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いまオリバーは鬼教官に訓練場でしごかれている。俺はそれを横目で見ながら素振りをしている。
いいのかって?いいんだよ。奴と俺ではレベルが違う。それでも彼女にかまけて訓練をさぼっていたのは同じなので、教官に怒鳴られつつ、しごかれているわけだ。
青春の汗を流し、失恋を忘れると言うのは定番だ。実際にはできずに、どの男も夜にはめそめそしているけどな。
しかし気のせいでも、やらないよりやるほうがましだ。
それにオリバーは俺の護衛だ、もっと強くなってもらわなくては困る。
いつ決まったって、昨日俺が決めた。
奴がべそべそ泣いているときに、つらつら考えて、もう奴に恋をする可能性はないとみた。
ひどい?・・・酷くて結構、あんなきらきらした多幸感を与える恋に対抗できる恋なんてあるのか?
それに十代の若者が愛をはぐくむのは難しいだろう。
目の前できらきらしている恋に飛びつきたいお年頃だ。
というわけで仕事だ。恋と仕事はけっして重なることのない、しかし男の人生では重要な位置を占める要素だ。
都市伝説で「わたしと仕事、どっちが大切なの」と聞く女性が居るというほどのものだしな。
俺?俺の場合は、そんなことを聞かれるまでもなく、仕事に夢中になっていると、女性たちはいつのまにか去っていく。
みんな理知的で、良い女だったよな・・・・・
そんなわけで、仕事が忙しくてかつ自分が必要とされていると感じられれば、日々はそれなりに過ぎていくし、まあ悪くない人生だと思えるんじゃないか?
そして忙しい日々の中、優しく寄り添う女性がいれば、婚期は遅くとも家庭をもてるかもしれん。
あいつも客観的に見れば・・・日本の学校にいるだろう、学年で1,2を争うトップレベルのイケメン。そう彼らに負けずとも劣らない程度にはイケメンだ。
だから大丈夫だ・・・ただしイケメンに限ると言い放った同僚の女性の言葉を俺は今でも忘れていない。
蛇足だが、王宮はそのレベルの奴がごろごろいる恐ろしい場所だという情報も付け加えておこう。
昼食の時に俺はオリバーに話をした。
「オリバー、お前は俺の護衛になれ」
「・・・はあ・・・ありがたくお受けしたいと思いますが・・・何故とお聞きしてもよろしいですか」
「それはいずれ俺が仕事を始めるからだ」
「なにをされるおつもりで?」
「とりあえずは冒険者だな、それから・・・」
「それから?」
「まだ決まっていないが、あいつらも仲間に入れるつもりだ」
ノープランで言い出したわけだが、なんか文句があるか。
「はあ・・・それで他の側近たちはばらばらに散っていますけれど、会いにいかれるのですか?」
「そうなんだよな、派閥のバランスを考えて決めたから、地域が離れているんだった。どうすっかな・・・・・
しばらくは冒険者をやって、市井のことを知ろうと思っているから、とりあえず、その件は棚上げだな。
あと、給料はたいして出せないが、衣食住はこちらで賄うので安心してくれ」
これでいいだろう。
俺はスプーンでシチューをすくいながら、オリバーを見た。
まだまだだが、立ち位置を決めてやったので、それでよしとしよう。
俺たちはまだ若い、なんとでもなるだろう・・・多分。
「あの、ジルベスタ-様・・・」
「ジルだ、そう呼んでくれ」
「いや、それはさすがに・・・」
「呼べ!」
俺が強い口調で言いつのると、オリバーは困惑した面持ちで、
「では、ジル様と」
まあ、いいだろう。
「それでですね、ジル様。わたしも金は持っています。
出奔する時に残りをかき集めてきたので大金貨30枚ほどですが・・・」
「げっ、そんなに!」
「えぇ、これでも次期伯爵だったので、その程度は。
・・・・・貢いでいなければ100枚は超えていたのですが。
他のものもそれなりに・・・貢いでいたと言っても大金貨の10枚や20枚は持っていると思います」
王子には手持ちのお金がほとんどなかった。侍従に言って出してもらうというお小遣い形式だ。もしかして王子が一番貧しい?
ブランドスーツを着てて、財布の中身は小銭と千円札2,3枚みたいな。
それではおしゃれなレストランに入れないし、お好み焼きのお店に入っても、少し飲んだら、ぎりで財布の中身がアウトな。王子は豪奢な生活をしていたし、お金を使う機会がほぼなかったので知らんかった。
そうなのか、そうだったのか・・・
がっくりと肩を落とした俺を見かねたのか
「とりあえずは給料も生活費もいりません。
気持ちとしてはお守りするつもりはありますが、護衛の仕事も当分なさそうですしね。
成功したらいただくということで」
オリバーがかすかに笑っている。
おお、俺のおかげでその顔が出来るようになったのなら、よしとしよう。
でも、でも、この世界の常識は絶対身につけるぞ。
でないと、とても不味いような気がする。俺はテーブルの下で、ぎゅっと、こぶしを握り締めた。
2週間ほどがたち、いよいよ俺の冒険者生活が始まる。
角うさぎちゃん、待っててね。
教官にお願いして指導員をつけてもらった。
今度も王室関係者かと思っていたが、冒険者をしたことのある王宮勤務者はさすがにいなかったようで、見知らぬ男でした。
だがしかし、A級冒険者が3ヶ月の指導をしてくれて、そのお値段がなんと大金貨1枚、百万円相当という不思議。
ありえないだろう、A級冒険者は年間数千万相当は稼ぐという高級取りだ。
オリバーに聞いてもありえないと言っていたが、どこかで不足分は補填されているのだろうし、安いにこしたことはないので
「後輩の指導のためにボランティアをしている」
というお言葉をありがたく受け、他はスルーすることにした。スルースキルは大事だよね。
いいのかって?いいんだよ。奴と俺ではレベルが違う。それでも彼女にかまけて訓練をさぼっていたのは同じなので、教官に怒鳴られつつ、しごかれているわけだ。
青春の汗を流し、失恋を忘れると言うのは定番だ。実際にはできずに、どの男も夜にはめそめそしているけどな。
しかし気のせいでも、やらないよりやるほうがましだ。
それにオリバーは俺の護衛だ、もっと強くなってもらわなくては困る。
いつ決まったって、昨日俺が決めた。
奴がべそべそ泣いているときに、つらつら考えて、もう奴に恋をする可能性はないとみた。
ひどい?・・・酷くて結構、あんなきらきらした多幸感を与える恋に対抗できる恋なんてあるのか?
それに十代の若者が愛をはぐくむのは難しいだろう。
目の前できらきらしている恋に飛びつきたいお年頃だ。
というわけで仕事だ。恋と仕事はけっして重なることのない、しかし男の人生では重要な位置を占める要素だ。
都市伝説で「わたしと仕事、どっちが大切なの」と聞く女性が居るというほどのものだしな。
俺?俺の場合は、そんなことを聞かれるまでもなく、仕事に夢中になっていると、女性たちはいつのまにか去っていく。
みんな理知的で、良い女だったよな・・・・・
そんなわけで、仕事が忙しくてかつ自分が必要とされていると感じられれば、日々はそれなりに過ぎていくし、まあ悪くない人生だと思えるんじゃないか?
そして忙しい日々の中、優しく寄り添う女性がいれば、婚期は遅くとも家庭をもてるかもしれん。
あいつも客観的に見れば・・・日本の学校にいるだろう、学年で1,2を争うトップレベルのイケメン。そう彼らに負けずとも劣らない程度にはイケメンだ。
だから大丈夫だ・・・ただしイケメンに限ると言い放った同僚の女性の言葉を俺は今でも忘れていない。
蛇足だが、王宮はそのレベルの奴がごろごろいる恐ろしい場所だという情報も付け加えておこう。
昼食の時に俺はオリバーに話をした。
「オリバー、お前は俺の護衛になれ」
「・・・はあ・・・ありがたくお受けしたいと思いますが・・・何故とお聞きしてもよろしいですか」
「それはいずれ俺が仕事を始めるからだ」
「なにをされるおつもりで?」
「とりあえずは冒険者だな、それから・・・」
「それから?」
「まだ決まっていないが、あいつらも仲間に入れるつもりだ」
ノープランで言い出したわけだが、なんか文句があるか。
「はあ・・・それで他の側近たちはばらばらに散っていますけれど、会いにいかれるのですか?」
「そうなんだよな、派閥のバランスを考えて決めたから、地域が離れているんだった。どうすっかな・・・・・
しばらくは冒険者をやって、市井のことを知ろうと思っているから、とりあえず、その件は棚上げだな。
あと、給料はたいして出せないが、衣食住はこちらで賄うので安心してくれ」
これでいいだろう。
俺はスプーンでシチューをすくいながら、オリバーを見た。
まだまだだが、立ち位置を決めてやったので、それでよしとしよう。
俺たちはまだ若い、なんとでもなるだろう・・・多分。
「あの、ジルベスタ-様・・・」
「ジルだ、そう呼んでくれ」
「いや、それはさすがに・・・」
「呼べ!」
俺が強い口調で言いつのると、オリバーは困惑した面持ちで、
「では、ジル様と」
まあ、いいだろう。
「それでですね、ジル様。わたしも金は持っています。
出奔する時に残りをかき集めてきたので大金貨30枚ほどですが・・・」
「げっ、そんなに!」
「えぇ、これでも次期伯爵だったので、その程度は。
・・・・・貢いでいなければ100枚は超えていたのですが。
他のものもそれなりに・・・貢いでいたと言っても大金貨の10枚や20枚は持っていると思います」
王子には手持ちのお金がほとんどなかった。侍従に言って出してもらうというお小遣い形式だ。もしかして王子が一番貧しい?
ブランドスーツを着てて、財布の中身は小銭と千円札2,3枚みたいな。
それではおしゃれなレストランに入れないし、お好み焼きのお店に入っても、少し飲んだら、ぎりで財布の中身がアウトな。王子は豪奢な生活をしていたし、お金を使う機会がほぼなかったので知らんかった。
そうなのか、そうだったのか・・・
がっくりと肩を落とした俺を見かねたのか
「とりあえずは給料も生活費もいりません。
気持ちとしてはお守りするつもりはありますが、護衛の仕事も当分なさそうですしね。
成功したらいただくということで」
オリバーがかすかに笑っている。
おお、俺のおかげでその顔が出来るようになったのなら、よしとしよう。
でも、でも、この世界の常識は絶対身につけるぞ。
でないと、とても不味いような気がする。俺はテーブルの下で、ぎゅっと、こぶしを握り締めた。
2週間ほどがたち、いよいよ俺の冒険者生活が始まる。
角うさぎちゃん、待っててね。
教官にお願いして指導員をつけてもらった。
今度も王室関係者かと思っていたが、冒険者をしたことのある王宮勤務者はさすがにいなかったようで、見知らぬ男でした。
だがしかし、A級冒険者が3ヶ月の指導をしてくれて、そのお値段がなんと大金貨1枚、百万円相当という不思議。
ありえないだろう、A級冒険者は年間数千万相当は稼ぐという高級取りだ。
オリバーに聞いてもありえないと言っていたが、どこかで不足分は補填されているのだろうし、安いにこしたことはないので
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