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第壱部-Ⅳ:しあわせの魔法

30.日向 ごめんなさい

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わるいことしたら、ばちがあたるよ。
いたいめにあっても、しかたない。
わるいことしたんだから。
わるい子だから。



ぴーぴーの声がした気がした。
朝なのかもしれない。でもよくわからない。
朝はおきる時間。おはよう、っていう時間。
でも体が動かなかった。


「日向、開けていいか。少しでいい、顔を見せてほしい。」


扉の向こうから、しおうの声がする。
いつもより力がない声。心配の声。
昨日の夜もいた。夜をすぎてうんと暗くなっても、ずっとそこにいた。今もいる。

いいよ

声を出そうとしたけど、うまく出なくて、かわりに涙が出た。

「開けるぞ、」

聞こえた?
しおうはいつも僕の声が聞こえる。すごい。
扉が開いて、紫色の目が僕を見る。心配する目。きれい。
でも心配かけて、ごめんなさい。

声は出てないのに、しおうは聞こえたみたいに笑う。いいよ、って。
何でわかるの?


「顔色、マシになったな。良かった。」
うん、
「吐き気は?」
大丈夫、
「何か食べられるか?」
わからない
「ジュースくらいならいけるか?」
うん、
「中にいれてもいいか?ちゃんとストローもつけた。蓋もあるからこぼれないよ。」
うん、
「泣かなくていい、元気になるの、待ってるから」
うん、


僕の水色のコップを、しおうが隠れ家にいれて僕の手に握らせてくれる。
僕の名前が書いてある。みずちが書いた。うれしい。ありがと。
うれしくて、涙が出る。

「顔が見れてよかった。開けてくれてありがとな、」

紫色の目が細くなって、すごく優しい顔でしおうが笑った。
うん、って心の中で言ったら、しおうも「うん」って言う。
それから静かに扉を閉めてくれた。
隠れ家が暗くなって、僕一人になる。
ちょっと寂しい。抱っこしてほしい気もする。でも、今はここがいい。



すごいね、しおう。全部聞こえてた。
分かってくれた。



僕はずっと、頭とお腹がぐるぐるしている。
昨日は少しでも動くと目が回って、吐いてしまった。
今は吐かないけど、ぐるぐるは続いてる。
撫でられるのと、抱っこされるのが好きだったのに、全部ぐるぐるしちゃう。


魔力が枯れちゃったんだって、小栗が教えてくれた。


僕は最近、魔法の練習をしてる。
しおうと、とやと、はるみと、ゆりねと、うつぎと、すみれこさまと、おぐりと、たちいろと、ひぐさは魔法を使う。みずちとそらは使わない。僕が知ってるのは、これだけだけど、魔法が使える人はいっぱいいる。
僕も練習したら使えるんだって。だから練習してる。

でもおとといは失敗した。
お風呂から出て、うつぎに髪を乾かしてもらったとき、水と風の魔法がきれいだった。いいな、きれいだなって思って、一人でやってみた。
いつもは誰かと一緒に練習する。一人でやっちゃだめって、とやとたちいろとひぐさと約束したのに、守らなかった。
そしたらうまく行かなくて、変な風が吹いて、真っ暗になって気が付いたら、みんなが僕をしんぱいしてた。



それからずっと頭とお腹がぐるぐるしてる。
苦しくて、怖くて、いっぱい泣いた。みんなの声が聞こえるのに聞こえなくて、もっと怖くなった。
小栗がいいよって、言って、しおうが隠れ家に入れてくれたら、声が聞こえるようになって、ちょっとだけ怖くなくなった。
きれいがちょっとだけ出てきた。安心、っていう。


いっぱい眠れば大丈夫だよって、小栗が言った。
だから眠る。小栗はうそつかない。
でもかなしい。


みんなにしんぱいかけた。
とやとたちいろとひぐさの約束をやぶった。ごめんなさいって言ってない。
ご飯を食べなかった。
お返事もできない。
わるいことをいっぱいした。仕方ない。

怒るかな。
みんなは怒らない、大丈夫。

でもわるいこと、いっぱいした。怒るかな。
しおうは、待ってるって言ってくれた。大丈夫。


痛いことがなくて、怖いのも苦しいのもなくて、うれしいことや楽しいことがいっぱいあって、しあわせだったのに。


しあわせを、ぼくがこわした。
わるいこと。
元気になったら、ちゃんとごめんなさいって言う。
しおうは待ってるって言った。
本当に待ってる?


もういらないって、言わないで待ってる?
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