152 / 200
第弐部-Ⅲ:自覚
150.日向 しおうの印
しおりを挟む
また出た。
白くて苦いきたないやつ。
目が覚めてあれを見た時、僕は絶望した。
ベッドの上に座るのに、ずっとずっと深いとこに落ちる気がして、嫌になる。
僕がいなくなればいいのに。
どこかに行けばいいのに。
全部なくなって、消えればいいのに。
そしたら魔法が、行こうか、って言う。
でも、僕はしおうといたかった。
体はいらないけど、心はずっとしおうがいい。
心と体がバラバラになればいいのに、って思ったけどならない。
だから、体を使ってしおうを起こした。
起きたらしおうは、僕をぎゅうってして「偉かったな、」って笑う。
「……何が、」
「どこにも行かないで、ちゃんと俺を起こしただろう。偉いよ、」
「……しおう、の、」
「うん、俺のだな、」
しばらくぎゅうってしたら、 しおうは僕の頭にちゅうをして、鈴を鳴らした。
すぐにうつぎが来て、僕をお風呂に連れてく。
お風呂の椅子に座って、うつぎがボタンを外したら、また落ちる感じがした。
お風呂に来たら、いつもそう。
僕はお風呂のタイルを通り抜けて、一階の床も抜けて、地面も抜けて、うんと暗い真っ暗なところに行こうとする。
おぐりが、僕は身体像が壊れちゃったんだって、言った。
おぐりにも、しおうにも、うつぎにもみんな、自分の中に「自分の体はこうだ、」って像があるんだって。
「僕の体はこうだ、」は、僕の一部になって「僕はこうだ、」になるって教えた。
普段は自分でも気づかないけど、心か魂の深いところにあって、生きるためにすごく大事なんだって。
でも僕の中の「僕の体はこうだ、」は壊れた。
白いののせい。
身体像と本当の体がかいりしたら、僕は僕の体が、僕のじゃなくなる。
そしたら、僕は僕じゃなくなって、全部いらなくなった。
どこかに行きたいのも、落ちるのも、僕が全部いらなくなったから。
「日向様、」
うつぎがうんと優しく呼ぶのに、遠くなるのもそのせい。
お風呂はいつもそう。
湯気でうつぎの顔がぼんやりするみたいに、音も声も全部ぼんやりした。
でも、今日のうつぎはちょっとちがう。
「何ですか、これ、」
急に声が大きくなって、僕の体はびっくりした。
びっくりしたら、ぼんやりしてたうつぎの顔がちゃんと見えるようになる。
そしたら、うつぎがすごく怖い顔になって、怒ってた。
「うつぎ、」
「…殿下ですか、」
「なあに、」
「殿下以外にこういう無体を働く方はおられませんけど、」
「しおう?」
「随分賑やかだと思ったら…!」
うつぎの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったり、ころころ変わる。
うつぎはいつも静かで、笑うも怒るも少ないから、またびっくり。
僕がびっくりしてる間に、うつぎは僕を脱がせて洗って、あっという間にタオルでぐるぐる巻きにした。
あんまり早いから、僕は何がなんだかわからなくて、うつぎの手の中でころころ転がるだけ。
わーって、頭の中で声をあげている内に、うつぎに抱っこされてしおうのとこに連れてかれた。
「何だ、早いな、」
着替えてる途中のしおうと、手伝ってたやまとが、うつぎと僕を見て目をまん丸にする。
「どういうことでしょう、殿下、」
「え、何、」
「日向様のお体に、何をされました、」
「え、は、……あ、」
今度は、しおうの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったりする番。
ちょっと遅れて、やまとも顔色が変わる。何で?
「え…、殿下、まさか、」
「いやいやいやいや!待て、弥間戸(やまと)。流石に最後まではしてない!」
「当たり前ですよ。正式な婚約も済んでいないのにそんなことになれば、国際問題です!」
「流石に俺も理解してるって…。と言うか、口付けを強請ってきたのは日向の方だよ、」
「まだお分かりにならないんだから、それを諌めるのも、殿下のお役目でしょう、」
「一応、止めたんだって!ちょっと調子に乗ったのは悪かったけど…、」
「…ちょっとと言う量じゃありませんでしたけど、」
うつぎははーって、大きくため息を吐いて、僕をしおうに渡す。
なあに、ってしおうを見たら、 しおうはぐるぐる巻きのタオルをずらして首のとこを覗いた。
そしたらどんどん真っ赤になって、僕をぎゅうってする。
「…大分、調子に乗りました、ごめん、」
耳まで真っ赤で、可愛かった。
僕の大好きなしおう。
胸がドキドキして、嬉しくなる。
ぼんやりがなくなって、目が覚めた。
「しおう、可愛い、」
「日向様、今はダメです。日向様も叱られてください、」
「僕も?」
「まだお分かりにならないかも知れませんけど、一度きちんとお話ししておく必要があります、」
うつぎが、お座りなさい、って言ったら、 しおうは真っ赤な顔のままベッドに座る。
僕はぐるぐる巻きで動けなかったから、しおうに抱っこされたまま。
ちゅうはいいけど、つつしみをもちなさい、ってうつぎは言った。
体に触るのは、二人がちゃんとわかって、いいよ、って二人ともりょうしょうした時だけだよ、ってやまとも言う。僕が、いいよ、って言ってもしおうが、いいよ、って言わなかったら我慢するんだよ、って叱られた。
それから、しおうと僕は皇子と王子だから、まぐわうは順序が大事なんだって。
叱られる間、しおうは真っ赤になりすぎて汗がいっぱい出た。
「へ、平気か、日向、」
真っ赤な顔のまま、しおうが心配になったは、体の話だから?
どこかに行きたいも、落ちるもずっとあるけど、大丈夫。
しおうの顔が可愛くて僕はずっとしおうを見たかったし、しおうがぎゅうってするから安心した。しおうがいたら、大丈夫。
「僕、まぐわう?」
「ひっ、」
「日向様…、そう言うことを仰るのも良くありません、」
うつぎとやまとは、ちゅうもまぐわうも話したのに僕はダメが、混乱した。
分からない、って言ったらうつぎは少し困った顔になったけど、真剣な顔で教える。
「情交は、日向様と殿下お二人だけの大事な秘密です、」
「ひみつ、」
「ええ、ですから他の者の前で詳らかに話して良いものではないんですよ。分かりますか?」
「ひみつは、ないしょの約束、」
「ええ、そうです。私は大人ですから、日向様が分からずに良くないことをされたり、お話しされた時には、いけないとお伝えするために口にします。でも本来は殿下とお二人だけで大切にされるものです、」
「分かった、」
ひみつ。
しおうと僕のひみつが、何だかふわふわした。
いいね、ってしおうを見たら真っ赤だけど優しい顔で僕の頭をなでる。
「うつぎが、怒ったは、何?」
「……俺が調子に乗ったからだよ、」
「ちょうし、」
「…………なあ、これ説明しないとダメ?拷問なんだけど、」
「遠回しな言い方ではお分かりにならないと思いますが、」
「そうなんだけどさあ、」
しおうの眉が下がって、泣きそうになる。
そう言えば、やまともしおうは赤ちゃんになる時があるって言ったね。すみれこさまとやまとに赤ちゃんになるしおうが、僕は好き。
しおうの可愛い顔をじっと見てたら、しおうはへにゃへにゃになって僕を見た後、額に口づけをした。
それから、ぐるぐる巻きのタオルを引っ張って教える。
「…日向に俺の印をつけたの。こういうのは、正式に婚約が済むまでは我慢するつもりだったのに、口づけを許されたら嬉しくで無理だった。ごめん、」
「しるし、」
しおうは、見たくなかったら見なくていいよ、って言った。
僕はお風呂も着替えも、体を見るが嫌だったから。
でも見たよ。
胸のところに赤い印がいっこ、にこ、さんこ、よんこ。
見えないけど、首のとこにもあるって、しおうが言う。
しおうが、ごめんな、って言って、うつぎが何か叱った気がする。やまとも。
でも僕は全部聞こえなくて、ずっと印を見てた。
印。
しおうがつけた。
赤い印。
しおうの印。
印からポカポカが広がって、体中がふわふわになる。
ドキドキするから、ときめくかもしれない。
落ちる、がどんどん小さくなる。
魔法は何回も、おいで、って言うけど聞こえなくなってきた。
どこかに行きたいが、わからなくなる。
びっくり。
「いる、に、なった、みたい」
「日向?」
赤い印を見たまま言ったら、しおうが驚く。
顔を上げたら、まん丸になった紫色が僕を見てた。
しおう、僕のしおう。
「しおうの、印。いる、になった。僕は、いらなかった、のに。しおうが、印、したら、いるに、なった!」
「何の話、」
「しおう、ぎゅうってしたい、」
「え、あ、はい、」
ぎゅうってしたいのに、僕はタオルでぐるぐる巻きだから動けない。
代わりにしおうがぎゅうってして、僕を包む。
しおうが印をつけた僕の体。
「え…っと。俺の印があるのが、いいってこと?」
「うん、」
「印があれば、日向は自分の体を大事にできる?」
「うん、」
「………マジか、」
ぎゅうって、しおうの腕が強くなって、胸のポカポカも体のふわふわも、うんとうんとたくさんになった。
すごいね、しおう。
しおうはいつも、僕を、いるにする。
白いのがある体は、いらないけど。
しおうの印がある体は、いるになったよ。
「うつぎ、」
「…はい、」
「印、しおうがくれた。僕、いるになった。印が、僕は、いる、」
「……そうですか、」
「怒らない?」
「…………………善処します。よろしくないと判断した時には、お叱りいたしますが、」
「わかった、」
うつぎは少し怖い顔をした後、驚いた顔をして、いつもの静かな顔になる。
僕を心配して怒ったのに、ごめんね。
「印、さわりたい、」
「……日向、悪いけど今は我慢して。俺の心臓がはち切れそう、」
「がまん、」
手を胸に伸ばしたいのに、タオルがぐるぐる巻き。
ぐるぐる巻きの僕をぎゅうってしたまま、しおうはまたどんどん真っ赤になって、うんと可愛くなった。
「しおう、」
「……何、」
「僕、いる。しおうの、だから、いる、」
「うん、俺も要るよ。……要るけど、ちょっと黙ってくれ。色々まずいから、」
「わかった、」
しおうの腕の中で、しおうが落ち着くを待った。
その間、僕は落ちると、どこかに行きたいを探したけど、よくわからない。
魔法は、おいで、って何度も言うから、あるのかもしれないけど、わからないくらい、うんと遠くにいなくなった。
代わりに僕の中に、ふわふわと、いると、ほしい、がいっぱい。
しおうが落ちついて、僕を離したら、鏡で僕の体を見た。
赤い印がいっぱい。
しおうの印。
しおうがつけた。
僕を、いる、にした。
白くて苦いきたないやつ。
目が覚めてあれを見た時、僕は絶望した。
ベッドの上に座るのに、ずっとずっと深いとこに落ちる気がして、嫌になる。
僕がいなくなればいいのに。
どこかに行けばいいのに。
全部なくなって、消えればいいのに。
そしたら魔法が、行こうか、って言う。
でも、僕はしおうといたかった。
体はいらないけど、心はずっとしおうがいい。
心と体がバラバラになればいいのに、って思ったけどならない。
だから、体を使ってしおうを起こした。
起きたらしおうは、僕をぎゅうってして「偉かったな、」って笑う。
「……何が、」
「どこにも行かないで、ちゃんと俺を起こしただろう。偉いよ、」
「……しおう、の、」
「うん、俺のだな、」
しばらくぎゅうってしたら、 しおうは僕の頭にちゅうをして、鈴を鳴らした。
すぐにうつぎが来て、僕をお風呂に連れてく。
お風呂の椅子に座って、うつぎがボタンを外したら、また落ちる感じがした。
お風呂に来たら、いつもそう。
僕はお風呂のタイルを通り抜けて、一階の床も抜けて、地面も抜けて、うんと暗い真っ暗なところに行こうとする。
おぐりが、僕は身体像が壊れちゃったんだって、言った。
おぐりにも、しおうにも、うつぎにもみんな、自分の中に「自分の体はこうだ、」って像があるんだって。
「僕の体はこうだ、」は、僕の一部になって「僕はこうだ、」になるって教えた。
普段は自分でも気づかないけど、心か魂の深いところにあって、生きるためにすごく大事なんだって。
でも僕の中の「僕の体はこうだ、」は壊れた。
白いののせい。
身体像と本当の体がかいりしたら、僕は僕の体が、僕のじゃなくなる。
そしたら、僕は僕じゃなくなって、全部いらなくなった。
どこかに行きたいのも、落ちるのも、僕が全部いらなくなったから。
「日向様、」
うつぎがうんと優しく呼ぶのに、遠くなるのもそのせい。
お風呂はいつもそう。
湯気でうつぎの顔がぼんやりするみたいに、音も声も全部ぼんやりした。
でも、今日のうつぎはちょっとちがう。
「何ですか、これ、」
急に声が大きくなって、僕の体はびっくりした。
びっくりしたら、ぼんやりしてたうつぎの顔がちゃんと見えるようになる。
そしたら、うつぎがすごく怖い顔になって、怒ってた。
「うつぎ、」
「…殿下ですか、」
「なあに、」
「殿下以外にこういう無体を働く方はおられませんけど、」
「しおう?」
「随分賑やかだと思ったら…!」
うつぎの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったり、ころころ変わる。
うつぎはいつも静かで、笑うも怒るも少ないから、またびっくり。
僕がびっくりしてる間に、うつぎは僕を脱がせて洗って、あっという間にタオルでぐるぐる巻きにした。
あんまり早いから、僕は何がなんだかわからなくて、うつぎの手の中でころころ転がるだけ。
わーって、頭の中で声をあげている内に、うつぎに抱っこされてしおうのとこに連れてかれた。
「何だ、早いな、」
着替えてる途中のしおうと、手伝ってたやまとが、うつぎと僕を見て目をまん丸にする。
「どういうことでしょう、殿下、」
「え、何、」
「日向様のお体に、何をされました、」
「え、は、……あ、」
今度は、しおうの顔が赤くなったり、青くなったり、白くなったりする番。
ちょっと遅れて、やまとも顔色が変わる。何で?
「え…、殿下、まさか、」
「いやいやいやいや!待て、弥間戸(やまと)。流石に最後まではしてない!」
「当たり前ですよ。正式な婚約も済んでいないのにそんなことになれば、国際問題です!」
「流石に俺も理解してるって…。と言うか、口付けを強請ってきたのは日向の方だよ、」
「まだお分かりにならないんだから、それを諌めるのも、殿下のお役目でしょう、」
「一応、止めたんだって!ちょっと調子に乗ったのは悪かったけど…、」
「…ちょっとと言う量じゃありませんでしたけど、」
うつぎははーって、大きくため息を吐いて、僕をしおうに渡す。
なあに、ってしおうを見たら、 しおうはぐるぐる巻きのタオルをずらして首のとこを覗いた。
そしたらどんどん真っ赤になって、僕をぎゅうってする。
「…大分、調子に乗りました、ごめん、」
耳まで真っ赤で、可愛かった。
僕の大好きなしおう。
胸がドキドキして、嬉しくなる。
ぼんやりがなくなって、目が覚めた。
「しおう、可愛い、」
「日向様、今はダメです。日向様も叱られてください、」
「僕も?」
「まだお分かりにならないかも知れませんけど、一度きちんとお話ししておく必要があります、」
うつぎが、お座りなさい、って言ったら、 しおうは真っ赤な顔のままベッドに座る。
僕はぐるぐる巻きで動けなかったから、しおうに抱っこされたまま。
ちゅうはいいけど、つつしみをもちなさい、ってうつぎは言った。
体に触るのは、二人がちゃんとわかって、いいよ、って二人ともりょうしょうした時だけだよ、ってやまとも言う。僕が、いいよ、って言ってもしおうが、いいよ、って言わなかったら我慢するんだよ、って叱られた。
それから、しおうと僕は皇子と王子だから、まぐわうは順序が大事なんだって。
叱られる間、しおうは真っ赤になりすぎて汗がいっぱい出た。
「へ、平気か、日向、」
真っ赤な顔のまま、しおうが心配になったは、体の話だから?
どこかに行きたいも、落ちるもずっとあるけど、大丈夫。
しおうの顔が可愛くて僕はずっとしおうを見たかったし、しおうがぎゅうってするから安心した。しおうがいたら、大丈夫。
「僕、まぐわう?」
「ひっ、」
「日向様…、そう言うことを仰るのも良くありません、」
うつぎとやまとは、ちゅうもまぐわうも話したのに僕はダメが、混乱した。
分からない、って言ったらうつぎは少し困った顔になったけど、真剣な顔で教える。
「情交は、日向様と殿下お二人だけの大事な秘密です、」
「ひみつ、」
「ええ、ですから他の者の前で詳らかに話して良いものではないんですよ。分かりますか?」
「ひみつは、ないしょの約束、」
「ええ、そうです。私は大人ですから、日向様が分からずに良くないことをされたり、お話しされた時には、いけないとお伝えするために口にします。でも本来は殿下とお二人だけで大切にされるものです、」
「分かった、」
ひみつ。
しおうと僕のひみつが、何だかふわふわした。
いいね、ってしおうを見たら真っ赤だけど優しい顔で僕の頭をなでる。
「うつぎが、怒ったは、何?」
「……俺が調子に乗ったからだよ、」
「ちょうし、」
「…………なあ、これ説明しないとダメ?拷問なんだけど、」
「遠回しな言い方ではお分かりにならないと思いますが、」
「そうなんだけどさあ、」
しおうの眉が下がって、泣きそうになる。
そう言えば、やまともしおうは赤ちゃんになる時があるって言ったね。すみれこさまとやまとに赤ちゃんになるしおうが、僕は好き。
しおうの可愛い顔をじっと見てたら、しおうはへにゃへにゃになって僕を見た後、額に口づけをした。
それから、ぐるぐる巻きのタオルを引っ張って教える。
「…日向に俺の印をつけたの。こういうのは、正式に婚約が済むまでは我慢するつもりだったのに、口づけを許されたら嬉しくで無理だった。ごめん、」
「しるし、」
しおうは、見たくなかったら見なくていいよ、って言った。
僕はお風呂も着替えも、体を見るが嫌だったから。
でも見たよ。
胸のところに赤い印がいっこ、にこ、さんこ、よんこ。
見えないけど、首のとこにもあるって、しおうが言う。
しおうが、ごめんな、って言って、うつぎが何か叱った気がする。やまとも。
でも僕は全部聞こえなくて、ずっと印を見てた。
印。
しおうがつけた。
赤い印。
しおうの印。
印からポカポカが広がって、体中がふわふわになる。
ドキドキするから、ときめくかもしれない。
落ちる、がどんどん小さくなる。
魔法は何回も、おいで、って言うけど聞こえなくなってきた。
どこかに行きたいが、わからなくなる。
びっくり。
「いる、に、なった、みたい」
「日向?」
赤い印を見たまま言ったら、しおうが驚く。
顔を上げたら、まん丸になった紫色が僕を見てた。
しおう、僕のしおう。
「しおうの、印。いる、になった。僕は、いらなかった、のに。しおうが、印、したら、いるに、なった!」
「何の話、」
「しおう、ぎゅうってしたい、」
「え、あ、はい、」
ぎゅうってしたいのに、僕はタオルでぐるぐる巻きだから動けない。
代わりにしおうがぎゅうってして、僕を包む。
しおうが印をつけた僕の体。
「え…っと。俺の印があるのが、いいってこと?」
「うん、」
「印があれば、日向は自分の体を大事にできる?」
「うん、」
「………マジか、」
ぎゅうって、しおうの腕が強くなって、胸のポカポカも体のふわふわも、うんとうんとたくさんになった。
すごいね、しおう。
しおうはいつも、僕を、いるにする。
白いのがある体は、いらないけど。
しおうの印がある体は、いるになったよ。
「うつぎ、」
「…はい、」
「印、しおうがくれた。僕、いるになった。印が、僕は、いる、」
「……そうですか、」
「怒らない?」
「…………………善処します。よろしくないと判断した時には、お叱りいたしますが、」
「わかった、」
うつぎは少し怖い顔をした後、驚いた顔をして、いつもの静かな顔になる。
僕を心配して怒ったのに、ごめんね。
「印、さわりたい、」
「……日向、悪いけど今は我慢して。俺の心臓がはち切れそう、」
「がまん、」
手を胸に伸ばしたいのに、タオルがぐるぐる巻き。
ぐるぐる巻きの僕をぎゅうってしたまま、しおうはまたどんどん真っ赤になって、うんと可愛くなった。
「しおう、」
「……何、」
「僕、いる。しおうの、だから、いる、」
「うん、俺も要るよ。……要るけど、ちょっと黙ってくれ。色々まずいから、」
「わかった、」
しおうの腕の中で、しおうが落ち着くを待った。
その間、僕は落ちると、どこかに行きたいを探したけど、よくわからない。
魔法は、おいで、って何度も言うから、あるのかもしれないけど、わからないくらい、うんと遠くにいなくなった。
代わりに僕の中に、ふわふわと、いると、ほしい、がいっぱい。
しおうが落ちついて、僕を離したら、鏡で僕の体を見た。
赤い印がいっぱい。
しおうの印。
しおうがつけた。
僕を、いる、にした。
637
お気に入りに追加
1,370
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
バッドエンドを迎えた主人公ですが、僻地暮らしも悪くありません
仁茂田もに
BL
BLゲームの主人公に転生したアルトは、卒業祝賀パーティーで攻略対象に断罪され、ゲームの途中でバッドエンドを迎えることになる。
流刑に処され、魔物溢れる辺境の地グローセベルクで罪人として暮らすことになったアルト。
そこでイケメンすぎるモブ・フェリクスと出会うが、何故か初対面からものすごく嫌われていた。
罪人を管理監督する管理官であるフェリクスと管理される立場であるアルト。
僻地で何とか穏やかに暮らしたいアルトだったが、出会う魔物はものすごく凶暴だし管理官のフェリクスはとても冷たい。
しかし、そこは腐っても主人公。
チート級の魔法を使って、何とか必死に日々を過ごしていくのだった。
流刑の地で出会ったイケメンモブ(?)×BLゲームの主人公に転生したけど早々にバッドエンドを迎えた主人公
異世界に落っこちたら溺愛された
PP2K
BL
僕は 鳳 旭(おおとり あさひ)18歳。
高校最後の卒業式の帰り道で居眠り運転のトラックに突っ込まれ死んだ…はずだった。
目が覚めるとそこは見ず知らずの森。
訳が分からなすぎて1周まわってなんか冷静になっている自分がいる。
このままここに居てもなにも始まらないと思い僕は歩き出そうと思っていたら…。
「ガルルルゥ…」
「あ、これ死んだ…」
目の前にはヨダレをだらだら垂らした腕が4本あるバカでかいツノの生えた熊がいた。
死を覚悟して目をギュッと閉じたら…!?
騎士団長×異世界人の溺愛BLストーリー
文武両道、家柄よし・顔よし・性格よしの
パーフェクト団長
ちょっと抜けてるお人好し流され系異世界人
⚠️男性妊娠できる世界線️
初投稿で拙い文章ですがお付き合い下さい
ゆっくり投稿していきます。誤字脱字ご了承くださいm(*_ _)m
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる