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第弐部-Ⅱ:つながる魔法

112.日向 高揚

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机と椅子がいっぱい並んでた。講義室。
もぐらが来て、帝国は海とうんがを使ったこうえきと、ひよくなだいちでいち早くさかえたんだよ、って言う。
カリカリ音がして、キョロキョロしたら、みんなが下を向いて何か書いた。

そうか、もぐらの話を聞いたら、学生は書く。

僕はあわてて学習帳を出したけど、もぐらはどんどんしゃべった。
待って、もぐら。
僕も書くから。

えんぴつをにぎって、学習帳に書こうとすると、ブルブル手がふるえた。
それでも書こうとすると、僕は大きな字しか書けなくて、学習帳をはみ出した。
もぐらは、どんどんしゃべって、僕を置いてく。

カリカリカリカリ、音がした。

できやしない、っておぼろが笑う。
ひょいって、もちづきが僕の学習帳をとった。
僕が怖くなって、震えたら、無理するな、ってしおうが心配する。

学習帳がない。えんぴつもかげろうがとった。
待って、もぐら。
僕は書きたい。

もぐらはうんと早く、いっぱいしゃべる。
しゃべりながら歩くから、どんどん離れて行った。
みんなは着いていく。
僕だけ動かない。

カリカリカリカリ音がして、僕は取り残された。







「起きたか、」

目が開いたら、しおうが見てた。
何だっけ、どこだっけ、いつだっけ。
心臓がばくばくして、お腹の中がうんとそわそわする。

「汗をかいてるな。熱は…ないか、」

僕の前髪をしおうがよけておでこに触る。
何で。

「演習で力尽きたんだよ。よく眠ってた、」
「えん、しゅう、」
「麗(うらら)が褒めてたぞ。お前が1番だって、」
「いちばん、」

僕が目をぱちぱちしたら、まだ寝ぼけてるなあ、ってしおうが笑う。
えんしゅう、うらら、いちばん。
うららの演習で森に行ったを、覚えてる。

「くもの巣?」
「そう、お前がいちばん多く蜘蛛の巣を見つけたってさ。後で手帳を見てみな。麗が褒めてるから、」

しおうが笑う。僕の髪をくるくるして、額にちゅうをする。
起きれるか、って言うからキョロキョロしたら、ご飯の部屋だった。
学院で、僕たちがご飯を食べる場所。学生はてらすか食堂でご飯を食べるけど、しおうは皇子だから、特別だって。
本当は、僕が上手に食べないから、って僕は知ってる。

僕は小さいベッドで寝てて、ソファのところで、とやがはぎなとあずまと勉強してた。小さな机のとこで、みずちがお茶を入れて、ご飯の準備。しおうはベッドの横で、僕を見てる。

椅子のとこに僕のかばんがあった。

「かばん、」

僕の学習帳と筆記具と手帳が入ったかばん。
僕のってわかるように、そらのお父さんがあおじと鷹の模様を入れた。僕の学習帳も、手帳も、えんぴつも、全部。
学院に通うための僕のかばん。

ベッドから降りてかばんに行こうとしたら、しおうが急に起きるなって、僕をつかまえた。

「かばん、」
「鞄も中身も全部あるから大丈夫だよ、」
「うらら、」
「ああ、手帳だな、」

しおうは、寝ぼけてるなあって言って、僕を抱っこする。抱っこされたら温かいがほしくなったから、ぎゅうってした。甘えん坊だな、ってしおうは笑った。
何でかな。心臓のばくばくと、お腹のそわそわが消えない。

はぎながかばんを持ってきて、僕に渡す。
しおうの膝に座って、かばんを開けたら、ちゃんと入ってた。
僕の手帳、筆記具、学習帳。

「日向、学習帳じゃなくて、手帳の方だよ。演習で使っただろ、」
「がくしゅうちょう、は、もぐら?」
「そう、学習帳は帝国史の講義で使った方。そっちじゃなくて、手帳の記録に麗が感心してたんだよ。よく見てて偉いってさ、」
「もぐら、は、書いた?」
「うん?帝国史の講義の記録は、もぐらには見せてないからなあ。もぐらは何も書いてないよ、」

学習帳をぱらぱらしたら、僕の字。

「僕が、書いた、」
「ああ、帝国史の授業中にメモしてたな。そんなことできるようになったんだな、」
「書いた、できた、」
「うん、偉かったな、」

できた。できてた。大丈夫。
えらいな、ってしおうが首のとこにちゅうってしたら、胸のばくばくとお腹のそわそわが、小さくなっていった。
代わりに体がぷかぷかする。

変なの。お風呂みたい。
お尻がしおうの膝に座るのに、ちょっとだけ浮かんでるみたいになった。ふしぎ。

うららは何?って聞いたら、手帳を見てごらん、ってしおうは言う。
かばんから手帳を出して、パラパラしたら、くもの巣の最後に赤いマルがついてた。
丸の周りに半分のマルがいっぱい。

「なあに、」
「花マルだと。お前が1番優秀だったから、麗が特別につけた、」
「いちばん、」
「そ、今日の演習では、お前が1番。」

はなまる、いちばん、ゆうしゅう。
何だっけ。
学生の勉強は順番がある、ってとやが教えた。とやはいっぱいいちばんになったけど、しおうはちょっと。とやが話したら、しおうがすねたを僕は覚えてる。
いちばん。学生のいちばん。


「いちばん!」


ぴょんって、体が跳ねた。

「何だ、急に目が覚めたな。」
「いちばん、僕が1番!」
「そうだよ、すごいな、」
「僕、できるね。すごいね!」

ぴょんぴょんって跳ねたら、しおうが笑った。
僕はもう膝にいられなくて、体が跳んでく。

「はぎな、見て。花マル、」
「ええ、驚きました。すごいですね。花マルがもらえましたか、」
「すごい!」
「はい、すごいですね、」

くすくすって、はぎなが笑う。いいね。
とやも見て、あずまも見て、みずちも見て。
手帳を持ってソファに行ったら、とやが僕をつかまえて、見せてって言う。

「あの短時間でこれだけ見つけたのもすごいし、ちゃんと記録できたのも偉かったな、」
「えらい!」
「うん、偉い、」
「しおう、僕、えらい、って!」

お腹の中がいっぱいふわふわする。
ふわふわして、ぷかぷかして、そのまま体が浮かびそうで、代わりにぴょんぴょん跳ねた。
落ち着け、ってしおうが笑うけど、僕は部屋中跳ねてくるくる回る。

「みんなに、見せる、」
「皆って、誰だ、」
「ろうか、」

部屋の外で、中を見たいけはいがいっぱいするよ。

「野次馬に突っ込ませるわけに行くか。」
「やじうま、」
「日向様、那賀角が待っていますから、午後の授業の時に見せてあげてください、」
「なかつの!」
「ええ、魔法の授業が残っていますよ。昼食を食べて、那賀角のところへ行きましょう、」

なかつの、魔法、授業。
そうだった、僕はまだ授業が残ってる。

僕がまたぴょんって跳ねたら、しおうが僕をつかまえて、はぎなが手帳をとった。

「仕方ないね!」

あはは、って笑って扉の外はあきらめる。
しおうの膝に座ってお昼を食べたけど、体はずっとぷかぷかしてた。

1番。僕が1番。
1番小さい僕が、誰よりたくさんくもの巣を見つけた。
もぐらの講義は、いっぱい書けなかったけど、くもの巣はいっぱい書いたら、うららが花マルをくれた。

「ご機嫌だな、」
「うん、僕は、できた、」
「これくらい元気なら、午後も平気か、」
「だいじょぶ、」

大丈夫だよ、しおう。心配ない。
僕はできる。ちゃんとできる。
ぜんぶ、できる。





大丈夫。

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