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第壱部-Ⅵ:尼嶺の王子

73.日向 紫鷹の勲章

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あじろといっぱい遊んだ。
いたちとりすがいたから、つかまえたかったのに、つかまらなかった。
あじろがわなを考えたから、明日はわなを作る。やくそく。

むかえに来たしおうが、楽しかったか、って聞いたからいっぱいしゃべりたかった。
今日はつかまえるはできなかったけど、走るができたよ、って。


でも、目を開けたら、しおうが僕を抱っこして「起きたか」って聞いた。


「何で?」

「何が、」
「おきたかった、のに、」
「今起きただろ。さっきの話の続きするんだろ?」
「うん、」

泥だらけだったのに、きれいだったから、うつぎがおふろに入れたと思う。
手の包帯が新しくなってた。

「熱があるな。腕は痛くないか、」
「ない、」
「足は、」
「いたく、ない、よ、」

そうか、ってしおうは言う。でも心配の顔。
朝、僕がけがしたから、みんな心配の顔。ごめんね。
本当は痛いがわかった方がいいかもしれない。足がはれた時もそうだった。

でも、いたいがいい?って聞いたら、しおうはそんなわけあるか、って言う。

「日向は痛いのは嫌いだろ。痛くないなら、それでいい。いっぱい遊べたもんな、」
「あそんだ、」
「なら良いんだよ。さっきの話の続き、聞かせて、」
「いいよ、」

いたちがね、大きかった。僕はねずみはくらで見たけど、いたちはもっと大きい。
あじろが、いたちはねずみを食べるって教えた。
いたちは早い。僕とあじろが二人で追いかけたのに、つかまらない。
二人ではさんでつかまえようとしたら、いたちじゃなくて、あじろをつかまえた。くやしいけど、おもしろかった。

あとね、走るはむずかしい。
いつもより足を早くうごかさないといけない。
部屋の中でも走ったと思ったけど、外ではもっと走る。
いたちは僕より、うんと早く足をうごかすが、びっくりした。

たのしかったんだな、ってしおうが笑う。
その顔がきれいで、いいなあ、って見たら、また寝てた。






「起きたか、」ってしおうがまた言う。
何で、ってまた聞いたら、今はそういう時期なんだよ、ってしおうは僕をぎゅうってした。


「しおう、手、なあに、」

しおうの右手に包帯。
この間まで、左手が包帯だった。折れた、って。でもあっという間になくなって、びっくりしたのに。
今度は右。

「けがしたのに、しおう、うれしそう、は何で?」
「うん?嬉しいよ。勲章だもん、」
「くん、しょう、」
「そ、名誉の負傷とも言う。騎士は、守るための傷は誉なんだよ、わかる?」
「わかんない、」

けがは痛い。痛いはいや。
そう思ったけど、ちがうこともあるかもしれない。

「僕が、魔法できたら、なおる?」
「あ、そっか。俺が怪我すると、日向が心配するのか、まずいな、」
「いや?」
「日向に治してもらえるのは、嬉しいよ。でもこれは、俺の勲章だから、まだいいかな。日向がうまくできるようになったら、いつかお願いする、」
「わかった、」


今日の夜ご飯は、しおうと食べた。
昨日のばんさんは、はぎなも食べたから、食べるかなって思ったけど、ちがった。
ご飯を食べたら、うつぎが着替えて、僕をしおうに渡す。


「今日は、しおうと、ねる?」
「そう。日向の怪我が治るまでは、俺と一緒。」


今日はベッドでしおうと一緒に寝る決まりだって。

朝おきたら、血がいっぱいでて、隠れ家とうさぎが汚れた。
すみれこ様がくれたうさぎ。いつも抱っこして寝たのに、今日はいない。


「うさぎのかわりに、俺を抱き枕にしたらいい、」


しおうが言うから、ふとんの中でしおうのお腹をぎゅーってする。
うさぎはやわらかいけど、しおうはかたい。

「ちがう、」
「そうか、嫌か?」
「んーん、」

しおうはあったかい。
足が痛くて、隠れ家に帰れなかった時、しおうと寝たら、痛いも怖いも小さくなった。
僕が怖い夢でいっぱい泣いたときも、しおうが大丈夫だよ、って言ったら大丈夫になった。

今日は、隠れ家がないから、しおうがいる、がいい。

16歳はベッドで寝るから、それもいいかもしれない。

「16歳は、しおうと、ねる?」
「…藤夜や亜白とは寝ないぞ。日向とならいくらでも寝るけど。」
「16歳は、いっしょに、ねない?」
「俺は普段は一人で寝る。でもな、好き同士は、大人でも一緒に寝る。俺は日向が好きだから一緒に寝たい。日向も俺のこと、好きだろ?」
「好き、」
「ならいい、」
「わかった、」

しおうがちゅうって、僕の口に「くちづけ」をする。

「みずち、が、ちゅうはだいじな人とするって、言った、」
「日向は俺の大事な人だけどなあ、」
「しおう、は、だいじ。だから、いい?」

うん、って言って、しおうは紫色の目を細くする。きれい。
ひなた、ってしおうが呼ぶとふわふわした。

しおうから、好きのけはいがいっぱいする。
いっぱいすぎて、僕はちょっとびっくりした。

「しおう、なあに?」
「何が、」
「いつもと、ちがう、」

紫色の目が、また細くなった。

「俺が日向を好きなのがわかる?」
「わかる、いつもよりいっぱい、」
「うん、俺、日向が好き、」

ぎゅってして、額にちゅうってする。
僕も好きだよ、って言ったら、しおうは少し笑った。


「日向の好きは、俺の好きとは、少し違うかもしれないけどな、」


また、ちがう。

「僕はしおう、が好き、ちがう?」
「日向が俺を好きでいてくれるのはわかるけど、多分違う。でも、それでいい。いつか本気で好きになってもらうから。」

しおうが僕の手をしおうのお腹からはずして、僕をころんってする。
天井が見えたのに、すぐしおうの紫色の目がかくした。


「好きだよ、日向、」


どうしたの、しおう。
今日はいつもとちがう。
いつもは好きがしおうの中からあふれる感じなのに、今日はずっと、僕をぜんぶつつんでる。

ちょっとそわそわしたけど、上からちゅうがふってきて、またふわふわになった。


「日向にずっといてほしい、」
「いる、よ、」
「今だけじゃない、ずっとだよ。何年先も、何十年先も。日向は俺と一緒にいるの、」

しおうがちゅうってくり返すから、僕はだんだんぼんやりしてくる。

何年先も、何十年先も。

「僕、ひとじち、だから、にれ、の、」
「尼嶺に帰さないつもりで、日向を口説こうとしてるんだけど、」
「くど、こう、」
「俺が、日向を尼嶺に帰したくないくらい、日向が好きってこと。わかる?」

わかんないけど、涙が出た。

「日向が尼嶺でどんな生活をしてきたか、俺も知ってる。だから、日向をあそこに帰さない。もし日向が帰らなきゃならないなら、俺が一緒に行って、俺が守る。それができる立場になるから、」

ひなた、ってしおうが呼ぶ。
ひなた、って。

「怖いのも苦しいのも、俺に半分ちょうだい。あげられないものもあるって、分かる。でも、捕まるなら俺にして。日向を傷つける代わりに、俺にしがみついて。」

しおうの顔が泣きそうになる。
でもけはいは、ずっと好きのまま。

頼む、ってしおうは僕の頭に口づけた。瞼、頬、鼻、口、首。

あったかいね、しおう。
しおうがちゅうってするたび、体の中が、しおうの好きでいっぱいになって、ぽかぽかする。
そわそわが小さくなる。
安心して、眠くなる。



僕ね、そわそわが、いつもお腹の中にあるよ。
しおうが小さくしてくれるけど、いつもあるって、分かってきた。



できなくて、くやしい時のそわそわとちがう。
できないは、できるになったら、うれしいになって、ふわふわになる。

でもお腹の1番おくのそわそわは、ずっとなくならない。



しおうは、いっぱい僕をふわふわにしてくれる。
とやも、すみれこさまも、あじろも、みずちも、そらも、うつぎも、ゆりねも、はぎなも、あずまも、うなみも、かんべも、たちいろも、ひぐさも、みんな。



でも、僕は小さいまま。
一人だけ、みんなと違うまま。
同じにならない。



僕はいつか、尼嶺に帰るでしょ。
はぎなは僕より小さい時から、離宮にいた。
18歳で、さいかに帰った。

尼嶺での僕のお家は、くらの中。
むしと、ねずみが時々いるけど、ほかはいない。
ご飯は、さがさないといけない。
僕は遊ばないし、どこにも行けない。

おぼろは、また僕をこわす。足はきっともう動かなくなる。
もちづきのじっけんは、どんどんこわくなったから、もうきっと僕はたえられない。
僕はいっぱい泣くようになったから、さくやはうれしいかもしれない。
しおうのちゅうは好きだけど、かげろうのはもういやだ。

僕のおば上は、しおうのおば上とはちがう。
きっとおじ上もちがう。

しおうは僕を好きだけど、尼嶺では、誰も僕を好きじゃない。

ふわふわは今だけ。




何で、僕は大事じゃない?
何で、僕はこわされる?
何で、僕はいらない?




「大丈夫、いるよ、」


しおうはいつも言うね。


「大好きだよ、日向。他の奴がいらなくても、俺がいる。俺が全部もらう、」


本当?
しおうがもらう?


「俺に惚れてよ。日向も日向の負うものも全部、一緒に背負うから。だから、全部俺にして、」


しおうの好きが、僕をつつむ。
尼嶺では誰も僕を大事じゃないけど、しおうは、僕が大事がわかる。
しおう、もらう?
僕のそわそわももらってくれる?








「おはよう、日向、」


目が開いたら、しおうがいた。

「何で?」
「昨日、一緒に寝ただろ。忘れた?」
「おぼえた。」
「うん、思い出したな。」

さわさわ、ってしおうが僕の髪をなでる。きれい。

「しおう、手は、なあに、」

「勲章。俺の大事なものを守るための勲章なの。」


けがしたのに、しおうがうれしそうで、びっくりした。


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