、僕はうんとふわふわになった。
それからまた二人で虫を探したよ。
あじろは、かまきりと、ばったと、こおろぎを見つけた。
僕は、ばったと、とんぼ。かめむしも見つけたけど、また臭くなるのは困るってあずまに叱られたから、つかまえなかった。
草のところにせみの抜け殻も見つけた。
茶色でカサカサなのに、せみの形をしていて僕はびっくりした。
僕が初めて見たって言ったら、あじろはそれからあちこちで抜け殻を見つけたから、僕も一緒にいっぱい集める。
最初は力加減がうまくいかなくてつぶれて悲しかったけど、あじろが、こうだよ、って教えたら、だんだんとるが上手になった。
服にくっつけたらずっとくっついてるが面白い。
見つけるたびくっつけていったら、服が抜け殻だらけになってかっこよかった。
「……また、おかしな遊びを始めたな、」
僕の服にも帽子にも抜け殻がいっぱいになった頃、しおうが来る。
「しおう!見て、ぬけがら!かっこいい!」
「たくさん見つけましたよ!見てください!クマゼミに、ミンミンゼミ、ヒグラシ、アブラゼミ、勢ぞろいです!」
「うわぁ…、」
僕とあじろが、服にも帽子にもせみの抜け殻をつけて自慢したら、しおうは怖がって変な顔になる。抜け殻は、せみだけど、せみはいないのに、やっぱりしおうは怖いみたい。変なの。
他には何を見つけたんだ、って言うから虫かごを見せたら、すごいな、って褒めたけど、やっぱり変な顔して怖がった。可愛い。
「そろそろ休憩な。遊び過ぎだ、」
「まだ、だいじょぶ。もっと遊ぶ、」
「晩餐会の支度があるだろ。忘れたか、」
そうだった。
あじろの歓迎の晩餐会をやる約束。
しろとも迎えに来たから、あじろも思い出したみたい。
じゃあ、仕方ないね、って部屋に帰ろうとしたら、僕は抜け殻だらけで、しおうは抱っこができなかった。
怖いからかな?って思ったら、抱っこしたら抜け殻がつぶれるからだって。
僕はみずちとうつぎにも見せたかったから、つぶれたら困る。なるほど。
しおうはやっぱり抜け殻が怖かったから、あじろとあずまが2人で僕の服から抜け殻をとった。
その間、僕はあじろの服から抜け殻をとって、帽子につけたり、髪につけたりする。
「あはっ、」
「ふふふ、」
だんだん可笑しくなって笑ったら、あじろも笑った。
2人で笑ってたら、どんどん可笑しくなって、僕は大笑いする。
嬉しくて嬉しくて、あじろをぎゅうってしたかったけど、あじろはまだ抜け殻がいっぱいついてたからできなかった。つぶれたら困る。
「しおう、抱っこ、」
「ん。おいで、」
あじろにぎゅうってできない分、しおうにした。
しおうは、汗だくだなあ、って言ったけど、僕に負けないくらいぎゅうってしたから、僕はふわふわする。
それを見て、あじろはちょっと顔が赤くなったけど、まだ嬉しそうに笑ってた。僕もずっと嬉しくて、部屋に帰る間もずっと笑った。
あじろがいるね。
しおうもいる。
あずまもいて、しろともいる。
部屋に帰ったら、みずちもうつぎもいて、いっぱい遊びましたね、って笑った。
ふわふわして、ぽかぽかして、うんとしあわせ。
僕の友だち。初めての友だち。
一番の友だち。
「……何ですか、ひー様、」
あじろを部屋に案内して、みんなでお茶会をしたら、二人で裏庭に行った。
虫を全部さがす約束だから、一緒に草の中をうろうろする。
でも、真剣になって声が聞こえなくなったら、あじろがいるかな、ってちょっと不安になった。だから、あじろのとこに行って、あじろがいるのを確かめた。
いた、あじろがいた。
でもやっぱり、またいなくなったら困るから、じーって見る。
そしたら、あじろは、だんだん顔が赤くなって困った顔になった。
眼鏡の奥で、青紫色の目が、きょろきょろする。
「あじろ、ちゃんと、いる、ね、」
「いますよ。…あの、本当に時間がかかって、すみませんでした、」
あじろは、持ち上げた石を置いて、草の中で、僕の前に座る。
ちょこんって正座になったから、僕もあじろの前で一緒に座った。
夏までにくるよ、ってあじろは言ったけど、いつの間にか夏になったね。ミーンミーンってせみが鳴いて、うんと暑くて、いっぱい汗が出る。
あじろも、僕とおそろいの麦わら帽子をかぶって、いっぱい汗をかいた。
「あじろは、いっぱい頑張ったって、すみれこさまが言ったよ、」
あじろは、羅郷に帰ったらすぐに父上と母上に帝国に留学したいって、言ったんだって。二人はびっくりして、いいよ、って言ったけど、あじろは王子だから、やることがいっぱいあった。
本当は、あじろは王子が嫌で、やりたくなかったけど。
留学するためだからって、いっぱいいっぱい頑張って王子をやった。
だからかな、お茶会であじろがしおうとすみれこさまと話すとき、ちょっとちがった。
しおうが皇子の顔をする時に似てる。
あじろも王子の顔。羅郷の王子。
あじろは、しおうとしゃべる時、目を見なかったのに、真っ直ぐ見たよ。
すみれこさまと話す時、すぐに言葉が出なかったのに、はきはきしゃべって、僕はびっくりした。
前は何でもしろとに聞いたのに、今日はあじろがしろとに指示をだしたから、それもびっくり。
あじろは頑張った。
うんと頑張った。
「あじろが、頑張ったは、僕のため?」
「ひ、ひー様と約束しました、から、」
「じゃあ、ごめんは、いらない。あじろが来て、僕は、うれしい、」
「ぼ、僕も、会いたかったです、」
青紫の目が、ふにゃって笑う。
ふしぎ。
ぽかぽかして、ふわふわして、しおうとは別の安心が僕を包む。
友だちだから?
うれしくて笑ったら、あじろももっと笑って、僕はうんとふわふわになった。
それからまた二人で虫を探したよ。
あじろは、かまきりと、ばったと、こおろぎを見つけた。
僕は、ばったと、とんぼ。かめむしも見つけたけど、また臭くなるのは困るってあずまに叱られたから、つかまえなかった。
草のところにせみの抜け殻も見つけた。
茶色でカサカサなのに、せみの形をしていて僕はびっくりした。
僕が初めて見たって言ったら、あじろはそれからあちこちで抜け殻を見つけたから、僕も一緒にいっぱい集める。
最初は力加減がうまくいかなくてつぶれて悲しかったけど、あじろが、こうだよ、って教えたら、だんだんとるが上手になった。
服にくっつけたらずっとくっついてるが面白い。
見つけるたびくっつけていったら、服が抜け殻だらけになってかっこよかった。
「……また、おかしな遊びを始めたな、」
僕の服にも帽子にも抜け殻がいっぱいになった頃、しおうが来る。
「しおう!見て、ぬけがら!かっこいい!」
「たくさん見つけましたよ!見てください!クマゼミに、ミンミンゼミ、ヒグラシ、アブラゼミ、勢ぞろいです!」
「うわぁ…、」
僕とあじろが、服にも帽子にもせみの抜け殻をつけて自慢したら、しおうは怖がって変な顔になる。抜け殻は、せみだけど、せみはいないのに、やっぱりしおうは怖いみたい。変なの。
他には何を見つけたんだ、って言うから虫かごを見せたら、すごいな、って褒めたけど、やっぱり変な顔して怖がった。可愛い。
「そろそろ休憩な。遊び過ぎだ、」
「まだ、だいじょぶ。もっと遊ぶ、」
「晩餐会の支度があるだろ。忘れたか、」
そうだった。
あじろの歓迎の晩餐会をやる約束。
しろとも迎えに来たから、あじろも思い出したみたい。
じゃあ、仕方ないね、って部屋に帰ろうとしたら、僕は抜け殻だらけで、しおうは抱っこができなかった。
怖いからかな?って思ったら、抱っこしたら抜け殻がつぶれるからだって。
僕はみずちとうつぎにも見せたかったから、つぶれたら困る。なるほど。
しおうはやっぱり抜け殻が怖かったから、あじろとあずまが2人で僕の服から抜け殻をとった。
その間、僕はあじろの服から抜け殻をとって、帽子につけたり、髪につけたりする。
「あはっ、」
「ふふふ、」
だんだん可笑しくなって笑ったら、あじろも笑った。
2人で笑ってたら、どんどん可笑しくなって、僕は大笑いする。
嬉しくて嬉しくて、あじろをぎゅうってしたかったけど、あじろはまだ抜け殻がいっぱいついてたからできなかった。つぶれたら困る。
「しおう、抱っこ、」
「ん。おいで、」
あじろにぎゅうってできない分、しおうにした。
しおうは、汗だくだなあ、って言ったけど、僕に負けないくらいぎゅうってしたから、僕はふわふわする。
それを見て、あじろはちょっと顔が赤くなったけど、まだ嬉しそうに笑ってた。僕もずっと嬉しくて、部屋に帰る間もずっと笑った。
あじろがいるね。
しおうもいる。
あずまもいて、しろともいる。
部屋に帰ったら、みずちもうつぎもいて、いっぱい遊びましたね、って笑った。
ふわふわして、ぽかぽかして、うんとしあわせ。
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