57 / 64
48話 さようなら悪役令嬢 1
しおりを挟む
俺は北の塔の前に止めた馬車の中にいた。
そこへドアが開き、兵士に押し込められるようにしてセリーヌ侯爵令嬢が入ってきた。
「君、借りるね」
俺は兵士の腰からナイフを鞘ごとはずすと、逆らえないように笑顔でにこりと笑う。
「出発する。ドアを閉めて」
俺の命令に兵士が慌ててドアを閉める。ばたんと音をたてて閉まるドアを横目に俺はナイフを手のひらの上でもてあそぶ。
「さて、話をしようか、セリーヌ嬢」
髪はぼさぼさ、ドレスはしわくちゃな彼女は、反射的にむっとした顔をする。
「なにをいまさら・・・」
「今だから話そうと思ってね。貴女の命がかかっているのだから」
「・・・・・」
「まずは、そうだね。ノーフォーク農業のことをどうやって知ったのか・・・教えてくれるよね」
さて、どのように持っていけば彼女は余計なことを言わなくなるだろう。
「わ、わたくしは・・・あなたが知らないようなことを沢山知っているのよ。
あなたの態度しだいでは、教えてもいいわ」
彼女はそれで自分が命を奪われなかったと考えたのか。
「特に教わりたいとは思わないけれど、たとえば・・・」
「そ、それは貴方の条件しだいよ」
「だめだね、交渉の仕方がなっていない。言わないということは知らないと言っていることと同じだよ」
「そんなことないわ!」
「じゃあ、言ってみて」
俺は優しげに笑って見せた。彼女は少し落ち着いたようだ。
「たとえば自動車とか・・・あっ、自転車も、それから、それから・・・」
「焦らなくていいですよ、それではまず、じど・しゃ?ですか。どうやって作るんですか」
「自動車よ。とっても速いのよ、こんな馬車より」
「それで何で動くんですか?馬ではないですよね」
「ガソリンよ・・・あっ・・・」
彼女は手で口を塞ごうとして、後ろでに縛られているのを思い出したようだった。
「どうされたんですか?」
「ないのよ、ここには・・・。それにいつまでわたくしを縛っているつもり!」
「私がいいと思うまででしょうか。それに大体分かりました。どこで手に入れたかわかりませんが、貴方の知識は随分と不完全なようだ」
「そんなこと・・・」
「そう、それでは侯爵領にいたときに、どうして作らせなかったのですか」
「だって、この世界では無理なのよ。スマホもパソコンも・・・一杯知っているのに!」
「それでは貴女が知っているのは農法と石鹸の作り方だけですか」
「だって紙はもうあったし、千歯扱きも・・・」
ぶつぶつと言うと、彼女は俺のことをきつい目つきで睨みつけた。
「だからなんなのよ、それだけで皆おなか一杯食べられて幸せだと言っていたわ」
「それで近隣の領の農民たちが大勢餓死していても?」
セリーヌ嬢の肩がびくっとする、これは知っているな。
「君はそれを知っていたんだね」
「だって夜会に出ていれば噂話ぐらい耳に入るわ。
それにお父様には言ったのよ。周りの領にもノーフォーク農法を教えたいって。
でも、政治に女が関わるな、はしたないって」
彼女は悔しそうに俯いた。
「女の癖にって、なんなのよ!わたくしが教えたのに。自分のもののようにして!
学校を作ってやったからいいだろうって!学校をつくるのは領主として当たり前じゃない。それを偉そうに!」
「当たり前ではないんだよ、セリーヌ嬢」
「そんなの知っているわよ!でもわたくしのいたところでは、当たり前だったのだから!」
セリーヌは私の顔をじっと見た。
「それにおかしいわ、貴方はなんで男爵令嬢と一緒にいないのよ。あれだけ夢中だったでしょう」
「過去のことを言われても困ります」
「それに、それに・・・」
彼女は言いつのる。
「石鹸も貴方が売っていると聞いたわ。何で知っているのよ。貴方も転生者なの?
大体そこからおかしくなって、皆がわたくしの言うことを聞いてくれなくなったんだわ。
だからマコーニック様もあんな女に誑かされて・・・わたくしのことを一生愛してくれると言ったのに・・・」
「石鹸はボルダ領で発見した人がいたのですよ。私が王領に行ったときに知り合いました。
あんなことの後ですからね、のんびりと南の海のそばで過ごそうと思ったのです」
「そんなのおかしいわ!」
「何故ですか、貴女だけしか発明できないわけでもないでしょう」
「それは・・・そうだけれども。
それに王太子は疫病か、ナイフで刺されて死ぬはずだったのに・・・そうしたら第3王子は王になってわたくしは王妃として幸せに暮らすはずだったのに!」
俺はぎょっとした。
「どういうことでしょう」
彼女はきっ!と俺を睨む。
「決まっていたのよ、ここは乙女ゲームの世界だもの!」
そして破れかぶれになったように話し出す。
「・・・・・・・・あのね、私には前世の記憶があるの。
貴方が信じても、信じなくてもいいわ。わたくしの元いた世界ではゲーム、絵本のようなものね、それがあったのよ。ここはその世界なの。
そのゲームでは貴方たちが男爵令嬢に夢中になって・・・婚約者を断罪するの。だから、わたくしは・・・それを知っていたから準備して反撃したのよ。
上手くいったと思ったのに・・・そのあと第3王子と婚約できたのに・・・あの浮気者!(残念、彼がどうにかされる前に女神はあぽ~んされてしまいました)
それで王太子は貴方を探しに下町にいくの、それで疫病にかかってしまうのよ。
それか・・・愛妾にナイフで刺されて死ぬか、どっちにしろいなくなって、第3王子が王位を継ぐのよ」
「王太子の死に方が二通りあるのは何故ですか」
「そんなの決まっているじゃない、ルートによって違うのよ。
だから第一部では貴方が王位に付く可能性もあったのよ。わたくしは第2部のヒロインだもの」
「第1部とか第2部とは?」
「そんなの売れ行きがよかったから、第2部が出たに決まってるじゃない。
わたしはあのゲームをコンプリートしたのに、何でおかしくなったのよ!」
う~ん、ゲームの世界ね。ありえないこともないが・・・。
あの神がすべてが終ったら説明してくれそうな気もするが・・・こんなところでいいかな。
話を進めよう。
そこへドアが開き、兵士に押し込められるようにしてセリーヌ侯爵令嬢が入ってきた。
「君、借りるね」
俺は兵士の腰からナイフを鞘ごとはずすと、逆らえないように笑顔でにこりと笑う。
「出発する。ドアを閉めて」
俺の命令に兵士が慌ててドアを閉める。ばたんと音をたてて閉まるドアを横目に俺はナイフを手のひらの上でもてあそぶ。
「さて、話をしようか、セリーヌ嬢」
髪はぼさぼさ、ドレスはしわくちゃな彼女は、反射的にむっとした顔をする。
「なにをいまさら・・・」
「今だから話そうと思ってね。貴女の命がかかっているのだから」
「・・・・・」
「まずは、そうだね。ノーフォーク農業のことをどうやって知ったのか・・・教えてくれるよね」
さて、どのように持っていけば彼女は余計なことを言わなくなるだろう。
「わ、わたくしは・・・あなたが知らないようなことを沢山知っているのよ。
あなたの態度しだいでは、教えてもいいわ」
彼女はそれで自分が命を奪われなかったと考えたのか。
「特に教わりたいとは思わないけれど、たとえば・・・」
「そ、それは貴方の条件しだいよ」
「だめだね、交渉の仕方がなっていない。言わないということは知らないと言っていることと同じだよ」
「そんなことないわ!」
「じゃあ、言ってみて」
俺は優しげに笑って見せた。彼女は少し落ち着いたようだ。
「たとえば自動車とか・・・あっ、自転車も、それから、それから・・・」
「焦らなくていいですよ、それではまず、じど・しゃ?ですか。どうやって作るんですか」
「自動車よ。とっても速いのよ、こんな馬車より」
「それで何で動くんですか?馬ではないですよね」
「ガソリンよ・・・あっ・・・」
彼女は手で口を塞ごうとして、後ろでに縛られているのを思い出したようだった。
「どうされたんですか?」
「ないのよ、ここには・・・。それにいつまでわたくしを縛っているつもり!」
「私がいいと思うまででしょうか。それに大体分かりました。どこで手に入れたかわかりませんが、貴方の知識は随分と不完全なようだ」
「そんなこと・・・」
「そう、それでは侯爵領にいたときに、どうして作らせなかったのですか」
「だって、この世界では無理なのよ。スマホもパソコンも・・・一杯知っているのに!」
「それでは貴女が知っているのは農法と石鹸の作り方だけですか」
「だって紙はもうあったし、千歯扱きも・・・」
ぶつぶつと言うと、彼女は俺のことをきつい目つきで睨みつけた。
「だからなんなのよ、それだけで皆おなか一杯食べられて幸せだと言っていたわ」
「それで近隣の領の農民たちが大勢餓死していても?」
セリーヌ嬢の肩がびくっとする、これは知っているな。
「君はそれを知っていたんだね」
「だって夜会に出ていれば噂話ぐらい耳に入るわ。
それにお父様には言ったのよ。周りの領にもノーフォーク農法を教えたいって。
でも、政治に女が関わるな、はしたないって」
彼女は悔しそうに俯いた。
「女の癖にって、なんなのよ!わたくしが教えたのに。自分のもののようにして!
学校を作ってやったからいいだろうって!学校をつくるのは領主として当たり前じゃない。それを偉そうに!」
「当たり前ではないんだよ、セリーヌ嬢」
「そんなの知っているわよ!でもわたくしのいたところでは、当たり前だったのだから!」
セリーヌは私の顔をじっと見た。
「それにおかしいわ、貴方はなんで男爵令嬢と一緒にいないのよ。あれだけ夢中だったでしょう」
「過去のことを言われても困ります」
「それに、それに・・・」
彼女は言いつのる。
「石鹸も貴方が売っていると聞いたわ。何で知っているのよ。貴方も転生者なの?
大体そこからおかしくなって、皆がわたくしの言うことを聞いてくれなくなったんだわ。
だからマコーニック様もあんな女に誑かされて・・・わたくしのことを一生愛してくれると言ったのに・・・」
「石鹸はボルダ領で発見した人がいたのですよ。私が王領に行ったときに知り合いました。
あんなことの後ですからね、のんびりと南の海のそばで過ごそうと思ったのです」
「そんなのおかしいわ!」
「何故ですか、貴女だけしか発明できないわけでもないでしょう」
「それは・・・そうだけれども。
それに王太子は疫病か、ナイフで刺されて死ぬはずだったのに・・・そうしたら第3王子は王になってわたくしは王妃として幸せに暮らすはずだったのに!」
俺はぎょっとした。
「どういうことでしょう」
彼女はきっ!と俺を睨む。
「決まっていたのよ、ここは乙女ゲームの世界だもの!」
そして破れかぶれになったように話し出す。
「・・・・・・・・あのね、私には前世の記憶があるの。
貴方が信じても、信じなくてもいいわ。わたくしの元いた世界ではゲーム、絵本のようなものね、それがあったのよ。ここはその世界なの。
そのゲームでは貴方たちが男爵令嬢に夢中になって・・・婚約者を断罪するの。だから、わたくしは・・・それを知っていたから準備して反撃したのよ。
上手くいったと思ったのに・・・そのあと第3王子と婚約できたのに・・・あの浮気者!(残念、彼がどうにかされる前に女神はあぽ~んされてしまいました)
それで王太子は貴方を探しに下町にいくの、それで疫病にかかってしまうのよ。
それか・・・愛妾にナイフで刺されて死ぬか、どっちにしろいなくなって、第3王子が王位を継ぐのよ」
「王太子の死に方が二通りあるのは何故ですか」
「そんなの決まっているじゃない、ルートによって違うのよ。
だから第一部では貴方が王位に付く可能性もあったのよ。わたくしは第2部のヒロインだもの」
「第1部とか第2部とは?」
「そんなの売れ行きがよかったから、第2部が出たに決まってるじゃない。
わたしはあのゲームをコンプリートしたのに、何でおかしくなったのよ!」
う~ん、ゲームの世界ね。ありえないこともないが・・・。
あの神がすべてが終ったら説明してくれそうな気もするが・・・こんなところでいいかな。
話を進めよう。
0
お気に入りに追加
813
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる