第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第壱部-Ⅴ:小さな箱庭から

46.日向 広がる世界

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起きたらまだ暗かった。
ホーホーの声はしないけど、あおじもまだいない。
煌玉(こうぎょく)をコロコロして、隠れ家のかべにキラキラうつった星を見る。きれい。

まだみずちもうつぎも来ないね。
きがえるのと、顔をあらうのはまだ。朝ごはんもまだ。
でも目はぱっちりあいた。

左の胸のあおじをなでて、隠れ家を出る。
ぺたぺた部屋の扉にあるいていったら、ひょいって扉があいて、あずまの頭が入ってきた。

「起きました?早いですね、」
「うん、あずま、おはよう、」
「うん、おはようございます。お散歩ですか、」
うん、
「じゃあ、靴を履きましょう。廊下は少し冷えるから、上着も着ないと、」

ひょい、ってあずまは僕を抱っこして部屋に入ってくる。
僕よりちょっと大きいけど、しおうやとやよりうんと小さいのに、あずまは力もち。すごい。
昼ははぎながいるけど、朝と夜は、あずまか、うなみか、かんべがいる。そういうきまり。

あずまが僕の足を靴に入れて、もこもこの上着をかぶせた。

「うん、可愛い。」
「おさんぽ、いく?」
「ええ、行きましょうか、」




力持ちのあずまが、部屋の扉をあける。
手をつないで足をだしたら、部屋とはちがうふかふかになった。ろうか、って言う。
さんぽがはじまった時は固かったのに、いつの間にかふかふかになって、びっくりした。とやがしおうに「過保護だ」って言ったから、しおうが変えた気がする。すごい。

ろうかは、長い。いっぱい扉が並んで、ずっとつづいてる。
怖い気もしたけど、扉の向こうは、みずちやうつぎやはぎながいるってわかったら、きれいになった。ふしぎ。

「ろうかは、あの丸いのがあるから、明るい?」
「ああ、日向様の煌玉と同じですよ。魔力で明かりをともしています。」
「色がちがうは、何?」
「えーと、煌玉は、石の種類によって光り方が異なるんです。日向様の煌玉は、異なる色の光をいくつも放つけど、廊下を照らす煌玉は、広い範囲を橙に照らします。他にも白や赤、青の石なんてのもありますね。」
「あずまは、いっぱい知ってる、ね。すごい、」

僕が聞いたら、いつもいっぱい教える。はぎなみたい。
すごい、って言ったらあずまの目が見えなくなるくらい細くなった。うれしいの顔。

「日向様に教えたくて、勉強しました、」
「べんきょう、」
「知らないことを知ったり、新しいことができるように努力すること、かな。日向様の質問に答えたくて勉強してるけど、僕も知らないことばかりですよ。」
「僕も、しらない、がいっぱい、」

しらない、はかなしい。
部屋の外は、しらない、ばっかりだった。

「へやの外に、ね、こんなにいっぱい、へやがあるって、しらなかった。」

ここに来たとき、見たかもしれない、って思ったけど、わからない。
広くて、いっぱい部屋があって、僕の足でぜんぶあるくのは、たいへんだった。
2階はみんながねる部屋がある。お風呂もトイレもいっぱいある。いしょうしつ、としょしつ、ちんれつしつ、そうこ、ちゃしつもある。2階にいっぱいあるのに、1階にはもっとある。

「そうこはわかるけど、ぼくがしってるそうこと、ちがう。そうこは、いろんなそうこがある。すごいね。にれのお家は、そうこ、がにてる。けど、ここのそうこ、とちがう。」

ぎゅって、あずまが手をにぎる。なあに、って見たらまた目が細くなって、やさしい顔をした。

「…ほかには何がわかりませんか?」
「ぜんぶ、」
「全部かあ、」
「へやがわかったら、ね、いろんなものがあるのも、わかった。僕はいっこも、しらない。あずまはいっぱい、しってる。すごい、」
「…一つひとつ覚えていけばいいんですよ。みんなそうしてます。」
「みんな、いいよ、って言う。いっぱい教える。うれしい、」
「僕に聞きたいことがありますか?」
「ろうかの、絵、は何?」

すみれこさまが、みんなが気持ちよくなるように選んだ絵ですよ、ってあずまが教えた。
僕は小さくて絵が見えないから、あずまが抱っこして、いっこずつ見る。
紫色の小さい花の絵があって、「しおうみたい、」って言ったら、すみれっていう花って、あずまが教える。

「すみれこさまは、すみれ?」
「うん、菫がたくさん咲く頃に生まれたと言ってましたね。」
「すみれこさまは、すみれ。すみれは、花。きれい。」
「董子殿下に伝えてあげてください。喜びますよ、」
「あずまは?」
「僕ですか?うーん、僕の名前に大した意味はありませんよ。東(あずま)は方角の一つだけど、兄弟は皆方角とは関係ない名前だから。」
「きょうだいは、なまえ、かんけい?」
「ああ、親子や兄弟は、名前の一字を同じにしたり、関連する名前を付けることがよくあるんです。たとえば、皇室の人たちは、宮に関連した名前になります。紫鷹殿下は、半色乃宮(はしたいろのみや)の皇子だから、紫。殿下のお兄様とお姉様も紫が名前に入ります。」
「紫は、しおうの色?」
「そうです、」


すごい。
しらないが、わかる、になった。


「あるく、」
「足は痛くないですか?」
「大丈夫、」

足は痛い時もあるけど、あるきたい、がある。
いっぱいあるきたい。
いっぱいあるいて、いっぱいわかるに、なりたい。

しらない、がいっぱい、はかなしい。
でも、わかるが、いっぱいになる、はうれしい。

僕はあるく。
またしらない、がふえて、わかる、がふえる。
すごいね。
あるいたら、かなしい、もふえるけど、うれしいもふえる。
きれい。とてもきれい。

ろうかに、いっぱい絵がある。
絵がわかるになったら、しおうの名前までわかった。
しおうに、教えたい。


「しおうは、ねる?」
「いつもなら、まだ寝ていると思いますが、」
「まだねる?」
「ああ…うーん、日向様なら、いつ行っても歓迎してくれると思いますよ。お部屋にいきますか?」
「いく、」


あずまとあるく。
すごいね。
あるいたら、会いたいが、会える、になる。
しおうにも、とやにも、すみれこさまにも、はるみにも、たちいろにも、ひぐさにも、会える。


「おさんぽって、いいね、」


僕がいったら、あずまも「いいですね」って目が細くなった。
きれいだね。
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