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37話 令嬢たちのお願い

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 そろそろ南の王領ボルダに行きたい。次はワインと香水だ。
これは俺が石鹸生産を他の人の手に移す為の第一歩も兼ねている。
今はいいよ、今は。でも10年後も石鹸を作っているなんていや過ぎるだろう。

 ここで問題が起きた。俺は今伯爵令嬢エメルダに押しかけられている。同じく伯爵令嬢ベリンダと子爵令嬢アリッサも一緒にいる。そして側近どもは、椅子にも座らず、側に立って神妙にしている。ゴードンは俺の側の椅子に座っているが・・・他人事のような顔をしないで主を助けてくれないかな。

 3人は丁寧に俺と挨拶を交わした。俺も側近の婚約者たちには会ってみたかったのでそこまではよかった。
でも、こいつら俺に仲を取り持ってくれたお礼をいったあと、涙を流したんだよ、美しく、2,3粒・・・
オリバーの活発そうな彼女もエリオンの素朴そうな彼女も、そしてヤルゲルトの知的な彼女も・・・これは演技だよな、きっとそうに違いない。おれの御曹司としての勘が語っている。俺に何を要求するつもりだ・・・

「わたくしはあの2年間がつらくて・・・もうご縁もここまでかと思うほどに変わられて・・・」

 いきなりアリッサ嬢がぶっこんできた。それについてはすまんと思う。

「やっと心を開いていただいて、お手紙もまめに下さるようになって、王都に戻られたときは嬉しくて」

 ベリンダ嬢、エリオンはそんなに筆まめだったのか。お手紙で交友を深めたのね。よかったな。

「でもせっかく戻られて2月もしないうちに、また出かけられると言われたので・・・わたくしは心細くて」

 エメルダ嬢がそう訴え、そして、また3人で涙を流す。たとえ活発だろうと素朴だろうと知的だろうと、彼女たちは貴族令嬢なわけね。
でも、それだけでもない。彼女たちは不安なのだ。俺は一を見て十を知った気になって、女は怖いとかずるいとかいう単細胞のやからは好きではない。彼女たちには彼女たちの理屈があり、その中で誠実さも見せてくれるし、愛しても呉れる。それは男女に限らず同じだと思う。げすはどこにでもいるけどさ。それに彼女たちはただ幸せになりたいだけだ。

 俺はセバスチャンに頼んで王妃のドレスメーカーを3人呼び寄せた。待っている間にお話をしよう。

「私は私の側近たちと婚約者である貴女方とその家族に深く感謝しています。お力添えもいただきましたし」

「王子にお仕えするのは当然でございます」

「貴女方は私に近しい存在です。お力になりたいと思います。ぜひジルベスターと呼んで頂きたい」

「そのような、もったいないこと・・」

 俺はにっこりと3人を眺めた。3人は一斉に椅子から立ち、軽くカーテンシーをする。

「「「御心のままに」」」

「それはよかった。では屋敷を決めましょう」

「はっ、何を言われているのですか、ジル様?」

 うるさいよ、脳筋オリバー。婚約者を上手くなだめられなかったのは、君たち3人の責任だからね。ここまで来させたんだ、あとは俺が采配を振るう。

「結婚した後に住む屋敷です。彼らがいないときは実家に戻っているのが安全でしょうが、時間が掛かるものです、今から用意しておきましょう。
そうですね、王都の彼らの実家か貴女方の実家の近くが便利かと思います。お心当たりはありますか」

「いいえ、そこまでは思いつきませんでした」

 彼女たちは目を丸くしている。可愛いもんだ。考えてみれば18,9か、高校を卒業したばかりの年齢だものな。

「私からの結婚プレゼントにしましょう。内装も家具も遠慮はしないで下さい。
母君や女友達と相談しながら決めるのはきっと楽しい時間だと思います」

 きらきらと目を輝かせている令嬢を見て嬉しそうな君たち、そうオリバー、エリオンとヤルゲルト、君たちには屋敷の代金分働いてもらうのだから、これから多少ブラックに成っても仕方がないよね。

 令嬢方遠慮は無しだよ、そして働き者の旦那に感謝したまえ。

「来年の春に結婚式の予定で準備を進めれば、間に合うでしょう。セバスチャンに裁量は任せておくので、なんでも相談するといいですよ」

 これで落ち着いたと思ったのか、あいつらも安心してソファーに座り、令嬢たちの好みを聞いている。うん、きちんと女性に気遣えるようで安心したよ。
そしてほどなくドレスメーカーが布地を沢山携えてやってきた。

 代表の3名に聞くと、いま王宮のドレスには2つの形があるらしい。今までどおりのコルセットを使い、スカートを膨らませ宝石を多用したものと侯爵令嬢が流行らせたスカートの膨らみが少なくリボンとかフリルを付けたものだ。
なんだか、ものすごい女の争いが起きていそうで・・・よくそんなこと仕掛けたな、感心するよ。

 侯爵令嬢セリーヌ、君が元女子高生なら、コルセットでがちがちになって、ドレスの重さで身動きも取れないのはいやだろう、ダサいとも思っているかもしれない。
だがね、あれは富貴と権威の象徴なんだ、そう簡単に手放せるものではないんだよ。俺の前世で博物館に飾られているような、付けた宝石のせいでドレスが立つ、ようなのは重くて歩けないのではないのかとか、思うことはあるけれどね。

 そういうわけでパニエではなくペティコートで膨らませた軽快なドレスにしよう、令嬢方はまだ若いし。
俺にドレスのデザイン?出来る訳がない。でも見ているんだよ数多くの淑女たちのドレスアップした姿を、それを拝借させてもらう。(ドレスと宝石に詳しいのはさすが御曹司)

 令嬢たちは少し新しい形のドレスに不安そうだったけれど、それほどスカートのふくらみに変化がなく、フリルとかレースの使い方が少し変わっているだけで、王妃たちにも勧めるといったら安心して好みを述べていた。布地とドレスの型を決め、俺の視線を受けたエリオンがベリンダ嬢に甘い声で話し出す。

「ドレスは私にプレゼントさせていただけませんか」

 エリオンにターゲットを定めてロックオンしてよかった。俺の意図を汲んでくれたようだ。
ベリンダ嬢も嬉しそうに頷いている。男爵令嬢にあれだけ貢いだのだから、これぐらい容易いものだろう。
つづいてヤルゲルトもお願いして快く受けてもらえた。
オリバー、君は?ゴードンがつついたようであわてて申し出ている。よかった、よかった。
3人は令嬢たちを送る為に出て行った。

 俺?俺はそれからデザイナーたちにアイデアを提供し続けた。母上と取り巻き分だぜ、まいったよ・・・

 これで予定は遅れるが王宮の夜会が終れば、無事南の領に出発できることになった。
オリバーたち、久しぶりの夜会、がんばってくれたまえ。

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