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第1話 ボクのすきなこと
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朝が好きだ。
誰もいないみたいな静けさと
優しく照らしてくれる太陽の暖かい光。
ボクはベッドから起き上がってすぐ側の窓を開けた。
遠くに湖とそれを囲うように家々が立ち並んでいるのが見える。
それに比べてこの家は木に囲まれてぽつんと立っている。
でもそれが好き。
この町の人たちが集まる場所から少し切り離されたこの場所と家がどこよりも好きで居心地がよかった。
フォーライア帝国のヴェールランドという小さな町。
ここに来てからもう3年くらいは経っていた。
それでもこの気持ちはずっと変わらなかった。
♦♦♦♦♦
外から入ってくる冷たい空気をいっぱい吸って、思いっきり伸びをした。
まだなんだか眠いなぁ。
少し重く感じる体をベッドからゆっくりと離していく。
その時ドアの隙間から美味しそうな朝ごはんの匂いがしてくるのに気づいた。
今日はパンケーキだ!
そう気づいた瞬間部屋を飛び出て階段を駆け下りて、勢いよくリビングにつながる扉を開いた。
「おはよう!」
「ああ。ナノ、おはよう」
キッチンには1人の男の人がいる。アオさんだ。
アオさんはボクの面倒を見てくれる優しい人。一番信頼できる人と言ってもいいかもしれない。3年前から一緒にここに住んでいる。
そんな彼の手には、キツネ色をしたパンケーキがのるフライパンがあった。
「今日の朝ごはん、パンケーキでしょ?」
「お、よく分かったな」
「ふふん。私の嗅覚をなめてもらっちゃこまるよ」
嗅覚なんて鋭くなくても分かるであろうパンケーキの匂いだけれども、アーニマ族のキツネの血を継ぐボクからすれば、その嗅覚をなめてもらっては困る。
基本ボクは″私″なんて言わない。
でも何故かアオさんといる時だけは自然と″私″を言えた。それよりもなんだか、″私″でいたかった気持ちが強かったのかも。
椅子に座ってパンケーキが焼けるのを待つ。
ウキウキして待っていると、パンケーキを持ってきたアオさんが話しかけてきた。
「ナノ」
「なあに?」
「今日は少し遠くに出掛けないか?」
「え!!どこどこ?!」
「俺が考えてるのはグランデリアなんだが」
最近ボクたちはよく出かける。今まで見たことの無い景色が沢山見れて、ボクはこのお出かけが大好きだ。
そしてグランデリア。フォーライア帝国の真ん中にある一番大きな街だ。都市的存在で、欲しいものは何でも手に入るぐらい色々揃っているんだとか。
「行きたい!」
「ふふ。じゃあ準備してきな。」
アオさんが作ってくれたパンケーキをなるべく速く、でもしっかり味を感じて食べた。
実はまだグランデリアには一度も行ったことがなく、すごい街だということぐらいしか知らなかった。
その街に今日行けるなんて。
転ばないように階段を駆け上がって服を探す。あったあった。赤いシャツに白のキャミソールワンピース。そして少し暗めのオレンジ色のブーツ。どこかに出かける時は決まってこの一番お気に入りの服装だった。
ボサボサな髪を綺麗におさげにまとめ、鏡の前で自分の姿を確認する。
髪よし、服よし、靴よし、耳よし!
ピンとたった耳が今日も毛並みが整っていることまで確認して部屋を出た。
「アオさん、準備できたよ」
「ごめん、ちょっと待ってな…」
アオさんは自分の部屋にあるパソコンの電源を落としていたところだった。
「よし、行くか」
家を出てボクら二人は肩を並べて駅の方へ歩き始めた。
♦♦♦♦♦
朝、窓から見えた湖の周りを歩いていく。
水面に揺らいだキラキラと反射する太陽の光が眩しい。
駅に着き、ボクらは切符を買った。アオさんが渡してくれた切符にはしっかりと『グランデリア行き』と書かれている。
ワクワクしてしょうがない気持ちを必死に抑えながら、きちんと振る舞って電車に乗り込んだ。公共の場ではきちんとする。これが基本だとアオさんに教えられた。ボクたちは向かい合わせで座った。
グランデリア行きの電車には乗ったことがなかったので、窓の外から見える景色は見たことないものばかりだった。
目をキラキラと光らせて興味津々に外を眺めるボクを見てアオさんは微笑んでいた。
それから30分ぐらい電車に揺られていると
『次はグランデリア、グランデリアです』
というアナウンスが聞こえてきた。
「アオさん、グランデリアだって!」
「そろそろ着くみたいだな。降りる準備をしようか」
だんだん電車がスピードを落としていく。
ボクはドアの前に立っていた。
グランデリア、どんな感じかな。本で見たことあるもの、いっぱいあるかな。
そんな期待を胸に、ボクらは電車から降りた。
誰もいないみたいな静けさと
優しく照らしてくれる太陽の暖かい光。
ボクはベッドから起き上がってすぐ側の窓を開けた。
遠くに湖とそれを囲うように家々が立ち並んでいるのが見える。
それに比べてこの家は木に囲まれてぽつんと立っている。
でもそれが好き。
この町の人たちが集まる場所から少し切り離されたこの場所と家がどこよりも好きで居心地がよかった。
フォーライア帝国のヴェールランドという小さな町。
ここに来てからもう3年くらいは経っていた。
それでもこの気持ちはずっと変わらなかった。
♦♦♦♦♦
外から入ってくる冷たい空気をいっぱい吸って、思いっきり伸びをした。
まだなんだか眠いなぁ。
少し重く感じる体をベッドからゆっくりと離していく。
その時ドアの隙間から美味しそうな朝ごはんの匂いがしてくるのに気づいた。
今日はパンケーキだ!
そう気づいた瞬間部屋を飛び出て階段を駆け下りて、勢いよくリビングにつながる扉を開いた。
「おはよう!」
「ああ。ナノ、おはよう」
キッチンには1人の男の人がいる。アオさんだ。
アオさんはボクの面倒を見てくれる優しい人。一番信頼できる人と言ってもいいかもしれない。3年前から一緒にここに住んでいる。
そんな彼の手には、キツネ色をしたパンケーキがのるフライパンがあった。
「今日の朝ごはん、パンケーキでしょ?」
「お、よく分かったな」
「ふふん。私の嗅覚をなめてもらっちゃこまるよ」
嗅覚なんて鋭くなくても分かるであろうパンケーキの匂いだけれども、アーニマ族のキツネの血を継ぐボクからすれば、その嗅覚をなめてもらっては困る。
基本ボクは″私″なんて言わない。
でも何故かアオさんといる時だけは自然と″私″を言えた。それよりもなんだか、″私″でいたかった気持ちが強かったのかも。
椅子に座ってパンケーキが焼けるのを待つ。
ウキウキして待っていると、パンケーキを持ってきたアオさんが話しかけてきた。
「ナノ」
「なあに?」
「今日は少し遠くに出掛けないか?」
「え!!どこどこ?!」
「俺が考えてるのはグランデリアなんだが」
最近ボクたちはよく出かける。今まで見たことの無い景色が沢山見れて、ボクはこのお出かけが大好きだ。
そしてグランデリア。フォーライア帝国の真ん中にある一番大きな街だ。都市的存在で、欲しいものは何でも手に入るぐらい色々揃っているんだとか。
「行きたい!」
「ふふ。じゃあ準備してきな。」
アオさんが作ってくれたパンケーキをなるべく速く、でもしっかり味を感じて食べた。
実はまだグランデリアには一度も行ったことがなく、すごい街だということぐらいしか知らなかった。
その街に今日行けるなんて。
転ばないように階段を駆け上がって服を探す。あったあった。赤いシャツに白のキャミソールワンピース。そして少し暗めのオレンジ色のブーツ。どこかに出かける時は決まってこの一番お気に入りの服装だった。
ボサボサな髪を綺麗におさげにまとめ、鏡の前で自分の姿を確認する。
髪よし、服よし、靴よし、耳よし!
ピンとたった耳が今日も毛並みが整っていることまで確認して部屋を出た。
「アオさん、準備できたよ」
「ごめん、ちょっと待ってな…」
アオさんは自分の部屋にあるパソコンの電源を落としていたところだった。
「よし、行くか」
家を出てボクら二人は肩を並べて駅の方へ歩き始めた。
♦♦♦♦♦
朝、窓から見えた湖の周りを歩いていく。
水面に揺らいだキラキラと反射する太陽の光が眩しい。
駅に着き、ボクらは切符を買った。アオさんが渡してくれた切符にはしっかりと『グランデリア行き』と書かれている。
ワクワクしてしょうがない気持ちを必死に抑えながら、きちんと振る舞って電車に乗り込んだ。公共の場ではきちんとする。これが基本だとアオさんに教えられた。ボクたちは向かい合わせで座った。
グランデリア行きの電車には乗ったことがなかったので、窓の外から見える景色は見たことないものばかりだった。
目をキラキラと光らせて興味津々に外を眺めるボクを見てアオさんは微笑んでいた。
それから30分ぐらい電車に揺られていると
『次はグランデリア、グランデリアです』
というアナウンスが聞こえてきた。
「アオさん、グランデリアだって!」
「そろそろ着くみたいだな。降りる準備をしようか」
だんだん電車がスピードを落としていく。
ボクはドアの前に立っていた。
グランデリア、どんな感じかな。本で見たことあるもの、いっぱいあるかな。
そんな期待を胸に、ボクらは電車から降りた。
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