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14話 教官とサガードをお供にゲット

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 翌日、俺たちは教官に会いに行った。
小部屋でゴードンが王都でのことを報告する。
さて、ここからが本題だ。

「しばらくしましたら、私はこの地を離れようと思います。
ぜひ、教官には護衛騎士たちのトップとして、我々に付いて来ていただきたいのですが」

 教官は間髪を入れず、直ちに答える。

「喜んで」
 
 教官は有能な40歳前後の油の乗り切った年代だ。嬉しいが、答えが早すぎないか、父上に何か頼まれているとか。
じーっと見るが、前から決めていたという風情で特に何も表情に出していない。
願ったり適ったりなので、父上とのパイプがどんなに太かろうと、何も言うまい。

「それでは後はサガードさんの経歴を」

「何故とお聞きしても」

「彼は騎士とは違う意味で有能なので、これからの道行きに必要な人だと考えています」

「失礼いたしました。詮無きことを申しました。

彼には妻と子供が2人おります。上は姉でそれなりに大きな商人ところへ嫁にいっています。下は騎士志望の13の男子です」

「騎士志望男子?そろそろ従騎士になっていてもいい年齢ではありませんか」

「紹介者を探しているようです。ニルベの騎士団に入るのには正騎士2人の推薦か、しかるべき筋の推薦が必要です」

「A級冒険者なら、いくらでも推薦者がいると思うのですが」

「彼はこの街の出身ではありません。5,6年前にこの地に来て住み着いたということです。
北の方の寒村の出だという話ですが、確認できるものではないのです」

「それで姉の方はよく相手に受け入れられましたね」

「相手は父親の代からここに移ってきた商人で、その程度には信頼されています。」

 でたー、中世めいたところが!
自身の出自と血統にこだわるところが。

 友人にはなれても身内に血筋の知れないものを入れたくないと思うのが、この世界の常識だ。
可哀そうだが、どんなに美人であっても結婚相手にしない。
医師とか官吏とか、いわゆるブルジョワジーと呼ばれる層以上の身分のものはよそ者をとても警戒する。

 過去の地球でジプシーがどのような扱いを受けたか、想像以上のものがあるだろう。
定住も許されないって、どんなだよ。

「それで私の警護に騎士団への推薦を条件として呈示したわけですね」

「はい、ご明察です。
それに、私は若いころ地方の騎士団におりまして、たまたま彼がその寒村出身ということを知っておりましたので。
もちろん、彼の人柄と実績を鑑みてですが」

 それは裏を返せば、人柄と実績があっても、出身が定かでなければ採用しなかったということだな。
分かるよ、わかってるんだ、王子の護衛に出自の怪しいものはつけられないということは。
でもさ、前世よりがちがちに囲われているってどうなのさ。
異世界転移はすべてのしがらみから解き放たれて自由に過ごせるのが醍醐味だと言うのに。

 つ、疲れる・・・この世界は冒険者ギルドがあっても、全然自由ではない。
俺は王子で・・・・・よかったのか?
でも村人Aでも・・・・・考えても詮無いことは考えまい、空しくなるだけだ。

「それで彼の資産は?」

「冒険者ギルドに大金貨200枚を越える預かり金があります。
なお、娘の婚家の主人はなかなかの人格者だと聞いておりますので、妻子をかの家に託すことも可能かと存知ます」

「察しがよくて助かります。
それでは3年で大金貨15枚で雇おうと思います。
成功報酬として領地なしの騎士爵の位を与えるということで、どうでしょう?」

 教官を通じて王太子に頼めば、このくらいは通るだろう。

「いいお考えですね。彼の息子はそれで中隊長までは問題なくいけるでしょう。
なかなか才能のある少年だと聞いております」

 
 身分が絶対というのは面倒だよね。
この世界の人にはプライドがある。
それこそ王から平民まで。そして自分より下のものに仕える事を屈辱だと感じる。

 軍隊のような実力主義の場所では多少緩みがあるが、それも多少なだけだ。

 具体的に言うと、騎士団で平民が就けるのは小隊長まで、あとは貴族の位によって就ける役職の上限が決まっている。
無能を上にすると、ひどいめにあうのでどうかと思うが、位が上の貴族の言うことにしか回りが従わないので、それ以前の話になる。組織が全く動かないのでは何をかいわんやである。
(中世、スペインの無敵艦隊の敗北の原因のひとつにこれがあげられる)

 厄介な話だ。

そこの君、では貴族になれば楽勝とか思わなかったか。
残念、同位の貴族は沢山いるし、裏切りもすれば傀儡にされることもある。

王族でも安心はできない。
俺も、正腹の兄弟は兄上だけだが、妾腹の兄弟が3人いる。

人間は複雑な存在だ。煮ても焼いても喰えない。
今言ったのは、表向き役席に就けるのが貴族だと言う事実を示しただけで、実際に影で動かす人間がいることを否定するものではない。
ただ、この事実は単純だが絶対的で、例外を認めないので、やっかいでもある。

 
 まあ、騎士団はどちらかといえば貴族のためにあるようなものなので、いやなら国軍にいけばいい。
そこなら平民でも大隊長にはなれるだろう。

 ファンタジーのわりに現実的な世界だ。
つらつら思うに、王子が男爵令嬢を側に置いたのは、かなりな無謀だったのではないだろうか。
もっとも周囲は彼女を愛人にすると思っていたのかもしれないが。


「それでは次に。
教官は私と両親、兄上のことをいつからご存知ですか?」

「そうですね、かれこれ十数年、王子が5歳の時から存じあげております」

「詳しく、私と家族の関係を、時系列にそって話して下さい」

 疑問も文句もあるだろうに、教官は首を傾げつつも話し始める。
父上からの指示の中にこれもあったのか?

「初めてお見かけしたのは御年5歳の時でした。
王太子殿下は8歳で勉学に剣術にお忙しくされていたのですが、時間は短くともよく王子と遊ばれていました。
お会いになるときは、大抵王子が殿下に飛びついて、殿下はそれを両手を広げて待つといった按配でした。

両陛下がお忙しくしていることもあったのでしょうが、殿下の方により懐いておられるように見うけられました。
その証拠に年に数回程度でしたが、夜に殿下のお部屋に押しかけておいででした。
仲の良い御家族でした」

 ここでゴードンがおそるおそるというふうに口を挟んだ。

「あの、夜に押しかけるとは、もしやお泊りなさっていたのですか?」

 可愛い子供の時分のことじゃないか、突っ込むなよ。

「ええ、12歳までは。その後はお茶をご一緒なさるだけでしたが、楽しかったのか、月に2,3回は訪問されていたようです」

 オリバーも聞いてきた。

「お泊りですか、ジル様が!」

 うるさいな、いいじゃないか、兄弟なんだから!

「ええ、毎回まくらを抱えられて、天使のようなお姿だと女官の間では評判でした」

 オリバーが再度確認する。

「12歳になってもですか?」

 騎士の家系のお前には信じられないだろうが、そういうこともある!
そして、すばやく答える教官。

「ええ、もちろんです。12歳になっても殿下のもとへ行かれるのは心細い時だったのでしょう。
いつもより、幼い表情をされているのが母性本能をくすぐると女官が・・・」

 もう俺のライフはゼロだよ。こうなったらやけだ。

「ついでに、俺に渡されたマジックポーチの中身を教えてやる。

服だろ、装飾品だろ、靴に下着に小間物が一抱え、書き物机にティーテーブル、茶箪笥のなかにはティーセットが3組、茶葉がいっぱい。食べ物も色々入っていた。

最後に驚いて聞けよ、枕と毛布が入っていた。神曰く兄上の仕業だそうだ。
俺はそれを見て、腰を抜かしそうになったぞ。
宿には兄上の従僕のジェフリーが、ここには教官がいるし。過保護すぎだろ・・・」

 2人共、肩を震わせて、俯いている。笑いたきゃ、笑えよ。
教官の話は続く。しかし、この人、ぶっちゃけすぎないか、ちょっと酷いと思う。
もう少しさりげなくだな、そう思うよな。

「そのような感じで15歳までは過ごされていたのです。
豹変されたのは、かの男爵令嬢に会われてからでした。
別人かと思うほどの変化でした。

王子のお顔で冷たくあしらわれると、皆何もいえないようになりました。
殿下たちはとまどっておられたようですが、とりつくしまもないといった次第で、そのままずるずると来てしまいました。
こうして元に戻られてほっといたしました。
時々、お言葉と態度が乱暴になられるのはどうかと思いますが、これからのことを考えればそれもまたよしです」

「そうか、隠すことなく話してくれて感謝します」

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