第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第壱部-Ⅰ:人質王子

4.日向 巣穴にて

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「日向王子」

ひなた、ぼくの名前。
おうじ、それもぼくのこと。

うとうとしていたら、名前を呼ばれて目が覚めた。
何度も何度も呼ばれて、小さくなっていたら、いつの間にか呼ばれなくなった。
全身を包む毛布が温かい。ここなら見つからない。
ようやく眠れる気がして、まぶたが重くなった。

そうしたら、また声がした。

「日向王子、そこにいるだろう?」

さっきまでは遠かった声が、すぐそこから聞こえて、一気に目が覚めた。
扉のすきまの明るかったところが暗くなったから、誰かがそこに来たのだとわかる。

見つかってしまった。
怒られるかな。
ここにいてはダメだっただろうか。
何かまちがえてしまったかな。

どうにか見つからない場所をと考えるけれど、ここはぼく一人でいっぱい。
それでもできるだけ背中を奥に押し付けて体を小さくした。頭からかぶった毛布を握る。

「開けるぞ」

すき間の明かりが動く。
ゴトリと音がして、すき間が広がる。
まぶしくて、きゅっと目を閉じた。

「え」
「…本当にいた。」
「というか、何でこんなとこ?良く入ったな。」

たくさんの声がはっきり聞こえる。
ああ、扉がなくなってしまった。守ってくれると思ったのに。

「出て来いよ、さすがに体が痛いだろ。ほら」

でて、こいよ。

出ないといけない。
眠れると思ったのに。ここなら見つからないと思ったのに。ここなら安全だと思ったのに。
やっぱりダメだった。
きっと怒られる。痛いかな。苦しいかな。怖いかな。

出なければ。
出なければ。

固まった体を、何とか動かそうとした。
ぼくの体は、いつもすぐには動けない。
動け動けとたくさん命令しなきゃいけない。
でも遅いと怒られるから、頑張らなければ。
ぎゅっと、毛布を握る手に力を込めた。

そのとたん、ぽんぽんと、二回、腰のあたりを叩かれる。

びっくりして目を開くと、紫色の目が見ていた。キラキラして宝石みたい。きれい。

「なるほど、」

なるほどって、どういう意味?
うん、うん、って二回うなずいたのは?
ぽんぽんしたのは?

「母上、藤夜、一度外へ出ましょう。」
「え、でも」
「日向王子、あとで食事を持って来よう。少しは食べろよ。」

ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん

8回、腰を叩く。
痛くない。あったかい。やさしい。

「扉は閉めるか?」

紫の目が細くなった。

うん。

「そうか、」

ぽんぽん
2回。

それから扉がしまる。しばらくすき間の明かりが暗かったけど、「またな。」と声がして、明るくなった。
ざわざわと人の声がする。少しずつ遠ざかっていく。足音と服がすれる音、色んな音が小さくなっていって、最後に扉が閉まる音がして、静かになった。

またな。

また、な。

また会うよ、って意味。
必ず会うこともあるし、そうじゃないこともある言葉。
どっちがいいのかはわからない。

でも、紫色はきれいだった。
ぽんぽんされたところは痛くなかった。温かかった。
見つけたのに、でてこいよと言ったのに、扉を閉めた。
それはきっと、悪くない。


今のところは。





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