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12話 スライムが欲しい

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 私たちはシンさんの家のドアベルを鳴らします。がらん、がらん、大きな音です。そしてジョーズ姿のシンさんが顔をだしました。ジョーズに安心する日が来るとは・・・

「シンさん、こんにちは、今日は聞きたいことがあったの」

 家の中に入れてもらうと、春菜ちゃんは私からトマトの籠を取り上げ、さっさとシンさんに渡します。そして、

「スライムって、どこにいるの?」

 直球で聞きます。

『スライムか、ここいらでは全滅したと聞いている』

「な、なんでよ」

 春菜ちゃんはむくれるが、そりゃそうだろう。砂漠でスライムが生きられるとは思わない。

『あの百年前の災厄から、どんどん数が減っていって、ここ数十年は見たことも、聞いたこともない』

「海辺にはいないの?」

 食い下がる春菜ちゃん。シンさんは困った顔をしているように見える、ジョーズ顔だけど。

『スライムは塩に弱いんだ。塩をかけるとたちまち解ける。だから、もともと海辺になんかいないんだよ』

「ナメクジじゃあるまいし、そんな設定ラノベにはなかったのに・・・」

 ぶつぶつ言う春菜ちゃん。仕方がないじゃない、私も欲しいんだけど。

『それで、スライムが何で欲しいんだ?』

 聞かれるよね、きっと聞かれると思ったよ。ここは春菜ちゃんに任せよう。ん?そっぽを向いている。スライムのことは元気に聞いていたじゃない。

「・・・年上でしょ」

 ぼそっとつぶやかれる・・・こんな時だけ年上扱い!・・・でもヒントを貰いに来たんだし・・・ここは意を決して、

「あの・・・ですね。・・・スライムは何でも食べると聞いたので・・・」

 シンさんはうなずく。

『あぁ、何でも食べるぞ。腐ったものでも、木の板でも、廃棄物でも』

 それだ、その単語を使おう、〇〇コとしか浮かばなかったのは不覚だ。

「あの、排泄物を食べさせたいのです」

『領主様たちのか?』

 そっぽを向いていた春菜ちゃんがグリンとこちらを向いた。顔が真っ赤だ。

「私たちじゃないわよ!」

 ついでにテーブルをたたく。

『しかし、他にいないだろう』

「ジョナサンとかアルとか村人たちが一杯いるじゃない!」

 ジョーズが首を傾げる。相変わらず可愛くない。

『あいつらは村の土地を肥やす為に、排泄物をまいてるから食べさせる必要はないだろう』

「「はっ?」」

 何言ってんの、このジョーズは?

『村の土地に地力が無くなったから、苦労しているんだろう。だから少しでも力を取り戻そうと、排泄物をまいているんだろう』

 ジョーズが言い直してくれたけれど、意味が分からない。
とりあえず1つづつ。

「その地力がなくなったって、何のこと?」

『100年前から起こっている現象だ。広範囲の場所がいきなり力を失う。そして力がなくなると、どんなにがんばってもろくなものが出来ない』

 なに、それ。確かに力がなければ低いところで循環するけれど。

「シンさん、昔は違ったの?」

『あぁ、ここいらは大森林だった。だから俺たちと交易もしていた。美味しい果物は人魚の好物だったぞ』

 私はつばを飲み込んで、恐る恐る聞いた。

「もしかして海も昔は豊かだったの?」

『そうだ、ここの湾のように水が澄んで魚も沢山いた。大災害が起きたんだよ』

 私たちは言葉もなかった。そんなことがたった100年前に起こったなんて。あの砂漠が大森林だったなんて。

『だから生ものは海に投げ捨てて欲しい。海も力が足りないからな』

「それって排泄物でも?」

『あぁ、問題ない』

「何人分でも?」

『もちろん、ここいらの人間全部でも問題ないぞ』

 それって、〇〇コを海に捨ててもいいってこと?その発想はなかった、さすが異世界。私たちは黙って目を見合わせた。帰ろうか。

「シンさん、ありがとう」「また来ますね」

 私たちはそそくさと帰り、家にこもった。春菜ちゃんがお茶を入れてくれた。

「簡単に解決したね」

「うん、こっちには赤潮とかないんだ」

 ハァーとため息をつく。それはそれとして、大災害の時の土地とか海のエネルギーはどこにいったのだろう。

「これ絶対、あの神が関係してるよ」

「うん、そう思う。大体最初から胡散臭かったし」

  春菜ちゃんが指を1本立てて、振る。

「とにかく解決したね。あの村の臭いがなんとかなりそうで、よかった。あれは病気の原因だしね」

 臭いに文句を言うのが先に来るとは、さすが春菜ちゃんです。

「どこに捨てさせよう。遠くだと続かないし」

「私は〇〇コを食べた魚なんて食べたくないから」

「私だっていやよ!それに海岸なんかに捨てたら、きっと波で戻ってきて砂浜が〇〇コだらけになるし」

「ひえっー」

 春菜ちゃんが両腕で自分を抱きしめる。うん、おぞましい光景ね。私も身をぶるっと震わせる。

「森(仮)を広げるのより、こっちが先よね」

「うん、獣人の健康がかかっているから」

 春菜ちゃんも力強くうなずく、すべては明日からだ。


 海岸を歩いて手頃な岩場4箇所を舞台のように平らにして、捨て場を作る。1箇所は100メートルほどとして岩で1メートルの柵も作った。捨てる時にすべって〇〇コの海に落ちないようにだ。私ってやさしい。ついでに村からの道も作った。石畳で海に向かってささやかながら下り坂になっている。重い〇〇コを運ぶ時に苦労をしないようにだ、私って芸が細かい。そして沢山の壺を作った、昔中国にあった、あの壺みたいなのね。各家庭でここに溜めて、それを村の集積所に運んで、そこの大き目の壺に入れる。それを係りの人が海に運ぶ予定だ。集積所にも工夫を凝らした。雨であふれないように倉庫にして、臭いは屋根についている煙突から逃げるようにした。春菜ちゃんの提案でごみの焼却場をまねしたものだ。煙突の高さは3メートル、これ以上高くすると壊れやすそうだし、私たちがいなくても困らないようにしないとね。

 例の7人を集めて、説明をする。

「あの、なんでそんなことするんですか?」

 定番の質問が来ました。春菜ちゃんがびっしと言う。

「病気にならないためよ。それにマーマンさんには許可を貰っているわ」

 首を傾げている獣人さんたちに、

「赤ちゃんと子供」

 とぼそっというと、皆は顔色を変えた。獣人は丈夫だと思うけれど、それでも成人するのは1/3ぐらいだ。食べ物が少ないせいでもあるけれど、これも原因だと思う。

「それって、本当ですか?」「そんなことが・・・」

「じゃなきゃ、苦労してこんなことをしないわよ」

 重々しく言う春菜ちゃん、一番の理由の臭いは言わない。モチベーション的には違うけど、人道上はこちらが一番だしね。

 獣人さんたちはお互いに話し合いながら去っていった。領主って、こういうときに便利。みんなが簡単に従ってくれる。

「あ~ぁ、荷車も作らなくちゃ」

 春菜ちゃんの顔をみるが、ぷるぷると首を横に振られた。

「あれは魔法が無くても作れるんじゃない」

「あのね、私は中くらいの公立高校の中の上の頭の持ち主だっていってんでしょう。今回はトンでも理論なんかいらないんだから、がんばってください。それに光と水魔法しか使えない私には無理!」

「どっかに理系男子がころがっていないかな・・・」

 ブレスレットには荷車も一杯入っていたけれど、真似してつくるのは無理そうだった。あの円形運動は部品に精密さが求められるような気がする。とりあえず7台渡したけれど、予備もいるし。

「いいじゃない、とにかく解決したんだから。森を作りに行こうよ」

「そうね、まずは出来ることからよね」

 人のことを苦労性だという春菜ちゃんの背中をこずくと、こずき返された。まあ、いいか。〇〇コの問題はひとまず解決した。
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