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第壱部-Ⅰ:人質王子
1.日向(ひなた) 人質としてやってきた
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馬車の揺れが収まり、人の声がする。
重たい瞼を押し上げぼんやりと視線を向けると、開いた扉の向こうに真っ白の石畳が見えた。
「ようおいでくださいました。日向王子。」
ひなた、僕のこと。
おうじ、これも僕のこと。そう呼ぶ決まりなんだって。
呼ばれたから馬車を降りる。
視線の先に、長い裾からキラキラ光る宝石みたいなつま先が見えた。きれい。
「ようおいでくださいました。」
もう一度、おなじ言葉。
よく来たね、って言葉。
僕がこの国に来たことを、よく来たね、と。
白い手が差し伸べられる。
その意味がわからなくて、キレイなつま先を眺めていたら、白い手が、僕の手を捕まえた。
それからもう一度。
「ようおいでくださいました」
その意味はよく分からなかったけれど、白い手が、やわらかくて温かくて、少しだけ目が熱くなった。
よう、おいで、くださり、ました。
よく来たね、って言葉。
そこくを出て僕はここに来た。
そこくを守るために、ひとじちが必要だから。
そこくのだれも、ひとじちにしたくないから。
だってひとじちは、死ぬかもしれない。そこくのために。
だから僕は来た。
僕なら、いつ死んでも誰もこまらないから。
そこくの誰かが死んだら悲しむ人がいるけれど、僕にはいないから。
何もない僕がこの国にきただけで、誰も困らずに、悲しまずに済む。
それは、よく来たね、と迎えてもらえるほどいいことだ。
重たい瞼を押し上げぼんやりと視線を向けると、開いた扉の向こうに真っ白の石畳が見えた。
「ようおいでくださいました。日向王子。」
ひなた、僕のこと。
おうじ、これも僕のこと。そう呼ぶ決まりなんだって。
呼ばれたから馬車を降りる。
視線の先に、長い裾からキラキラ光る宝石みたいなつま先が見えた。きれい。
「ようおいでくださいました。」
もう一度、おなじ言葉。
よく来たね、って言葉。
僕がこの国に来たことを、よく来たね、と。
白い手が差し伸べられる。
その意味がわからなくて、キレイなつま先を眺めていたら、白い手が、僕の手を捕まえた。
それからもう一度。
「ようおいでくださいました」
その意味はよく分からなかったけれど、白い手が、やわらかくて温かくて、少しだけ目が熱くなった。
よう、おいで、くださり、ました。
よく来たね、って言葉。
そこくを出て僕はここに来た。
そこくを守るために、ひとじちが必要だから。
そこくのだれも、ひとじちにしたくないから。
だってひとじちは、死ぬかもしれない。そこくのために。
だから僕は来た。
僕なら、いつ死んでも誰もこまらないから。
そこくの誰かが死んだら悲しむ人がいるけれど、僕にはいないから。
何もない僕がこの国にきただけで、誰も困らずに、悲しまずに済む。
それは、よく来たね、と迎えてもらえるほどいいことだ。
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