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第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法

44.日向 16歳

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「誕生日おめでとう、日向。」

窓の外のあおじと話していたら、しおうが来た。
いつもは、朝はうつぎかみずちが来るのに、しおう?

「おめでとう、は何?」
「日向が生まれたことを祝う言葉だよ。」
「いわう、は何?」
「喜ぶこと、かな。日向が生まれてよかった、嬉しい、って思うことだよ、」
「僕が生まれたは、うれしい?」
「ああ、嬉しい。日向が生まれて、俺と一緒にいることが嬉しくてたまらない。」

紫色の目が細くなる。きれい。
しおうの顔がやさしくて、しおうのうれしいが、うれしくて、ふわふわした。


「誕生日、おめでとう、日向。生まれてきてくれて、ありがとう、」


―――僕は、16歳になった。



たんじょうび、があるって、すみれこさまが教えた。
僕が生まれた日。
生まれた日から1年経ったら、また誕生日があって、1歳になる。
僕は16年経ったから、16歳になるって言った。

「あらやだ、何で殿下がいるんですか、」
「悪いか、」
「どうせ、一番に祝いたかったとか、そういうことでしょう。おはようございます、日向様。お誕生日ですね、」
「みずち、おはよう。」
「お誕生日、おめでとうございます、」

おめでとうございます、ってみずちも言った。

「みずちも、おめでとう、っていう、」
「ええ、お誕生日ですもの。」
「僕がうまれるは、みずちも、うれしい?」

みずちの丸い目が、もっとまん丸になって、それから細くなった。しおうと同じ。きれい。

「ええ、日向様が生まれて、水蛟はとても嬉しいです、」
「うん、」
「さあ、今日は皆さんお祝いに来たがっていますから、お仕度をしなくては。まずは顔を洗って、お着替えです。」
「それ、俺がやりたいんだが、」
「…殿下は朝ご飯のお役目でしょう。日向様はお着替えなさいますから、また後でお越しください。」
「くっそ、」
「口が悪いですよ、殿下、」

しおうは夜もうつぎに、ちがう、って言われた。
いつも叱られるのに、何回も言う。ふしぎ。

みずちが顔をふいて、きがえたら、またしおうが来る。
おいで、って言ったから、しおうのひざにのぼって、朝ごはんを食べる。僕が食べられなくなって、しおうの口に入れたら、はぎながきた。

はぎなは、前はよくぽかんって口を開けてたけど、最近はしない。

「おはようございます、日向様。お誕生日ですね、おめでとうございます。」
「はぎなも、うれしい?」
「私ですか?」
「…日向が生まれて、嬉しいか、だと。」
「ああ、ええ、もちろん。日向様が生まれてきてくださったことが、とても嬉しいですよ、」

はぎなも、黄色の目を細くして笑った。きれい。
しおうは、はぎなが来ると、いつも「きげん」がわるくなる。とやが、子どもだな、ってよく言う。

だから、ぎゅってした。

「どうした?」
「しおうが泣くときと、きげんがわるいときは、ぎゅってする、」
「は、」
「僕、お兄さん、だから。しおうは、弟、子ども、」

ぶって、お茶を飲んでたはぎなと、はぎなにお茶を出したみずちが笑った。二人とも顔が真っ赤。
しおうも顔が赤くなったから、何かちがったかもしれない。でも、しおうがぎゅってしたからたぶんいい。
しおうと、みずちと、はぎなは、笑ったり大きな声を出したり、にぎやかになった。前は、大きな声は怖かったけど、今はちがう。きれい。たのしい。

いっぱいさわいで、朝ごはんが終わったら、またきがえた。
きがえるのは、ご飯をこぼして汚れるからって分かったから、僕はこぼさないように頑張る。きがえない時もあるけど、今日はきがえた。仕方ない。かなしい。
きがえたら、まだしおうがいた。

「しおう、いるの?」
「嫌か、」
「しおう、いるは、うれしい。今日は、がくいんと、きゅうじょうは、いかない?」
「…ああ、行かない。今日は一日中、日向といる。」
「うれしいね、」

うれしいは笑う。
本当はみずちやそらみたいに、顔いっぱいで笑いたいけどむずかしい。でも今日は、いつもより頬が動いた気がしたから、いいかもしれない。しおうがぎゅってして、首のところにちゅーってしたから、きっとそう。

「お誕生日おめでとうございます、日向様!今日はパンを多めにお持ちしましたよ!」

そらはいつも元気。かごにいっぱいパンくずを持ってきた。きれい。
しおうは、みずちとはぎなに叱られてたから、そらと2人でえさ台にパンを置いた。すずめが来て、すぐにあおじも来る。ぴーって鳴いた。

「日向様、おめでとうございます。」
「おめでとうございます。お誕生日ですからね、お仕度急がなくてはなりませんよ、」

うつぎとゆりね。いつもは2人なのに、今日はみずちもそらもうつぎもゆりねもいる。
あっという間におそうじして、机といすが増えた。
僕がびっくりして、机といすの間でそわそわしてたら、とやが来て、ひょいって僕をひろう。

「おめでとう、ひな、」

とやが笑った。とやはあんまり笑わないのに、顔いっぱいで笑った。
うれしくてぎゅってしたら、しおうが叫んで、またみずちとはぎなに叱られる。
とやにあおじを教えたら、とやはまたいっぱい笑った。

いつの間にか、匂いがする。おいしいの匂い。
おぐりがいる。しんさつの日は今日?たちいろとひぐさもきた。鍛錬するの?ってとやに聞いたら、ちがうよ、って言った。
あずまと、うなみと、かんべと、きすぎと、ほこしろと、まがきと、となちと、あららぎもいる。時々しかいない人も、今日はいる。お部屋の外にも、いっぱい人の「けはい」がした。

「ひな、大丈夫だから、待てるか?」

僕はまたそわそわしてきて、とやにつかまる。

「ぎゅってしたら、しおう、さけぶ?」
「いいよ、叫ばせとけば。おいで、」

とやがぎゅってする。背中をなでるのが、とやは上手になった。
あおじがずーっといる。何で?って聞いたらぴーって鳴いた。とやは「誕生日だからかな、」って笑った。

たんじょうび。
ぼくの、たんじょうび。
みんな、おめでとうって、言った。

「返せ、」
「しおう、」
「お説教は終わったんですか、殿下、」
「日向、俺は今落ち込んでる。ぎゅっが必要だと思う、」
「ちゅーは、いいの?」
「する、」
「するなよ、」
「とやもする?」

ぎゃーって、初めて聞く声でしおうが叫んで、びっくりした。
僕はとやにぎゅってしたけど、しおうが泣きそうになるから、手をのばす。しおうは、いつもより強くぎゅーってして、ちょっと泣いてるみたいだった。

ちゅーってしたら、みずちに叱られるかな。でも、しおうが、いやだ、ってだだをこねて、子どもになってる。

僕はお兄さんだから、頭をなでて、頬にちゅーってした。
今度はみずちがぎゃーって叫んだけど、叱られなかった。

「機嫌治ったか、」
「治ったどころか、有頂天だ、」
「うちょうてんは、何?」
「嬉しくて嬉しくて、最高に幸せってことだよ。日向が幸せにしてくれた、」
「ちゅーは、しあわせ?」
「最高に幸せ、」
「とやも」

とやに聞こうと思ったのに、しおうがまたぎゃーって言って、逃げた。
はぎながぽかんって顔になる。あの顔を、僕はやってみたい。

「とりあえずお座りなさいな。主役をいつまでも一人占めしているんじゃありませんよ、紫鷹さん。」

すみれこさまが、ぽんぽんって、隣の席をたたく。はるみもいる。
いつの間にか、机のまわりにみんながいて、にこにこ僕を見てた。

「お誕生日おめでとうございます、日向様。」
「おめでとうございます、」
「本当におめでとうございます。」
「おめでとうございます、」

みんなが言う。
やさしい目と、やさしい顔がいっぱい。
みんな、おめでとう、って言う。

「おめでとう、日向。」
「なあに?」
「プレゼント。日向が生まれて嬉しいから、贈り物を渡したいんだ。」
「ぷれぜんと、おくりもの、」
「開けてごらん、」

リボンがついた、黄色の箱。

「あけるは、どうやる?」
「ごめんごめん、貸してみな、」

リボンの片方をしおうが引っ張って、しゅるーってリボンが消えた。ふしぎ。
ふたを開けてごらん、って言う。上にかぶったふたを持ち上げたら、黄色い鳥がいた。

「あおじ、」
「あおじに似せたブローチだ。これならいつも着けていられるだろう?」
「きれい、」

木でできたあおじ。目のところに、緑色の石がついてる。あおじの目。
おくりもの。
おめでとうのおくりもの。

「日向?」
「ぼく、うまれるは、うれしい?」
「うん、嬉しいから、どんな贈り物がいいか、一生懸命考えた。」
「ぼくがうまれるは、おくりものするくらい、うれしい?」
「うん、贈り物じゃ足りないくらい、俺は嬉しい、」
「みんな、うれしい?」
「そうだよ、みんな嬉しくて、ここにいる。」

しおうの手が、僕の頬をなでた。ぽろぽろ涙が出てた。

「生まれてきてくれて、ありがとうな、日向。」

頭にちゅーが降ってきて、僕はふわふわになって、もっといっぱい涙が出た。
しおうが、僕の服に木のあおじをつける。
かわいい、って頭をなでて、涙が止まるまでぎゅってした。

「日向さん、私からもプレゼントがあるのだけど、受け取ってくれるかしら、」

すみれこさまが、黄色と桃色の大きな袋を渡す。
うさぎが入ってた。ふわふわのうさぎ、僕がぎゅって抱っこするのにちょうどいい。
うれしくて、すみれこさまにぎゅってして、また涙がでた。

とやがくれた水色の箱には、温玉(ぬくいだま)に似た石。煌玉(こうぎょく)って言う。
魔力を芯にともすと星みたいに光るんだよ、あとで一緒にやってみよう、って言った。
僕はまた泣いた。ぎゅってしたら、しおうがうなったけど、とやは「ほっときな、」って言った。

みずちとそらとうつぎとゆりねの箱には、鳥笛が入っていた。
ホーホーの笛と、ピーピーの笛。チュンチュンとオイオイの笛は今、そらのお父さんが一生懸命試してるって教えた。ぼくは、もうずっと涙が止まらなくて、ぐちゃぐちゃになった。

おぐりの箱には、キラキラの薬箱。あちこちに、鳥とうさぎの石がついてる。
はるみは、僕と同じ水色の髪と、水色の目の人形。服は黄色で、うさぎを手に持ってた。
たちいろは、四角と三角と丸がいっぱい入った箱。つみき、っていう。じいといっしょにあそびましょう、って言った。
ひぐさは、きらきらの小さなかがみ。おぐりの箱と同じ鳥とうさぎの石がついてる。
はぎなは、鳥の本。ずかん、って言う。あおじがいて、あおじのお家のことものってるから、読んでくれるって言った。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、僕はぼんやりしてきた。
いっぱいいっぱい、おくりものがある。

何でこんなにあるの?
こんなにおいわいするの?

後で開けましょうね、ってすみれこさまが言って、しおうが僕を膝に抱っこした。
ご飯だよ、ってしおうが言ったけど、僕はスプーンが見えない。しおうが口に入れた。


「おめでとう、」
「おめでとうございます、」
「本当におめでとうございます、」
「生まれてきてくれて、ありがとう、日向」


僕が生まれるは、うれしい。
僕が生まれるは、みんながうれしい。

うれしいの涙が、いっぱいいっぱい出た。
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