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第壱部-Ⅴ:小さな箱庭から

59.日向 本当に怖いことは

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体の中がぐるぐるして、お腹がおもい。
ぐるぐるするのは、僕の魔力がうんと少なくなったから。
お腹がおもいのは、うなみが僕の魔力をかくしたから。
うなみが僕の魔法をかくすのは、僕がやくそくを守れないから。

「日向様、お着替えをお手伝いしますね、」

僕が吐いてよごしたから、うつぎが服を脱がせた。
僕が吐くのは、魔力が急に少なくなって、体が「けいこく」するからって、おぐりが言った。

「ごめ、んね、」
「日向様のお世話は私のお仕事ですから、謝る必要はございませんよ。今はお薬の影響で、うまく動けないでしょう?だから、お任せください。」
「いらな、く、なら、ない?」
「…不安ですか?」

うつぎが、よごれた顔と髪をふいた。
新しい布に取りかえて、また顔をふく。涙が出てた。
お腹のぐるぐるよりも、そわそわがいっぱいある。


だって、僕は何もできない。


「やく、たたず、は、いらない、」
「日向様のことをそんな風に思ったことは、一度もありません。」

うつぎは、言わないね。
でも、おぼろが言ってる。

使い物にならないなら、すててしまおうか。

「すて、ない、で」
「日向様?」

くらの中で。
いっぱいあそんだ。
音が出るのがおもしろいって、おぼろが笑う。じっけんしよう、ってもちづきが言った。僕が痛くなったら、さくやのきげんが良くなる。おれるかんしょくが楽しい、ってかげろうが言った。

痛い、怖い、苦しい。

声が出なくなって、動けなくなって、何も見えなくなったら、おぼろがあーあって言った。
足も、手も、顔も、お腹の中も、もうあそべるものがなくなっちゃった。やくにたたないから、いらないね。

「いらない、は、すてる、」
「日向様、」

ぎゅうって、僕の体があったかくなる。
うつぎが抱っこしてた。
痛くないけど、お腹の中がぐるぐるする。

「ダメですよ、戻ってきてください。日向様がいるのは、ここです。日向様のことを大好きな私たちがいる、半色乃宮(はしたいろのみや)です。」
「ぅ、つぎ、」
「そうです。今、日向様のそばにいるのは宇継です。わかりますね?」
「うつぎ、」
「ええ、宇継です。萩花(はぎな)様も、畝見(うなみ)さんも、小栗(おぐり)さんもいますよ。見えますか?」

はぎなと、うなみと、おぐりがいた。
ああ、そうだ。
僕がやくそくを守れないから、うなみが魔力をかくした。
勝手に魔法を使わないって、やくそくしたのに、できないから。

僕は、何もできない。
あるくことも、さんぽすることも、ねんどをつくることも、魔法を使わないことも、やくそくを守ることも、何もできない。

できないから、お腹がぐるぐるして、重くなる。みんながかくす。
しおうもいなくなった。

「しぉう、」
「ええ、紫鷹殿下も心配しております。日向様が早く良くなるよう…」

「しぉ、いらない、なった、」

うつぎがまたぎゅうってして、ちがうって、言う。
ちがわない。

だって、しおうがいない。
どこにもいない。
いるのに、いなかった。
いるって言ったのに、いなくなった。

もうどこにも、けはいがしない。

「ぼく、できな、い、から、しお、いらない、いない。」
「違います。日向様をお守りするためです。朝にはちゃんといらっしゃいますから、大丈夫ですよ。」
「ぼく、いら、ない、」
「いらなくありません。日向様のことが大好きですよ。大丈夫、大丈夫ですから、」

うつぎが泣くから、涙をなでようとしたけど、手が上がらなかった。
ひなたさま、いけません、ってうなみが言って、僕の手をつかむ。お腹の中がぐちゃぐちゃになって、大きな岩をつめ込んだみたいにおもたくなった。

また、僕はできなかった。
魔法を使わないこと、やくそくを守ること。

おぼろの声がする。

もうこれはいらないよ。
何のやくにもたちやしない。
ほら、しおうもいなくなった。
だれもこれはいらないよね。
なら、捨ててしまおう。

ぼくは、もういらない

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