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42話 夜会へGO 4 

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 今日は久しぶりに王宮図書館へ行く。彫刻の施された大きな扉を開けてもらうと奥はチェインライブラリーとなっており、これは、はっきり言って、重いし読みにくい。歴史を感じさせるとか、時代を感じさせるより、便利、清潔を求める俺は現代人の感覚を持っているのだろう。ため息をつきたくなる。時々現代が恋しくなるのはしようがない・・・

 赤いじゅうたんを踏みしめて入り込んだいつもの場所には先客がいた。オフィーリア・コンラディー侯爵令嬢、アントニオ・フィーゲルの婚約者だ。彼女は緑のドレスをほっそりとした身体に纏い、熱心に本を読んでいた。そして俺の視線を感じたのか顔を上げると、驚きに声を上げようとして、慌てて手で口をふさいだ。しかたがないなあ、俺は近づいていくと微笑んだ。

「驚かせてしまったようですね。コンラーディ嬢、私のことは気にせず続けてください」

 彼女は首を横に振ると、

「そんな・・・あの、御用の本はどれなのでしょうか?」

 俺はいたずら心を発揮して、澄まして言う。

「アルデーヌ先史です」

「えっ!」

 彼女は俺の顔を見て、自分の本に目を落とし、再度俺の顔を見て、あわあわする。

 俺は女の子がこうやって、あせあせする姿を見るのが好きだ、くすくす笑っていると。

「ダンスの時と同じですね」

 そう言って、軽く睨まれた。おどおどしている感じが失せて、その方が可愛いぞ。確かに細身で地味な顔だが、それなりに整っているし、それ程卑下することはないのに。

 彼女は歴史が好きなようだ。俺もこの世界の歴史には興味がある。神に彼から見た歴史のダイジェスト版なぞ贈られたので、人間の伝承と較べてみたくなる。面白そうだろ。
図書室なのでひそひそ声でしばらく話したけれど、楽しかった。

 帰りも笑顔だったのだろう、お供について来たエリオンにご機嫌ですねと言われた。ああいう他愛のない時間は癒されるだろう。また話をしてみたいものだ。

「内緒!」

 そう言って、俺は歩いていく。図書室では離れて護衛していたので彼女の姿が見えなかったようだ。こういうのは心にそっとしまっておくのがいいんだ。道端のたんぽぽが可愛かったことは、ぺらぺらしゃべるものではない。


 5月も終りに近づきヘルモルト伯爵家の夜会ではまた俺はフロイデンベルグ公爵令嬢と踊っていた。以前にアイセンのドレスは予約が溜まっていてなかなか順番が回ってこないと嘆くので、話を通してあげると約束したのだ。がんばってくれたようで、3着のドレスが短期間でできあがったそうだ。

「私の思ったとおり、青のドレスも良く似合っています」

 彼女は上目づかいで俺を見る。

「少し派手過ぎませんか?」

 確かに彼女のドレスは王妃殿下には及ばなくとも次につけるほどには派手である。宝石の使い方が巧みで、上品に仕上がってはいるが、代金は大金貨20枚はいくだろう。いくら俺があおったとはいえ、若い令嬢のドレスが大金貨5、6枚程度なのに較べて、高すぎるだろう。第3王子とフィーゲル侯爵子息、どちらの貢物だろう?そう、最近この2人が彼女にまとわり付いている。

「華やかでないとドレスが貴女に負けてしまうでしょう。
貴女の金色の髪にはどんな色でも似合います。薄いピンクもいいのですが、濃い色は貴女を大人びさせて、引きつけられます。私をどれだけ夢中にさせたら気が済むんですか」

「まあ、わたくしはジルベスター様のお気もちにそっただけですわ」

「確かに青のドレスが見たいといったのは私ですが。青いドレスに身を包んだ貴女は夜空に輝く月のようですから、他の星々が霞んでしまいます。貴女に引きつけられない男が果たしているものでしょうか」

「そんな・・・恥ずかしいですわ」


「そんなことはありません。そういえば、赤いドレスも作られたのですよね。それで装われた貴女はどれほどのものでしょう。赤いバラの花が恥ずかしがって逃げてしまうのではと思います。次に情熱的な貴女を見ることができるのを楽しみにしています」

「次の侯爵家の夜会のときにはお見せできますわ」

「嬉しいですね、貴女はいつも輝いてらして、貴女のいない夜会など、もう想像も出来ません」

 俺は壁の方に目線をやり、

「あぁ、同じドレスを見るのは興ざめですね。もっとおしゃれをすればいいのに」

「そのようなことをおっしゃるものではありませんわ。
女性はなにかと大変なものですから」

 ほおを膨らます彼女は確かに美しい。手袋を嵌めた手でそっと頬に触れる。

「私の家令がうるさいのですよ。婚約者でない女性に贈り物は許さないのです。
証拠にあの男爵令嬢にもバラの花束しか贈ったことはないのです。それに白金貨の1,2枚で済むことではありませんか」

 彼女がしぶしぶ頷く。かの男爵令嬢のことは有名だものな。

「私にそのような無粋なことを言わせるとは貴女は悪い人だ」

 彼女は機嫌を直したようだ。そしてアントニオ・フィーゲルが睨んでくるのが楽しい。

 曲が終っても、フロイデンベルグ嬢は俺の仲間のところにはこない。アントニオがすっ飛んでくるからだ。

「ドレスも贈れない甲斐性無しが・・・」

 もうアントニオには遠慮の欠片もない。

「仕方がないでしょう、王族には規制が多いのです」

「第3王子のマコーニック様はそんなことはないだろう」

「私は直系王族だから守るべきことも多いのです(うそ)」

 令嬢に向かって肩をすくめると、彼女も仕方がなさそうに微笑んだ。アントニオの悔しそうな顔が心地よい。


 6月も半ばを過ぎた。公爵令嬢はいつも違うドレス、違う宝飾品をつけ、俺の目を楽しませてくれる。

「女性がいつも違う姿を見せてくれるのは嬉しいものです」

 俺の言葉に嬉しそうに微笑む公爵令嬢の腕をいきなりアントニオ・フィーゲルが掴む。

「その違う姿の今日は、私の贈り物で身を包んでくださったのですよね」

「だからなんだというのですか、そういうことを言う無粋な男は嫌われますよ」

「贈り物1つも出来ないのは男としてどうかと思うね」

「ピンクのバラを贈っています。令嬢にぴったりでしょう」

 さすがにこう頻繁だと俺の宮のバラだけでは足りなくなってきた。兄上が「持っていきなさい」と言われるので、お言葉に甘えて、兄上のバラ園の花を使わせてもらっている。俺ってば兄上に頼りっきりだな。

「えぇ、すばらしいバラですわ、大きくて素敵な香りがします」

 そうだろうとも、兄上のバラ園の花だからな。

「それを言うならば、私の相手をしては呉れまいか、エルフリーデ」

 いつのまにか第3王子マコーニックが入り込んできた。

「君は関係ないだろう、今私がエルフリーデと話している」

「何を言う、私が送った髪飾りをつけているエルフリーデは、私の心をつけているのと同じだ」

「それをいうなら、私の贈ったドレスを身に纏っている彼女は私に身を任せているようなものだろう」

「なんと下品な!」

「あの、お願い・・・わたくしのせいで争わないで!」

 うっすらと涙ぐんでいる・・・ように見える彼女の手を引いて、

「話し合いで忙しいお2人に代わって私が相手をするので・・・ごゆっくり!」

 俺は怒り狂っている2人を背に、ダンス場へ向かう・・・ざまあ~。

 
 こんな日々が続き、今はもう7月の初めだ。そろそろ夜会も終わりを告げようとしている。今年のシーズンは俺とアントニオ・フィーゲルそして第3王子も時々参戦して、公爵令嬢を中心とした三つ巴となっている。
母上は若者たちのつばぜり合いを黙ってご覧になって何も言われない。
俺はたまに髪飾りを手土産にご機嫌伺いをしている。
「来年は何を流行らせるの」と言われたけれど、俺の手持ちはこれで尽きた。男にこれ以上期待しないで下さい。

 側近たちの中ではオリバーとヤルゲルトがとても心配してくれた。ヤルゲルトがこっそりと公爵令嬢にお願いにいったのも知っている。主冥利につきるな。
教官はにやにやしているけれど、側近たちや護衛騎士たちはうるさい。
俺は髪飾り作りで忙しいのでほっといてくれ。

 
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