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25話 商人にお願い

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 ここにくるまでの3日で俺はビンセントに演技指導をした。こいつは有能な26歳の中隊長だ(小隊3個、30名を配下とする役職)その有能さかげんは、あとでは役に立つが、最初に出されると回りが警戒する。
それに騎士としての部分は控えめにしてもらわないとね。
お陰で商人たちの前でぎくしゃくしていたけれど、それも初々しくていいんではないか?

 他にも花を集めてエッセンシャルオイルを作った。蒸し器で花びらを蒸して、その花びらを蒸した水蒸気を蒸し器につけた管で集める。その管を水の中に通して、冷えればオイルとフローラルウォーターになる。
こう書くと簡単そうに聞こえるが、大変だった。道具の方は鍋に土魔法で細工してなんとかできた。

 しかし、しかしだな・・・花が大量にいる・・・あそこまでいるとは思わなかった。
もう、オレンジの皮で作るのでいいことにしようかな・・・

 石鹸の試作もしてみた、手持ちのオリーブ油で作ったので量は出来なかったが、悪くないできだった。一ヶ月も経てば熟成して製品になるだろう。
獣脂の方は3回の塩斥で匂いが何とか気にならなくなった。オレンジのエッセンシャルオイルを入れればまあ問題はないだろう。でもそれ以外では問題ありありなのでどうしたもんか・・・

今は10月半ば、そろそろオリーブの実が熟すころだ。商人たちと2回目の会合だ。

「それでどの線で商人たちと話をされるのですか」

「値段と品質だけです。物は中級品位でいいのですが、値づけが難しくて困っています」

「高級品はいらないのですか?」

「食べるわけではないので、そこまでは必要ありません。
商人たちの仕入値に幾ら上乗せしようかと・・・」

「私はお役に立たないと思います」

 オリバーが一抜けした。

「ゴードンは?」

「わたしもそちらの方面には疎いもので」

 教官以下騎士たちも首を横に振る。ちぇ。俺一人で考えるのかよ。

 元値は多分小売値の半額以下だろうから・・・
だいたい中間業者の彼らはオリーブ油のギルドを作っているからして値段は横並びで売っている?
それはないか・・・・見当が付かない。

「店での仕入れ値はいくらなんだろう・・・」

 俺の独り言にゴードンが答えた。

「分かりますよ、売値の7、5割だそうです」

 俺は顔を上げてゴードンをみる。何故だ?

「値段を調べていた時にですね、幾らぐらい安くなるかと思って、その店の娘に聞いてみたのです。
あっさり答えてくれたので、秘密でもないのでしょう」

 いやいや、これだから顔のいい奴は・・・そんなの秘密に決まっているだろう。

「あとは農家の売値か・・・」

 騎士の一人が声を上げる。

「私の聞いたことでよろしければ・・・」

 俺はうなずいた。

「調査で砦の近くに行ったときのことでした。
実ったオリーブが美味しそうだったので、つい見ておりましたら、農家の娘に声を掛けられました。
酒のつまみによさそうだといいましたら、昨年のものを分けてくれると。
さすがに申し訳ないので値段を聞いたら、生の実の売値を教えてくれました。
塩漬けはもう少し高いのだけれど、同じ値段で良いと言って。

それでは悪いような気がしまして、銀貨を1枚置いてきたのですが、そうしたらパンにつけるとおいしいといわれて、オリーブ油も一瓶貰いました」

 こちらは、といって騎士がポーチから瓶をだす。

「これはこのくらいの甕で銀貨3枚だそうです」

 と彼は腕をまわして、甕を抱える形にする。

「助かった、それではそのオリーブ油を味見させてもらえないか」

 おいしかった、これは上級品だな。

 しかし、持つべきものはイケメンの部下だな。ゴードンはもちろんのこと近衛騎士も容姿がすぐれていることが、暗黙の条件となっている。
知らないうちに情報収集してくるとはすばらしい!!

 これで予想が出来る。ギルドは思ったほどあこぎでもなく・・・無理やりでも決めなければ話が始まらないので・・・生産者5割、ギルド2,5割、小売業者が2,5割で想定すれば・・・多分・・・常識的に?・・・大雑把に言えば・・・合っているだろう。そして生産者が油を作るまでの人件費等々を考えると一番儲かっているのはギルドだろう。

 あとは仕入値5割と売値7,5割のどこを着地点にするかだな。
この世界の常識を一番知らない俺が考えなければならないところに理不尽さを覚える。


 話し合いの3日後から、商人との商談が始まった。
今度は個別にお願いする。
商人の前に壺を3つ並べて、味見をしてもらう。

「これは中級と中下位、後は低位ですね」

「はい、これを買い付けたいと思います。
値段はですね〇〇で期間は今年の12月半ばまで。いかがでしょうか?」

「けっこうですが、値段の方は△△で」

・・・・・・・・・

 俺は秘書ですと言う顔をして横に小机を構えて静観。ビンセントがんばれ!
壺に封をしてお互いが名前を書き込み、契約書を交わしてお終いだ。
獣脂も同時にお願いした。骨も一緒にお願いする。太いこねがあるので、いくらでもと言っておいたので、それなりの量は手に入るだろう。こちらは銀貨1枚でブタ4頭分手に入るので問題ない。

 彼が帰ったあと、ビンセントはくず折れていた。
お坊ちゃんの真似は騎士にはきつかったのかな?

 あとの2人も同じようにして契約できた。
代金は最初の一人が、支払いの確認をしてきたので、白金貨200枚が入った皮袋を見せびらかしてもらった。
これはすぐ商人の間では広まったようだ。

「父上からいただいたのです。商売を始めるのに元手がないと困りますから。
独立のためには力をお貸しくださると言われているので、心強く思っています」

「そうですか、いいお父上ですね」

 商人はにこやかに微笑んでいる。笑顔が少し堅いと思えるのは、白金貨を無造作にさらけ出した、馬鹿坊ちゃん(笑)のせいだろう。

 でも、こんなのでも(ゴメン)この世界でなら、商売は成功するのだろう。
大きなバックに守られて、とある領から別の領に物を動かすだけである程度は儲かるものだ。そして、それがスムーズに行くかいかないかがこの世界では一番の問題となる。
貴族の口出しだな。

 そこそこ大きな商人は領から領へ品物を動かす。その間にはいくつもの領があり、その一々に多大な通行税を掛けられたり、いちゃもんを付けられたりしたら原価が莫大なものになって、儲からない。
それなりに大きな貴族の御用商人の印を持っていると、それが減り、まともな商売が出来るわけである。

 品物がいいとか差別化できる利点を持っているとかの話は、貴族たちの欲望の前では吹っ飛ぶ。
貴族とは理不尽なものである。

 こうして、実際にこの世界に身を置いてみると、信長の行った、楽市楽座がどれほど零細商人に喜ばれたかを実感する。
 そして初めて王子でよかったと思った。大貴族に鼻で笑われるお飾り王族から脱出してみせるぜ、俺は!

 
 そんな訳で、子爵子息であるビンセントは、スムーズに物事を運べるその立場だけで有能と目される。幾らでも買い取ると言い放った馬鹿坊ちゃんの台詞と白金貨の力で量は確保できたと思って良いだろう。

 尚、白金貨は兄上に渡されたポーチに500枚(50億相当)入っていた。
今度は貸しだぞというメモが入っていたが、兄上ってば、俺に甘いんだから。

 おかげで最初から大きな商売ができる。この地方のオリーブ油の生産量の小売値総額は俺の計算では約白金貨一千枚、100億円相当だ(これも兄上に密かに頼んで同じくメモに記してあった、いくつかの税金徴収額の数値から試算した)
そして小売の仕入値は75億相当。多分中級品が大部分を占めるが、固定客も多いので、こちらに回ってくるのは、多くて3割。多分それを切るぐらいだろう。だから、こちらが手に入れられるのは最大で20億強相当の品物。ビンセントに値段の落ち着きどころを高めに指示しておいたので、それなりに集まることだろう。

 しかし、白金貨500枚を見た教官の顔は見ものだった。口をぱかりと開けて固まっていたので、悪いが笑ってしまった。



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