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第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法

36.日向 はじめてのお願い

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鳥が1わ、2わ、3わ。
窓のところで、パンのかけらを食べて、チュンチュンいう。
茶色の鳥が2わ、黒い鳥が1わ。黄色はいない。

「嫌だ、来るな、」
「殿下、決まったことです、」
「嫌だ、」

僕の体をぎゅーって抱っこして、しおうはずっと「だだ」をこねている。
だだ、わがまま、子どもみたいって、とやが言った。
大事なお話があるって、とやと部屋にきたのに、しおうがわがままで、とやは困ってる。

「日向王子、今日からこのお部屋を守る騎士が来ております。入れても構いませんか?」

とやが僕に聞いた。優しい声。優しい顔。

僕は胸とお腹のぐるぐるは消えたけど、何だかずっとぼんやりしてる。
でもとやの言うことはわかったから、いいよ、ってうなずいた。

「嫌だ、だめだ。」
「ありがとうございます、日向王子」

しおうがいやだっていった。僕に聞いたと思ったけど、違ったかもしれない。
しおうはずっと僕をぎゅってしてて、すこし痛い。でも、しおうが泣きそう。仕方ない。

鳥がもう1わ。
また茶色い鳥。黄色はいない。

「日向王子、紹介します。萩花(はぎな)です。」
「はぎ、な、」
「日向様、お目にかかれて光栄です。西佳国(さいかのくに)の萩花と申します。本日より、日向様をお守りする役を賜りました。」
「さいか、おまもり、たまわり、」
「西佳国は日向王子がいらした国のお隣です。萩花は、2年前まで留学のため、こちらの離宮で暮らしておりました。俺たちもよく知る者です。日向王子の護衛に付きますから、日向王子にも少しずつ慣れていただければと思っております。」

うん、って言ったら、しおうが背中をなでた。
心配する手。

とやより背が大きい男の人。
なんだか不思議な色がする。大きいのに、ふわふわしてゆりねみたい。
きっと、しおうととやがいっぱい考えて連れてきた。

大丈夫。わかる。

しおうは何回も言った。
僕は約束をやぶったけど、みんな怒ってない。でも、心配している、って。
僕がけがするのが、みんなもいやだから、約束するんだよ、って。
大事だから、僕のことをいっぱい考えて、いろんな決まりを作るし、約束するんだっていった。

だから大丈夫。

はぎなは新しい決まり。
みんながいっぱい考えた。
大丈夫。

黒い鳥が飛んでった。茶色い鳥が3わ。

「ゆりねに、にてる」
「ゆりね、ですか。」
「日向王子の侍女です。似てますか?」
「うん」

とやがひなって呼ばない。
それも決まり?

「はぎなは、りゅうがく。同じ。ひとじちの人?」
「え、」
「は、」
「僕もひとじち、同じ?」

ぎゅって、しおうの手が強くなった。痛い、しおう。
はぎなの目が大きくなる。黄色い目。鳥の色。
とやが怖い顔になった。ダメだったかもしれない。

「日向、ちょっとこっち向け。」

しおうが僕のあたまをつかんで、ぎゅうって、胸の中に入れた。びっくりする。でもあったかい。
コトコトしおうのしんぞうの音が聞こえた。きれい。

「震えてる、ムリすんな。」
なにが?
「日向は人質だけど、人質じゃない。俺の大切なもの。」
うん
「萩花も、人質だったけど、今は違う。友達になった。わかる?」
「ともだち、は、とや?」
「そ、藤夜みたいなもん、」
「はぎなは、ともだち」
「そ、」
わかった。

うなずいたら、しおうが頭を離して、おでこに口をつけた。やっぱりあったかくてふわふわした。きれい。
しおうは最近、これをやる。顔とか首とか、手とかいろんなところにやる。
いつもみずちとそらとゆりねとうつぎとはるみに叱られる。

今度は茶色の鳥が1わ飛んでった。茶色が2わ。

「ダメか、」
なにが?
「隠れ家に帰るか?」
大丈夫
「でも震えてる。何が怖かった?わかるなら、言ってほしい。俺も知りたい。」
わかんない
「わかんないかあ、」

むずかしいなあ、って僕の背中を撫でて困った顔になった。

茶色が2わとも飛んでった。鳥がいない。パンもない。
黄色い鳥はいない。
もう来ない。

はぎなが不思議そうにしおうと僕を見る。黄色い目。鳥の色。
とやはひなって、よばない。

「はぎな、しばらく下がってろ。やっぱりまだ早い、」
「紫鷹、あのなあ、」
「今は俺がいるからいいだろ。俺が守る」
「そういう話じゃないって、決着ついただろう。」
「藤夜、騒ぐな、今じゃない、頼む」

はああ、ってとやがため息をつく。
はぎなと一緒に離れていった。「外にいる」って声がして、部屋を出ていく。

仕方ない。

仕方ない。

何が?




「日向、あれか?」



しおうが嬉しそうに言った。


あ。


鳥が来た。
1わ。
黄色い鳥。
小さな鳥。

僕の好きなぴーぴーの鳥。
餌台に止まって、僕を見た。

いた。
きた。
見た。

僕のところに、また会いにきた。


「しおう、きた、」


涙が、出た。
これは、うれしいの涙。
胸の中があったかくなって、何かがとける。

「うん、良かったなあ、」

しおうが背中をなでたとこから、ふわふわする感じが広がった。
ぴーぴーって声がする。
きた。

「これが日向の好きな鳥か、いいな。会えて嬉しいだろ?」
うん
「俺も嬉しい。」

しおうが僕の頬を撫でて、涙をぬぐう。
嬉しそうに、黄色い鳥を見てた。

「しおうが、くるっていった」
「大丈夫だっただろ。」
「うん」
「なあ、日向、」

紫色の目が僕を見る。きれい。
やさしくて、温かくて、もっと涙が出た。

「ほしいものはほしいって、言っていい。全部は無理だけど、俺は日向が欲しいものは手に入れたい。日向に笑ってほしい。」
「うん」
「あとな、嫌なことも教えてほしい。我慢しなくていい。何が嫌なのかわからなかったら、嫌だって言うだけでもいい。」
「うん」

黄色い鳥がきた。
またきてくれた。
もどってきてくれた。
しおうが言った。大丈夫だよって。

「大好きだよ。お前が嬉しそうで、俺はめちゃくちゃ嬉しい。」
うん
「何がほしい?何が嫌?」





「とやに、ひなって、よんで、ほしい」




「え」



部屋の外で、とやの声がした。
しおうは驚いた顔をしたけど、「そっか」って言った。
黄色い鳥がぴーぴー鳴いてる。

「とやが、ひなって呼ばない、いやだ、ひながいい、」
「うん、そうだなあ、」
「とやが、ひな、いらない?」
「いらなくないよ。藤夜も日向が心配だった。なあ、藤夜」

「ひ、な、」

さっきよりうんと近くで、とやの声がする。

「言ってごらん、」ってしおうが言った。
ぴーって鳥も鳴いた。
涙がいっぱい出た。
ほしいが、ある。


「とやは、ひながいい。ひなってよんで、ひなって、よんで、ほしい」


しおうが僕を抱っこしたまま立ち上がった。
ぴーぴーの声が遠くなるかわりに、とやが近くなった。

「責任取れ、」
「え、」

とやがいる。手を伸ばす。
捕まえて離さないように、しっかり抱きしめた。

「ひな、ってよんで」
「え、はい、ひ、な、」
「やくそく、」

とやの体がびくってなって、離れそうになるのを、一生懸命捕まえた。
いいたい、がある。


「やくそく、やぶって、ごめんなさい」

「しんぱい、かけて、ごめんなさい、」

「とやは、おこらない、って、しおうがいった。でも、ごめんな、さい、」

「ひな、わかった。わかってる」
うん

「とやと、まほう、したい。もうやくそく、やぶら、ない」

「まほう、おしえて、また、ひなって、よんで、」

とやの手が、背中をなでた。ゆりねやしおうみたいになれてない。でもあったかい。
「よく言えたな」ってしおうが笑った。
ぴーぴーって鳥の声がしてる。


「あら、日向様の初めてのお願いは、藤夜様でしたか。残念です、」


ずっと静かだったうつぎが言ったら、しおうが騒いだ。
「返せ」って言ったしおうから、とやが僕を抱っこしたまま逃げて、部屋の中をくるくる回る。はぎなが、ぽかんって口を開けてみてた。
涙が止まって笑ったら、しおうがもっと騒いでにぎやかになった。
うつぎは、何だかすごくやさしい顔で笑ってる。
ぴーぴーが鳴いてる。チュンチュンも鳴いている。黒い鳥がまた来て、オイオイって鳴いた。
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