上 下
18 / 23

18話 エルフの村 2

しおりを挟む
 森を抜けるとそこは牧場だった。牛や羊、豚がいて、ものすごく普通。その先には広場。朝市が開かれるそうです。建物は木造が多くて、その間にぽつんぽつんと石造りの家がある。何この普通の街並み。私と春菜ちゃんは唖然として景色を眺めていた。

「祈りの宮は遠いのでまずはここで休んでいきます」

 司祭様、ジークヴァルトという名前の彼は私たちをうながすと、牧場の方へ向かった。

「ここの牛乳はおいしいのであとでいただきましょう」

「はい、ありがとうございます」

 じゃなくて、この日本でナントカ牧場に遊びに来たときのような会話はなんなの?
そして私たちの前でのんびり草を食べる牛たち。大きさは、多分・・・日本より大きいかな。

「ねえ、あの牛、大きい!」

 そして春菜ちゃんは小さくつぶやく。

「日本よりも?」

 それはね・・・日本でも牛は大きかったし、真近で見たことないし・・・こっちのほうが大きいような気はするんだけれど?

「ラノベだと、大抵大きいよね」

「小さいと聞いたことは無いわね」

 2人でこそこそ話しながら、牛を眺める。豚も・・・多分大きい。そして羊・・・これは完璧に大きかった。

「あまりこういう動物をご覧になったことはないのですか?」

「えぇ、街に住んでいたので」

 春菜ちゃんがにこにこして答える。ダンリュードさんは優しげな笑顔で、勧める。

「それでは羊を触ってみますか。これなら大人しいので安心ですよ」

「牛も目がつぶらで可愛かったじゃないですか」

「動物ですから、いきなりかんしゃくを起こすこともあります。あの大きな身体では少し動いただけでアンズさんは、吹き飛ばされますよ」

 私がぼーっと、2人を見ていると司祭様に声をかけられた。

「仲が良くてうらやましいですね」

「えっ、司祭様」

「そのような呼び名ではなく、ジークヴァルトいいえ、ジークと呼んでください」

「そんな・・・ではジークヴァルト様と呼ばせていただきますね」

 司祭様は私に触れる寸前の場所に立っている。そして春菜ちゃんとダンリュードさんはまだいい。ピンク、ピンクしていても他人事だから。でも私と司祭様のこの小説のような会話はなんだろう?でも、具体的になにもいわれていないのだから、こちらからは言えることは何もない。

 スルーだ、スルーしよう!

 ここでおいしいウインナーをだしてもらい、それから私たちはのんびりと祈りの宮に向かった。ここから5キロはあるのでそれなりの時間がかかる。

「広いんですね、ここって」

 私は司祭様に聞いてみた。

「そうですね、3千人が住んでいて、森もありますから」

「昔は他の場所もここと同じだったのですか?」

 ここではみんなが豊かに暮らしている。あの村を見た後では言いたくもなる、あそこまで貧しくなるなんて!

「流石にここまでということはありません。ここよりは原始的な暮らしをしていました」

 原始的?すごい言葉を使われた。

「えぇ、トイレと風呂の無い生活ですね。エルフは寿命が長い分、文化も発達しているのです」

 トイレと風呂がない・・・原始的かも。

 広場を通り過ぎ、家並みがぽつぽつとまばらになる頃にはあたりには畑が多くなっていた。

「あっ、ちゃんと実っている!」

 畑にきちんと作物が実っていると安心する。叫んだ春菜ちゃんにダンリュードさんが優しく問いかける。

「そうではない処を見たのですか?」

「はい、ここに来る前に立ち寄った獣人の村で」

「そんな場所があるのですか」

 司祭様が聞いてくる。えっ、知らないの?そういえば、ここからかなり離れているかも。

「えぇ、貧しい村でした」

「そうですか。100年前には他のところと多少の交流はあったようなのですが、もともとエルフは閉鎖的なのです。特にあのあとでは。我々も他種族を助けられるほどの力はありませんでしたし、彼らもどんどん南へ去っていきましたから」

 たった3千人で、多分100倍はいたであろう人々を助けられるとは思わない。

「きつい思いをされたんですね」

「ありがとうございます。そういってもらえただけで救われます。我々神官はまず我々の民を救わねばならないのです。あの災厄に飲み込まれるわけにはいきませんでした」

 彼は苦笑いする。

「おかげで我々は随分と閉鎖的になりました。いまでは外に出るものもほとんどいません」

「司祭様・・・」

「ジークと呼んでいただくように申し上げたと思いますが」

「それはさすがに・・・でも、がんばってジークヴァルト様と呼ばせていただきますね」

 司祭様に対してどうかと思うが、嬉しそうな顔をされるので、まあいいかな、名前呼びでも。

 しばらくして森へ入った。祈りの宮はここにあるらしい。近いといいな、素足にサンダルなので、足がすれて痛くなってきた。

 すると、ジークヴァルト様が目ざとく気が付いた。

「チェリー様、歩き方が・・・足を痛めたのですか?」

 彼は素早く私の前でひざまづくと、

「あぁ、革がこすれて、足が赤くなっています」

 というが早いか私を抱きかかえて、歩き始めた。
不安定な姿勢に彼についすがってしまう。

「大人しくしてください。近くの泉に行くだけです」

 ずんずん歩くジークヴァルト様の後ろで春菜ちゃんが、

「姫だっこ」

 とつぶやいているが、私は靴にはストッキングか靴下をはくたちなのよ、肌が弱くて悪かったわね!

 しばらく彼が歩いて、着いたのは直径3メートルもない小さな泉だった。そばの岩に私を下ろすと、ジークヴァルト様は私の足からサンダルを手早く取り去り、そのまま抱いて、泉の縁に座らせた。

「しばらく泉の水で足を冷やしましょう」

 私は申し訳なさもあり、声も無くうなずいた。

 ダンリュードさんと春菜ちゃんは楽しそうに話しているけれど、黙って微笑んで、見ているジークヴァルト様に私はいたたまれない時間を過ごした。体感1時間、実際は5分ぐらいで、

「そろそろいいでしょう」

 と彼が言ってくれて、ほっとした。あっ、でも待って!懐から布を出そうとしてる!

「アンズちゃん、バックからタオルを出して!」

 つい、大きな声をだしてしまった。

「そんなにいやそうになさらなくても・・・」

 彼は苦笑いしながらも、アンズちゃんがバッグから出したタオルをさっさと受け取り私の足を拭き始めた。だから困るのよ。アンズちゃんもなんでタオルをしっかり持って、私に渡してくれないの!

 羞恥に満ちた時間は私がジークヴァルト様に姫抱っこで祈りの宮の自室に運ばれるまで続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...