上 下
42 / 196
第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法

41.日向 しおうの魔法

しおりを挟む
夜ご飯を食べて、お風呂に入って、うつぎが髪の毛をかわかすのを見てたら、胸がぎゅーってなった。
びっくりして隠れ家に帰ろうとする。でも体が動かなくて、床に転がった。
うつぎとはぎなが何か言ったけどよく聞こえない。

ダメだ、どうしようって、床で丸くなってたら、しおうがきて僕を抱っこした。

「大丈夫だ、日向、」

「大丈夫、ゆっくりでいい、」

背中とお腹があったかくなって、大丈夫、ゆっくり、息を吐いてごらん、ってしおうがいうのが、聞こえるようになってくる。
胸の中の苦しいのが、ちょっとずつうすくなった。

コトコトって、しおうの胸の音が聞こえると、涙が出て、僕はふわふわになった。






「何が嫌だったか、わかるか?」

涙が止まって、しおうの腕の中でぼーっとしていたら、しおうが聞いた。
まだ胸の中が少しだけぎゅってしていて、お腹の中もそわそわしてる。頭の中がぼんやりしていたけど、しおうが聞いてることはわかったから、僕は考えた。

いや、なこと。

ほしいことと、いやなことを、ちょっとずつ見つけていこうな、ってしおうと「やくそく」した。

何が「いや」だったかな。
何でこわくなったかな。
こわい、もあるけど、かなしいもあった気がする。

しおうの手が背中をなでる。

「まほう、」
「うん、」
「魔法が、きれい、だった。」

うつぎの手が、淡い緑にキラキラして、風が僕の髪をなでた。
暖かくてやさしくて、だんだんと眠くなる、うつぎの魔法。
すごくすごく、きれいだった。

きれいで、かなしかった。

「やくそく、した、のに。きれいって、思った。」
「うん、」
「やくそく、なのに。魔法は、使わない、のに、」
「うん、」

ほしい、があるのが苦しい。

「いらな、いって、いうかもしれ、ない」
「誰も言わないよ。日向。」
なにが?

「いらない、は誰も言わない。」
本当に?

「たちいろ、と、ひぐさ、も?」
「ああ…、なるほど」

まだ終わってないんだなあ、ってしおうが小さく言って、ぎゅって強く抱っこした。
大丈夫だよ、ってしおうがまた背中をなでたから、僕は震えているのかもしれない。
でもわからない、がまたかなしかった。

「一人で魔法を使わないって、約束したんだもんなあ、」
うん、
「それなのに魔法が綺麗だと思ってしまったのが、怖かった?」
うん、
「また約束を破ってしまうかもしれないって、不安になった?」
うん、
「燵彩(たちいろ)と灯草(ひぐさ)にいらない、っていわれるのが怖い?」

胸の中がぎゅーってなった。

たちいろとひぐさの顔が浮かんで、急にお腹がそわそわする。しおうの腕の中でじっとしてるのが、できない。
ベッドからおりたいかもしれない。
くるくる部屋の中を歩きたいかもしれない。
隠れ家の中で丸くなって、自分の体をぎゅーってしたいかもしれない。

「日向、大丈夫だ。ちゃんと息を吐け、」
「…ふるえる?」
「ああ、震えてる。手開けるか?自分で自分を傷つけてほしくない、」

しおうに言われて、僕が自分の手で反対の腕に爪を立ててるって、わかった。
手を見たらふるえるのが見えたけど、わからなくて、またお腹がそわそわする。
指をほどこうとするけど、どれが指か、わからない。
何で、できないんだろう。

「日向、こっち見ろ、」

言うのと一緒にしおうが頭をつかまえて、僕の顔をしおうの方に向ける。
紫色の目が、僕をつかまえた。


「聞いてくれ、日向」



「燵彩も灯草も、日向のことが大好きだ。一緒に魔法の練習しただろ?日向がうまく魔力制御したら、喜んだろ?覚えてるか?」
うん、
「日向が寝てる間、2人は何度も何度も来た。日向のことを、燵彩は眠れないくらい心配してた。灯草は、自分がもっと日向に教えていれば、って泣いてたよ。なんでかわかるか?」

紫色の目の中で、たちいろと、ひぐさが笑ってる。

「燵彩も灯草も、日向がいなくなるのが、怖かったんだよ。日向にいて欲しいんだよ。みんな、そうだ。俺もそう、」

しおうは言うね。
いつも言う。

「魔法をきれいだって、思っていい。日向がきれいだって思えるものを、否定しないでくれ。」

「失敗したなら、取り戻そう。また魔法の練習をして、今度はうまくいくようしよう。いつか1人で魔法ができるように、燵彩も灯草も助けてくれる。日向ならできる。日向が約束を頑張って守っていること、俺はちゃんとわかってる。燵彩も灯草もわかってる。」

「燵彩も灯草も、日向のことをいらなくならない。2人も日向が好きだ。」


しおうの声が、僕の中にいっぱいに広がっていった。
いいよ、いいんだよ、いらなくない、いてほしいんだ、大事だよ、大好きだよーーーーしおうの言葉で、僕の体がいっぱいになっていく。
その分、ことばが出てきた。


「ごめんなさい、して、ない、」
「うん、」
「してない、が、いやだ、」

コトコトと音がして、僕はいっぱいしゃべる。
しおうが魔法をかける。

「たちいろ、と、ひぐさ、に、ごめんなさい、っていいたい。やくそく、守るに、なりたい。いらない、っていわない、に、なりたい。」

いやだ、と、ほしい、がある。
僕はまだぜんぶはわからない。
でも、しおうが、大好きだよって言って、ぎゅってすると、わかる、がふえていく。


「ごめんなさい、できなくて、いっぱい痛くなった、いらない、って言った、いやだ、」
「うん」
「もう、いやだ、」
「うん、もうさせない。」


紫鷹がちゅって、僕の頭とおでこに口をつけたら、あったかくてまた涙が出た。涙にもしおうが口をつけて、僕をふわふわにする。
しおうが僕の手をなでると、ぎゅーって握った手が、ゆるゆるほどけた。


「日向が嫌だって、言ってくれたから、俺も何が嫌かわかった。わかったから、もう嫌なことが起こらないようにできる。わかるか?」
「うん、」
「燵彩と灯草に、ごめんなさい、って言おうな、」
「うん、」
「それから、魔法も練習しよう。約束守れるようになろう、」
「うん、」
「いらないは、もう誰も言わない。言わせない。」
うん、


紫色の目が、ゆらゆら揺れた。きれい。

お腹の中のそわそわが小さくなって、動きたいが減っていく。
ふわふわがいっぱい広がって、うれしいの涙がぼろぼろ出た。しおうの口が、涙をぬぐってく。背中をやさしくなでて、ぎゅってした。

ことことことこと、しおうの音がする。


「大好きだよ、日向。」
うん、
「ずっと一緒がいい、どこにもいくな」



こわい、がちょっとずつなくなって、きれいがいっぱいになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...