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第壱部-Ⅵ:尼嶺の王子

82.日向 つがいのやくそく

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あっちできらきら。
こっちできらきら。

しおうが僕にきれいな服をきせたら、みんなも着た。

「この忙しい時に、突然何を言い出すんだ、お前は、」
「本当に。式典の準備で忙しい使用人が、悲鳴を上げていましたよ、」
「すまん、」
「あ、あの、僕までお招きいただいて、」

しおうを叱るとやも、今日はいつもと違う。きれいな服を着て、髪も上げて、きらきらする。
とやの服は、しおうに似てるけど、はぎなとあじろは、初めて見た。
西佳(さいか)と羅郷(らごう)の「せいそう」って、二人が教える。

すみれこさまも、はるみも、みずちも、そらも、うつぎも、ゆりねも、おぐりも、たちいろも、ひぐさも、あずまも、うなみも、かんべも、しろとも、えびすも、ろかいも、みんなきらきら。

「何で?」
「何が、」
「みんなきれい、」
「俺と日向の約束に立ち会うんだと。二人で良いって言ったのに、」

そうはいくか、ってとやが叱る。
そうだ、ってみんなが言った。

「伴侶になるのは、お前だとしても、ひなの幸せを願うのは皆同じだろう。無碍にするな、」
「悪い、」
「紫鷹さん自身のこともね、」
「申し訳ありません、」

みんなに叱られて、しおうはいっぱいあやまる。
なのにうれしそうで、僕はびっくりした。何で?ってしおうの顔を見てたら、しおうがもっとうれしそうになって、ちゅうってする。

すぐに、時間ですよって、はるみが言って、しおうが僕をたたみの上の小さな布団に座らせた。ざぶとん、って言う。

「日向はここ、隣が俺。約束の間、ここに座って俺の真似してくれるか?」
「いいよ、」
「うん、」

僕の右にしおうが座る。左の手で、僕の手をにぎるから、僕もしおうの手をにぎった。
前を向いたら、きれいな服をきたみんなが並んで座っていて、僕としおうを見る。みんなうれしそうで、たのしそうで、きらきらしてた。きれい。


「皆さん、今日は紫鷹の急な思いつきにも関わらず、ようおいでくださいました。」


しおうの近くに座ったすみれこさまが、みんなにあいさつをする。

ようおいでくださいました、って。
僕が尼嶺から来たとき、すみれこさま言ったね。

僕ははじめて馬車に乗って、はじめて外に出たから怖くて、ずっとすみれこさまのくつを見てた。ひらひらするドレスがきれいで、きらきらするくつがきれいで。
あの時ね、うんと怖かったのに、すみれこさまの手が温かくて、ちょっとだけ怖いが小さくなったよ。


「この度、私の息子の紫鷹と、尼嶺の王子・日向様が、婚姻の約束を結ぶ縁をいただきました。お集まりくださった皆さんには、何卒、二人の約束の証人として、結縁の儀式を見守っていただくことを望みます。」


すみれこさまが、たたみに手をついてお辞儀をしたら、みんなもお辞儀をした。
僕もするかなって思ったけど、しおうがしないから、真似をする。
少しそわそわしたけど、しおうが僕の手をぎゅってしたら、大丈夫になった。

やまととみずちが、しおうと僕のまえに、小さなお皿が乗った台を持ってくる。
なあに、って見てたら、とくとくって、お皿に何かそそいだ。甘い、いいにおい。
りんごだ、ってしおうを見たら、しおうも僕を見てにこって、笑った。

僕の手を離して、しおうが両手でお皿をもつ。僕も真似する。
お皿を額まであげて、口のとこに下ろしたら、飲んだ。りんご。きれい。


「幾久しく、紫鷹と日向様のご縁が続きますように、半色乃宮から日向様への贈り物です。」


すみれこさまが、白い紙でできた何かを僕に差し出す。金と紫のかざりがきれい。
どうする?ってしおうを見たら、僕のかわりにはぎなが、「確かに、」って言って紙を受け取った。
それから今度ははぎなが、金と水色のかざりがついた紙を、すみれこさまにわたす。

むずかしい話をすみれこさまとはぎながした。
僕としおうのつがいのやくそくを、ゆるすよ、って話。
最初は分かったけど、だんだんわからなくなって、そわそわしてたら、またしおうがぎゅって手をにぎって、そわそわを小さくした。

日向、ってしおうが呼ぶ。
日向、って。


「俺とお前の約束の印だ。」
「わっか、」
「指につける。お前が俺のものだってわかるように、俺の魔力を日向の指輪にそそぐから、日向も俺の指輪に魔力を込めてくれるか。」
「僕は、しおうの?」
「嫌か、」
「んーん。しおうは、僕の?」
「そうなりたい、」
「わかった、」


手のひらに、ころんって、小さなわっかが乗る。
鍛錬とおなじだよって、はぎなが教えた。温玉(ぬくいだま)と同じにやるって。

でも、温玉と違う。
温玉は、温かくするために、魔力をそそぐけど。

わっかは、しおうは僕のだよって、言うために魔力をそそぐ。

しおうの手のひらで、わっかにしおうの魔力が入ったが分かった。
大好きだよ、のけはいが、わっかからする。



僕ね、しおうが好き。


しおうは、しおうの好きとちがうって言うけど、ちがうが分からない。
だって、僕はしおうが好き。

離宮に来て、しおうが僕を見つけた。
紫色の目が僕を見た時、怖かったのに、きれいだった。

僕はいつの間にか、しおうがいるがいい、になって、しおうがいないと、さびしい、が分かるようになった。
しおうがくれた。
うれしいも、たのしいも、さびしいも、かなしいも、くやしいもぜんぶ。

しおうが、ね、ずっといっしょにいるんだって。
一生いっしょのやくそく。
つがいのやくそく。
しおうとやくそくする。

わっかは、ね、やくそくの印。
しおうは、僕のだよ、って。
僕の大事なひと、って。





わかった、って魔法が言った。






「…ひな、た?」
「日向様、今、何を、」


魔力をそそいだら、しおうとはぎながびっくりした。
手の上でわっかがきらきらしてる。

「指輪に、加護が、」

はぎなが、僕の大好きなぽかんって、顔になった。

「ちがった?」
「いや、ちがわない、…と思うが、」
「魔法を発動した、と言う印象は受けなかったのですが、」
「魔法、使わない、やくそく。僕は使わない。魔法がわかった、って言った」

ざわざわって、とやや、たちいろたちもびっくりしてた。

「何で、魔法がわかったって、言うんだ、」
「しおうは、僕のだよって、言ったら、わかったって言った、」

そうか、ってしおうが言う。
びっくりしてた顔が、どんどんどんどんうれしそうになってく。
ぎゅってするかな、それともちゅうかな、って思ったけど、どっちもちがった。

僕の手からわっかを取って、僕の指にしおうが魔力をそそいだわっかをつける。
金色のわっかに、しおうの紫の魔力がきらきらしてた。

「日向は俺のだな、」
「うん、」
「俺にも日向がつけて、」

しおうは僕の左のくすり指につけたから、真似をする。

「しおうは、僕の、」
「そう、お前の、」

紫色の目が、うんと細くなって、今度はちゅうってした。
大好きだよのけはいが、僕の体に広がってく。

左胸のあおじが、ぽかぽかした。
左の指も、僕をふわふわにする。
しおうがちゅうってするたび、きれい、がいっぱいになった。


「日向さんも、今日から私の息子ね、」
「まだ気が早いですよ、母上、」
「あら、紫鷹さんはもう伴侶のつもりでいるでしょう。なら私だって良いと思いますよ、」
「僕、むすこ?」
「ええ、日向さんは、私の息子。私は日向さんのお母様。」
「おかあ、さま、」


そうよ、ってすみれこさまが笑う。

すみれこさまにぎゅうってしたくなって、手をのばしたら、すみれこさまは僕を抱っこしてぎゅってしてくれた。
おかあさま、僕のお母様。

さわさわって、しおうが僕の髪をなでる。


「此処に、俺と日向の約束が成った。日向を、俺の伴侶に迎える。皆には苦労を掛けると思うが、この通りだ。半色乃宮の一人として、日向を頼む、」


しおうが言って、お辞儀をした。
僕も、すみれこさまの手の中で真似をする。

とやが、うれしそうにお辞儀したのが見えた。
はるみや、たちいろや、ひぐさも、やっとですね、って頭を下げる。みずちとそらが泣いてた。うつぎとゆりねも泣きそう。
みんなが、うれしそうにお辞儀する。草も。しおうの従僕や、すみれこさまの侍女も、離宮のみんなが。

みんなの大好きが、僕をいっぱいにした。

これが、やくそく。
僕としおうのつがいのやくそく。




しあわせのやくそく。


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