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第壱部-Ⅵ:尼嶺の王子

83.日向 深夜の告白

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ぱちって目が開いたら、部屋が暗くなってた。
ベッドの上にいて、しおうのお腹で寝てた。

「何で?」

聞いたけど、しおうは何も言わない。
すーすー眠って、時々まつ毛がぴくぴく動くだけ。

しおうとつがいのやくそくして、みんなでお祝いした。

今日はぶれいこうだよ、って。
すみれこさまも、とやも、みずちも、はぎなも、あじろも、はるみも、離宮の草も、騎士も、使用人も、みんな集まって、いっしょにご飯を食べて、おめでとうって言った。

しおうがうれしそうで、僕もうれしくて、いっぱいふわふわになって、幸せだったのに。
また寝てた。

「しおう、」

呼ぶけど、しおうは起きない。

しおうのお腹から起きて、布団から出て、窓に歩いてみたけど、外は暗かった。
まだホーホーが鳴いてるね。あおじが来るのは、うんと後。
隠れ家の扉を開けて、うさぎと温玉(ぬくいだま)と煌玉(こうぎょく)を出してみた。僕の宝物。
うさぎは僕がよごしたけど、みずちが洗って、ふわふわになって帰って来た。

ぎゅうってすると、すみれこさまがいるみたいで、うれしくなった。
すみれこさまがくれた、うさぎ。
僕のお母様のうさぎ。
もうよごさないって決めた。

しばらくぎゅうってしたけど、しおうは起きないから、煌玉をつけて、図鑑を見る。
煌玉の光がきらきらして、図鑑のもぐらが動くみたいに見えた。

図鑑をめくったら、生き物がいっぱいいる。
生き物は空や地面の上だけじゃなくて、土の中にも、木の中にも、水のなかにもいるって、わかった。
あじろと、全部さがそうって、やくそくした。

生き物を見つけたら、絵をかく。
どんな生き物だったか、いっしょにかく。
僕はまだ字がかけないから、はぎなやゆりねが、かくけど、できるになりたい。

練習しようかな、って思ったけど、ちょっとそわそわしたから、うさぎをぎゅってして、ベッドに連れていった。

「しおう、起きない?」

しおうは、うーん、ってうなって、何かさがすみたいに手が動いたけど、起きない。

しおう。
僕のつがい。
僕のもの。

しおうの左手に、金色のわっかがきらきらしてる。
みんなの前でやくそくしたから、僕はもうしおうのもので、しおうは僕のもの。
一生、ずっと、しょうがい。

金色のわっかを見てたら、急にふわふわがいっぱいになる。
ちゅうがほしい、が分かったから、しおうの頬にちゅうってした。

ぴくぴくって、紫色のまつ毛が動く。

起きるかな、起きないかな。
起きて、ぎゅってしないかな。


「しおう、」

呼んでみるけど起きないから、今度は額にちゅうってした。

起きて、しおう。
ぎゅって、したい。
ちゅうがほしい。

いつもしおうが僕にするみたいに、いっぱい口づけをした。
紫色の髪にも、頬にも、額にも。


「…日向?どうした、」


首のとこにちゅうってしたら、しおうが起きた。
紫色の目が、ぼんやり開いて、僕を見上げる。きれい。

「わかんない、」
「分からないのか。」

おいで、って、しおうが手を伸ばして僕の頬をなでる。
包帯がまかれた、しおうの手。

しおうの包帯は消えないのに、僕の包帯は小さくなった。
僕のせいかな、って僕は分かる。
でもしおうがくんしょう、って言って、うれしそうにするから、僕もなんだかうれしくなった。
ごめんね、しおう。

「起きたら、ふわふわした。ぎゅってしたいけど、しおう起きないから、ちゅうってした、」
「俺が起きてる時にやってくれよ。いくらでもするから、」
「今する、」

いいよ、ってしおうが笑うから、布団の上からしおうのお腹に乗っかってぎゅうってした。
しおうは布団に入れ、って言うけど、入ったら僕はすぐ眠くなるから、入らない。

しおうが、僕の髪をさわさわなでた。
紫色の目が、大好きって顔で、僕を見る。

その目を見てたら、どんどんどんどん、ふわふわが広がって、温かくなった。


「どうした、」
「なあに、」
「いや、何で泣くんだ。どこか痛かったか、何が怖い、」
「ちがう、」

ほろりって、落ちた涙を、しおうがぬぐう。
いつもみたいにボロボロ出ない。じんわり、少しずつ。
体の中のふわふわが、入り切らなくてぽろってこぼれるみたいに出た。


しあわせな時も泣くんだよ、しおう。


心配の顔をするしおうの口に、ちゅうってした。
しおうはびっくりしたけど、ぺろってなめたら、口を開けて入れてくれた。


僕がふわふわになるみたいに、しおうもなるかな。
体の中が、しあわせでいっぱいになって、ぽかぽかになる。
しおうもなるかな。


しおうの舌が、僕のとからむたび、背中がぞくぞくして、もっとほしくなる。
怖くてふるえる時、僕はまだぜんぶはわからないのに。
しあわせでぞくぞくするのは、いっぱいわかる。
しおうも、わかる?


「日向、」


はあ、ってしおうが息をはいて、僕を見た。
紫色の目の中が、とろんって、とけたあめ玉みたいになってる。きれい。すごく、きれい。

「しおう、きれい、」
「…何でお前の方が、俺を襲ってんの。日向、俺のこと、好きすぎるだろ、」
「うん、好き、」
「だから、そういうこと言うと、勘違いするんだって、」
「ちがわない、」

僕はちょっとおこった。
多分、これがおこるって、気持ち。
ふわふわだったお腹の中が熱くなって、ちがう、って声が体の中でいっぱいする。


「しおうがいるが、いい。しおうがいないと、ご飯、が、おいしくない。しおうがいないと、怖いがいっぱいある。しおうがいると、怖いが小さくなる。しおうがいると、しあわせになる。それは好きって、僕は分かる。僕が、しおう好き、なのに、ちがうって、言わない、」


しおうの目がまん丸になって、ゆらゆらゆれた。
泣くかな、って思ったけど、泣かなくて、かわりにうんと細くなって、きらきら光る。

「うん、ごめん。」
「僕は、しおうが、好き、」
「うん、よく分かった。日向は俺が好きだな、」

幸せ、って顔。
きっとしおうも、今ふわふわしてる。

もう一回、ちゅってしたら、今度はしおうも、僕の頭をつまえていっぱいちゅうってしてくれた。

僕がしおうの好きでいっぱいになるみたいに、しおうを僕の好きでいっぱいにしたい。
だからがんばって、いっぱいちゅうをしたけど、しおうの方が先に僕をふわふわにした。

「可愛いな、日向、」

とろん、ってあめ玉みたいな紫色がきれいだったのに。
いつの間にか、煌玉みたいにしおうの目がいっぱい光ってる。でもやっぱりきれい。

「しぉ、好き、」
「うん、俺も大好き、」

ぎゅうってして、もう一回ちゅうってしたら、幸せでいっぱいになって、僕はまた寝た。


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