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第弐部-Ⅱ:つながる魔法

105.日向 ひと休み

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講義が終わったら、しおうがてらすに連れて行った。
休み時間は、てらすで休む。

僕のはじめての休み時間。

丸い机の所で、しおうの膝に座ったら、みずちが来てお茶をいれた。僕の大好きなりんごのお茶。
みずちも来たの?って僕がびっくりしたら、みずちは、当然です、って言う。
離宮の紺色のスカートと白いエプロンじゃなくて、茶色のしましま。いつもとちがうみずち。ちがうが、何だかうれしくて、僕はわくわくした。


「難しくなかったか?」


僕がお茶を飲んだら、しおうが聞いた。
もぐらの講義。帝国史。

「むずかしい。わからない、がいっぱい、くやしい、」
「何がわからなかった?」
「かみさま、は何?」
「そこからか、」

ははっ、ってしおうが笑う。
僕は、笑わないでって言ったのに。
だから僕は怒って、あずまに行こうとしたら、 しおうは、ごめん、って言う。

「教える、やくそく、」
「うん、そうだな。ごめん、今のは俺が悪い、」
「かみさま、は何?しおうのせんぞは、かみさま?」


講堂でもぐらの帝国史を勉強した。しおうととやとあずまと一緒。
いっぱい、学生がいるとこで、僕も一緒に、はじめて授業を受けた。
最初は怖いがあったのに、もぐらがおもしろくて、知らないことがいっぱいで、しおうが一緒がうれしくて、授業がうれしくて、僕はいっぱい勉強した。


でも、むずかしかった。


もぐらの帝国史。
帝国のれきしを勉強する。
れきしは、物語、ってもぐらが言った。

うんと昔にも人がいて、僕たちみたいに暮らしてたんだって。
でも今とちょっとちがう。
昔の人がいろんなことを考えて、何かを作ったり、発見したり、戦ったり、国を作ったり、色々やったら、ちょっとずつ今になった。

帝国史は、そのちょっとずつを勉強する。

「神ってのは、人を超えた力とか存在を言う。到底人の力が及ばないようなものは、神の仕業とされるな。日照りが起きたり、病が流行ったりするのも、神のせいなら、願いが叶ったり、豊作になったりするのも、神の仕業らしい、」
「かみさま、すごい、ね、」

しおうも、すごい?って聞いたら、しおうは、どうだろう、ってまた笑う。
もぐらは、しおうのせんぞは、かみさま、って言ったよ。
せんぞは、うんと昔の人。
しおうの父上の父上の父上の、もっともっと昔の人。

「俺の先祖は太陽の神だと言うが、俺は人間だからな。神だと言われても実感はないし、真偽は分からない。日向だって、先祖は大気の神だとか精霊だとか言われてるぞ。実感あるか?」
「僕、人間、ちがう?」
「俺には人間に見えるけどな。尼嶺(にれ)の歴史ではそう言うことになる、」
「に、れ、」

僕の故郷。生まれたところ。

「尼嶺の話は嫌か、」
「んーん、」
「…帝国史をやると、尼嶺の話も出てくるが、平気か?」
わかんない、

僕が困ると、しおうはもっと困った顔になった。
でも、僕は尼嶺がわからない。

「前は、ね、尼嶺は、くらを思い出すから、怖かった。でも今は、くらと尼嶺はちがうが、僕はわかる。」

怖いかもしれない。怖くないかもしれない。
僕はわからない。何も知らないから。
わからないけど、わかることもある。


「怖くなったら、しおうが、ぎゅうってする、やくそく。ちがう?」
「…違わないなあ、」
「じゃあ、だいじょぶ、」
「何で、そういう可愛いこと言うの、お前は、」


しおうが、僕の頭にちゅうってしたら、てらすのみんながざわざわした。
しおうがちゅうってするは、みんなはびっくりするんだって、はぎなが言ってたよ。だから、学院でちゅうはしないやくそくなのに。
ほら、とやに叱られる。

「殿下、我慢はどうした、」
「無理だって、日向が可愛すぎる。天使だろ、これ、」
「てんし、は何?」
「神の遣い。でも今はそう言う意味じゃない。日向が可愛いすぎて、俺の我慢が限界って意味、」
「もぐら、と一緒、」
「はあ?」

ちゅうちゅうしてたしおうが、きょとんって顔になる。可愛い。

「もぐらは、本当は、むぐら、」
「教授の鉄板ネタな。…よく覚えてるな、」
「紫鷹より、ひなの方がよく聞いてるよ、」

えらい、ってとやが頭をなでるから、僕はうれしくなって、しおうはちょっと不機嫌になる。

きょうじゅのもぐらは、本当はむぐらって言うんだって。
もぐらの字は、「葎(むぐら)」って言う字を書くけど、とどけを出すときに、もぐらの父上がまちがった。だから、もぐら。
むぐらは植物なのに、私は土を掘るんですよ、ってきょうじゅのもぐらが笑ったが、おもしろかった。

言葉はね、一つ違えば、全く違うものになるんですよ、ってもぐらが言った。
同じ言葉でも、いくつも意味があるから、違う意味に捉えられることもあるんですよ、って。
れきしは、言葉と同じ。
言葉でつながるから、同じもある、ちがうもある。

「だから、れきしは、おもしろい、」
「う、ん?一気に話が壮大になったな。何でそうなったかはよく分からんが、お前が葎の話をよく聞いていたと言うことだけは、よく分かった、」
「ひなは、本当に聡いな。見習えよ、紫鷹、」
「僕は、しおうは、かみさまがいい、」

そこでもどるのか、ってしおうは笑う。
また、僕の頭にちゅうってするから、とやが叱ったけど、紫色がうんとやさしくなるから、僕はいいね、って見てた。


「俺はあまりそういうのは信じてなかったけど、日向といると、あるかもしれないって思えてくるよ。」


太陽の光で、紫色の髪が、きらきらする。きれい。
かみさまは、もしかしたら、しおうみたいにきれいかもしれない。

「しおうは、かみさま?」
「どうだろ。でも、日向の魔法は勝手に、いいよ、とか言うし、俺の知らない世界がお前には見えているから、頭から否定するのは難しくなった、」
「僕?」
「どんどん綺麗になるしな。…お前の方こそ、俺の手の届かない場所に行きそうで心配だよ、」
「行かないよ、」
「うん、行くな、」

しおうがぎゅうって、僕のお腹を抱っこする。
またちゅうってしたけど、今度はしおうがしんぱいの目だったから、とやは叱らなかった。

とやが、しおうのせんぞの話をいっぱいしてくれた。
世界の皇家や王家には、似てる話がいっぱいあるんだって。しおうと僕は、かみさまがせんぞだけど、とらやくじらがせんぞの王家もあるが、おもしろかった。

こーん、って鐘がなって、次の授業の合図。

次はなあに、って聞いたら、うららのえんしゅうだって。僕はわくわくした。

「しおうも、せいたいがく、やる?」
「お前が興味を持ったからな。学んでおくべきだろう、」
「みみず、さわる?」
「触るんだろうな…。藤夜に任せるか、」
「嫌ですよ、自分の分は自分でやってください。」
「僕がやる、」
「頼もしいな、」

しおうが笑って、元気になった。
またちゅうってしたら、今度はとやに叱られた。



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