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第弐部-Ⅰ:世界の中の

96.日向 僕の知らない世界

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しおうの学院に行った。
しおうととやが、べんきょうする所。

離宮よりもっと大きなお城があって、人がいっぱいいて、生き物がいっぱいいて、魔法がいっぱいだった。

「しおう、見て、さる、さる!」

きょうじゅのもぐらが、連れてった部屋にさるがいっぱいいた。
赤毛のいたちくらいの大きさのさるが、部屋の真ん中に生えた木のところで、ぶらぶらしたり、ぴょんぴょんしたりする。僕を見たら、小さいさるが一匹ぴょんって飛んできて頭に乗ったから、僕はうれしくて、しおうに見せた。

「お前は、猿にも好かれるのか、」
「さる、好き?僕、好き?」
「俺は図書館の猿に懐かれたことなんて、一度もないぞ。あるか、藤夜、」
「ないなあ、」
「さるは、僕が、好き、」

ぴょんって跳ねたら、頭の上のさるもぴょんって跳ねる。
でも落ちないで、ちゃんと僕の頭にいたから、僕はかんどうした。

さるは、としょかんで、仕事をする。
部屋の真ん中の木には、たくさん本棚があって、数えきれないくらい本があるから本を探すは大変って、とやが言った。だから、猿が、かわりにさがすんだよ、って。

「さるは、字が、わかる?」
「文字を読んでいるのではなくて、本に刻まれた術式を識別できるらしい、」
「本の背中?」
「…見えるのか、いやまあ、そうだろうけど。」
「さる、すごいね、」

本の背中に、術式があった。
ちょっとずつ全部ちがう。ちがうけど、多分僕はまちがえる。それくらいちょっとずつしかちがわない。
僕がびっくりしたら、しおうもとやももっとびっくりした。きょうじゅのもぐらも。

でも、僕はもっともっとびっくりした。

としょかんの机は、すごく長くて、椅子がいっぱいある。本を読む場所。
本とどっちが多い?って聞いたら、本だよって、しおうが言った。
本は、全部字がいっぱい。本がいっぱいあったら、文字もいっぱいあって、としょかんの本をぜんぶ読むのは、大変だってわかった。

としょかんは部屋なのに、ずっと風がある。風の魔法。
何で?って聞いたら、本はしっけでいたむから、くうちょうが大事なんだよって、とやが教えた。

さるにまたね、って言ってとしょかんを出たら、仕事中の犬がいた。
さるはみんな似てるのに、犬はちがうのがいっぱいいる。
大きいかっこいいのと、大きいふわふわと、小さいふわふわがいて、僕は大きいふわふわをさわった。ぎゅうってしたら、僕のうさぎの人形みたいにやわらかくて、でもうさぎとちょっとちがうふわふわで、いい。
ぺろぺろって、犬が僕の顔をなめたら、しおうがしっとしたけど、僕はうれしくていっぱい笑った。




「ここでは、ミミズがどのように土壌を豊かにするかを観察し、農業の発展に役立てる研究をしております、」


せいたいがくの部屋で、きょうじゅのうららが言った。そらに似てる。
僕もみみずをさがしたよ、って言ったら、きょうじゅのうららは、目をキラキラさせていろんなみみずを見せた。
そらに似てるのに、みみずが好きはあじろに似てて、ふしぎになった。

糸みたいなみみず。
太いみみず。
へびみたいに長いみみず。
ふつうのみみず。

ぜんぶちがうよ、ってうららがいっぱい教える。


「あじろと、見たい、」
「羅郷の亜白様でしょうか、」
「うん、僕の友達、」
「学院で生態学を学びたいと希望されたと聞いています。そうなれば、ぜひ一緒にいらしてください。いくらでもお見せしますから、」
「うららは、いる?」
「私ですか?もう10年もこの研究室におります。あと10年くらいはいるんじゃないでしょうか、」
「わかった、」


やくそくが増えた。
あじろと来るねって、うららとやくそく。

離宮にかえったら、すぐに雁書(がんしょ)に書いて、あじろとやくそくしたい。
いっしょにうららのみみずを見よう、ってやくそく。
そしたら、あじろは来るかな。早く離宮にもどってくるかな。

あじろのことを考えたら、さびしくなって、怖くなったから、しおうにぎゅうってした。
しおうは、僕を抱っこしていっぱいちゅうをして、学院の中を歩いてくれる。

歌が聞こえて、なあに、って聞いたら、せいがくのじゅぎょうだろうって、しおうが言った。

ていこくし、せいたいがく、せいがく、全部べんきょうってことは分かったけど、何をべんきょうするか、僕は分からない。
廊下に並んだ扉をいくつかのぞいて、ここは何のべんきょうをする場所だよって、きょうじゅのもぐらが教えたけど、分からないがいっぱいだった。


「学院、行くは、どうする?」

「通いたい、ってことだよな?」
「あじろと、しおうと、とやと、いっしょがいい、」
「そうか、…日向は何が勉強したい?」


学院はべんきょうする場所だからな、ってしおうが言う。
べんきょう。

字が書けるになりたい。
一人で本が読めるになりたい。
あじろみたいに、生き物をいっぱい知りたい。
とやみたいに、魔法を分かるになりたい。

離宮で僕はべんきょうするけど、本当は16歳のべんきょうじゃないって、僕はわかる。
16歳のべんきょうは、今日見たべんきょう。
僕は尼嶺でべんきょうしなかったから、すぐはできないもわかる。
悔しいけど、僕はできないが、もう分かった。仕方ない。


でも、僕は16歳になりたい。


学院にいっぱいいた16歳みたいに。
しおうと、とやと、あじろみたいに。



「…わかんなくても、いい?」


しおうの首にぎゅうってした。
いいよって、僕の耳のところでしおうが言う。
やさしくて温かくて、聞くよ、ってけはいが分かったから、安心した。


「あじろと、生き物、見つけるが、楽しかった。だから僕は、もっと、あじろと、生き物が見たい。でも、魔法もしたい。術式、できなかったが、くやしい。とやみたいに、できるになりたい。」
「そっか、」
「でも、ね、僕は知らないが、いっぱいあるが、わかる。くらにいたから、みんなの知ってるを、僕は知らない。もぐらの、ていこくしも、僕ははじめてだった、」


としょかんの本がぜんぶ、読めるになりたい。
しおうととやが話したこうぎが何か、分かるになりたい。
僕が知らない世界が、もっと知ってるになりたい。


「ぜんぶ、知りたい、」

「全部か、」
「ダメ?」
「ダメじゃないなあ。そんな風に可愛く強請られたら、俺は断れない、」
「ごめん、ね、」
「日向の我が儘は全部叶えてやりたいって、言っただろう。いいよ、やれるだけ全部やってみよう、」


しおうがとやに、目で合図する。
とやをみたら、やさしく笑って、僕の頭をなでた。
はぎなが、「護衛の体制も検討し直さなきゃなりませんね、」って笑う。
きょうじゅのもぐらが、どこかから出て来た草とうれしそうに話してた。

みんなが、僕の知りたいを、いいよ、って言う。
僕のできない、をできるにしてくれる。


「泣くほど嬉しい?」
「ぅん、」
「俺も日向が、こんなにたくさん考えて、成長してるのが嬉しい、」
うん、

ぽろぽろって流れた涙を、しおうがちゅうってする。
はぎなが、殿下、って叱ったけど、僕がもっとって言ったらはぎなは叱らないって、僕は分かる。

「うれしいの、ちゅう、する、」

いいよ、ってしおうは笑った。
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