Inquirer -誰も知らないその先へ-

海月ツクシ

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第4話 しってるしらない

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「アオさーん。いい加減何か喋ってよー…」
さっきからずっとアオさんは俯いたままで何も言わない。
「……………」
「ボクもうこの状況辛いんだけど…」
「だよねー?ほらアオ、私たちここにずっと座っているのに飽きてきちゃったよ」
銀髪の中性的な人は、間にアオさんを挟んでボクの右に座っている。
結局何が起きているのかよくわからない状況に困惑することしかできなかったボクはアオさんに頼るしか無かった。
だからこそ喋って欲しいのに。
この人、いつまで喋らないつもりなんだろう…
「もう、しょうがない!」
そう言って中性的な人はベンチから立ち上がる。ボクの前まで歩いてきた。
そして急に立て膝になってボクに向かって言う。
「率直に言おう!君、アストラルに入らないか?」
「駄目だ」
困惑するボクが喋るより前に、今まで一言も喋らなかったアオさんが急に手を出して阻止する。
「あ、やっと喋ってくれた」
ニコッとその人は笑う。
でもまたすぐに切り替わって、
「遅すぎだよアオ。まったく、いざって時には急に喋りだして…」
ブツブツなにか文句を言っている。
「あの…結局あなたは誰なんですか?」
「あ!自己紹介するの忘れてたね」
ボクの方に向き直って言う。
「はじめまして!って言っても会ったことあるから微妙だけど。アオと同じ研究所仲間です、よろしく!あ、ちなみに男ね」
そう言って手を出してくる。
「…おい、ナノが聞きたいことには名前も入ってるだろ」
「ああ、そっか、名前…」
その人は悩むように上を見た。
とりあえずボクは彼が出てきた手を握って握手をした。
「正確な名前は特にないんだけど、みんな『ハカセ』って呼んでるからそう呼んで!」
自信満々に『ハカセ』といったその人は握手した手を勢いよくブンブン振る。
なんだこの人。
二人の会話はボクをおいて勝手に進んでいく。
「てか、俺を追いかけ回さないでくれよ、頼むから」
「ええ~?話しかけてこないアオが悪いんじゃん」
「話しかけるかけないの問題じゃない。もうどっか行ってくれ…」
「嫌だよ。私の目的はこのナノちゃんをアストラルに入れることだもの」
「おい、駄目だって言ったろ」
「なんでアオに拒否する権利があるのさ。決めるのはナノちゃんだろう?」
「いや、絶対に行かせない」
「自分勝手だな、アオも…」
ハカセはため息をついた。
すると彼は急にぐいっとアオさんの服を掴んで、暗い怖い声でこう言った。
「ねえ、なんでこうなってるかわかってる?君がいつまで経っても返事をくれないからだよ、アオ」
急な態度の変わりようにボクは体をビクッと震わせた。
そんなボクを見てかハカセは言う。
「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったね」
そしてパッとアオさんの服を掴んでいた手を離す。
アオさんはそのハカセを睨んでいた。
ハカセもアオさんの方を見ていた。
「…アオが怒っているようだから私はもう帰るけど」
そう言ってハカセは歩き始める。
「アオ、わかってるね?今夜返事をくれなかった場合は明日、私がナノちゃんを迎えに行く。覚悟しときなよ」
そして今度はボクの方を向いて、
「ナノちゃん、また会えるのを楽しみにしているね」
笑ってどこかへ行ってしまった。
ただただその人の背中を見つめるしか無かった。
「……帰るか」
アオさんがそう言ったので
「え、あ、うん…」
と戸惑いながらも答えた。
あまりにも早く帰ることになってしまったことになんだかちょっぴり残念な気持ちになったが、混乱した体がもう疲れているのは事実だった。
ベンチから立ち上がって駅に向かった。

♦♦♦♦♦

駅に着くまでボクらは一言も喋らなかった。
本当のことを言うと、何が起きたかよくわからない状況に混乱しすぎていて、それをまとめるのに必死だったから何も言えなかった。

改めてヴェールランド行きの電車に乗りながら考える。
この目で見た、燃えていたな̀に̀か̀。
ボクを助けてくれた少年。
あとから来た派手な髪色の少女。
その彼らの腕には【Astral】の文字。
アオさんの知り合いだという『ハカセ』。
そしてボクを知っている。

結局考えてみたけどよくわからないことばっかだ。
だから、ふとアオさんに聞いてみた。
「アオさん、ハカセって結局何者なの…?」
今までボーッとしていたからだろうか。アオさんの体がビクッとした。
「ん?あー…、あいつか…」
うーん…と唸っているアオさんの様子から見るに、どうやらが説明が難しいらしい。
「アオさんと同じ研究所で働いてた、って言ってたよ」
本人から聞いて知っていることを伝えた。
「…まあ、そうだな。簡単に言えば元仕事仲間だ。」
そう言って、また彼の顔が俯く。
「……もしかして、聞いちゃいけないこと聞いちゃった…?」
不安になったので聞いてみた。
「いや、別に。特に何も無いよ」
そう言った彼の顔は曇っていた気がする。
「あいつは天才なんだ。研究所内でもよく噂になってたよ。すごいものを作っただとか、これを成し遂げた、だとか。今思い出すと、いつもあいつに関する話が聞こえてた気がするな」
「天才、かぁ…」
ボクが見た限り、そんな人には見えなかったけど。
それからまた無言になった。
ボクは窓の外を見つめながら、昔のことを思い出していた。
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